試用期間とは、従業員を本採用する前に適性や能力等を見極めるために導入する期間を指します。一方で契約社員は、有期雇用契約を結んでいる従業員を指します。本記事では、契約社員に試用期間を設けることは可能かや、メリット・デメリット、注意点についてあわせて解説します。
目次
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1. 試用期間と契約社員の意味・違いについて
まず、試用期間と契約社員の意味について正しく理解しましょう。
試用期間と契約期間の違いや、有期雇用契約社員・無期雇用契約社員の違いについてもあわせて解説していきます。
1-1. 試用期間とは
「試用期間」とは、従業員を本採用する前に適性や能力を見分け、判断するために設ける期間を指します。
そのため勤務態度や適性・能力を評価することで、正式に本採用が決定します。ただし、基準に満たず適性がないと判断した場合、解雇をすることができる制度です。(ただし試用期間開始日から14日経過した後の解雇は、30日前の解雇予告が必要)
一方で雇用の「契約期間」とは、雇用主が従業員を雇用している間の期間を指します。
一般的に正社員には契約期間の限定はありませんが、その他の契約社員、パート、アルバイトなどには期間が設けられていることも多いです。詳しくは後述します。
1-2. 契約社員とは
「契約社員」とは、有期契約社員と無期契約社員の2つの種類に分類できます。それぞれ詳しく解説していきます。
「有期契約社員」とは、先述したように一定の期間限定で雇用契約を結んだ社員のことです。
一方で有期契約から「無期転換ルール」を使い、無期契約へと変更した従業員が「無期雇用契約社員」です。無期転換ルールとは、契約を5年以上継続すると無期雇用への転換を請求する権利が契約社員側にが生じ、企業は原則拒否できないとされています。
ただし、無期契約社員は契約期間が無期へと転換しただけであり、正社員のように昇給や賞与を同様に支払うことは少ないようです。
2. 契約社員に試用期間を設けることは、理屈上は可能である
契約社員に試用期間を設けることは、理屈上可能となります。
ただし、有期契約社員の場合においては、あらかじめ雇用期間が制限されています。そのため試用期間の設置や延長が生じると、本採用後の労働期間が短くなってしまう側面を念頭に置く必要があるでしょう。
2-1. 試用期間中のみ契約社員として雇うことは可能だが、可能な限り避けるべき
正社員を試用期間中のみ契約社員として雇うことにおいては、法的制約がなく可能となります。とはいえ契約社員の性質上、試用期間での運用には適さないといえます。
先述した通り試用期間は、本採用前に従業員の適性や能力を確認し、本採用するか否かを判断できる期間です。契約社員は正社員と比較して、解雇するための条件が厳しくなるため、試用期間の本来の目的が果たしにくくなるといえるでしょう。
のちほど、「契約社員に対して試用期間を設けるデメリット・リスク」にて詳しく解説します。
3. 契約社員に対して試用期間を設けるメリット
とはいえ、契約社員に試用期間を設けることには以下の4つのメリットも期待できます。
- 適性・勤務態度・健康状態の確認をする
- 互いにミスマッチを防ぐことができる
- 配属先の判断材料にする
試用期間では、履歴書や面接などの選考だけではわからない求職者の適性等を確認できます。また企業のみならず、求職者側も働き方や環境に適応できるか確認できる期間となり、本採用後の離職率低下にも効果があると考えられます。
また試用期間(または研修期間)を通して把握した適性を、配属先の検討材料にすることも可能でしょう。
試用期間中であれば、正社員よりも給与面を抑えることが可能です。ただし最低賃金は下回らないよう注意しましょう。(最低賃金からの20%以内の減額率で設定するには、都道府県労働局長から許可を得る必要があります。)
4. 契約社員に対して試用期間を設けるデメリット・リスク
契約社員に対して試用期間を設けるデメリットとしては、先述した通り以下の2点が挙げられます。
- 解雇がしにくくなる・雇止めが認めらない可能性がある
- 優秀な人材の採用が難しくなる
以下の労働契約法第17条にて、契約社員の契約期間中の解雇は、やむを得ない事由がない限り、認められないことが規定されています。
(契約期間中の解雇等)
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
また「やむを得ない事由」に関しては、厚生労働省による公式資料で以下のように表現されている。
期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ない ような特別の重大な事由
よって、試用期間中の従業員の適性・能力が基準を満たさないなどの理由では、契約の解除は認められません。
また例えば、試用期間を契約期間と同期間に設定することも望ましくないとされています。
試用期間の本来の目的は、自社で本採用する前提で能力やスキルを見極めるための期間です。契約期間における雇止めは、試用期間と比較して解雇の条件が厳しくなるため、適切な仕組みとはいえないでしょう。
5. 契約社員の試用期間が無効になるケース
契約社員に試用期間を設けることは、雇用する側と働く側双方に大きなメリットをもたらします。
ただし、試用期間の運用には一定のルールがあります。間違った方法で試用期間を設定し運用した場合、大きなトラブルが起きることもあるので気をつけましょう。
具体的には、以下のような場合には契約社員の試用期間が無効になる可能性があります。
5-1. 試用期間の不当な延長があったとき
契約社員を雇用する際には、給与や労働時間などの告知とともに試用期間に関する告知をおこないます。試用期間は一般的に3~6ヵ月程度に設定されますが、この期間内で十分に適性を判断できなかった場合には、試用期間が延長になる可能性があります。
ただし、契約社員本人の同意なく試用期間を延長すると、不当とみなされることがあります。試用期間を延長するときには、その条件を明示し、本人の同意を取ることが大切です。
5-2. 試用期間が長期にわたるとき
契約社員を雇用する際の試用期間は3~6ヵ月程度に設定されることがほとんどです。もちろん、これよりも長い試用期間を設けても法律的な問題はありません。
しかし、試用期間が長すぎることに対して不安を抱いたり、不満を持ったりする労働者もいるものです。試用期間を長く設けるときには、労働者本人に対してその理由を説明しておく必要があります。同意がないまま長い使用期間を設定すると、労働者の退職などのトラブルを誘発することもあるので気をつけましょう。
5-3. 既にその企業で実務経験があるとき
アルバイトやパートとして働いてきた人を契約社員にするケースは少なくありません。この場合には既に長い実務経験があるため、試用期間を設ける必要がないことがほとんどです。
アルバイトやパートとして十分な実務経験があるにもかかわらず、給与を抑えるなどの目的で試用期間を設けた場合、無効とされることがあります。
6. 契約社員に試用期間を設ける際に、トラブルを避けるための注意点
ここからは、契約社員に試用期間を設ける際に、あらかじめ理解しておくべき注意ポイントを解説します。
思わぬトラブルへと発展しないよう、事前に対策を講じておくことが重要です。
6-1. 求職者には誤解のないよう求人へ明記・説明を丁寧におこなう
有期雇用契約の場合は、契約期間・更新の有無・契約更新の判断基準を明記しましょう。
また試用期間を設ける場合には、期間の長さのほかに、給与等の本採用と異なる労働条件がある場合には、それらを明記する必要があります。
採用選考時には、口頭でも求職者との間に認識の齟齬がないよう、労働条件を丁寧に説明することが求められます。
6-2. 本採用の可否をなるべくはやく伝える
契約社員においても、試用期間を設ける際には本採用の可否が決まった後は、結果をはやめに伝えることが求められます。
本採用をしない場合も試用期間中は雇用契約が続いているため、その後の求職活動等がスムーズに進められるよう、はやめに結果を連携することは重要といえるでしょう。
7. 試用期間は企業と労働者が相互に適性をチェックするための貴重な機会
試用期間は、企業と労働者が相互に適性を見極めるための重要な機会となります。また、試用期間に配属先を決めるための判断をしたり、労働者の健康状態や勤務態度を確認したりするケースも多いものです。
本採用をしたあとには、労働者を解雇することが難しくなります。ミスマッチに悩まされることを防ぐためにも、上手に試用期間を活用してみましょう。
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