株式会社ベター・プレイスです。2024年4月より、トラックドライバーの時間外労働の上限が規制されることから人材が不足し、運輸能力が不足する「物流の2024年問題」が話題となっています。
そのような中、丸見運輸株式会社などを運営するフレッシュロジシステム株式会社は、企業年金「はぐくみ企業年金」を導入し、2024年問題にまつわる人材不足への対策や従業員エンゲージメントの強化に活用されています。
今回は、フレッシュロジシステム株式会社代表の虎谷勝之様をお迎えし、「運輸業界における2024年問題の実態とどのような対策を講じているか」をテーマにした対談の模様をお届けします。
目次
1.物流の2024年問題「ドライバー不足から倒産」もあり得る現実
― 物流の2024年問題が大きな話題となっておりますが、実際、業界にいらっしゃってどのように感じていますか?
虎谷:運送会社は全国で6万社以上あると言われていますが、時間外労働の上限時間をオーバーしていない、つまり問題が無い運送会社は全体の半分から6割程度と言われています。
運送会社には近場をまわる近距離配送、中距離搬送、さらに大型トラックによる長距離輸送があります。時間外規制にかからない半数の運送会社のほとんどが、おおよそ100キロ以内の距離を扱っています。
― 物流の2024年問題は、距離ではなく時間の問題ではないのですか?
虎谷:単純な労働時間の問題ではありません。
弊社は和歌山にありますが、和歌山から東京まで約650キロ、高速道路を使って片道だけで10時間から11時間はかかります。そこに積み込み作業や荷下ろしもあるわけですから、結果として1日15時間程度の労働になります。
今回の規制をあてはめると、長距離輸送の多くがほぼアウトになります。
規制を守るためには、途中で休憩をはさまなくてはなりません。和歌山から東京へ行く途中、静岡あたりで1〜2時間ではなく約9時間の休憩をとることになるので、荷物が届くまでの時間が大幅に増えます。
つまり、2024年問題は「モノが運べなくなる」のではなく、「モノが到着するまでに時間がかかるようになる」ということです。
― なるほど。しかし到着時間の問題を横におけば、ドライバーさんの負担は減るということになりますね。
虎谷:国が重視しているのは、ドライバーさんの労働条件を改善し、給料もアップしましょうということなんですが、実はそうはならないのです。
ドライバーさんの給料は、走行距離や稼働時間などを考慮した、さまざまな手当によって大きく変わります。時間外労働の規制によりドライバーさんの労働時間が減るわけですから、賃金は1〜2割は下がるでしょう。
これまで同様の賃金を維持できればいいのですが、休憩をはさみ、一度の輸送に倍の時間がかかれば会社の利益は減りますから、給料を上げたくてもできません。休憩時間もドライバーを拘束しているコストは発生するので、その分も含めて、配送費を上乗せしなくてはやっていけません。
荷主さんがそれだけの費用を払ってくれるかといえば、「だったらいいよ、もっと安いところに頼むから」となるケースの方が多いでしょう。要するに荷主さんにも、あるいは配送料を払うお客さんも含めて、みんなに「これだけは払わないとダメですよ」と規制をかけて初めて、配送できる量は減っても利益を従来通りに得られて、ドライバーさんの労働時間が減っても以前と同様の賃金を払えるのです。
ですから運送会社にだけ規制をかけても、会社の利益が減るだけ、結果としてドライバーさんの給料も減るだけで、業界全体の改善にはなかなかつながらないのが現実です。
特に長距離ドライバーには大きな影響があります。長距離ドライバーは大変だけれども稼げるという面があるからです。
もともと第一志望でドライバーになった人は少なく、他の仕事でうまくいかなかった、あるいは仕事を失った、しかし「収入が必要だから」「稼ぎたいから」といった理由でドライバーになった人の方がはるかに多いのです。ある意味、世の中の受け皿的な要素を持った業界とも言えます。
―仕事を失った、すぐにでも一定の給料がほしいという人にとっては、ドライバーになることで家庭や生活を守れる。確かにそうですね。では規制が行われた結果としてどのような状況になるのでしょうか?
虎谷:時間外労働が減ることで負担は減るかもしれませんが、頑張ればお金をたくさん稼げるという長距離ドライバーのメリットもなくなってしまう。稼げないのであれば、ドライバーになろうという人は減るでしょう。
ドライバーをやめて違う業種に就くことが難しい人は、それなら少しでも待遇のいい別の運送会社に移ろうとなります。ドライバーは、2024年問題をクリアしながら、そこそこの給料をもらえる運送会社を渡り歩くようになることも考えられます。
いずれにしても運送会社はドライバー不足に陥り、収益が上がらずに倒産にまで追い込まれるところが増加する可能性は大きいということです。
2.まだまだ不透明で流動的な物流の2024年問題
― 物流の2024年問題と言われていますが、もし規制を守らなかったらどうなるのでしょうか?
虎谷:実は時間外労働の上限に関する規制は2019年に施行されています。ただ物流や建設などは「あなた達で考えて、なんとかやり方を見つけなさいよ」という5年間の猶予期間があり、これが2024年3月末で終了したわけです。でも、すぐに「はい、規則違反ですよ」となるわけではありません。
時間外労働時間の上限規制を遵守しないと、労働基準法の罰則規定に基づき罰金が科されるとか、違反に対する指導が行われるとされています。しかし、これらは1年間、ドライバーの労働時間の累計で判断されるので、罰則規定が実際にどのように行われるのかは、1年後にならないとわかりません。
そもそもお話しした通り、約半数の運送会社、特に長距離運送を行っている会社は規則違反になる可能性が非常に高い。すべてに対して厳しく対応していたら、極端なことを言えば「輸送は今の半分以下になる」わけで、本当にスーパーに青果が届かない、お客様のもとに荷物が届かない、といった状態になりかねません。
3.「自分のお金は自分で守る」稼ぎたいドライバーに企業年金のメリットを伝えた
― とても複雑で難しい問題ですね。長距離ドライバーさんは稼げるという話が出ましたが、実際にはどれくらいの年収になるのでしょうか。
虎谷:弊社は大型トラックで長距離だと平均年収が600万円を超えます。ドライバーとしては上位15%に入るくらいの高い給料です。
ただ、農作物が中心ですから時期によって稼働が大きく違います。月給が高い時は非常に上がるけれど、作物がとれない時期は輸送も減るわけだから、月給も一気に下がります。
社会保険料は4〜6月の給料を基準としているから、ここで月給が高いと社会保険料が高くなりすぎてしまう。長距離を走って稼ぎを増やそうというドライバーが多いし、その稼ぎからアレコレ国に引かれて手元に残るお金が減るのを嫌がる傾向があります。
給料が高くなれば社会保険料も高くなります。一方、将来本当にどれだけの年金がもらえるのかも不透明で不安感もある。私は「自分のお金は自分で守るしかない」とドライバーさん達に話しています。
とはいえ、ドライバーさん達は、投資だとかNISAだとかに関心があったとしても、金融の知識が十分にある人は少ないですし、実際に行っている人はほとんどいません。
そこで我々は「はぐくみ企業年金」をドライバーさんたちのために導入することにしました。
「はぐくみ企業年金」は掛金の金額を決めるだけで毎月積み立てられて、しかも掛金部分に税金はかからないし、社会保険料の負担が減ることもある。貯金でももちろんいいのですが、もっとメリットのある制度にお金を置いておいたほうがいいのではないかと考えました。
企業年金にもいろいろありますが、「はぐくみ企業年金」を選んだポイントのひとつが、スマホやタブレットで簡単にメリットがシミュレーションでき、デメリットも確認して加入を決められるところですね。
ドライバーさん達は帰宅してからご家族、特に家計の采配をしている奥さんに話すでしょう。スマホで奥さんも実際に見て納得する、将来の資産形成が目に見えてわかるから、それならやってみようとなります。
― わかりやすい、簡単にできるというのは大切です。どうしても企業年金は「難しい、わからない、だからやらない」という流れになりやすいのがネックなのです。実際に「はぐくみ企業年金」の導入について、従業員の皆さんにどのように説明したのでしょうか?
虎谷:社会保険料のように月給に対して割合が決まっているわけではなく、自分のできる範囲で自分で自由に掛金を決められるよと話しました。
あとは若い人たち、元気な20代は、老後のお金と言われてもピンときません。そこで「想像しづらいだろうが、とにかくきちんと貯金をしておこう、どうせお金を貯めるなら、税金と社会保険料の負担も減って無理なく積み立てられる「はぐくみ企業年金」を使ったらどうだろう」と話しました。ですから弊社の従業員は年代に関係なく、しっかり掛金をかけているのではないでしょうか。
わたしからの説明で気をつけたのは、一方的に従業員にとってのメリットだけを強調しないようにしたことですね。お金の話は特に「おいしい話には裏がある」と感じるでしょう?そこは明確に、デメリットも伝えたし、会社にもこういうメリットがある、ということも話しました。
4.「少子高齢化」「人材不足」運輸業界で生き残るために何ができるか
― 日本は少子高齢化社会になり、人口減が現実化しています。さらにAIなどによって人がやる仕事が減ると言われていますが、運輸業界の問題に関係はありますか?
虎谷:運送業というのは、1台をふたりで使うこともありますが、基本的に100台の車があれば100人のドライバーさんが必要です。労働集約型の仕事ですから、ドライバーがいなければ仕事が成り立ちません。2024年問題に加えて、2030年の高齢化問題でドライバー不足は加速します。
しかし、運輸業には世の中の受け皿的要素があるわけで、たとえばAIによって職がなくなった場合、こうした人材が運輸業に流れてくる可能性はあると思っています。とはいえ人口減の影響はあるでしょうから、おおよそ6万社ある運送会社は5万社くらいまでに淘汰されるのではないかと考えています。その時にやめざるを得なかったドライバーさん達が集まるような会社になるように整備をしていかなくてはなりません。
― 時間外労働ばかりがフォーカスされがちですが、従業員さんにとって安心して働ける環境づくりも重要ということですね。
虎谷:今、運輸業界は生き残りをかけた時期にさしかかっています。
少子高齢化やドライバー不足を乗り切ったところが生き残る。雇用も非常に大切ですが、雇用を維持すること、ドライバーさんに会社に居続けてもらうこともポイントになるでしょう。ドライバーさん達の満足度をどれだけ上げられるか、いわゆる従業員満足度の向上が必要です。
弊社が「はぐくみ企業年金」の導入を行ったのは、税金や社会保険料の負担を減らせるという、ドライバーさん達がもっとも気にしているところをカバーでき、同時に老後や退職時、休職時にも頼れる資産形成を無理なくできる制度であるからです。デメリットの点もしっかり説明されるので、ドライバーさん達が納得感をもって加入を決められる点も良いと思いました。