近年ではテレワークや時短勤務など多様な働き方が出てきたことで、社員の事情に応じて働き方を選択できるような制度設計をしている企業も多いと思います。
しかし中には規定の曖昧さや注意喚起を行っていないことから、当初では認められていないことが認められてしまっていることもあるのではないでしょうか。
今回は社会保険労務士、キャリアコンサルタントである村井真子氏が出版した著書、『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)より寄稿いただいた記事の中から、「労働時間と休暇」に関するトリセツをご紹介します。
「職場でのスマホ利用制限」「残業に関する規定」など、詳しく解説していきますので、ぜひご確認ください。
執筆者村井 真子(むらい まさこ)氏社会保険労務士、キャリアコンサルタント
家業である総合士業事務所で経験を積み、2014年、愛知県豊橋市にて独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所等での行政協力業務を経験。あいち産業振興機構外部専門家。地方中小企業の企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築、組織設計が強み。現在の関与先160社超。移住・結婚とキャリアを掛け合わせた労働者のウェルビーイング追及をするとともに、労務に関する原稿執筆、企業研修講師、労務顧問として活動している。著書に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)がある。https://masako-murai.org/
目次
個人スマホを見ている時間が多い社員に関する相談
Q:仕事中にスマホを見ている時間が多い社員への対応、どうする?
A:勤務時間内のスマホの私的利用は、原則として認められないが休憩場所を用意することも必要。
まずよくある相談のケースとして、勤務時間中に個人スマホを見ている時間が多い社員に関する内容です。そういった問い合わせがあった場合、人事担当者として、どのように対応すべきでしょうか。
服務規律や情報漏洩リスク防止の観点から、勤務時間中のスマホの私的利用を原則禁止としている企業も多いと思います。
特に会社が貸与しているスマホは会社として守るべき情報にも多くアクセスできるため、利用範囲を限定していることもあります。就業規則に明記していれば、スマホの私的利用について懲戒処分をすることも可能です。
労働契約を結んだ段階で、労働者は会社に対して、職務専念義務を負うとされます。これは仕事の時間内は仕事に集中するという意味で、その対価として会社は労働者に給与の支払いを行っています。
ですから、スマホばかり見ている社員は問題があると言えます。
一方で、家族や子どもに関する緊急の連絡が入ったり、こちらから家族へ連絡しなければならないことも十分想定できます。緊急やむを得ないスマホの利用は一定の範囲内で許容するのが現実的です。
このケースでも、必要があってスマホを操作しているとしても、第三者からは何のために触っているのかがわかりません。
頻繁にスマホを見ているようであれば本人に誤解を招くような行為は控えるようとアドバイスして、その後の様子を注視する対応が良いでしょう。
スマホ以外にも、勤務時間中におやつを食べる、私語が多い、喫煙に行くなどの私的行為について、社員から相談が寄せられることもあると思います。
私が担当している企業の事例からいくつかご紹介します。
「休憩室」など、然るべき場での活用を奨励する
おやつについて、18時以降は食べてもいいが、それまでは蓋つきの飲み物のみOKとしているところや、音が出るもの、匂いがするものの飲食を禁止しているところがあります。
また、時間を問わず飲食については別室ですることを取り決めているところもあります。
「休憩室」「保健室」中には「雑談ルーム」などの名称で、ルールを決めて運用している企業もあります。
実は、コロナ禍で出社が減り、社員同士のこうした何気ない時間がなくなったことで、社の雰囲気が悪くなり、ハラスメントが増えたとも言われています。
雑談から仕事の相談やアイディアが生まれることもあり、社内コミュニケーションの一環としても、多少の私語については多目にみるところもありますが、とはいえ勤務時間中に執務室であまり関係のない話をしているのも考えものです。
そこで先述した「休憩室」などの場をつくるのがお勧めです。そこで話している時間は休憩中だということを明示して運用します。
スマホの私用についても、そうした場所で使うことを奨励することによって、コンプライアンス意識の向上を見込めるといいですね。
「残業をしてほしいけど、言いにくい」という相談
Q:繁忙期でも協力してくれず、絶対に残業しない社員にはどう対応する?
A:個人的な事情に配慮をしたうえで、「必要な要件を満たした残業命令に従う必要あり」と説明する。
人事担当者に、こうした特定の社員の働き方についての相談が寄せられることもあるかと思います。本来、直属の上司に訴えるべきところが、なかなか上司に言いづらいということもあるのではないでしょうか。
まずは人事は、相談をしてきた方の話を傾聴しましょう。そのうえで、当該社員または、その上司に事情を確認する必要があります。
「自宅で介護や育児をしている」「妊活をしていて身体に負担をかけたくない」といった個人的な事情を抱えているケースが想定されます。また、過去には飼っているペットの具合が悪いと言ったこともありました。
こうした事情に配慮をしたうえで、本来企業が労働者に1日8時間、週40時間を超えて残業を命じるためには、以下の①と②の要件を満たし、かつ、残業をする必要性がある場合となります。
*この二つがあれば、労働者は原則として残業命令を拒否できません。
* 1日8時間未満、週40時間未満の場合も、労働者は残業の命令を拒めません。
①適法な三六協定を結んで、労働基準監督署に届け出ていること。
②就業規則に残業の根拠となる規定があること。
①適法な三六協定を結んで、労働基準監督署に届け出ている
①は、1日8時間・1週40時間以上の労働をさせる場合に必ず届出が必要な「労使協定」です。労使協定とは「会社」と「労働組合または労働者側の代表者」が書面で交わす約束です。
この協定がなければ、会社は1日8時間、週40時間を超えての時間外労働や法定休日労働を業務命令できません。
また、この協定は自動更新できず、毎年必ず届け出る必要があります。この協定がそもそも結ばれていなかったり、期限が切れていた場合、残業をさせれば会社には6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されるので注意が必要です。
②就業規則に残業の根拠となる規定がある
②は就業規則上に残業を命じるという記載がある場合です。労働者数が10人未満の小さな会社は就業規則がないこともありますが、個別の雇用契約書・労働条件通知書に残業があると明示すれば、業務命令として残業も可能となります。
二つの条件が揃っていて、正当な理由なく残業を拒んでいる場合は、懲戒処分の対象にすることができます。口頭や書面での注意にもかかわらず改善されないときは、始末書を書かせるなど段階的に重い処分も可能です。
まずは現状を確認し、残業を断る正当な理由があるかをヒアリングすることから始めてみましょう。