インドネシアは2020年7月現在もまだコロナウイルスの感染が落ち着かずアセアン最悪の状況とも言われており、従業員の安全を確保するためにもリモートワークを活用している企業も多いのではないでしょうか。
そんな環境の中生まれた新しい働き方にあわせ、今インドネシアの人事分野では採用・評価・研修そしてマネジメントと、次々新しい手法が注目されているようです。今回は、その中からOKRという目標管理方法をご紹介します。
目次
インドネシアで注目されている背景
GoogleやFacebookをはじめとした、シリコンバレーの大企業が積極的に取り入れていることから注目を集めたOKRですが、最近インドネシアでも大手配車サービスであるGo-jekや、最大手通信キャリアであるTelkomselのグループ会社でも運用をはじめているそうです。
そのため、人事向けのセミナー等でトピックとして取り上げられることも増え、注目されています。社内のコミュニケーション強化も兼ね、日本人サイドからOKRの導入を提案してみてはいかがでしょうか。
そもそもOKRとは?
OKRとは『Objective and Key Results』の略称であり、Objectiveは目標をKey Resultsは主な結果を意味しています。会社の目標を分解しチームや個人の目標を設定することにより、組織全体で共通の目標を持つことを目的としています。
このように組織と全社員の目標・結果を可視化することにより、従来の目標達成計画よりも「全社員が同じビジョンに向き」、「ゴールが明確」かつ「一定のペース」で計画を進めることが可能になります。そして今やっている自分の仕事が何に役立っているのかが明確になることで、社員のモチベーションアップにつながります。
またよく社員間でおこる「あの人は何をしているの?」という疑問も解消されるため、社内の雰囲気が良くなる効果も期待できます。
OKRの3つの特徴・注意点とは?
目標管理手法と言えばKPI(Key Performance Indicator)が有名ですが、OKRには従来の目標管理方法と異なる3つの大きな特長・注意点があります。
1.目標設定の仕方
OKRでは下記の図のように、まず組織全体やチームの大きな目標を掲げ、その目標にひもづいた複数の中規模・小規模な成果を「個人(またはチームなどの下位組織)の指標」として設定します。そのため、企業・チーム・個人の方向性を統一し、具体的に取り組むべきタスクの優先順位を明確にすることができます。
また通常目標を立てる際、100%達成できそうな指標を設定してしまいがちですが、 OKRでは60~70%の達成度となるような高いレベルで目標を設定することが望ましいとされています。 本来達成できそうなレベルよりもさらに高い100%を目指していくことで、さらなる高みを目指すことになり成長が生まれます。
2.個人の評価(報酬)と切り離して考えなければならない。
もしもOKRを人事評価制度に直結してしまうと、高いレベルでの目標設定ができなくなり、社員が簡単に100%達成できる目標ばかりを設定するようになってしまいます。
もしも全社員が簡単に達成できる目標を設定するようになると生産性が下がってしまい、OKRの取り組みは失敗に終わってしまうかもしれません。
そのため、人事評価制度はOKRとは別のものを運用するようにしたほうがよいでしょう。
3.KPIとは別物だと認識すること。
KPI(Key Performance Indicator)は「重要業績評価指数」と呼ばれ、達成したい目標の基準を明確に数値化することで、目標に向かって適切に実行されているかを計測する中間指標です。つまりKPIは、達成することに意味のある指標であり、人事評価制度に直結することがほとんどだと思います。
そのため、KPIとOKRを同時に運用する際は、OKRで大きな目標に向かいつつ、KPIで「正確な現状把握」をすることが重要といえるでしょう。このようにKPIとOKRは似ていますが、評価方法が異なるため運用をする際に注意が必要です。
OKRを実践するための方法
OKRを活用する際、目標と評価ポイントを企業単位・事業単位・プロジェクト単位・メンバー単位などに細かく分けて落とし込むことで、最終的にはメンバー個人にまで達成すべき目標が明確化されます。
実際に運用する際は、下記のようなプロセスで運用することになります。
1.企業(組織全体)OKRの設定
目標は、プロジェクトメンバー全員が共有できるような野心的なもの、かつ60~70%の達成度となるような高いレベルで目標を設定することが望ましいです。またいつまでに達成する必要があるのか、期限も明確に定めることで、よりやる気を出すことにつながります。
2.チーム(部署)OKRの設定
企業OKRの説明にもあったように達成率が60%~70%になるような高いレベル、かつ組織のOKRと整合性のとれた目標を3~4つ設定します。その際、結果を客観的に判断できるように、明確な期限と測定可能な数値目標を最大4つほど設定しましょう。
3.個人OKRの設定
こちらも設定方法は上記同様です。企業としての大きい目標から組織の目標、個人の目標まで細分化しつつ、高いレベルの目標を設定するようにしましょう。
このOKRは、それぞれの状況に合わせて設定することとなりますが、設定において「このようにするべき」といった定型的な方法はありません。組織や個人の置かれている状況に応じて柔軟な発想で、臨機応変にOKRを変えていくことが可能です。
4.週次もしくは月次で短いミーティングを行い、進捗を確認
今週・今月の優先事項、達成の自信度、阻害要因などを確認し、その期間の結果を見直しましょう。その際小さな進捗でもよいので成果を発表しあい、全員で振り返る時間があるとよいでしょう。
また進捗に遅れがある場合は、メンバー・マネジャー・経営陣間のそれぞれですり合わせをしつつ改善点を議論し、必要に応じて目標の変更をするようにしましょう。
5.全体レビューを行う
わかりやすい成果を設定していることが特長のため、評価に時間をかけすぎないこともポイントです。レビュー期間の最後にスコアリングを行い、各OKRの結果を評価します。
成功・失敗要因を分析し、達成度が低すぎる/高すぎることはないかを確認した上で、今後同じ目標を続けるか、別の目標に切り替えるかを判断しましょう。
OKRは1ヶ月から4半期程度の非常に短い期間でおこなうことが良いとされているため、評価や測定に1カ月もかけていては、非常に効率が悪くなってしまいます。
評価に時間がかかってしまうと、その期間で社員のモチベーションが低下してしまう可能性もあります。短期間で評価測定を行うためには、目標や鍵となる成果を数値化し定量的に判断することが大切です。
OKRのメリット・デメリット
OKRを運用する際、短いサイクルで目標を更新・管理し、PDCAを回していく必要があることを考えると、マネジメント部門の体制に余力があることは重要なポイントとなります。
また日本で運用するよりも、英語やインドネシア語を使い文化の違う人と進めていくことになるため、更に余力が求められるかもしれません。
メリット
- 会社のビジョンを社員に対し、共有・浸透させることができる。
- 企業全体の目標と、個人の行動とを連動させやすくなる。
- 従業員の組織に対するエンゲージメントが向上できる。
- 優先してやるべき業務が明らかになる。
- 人事評価と切り離すことで、大きな目標に挑戦しやすくなる。
デメリット
- 従業員数が少なく、1人がマルチタスクを求められる環境では機能しにくい。
- 短期間でのレビュー・見直しなどの運用が重要な手法のため、その時間がとれない企業では運用が難しい。
- 高い目標を設定するぶん、未達成のストレスがかかる可能性もある。
OKR導入企業例(Google/メルカリ/チャットワーク )
Google:挑戦する組織をつくりあげる
言わずと知れたシリコンバレーの大企業、Google(グーグル)は、検索エンジン「Google」を中心に、オンライン広告やクラウドコンピューティング、ソフトウェアなど、さまざまな事業を手がける会社です。
Googleは、OKRを導入した先駆者といわれています。そんなGoogleがOKRを導入したのは、2000年初期。当時、Googleに出資していたジョン・ドーア氏が、OKRを提唱したインテルの元CEOアンディ・グローブ氏からOKRを直接学んだことで知られています。
【GoogleにおけるOKRの特徴】
- 毎四半期に全社的なミーティングを開き、OKRの公開と評価を行う。
- OKRの目標はチームで統一するのではなく、個人の信念や価値観に基づいて定める。
- Googleでは、OKRにおいて目標の 70%を達成できれば成功というストレッチゴールの推奨
メルカリ:個人の視点を引き上げて組織の結びつきを強化
株式会社メルカリは、フリーマーケットアプリ「メルカリ」を運営する会社です。日本のみならず海外でも展開し、キャッシュレス決済「メルペイ」といったサービスも提供しています。
社員数が50〜100人のタイミングで「会社の規模拡大にともなって、会社と個人の目標に生じたズレ」を解消すべくOKRを導入したようです。
【メルカリにおけるOKRの特徴】
- 自社のミッションとバリューを繋げた目標設定をし、3ヶ月に1度見直しと評価を実施
- OKRを「人事評価と結びつけない」ことを徹底
- OKRでのフィードバックを円滑にする「Reviews」という独自システムの開発
参照:OKRのリアルな話ハナシ
チャットワーク:自然体で成果を出す
Chatwork株式会社は、ビジネスチャットツール「Chatwork(チャットワーク)」を運営する会社です。2014〜2015年頃に、大きな資金調達が実現したことで経営のアクセルを一気に踏んだものの、「会社の戦略が社員に浸透していない」「社員が多すぎて評価が追いつかない」という状態に陥ったことがきっかけでOKRを導入されたようです。
【チャットワークにおけるOKRの特徴】
- 目標評価をOKR達成率ではなく、”OKRを通してどれだけチャレンジしたか”を評価指標として組み込む
- OKRをただの評価指標ではなく『チャレンジのためのコミュニケーションツール』として位置付け
- OKRは”あくまでチャレンジするカルチャー作りのツール”であるという認識のもと自然体での運用
まとめ
就業場所が変わり始めている今、OKRにより企業を構成する社員1人1人それぞれ自身がどのような役割を果たしているのか再認識することで、よりいっそうチーム・組織として、まとまっていくことができるのではないでしょうか。ぜひこれを機会にOKRを社内で実施してみてはいかがでしょうか。