2021年6月3日、子どもの出生直後に男性の育休取得を促す出生時育児休業、いわゆる「男性版産休」を新たに設けた改正育児・介護休業法などが、衆議院本会議で全会一致で可決、成立しました。
近年、育休や産休など子育てのための施策への関心が高まっていますが、今回の法改正で子育て制度がどのように変わり、また企業や人事担当者としてどのように新制度に対応していけばよいのでしょうか。
今注目の「男性版産休」を取り巻く状況について今回は解説します。
1. 育児・介護休業法とは?
そもそも今回改正されることになる育児・介護休業法は育児や介護に携わる労働者の扱いについて定めた法律で、1992年に施行された育児休業法に由来します。
その後、高齢者介護が社会問題化すると、介護休業を盛り込んだ改正法が1995年に施行されました。
以降も少子高齢化が進み労働者の仕事と家庭の両立支援が一層求められるようになると「時間外労働の制限」「深夜業の制限」「子の看護休暇」といった制度が追加されるなど、社会の実情に合わせた改正がなされています。
育児休業の仕組みや制度の詳細については、以下の記事をご覧ください。
育児休業を徹底解説!人事が知っておくべき制度や仕組み、手続き等
https://hrnote.jp/contents/roumu-ikuzikyugyo-20210607/
2. 今回の法改正の背景
今回の法改正の背景には、出産や育児によるキャリアの中断が女性の社会進出を阻害している現状があります。
家事・育児の負担が女性に偏りがちなことはその要因の一つであり、男性の家庭への積極的な参加が求められています。
ここで、近年の男女別の育休取得率の推移を見てみましょう。
2019年度は女性の取得率が83.0%なのに対し、男性は7.48%に留まっています。
2020年に設定された政府の目標では、2025年度に男性の育休取得率を30%まで引き上げたいとしていますが、まだまだ大きな隔たりがあることが分かります。
3. 今回の改正育児・介護休業法のポイント
では、今回の法改正は具体的にどのような内容なのでしょうか。改正内容の主なポイントは以下の5つとなっています。
- 出生直後の時期における男性の柔軟な育休取得
- 育児休業の分割取得
- 雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置を事業主へ義務付け
- 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
- 育児休業の取得状況の公表を義務付け
これら5つのポイントについて、1つずつ見ていきましょう。
1. 出生直後の時期における男性の柔軟な育休取得
男性版産休(出生時育児休業)は子どもが生まれてから8週間以内に最大4週間の休みを回か2回に分けて取得できる制度で、現行の育休制度と併せて利用することができます。
今回の改正では、現行の育休制度についても4週間の育休を2回に分けて取れるようになったため、新制度と合わせて最大4回に分けて男性がまとまった休みを取れるようになりました。
育休取得のための申請期限も柔軟化が図られていて、現行制度の期限である1か月前から2週間前へと短縮されています。
また、休業中の就業についても条件が緩和されたほか、給与面に関しては、社会保険料の免除や育児休業給付金によって、通常の育休制度と同じく最大で実質8割が保障されることとなります。
新制度(男性版産休) | 現行の育休制度 | |
対象期間と取得可能日数 | 子どもの出生後8週間以内に4週間まで取得可能 | 原則子どもが1歳になるまでの最長1年間(2歳までに延長可能) |
分割取得 | 分割して2回取得可能 |
原則分割不可 |
申請期限 | 原則休業の2週間前まで | 原則1か月前まで |
休業中の就業 | 労使協定を結んでいる場合のみ、労働者が合意した範囲で休業中に就業することが可能 | 原則就業不可 |
2.育児休業の分割取得
1.で述べたように、原則分割不可であった現行の育児休業を、2回に分けて取得できるようになります。
また、保育所に入所できないなどの理由で1歳以降も育休を延長する場合、従来は育休開始日が1歳・1歳半の時点に限定されていたのに対し、法改正により各期間の途中からでも育休の夫婦交代(途中からの取得)が可能になります。
以上の1.と2.の内容をまとめると次の図の通りです。
3.雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置を事業主へ義務付け
新旧両制度の育児休業に関して、育休を取得しやすい雇用環境の整備と、これらの制度の周知と取得の意向確認を事業主に義務付けています。
改正後 | 改正前 | |
雇用環境の整備 | 新旧の育休を取得しやすい雇用環境の整備を義務付け。研修・相談窓口設置など、複数の選択肢からいずれかを選択 | 規定なし |
制度の周知・意向確認 |
|
個別周知の努力義務のみにとどまる |
雇用環境の整備にあたっては、労働者の希望通りの長さの休業期間を取得できるよう事業主が配慮することを指針において示す予定です。
また、育児休業の取得を控えさせるような形での周知・意向確認は認めないとされています。
4.有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
有期雇用労働者、たとえばパートや契約社員などの非正規労働者の育児・介護休業の取得要件が緩和され、無期雇用労働者と同じ取り扱いになります。
改正前 | 改正後 | |
有期雇用労働者の取得要件(育児休業の場合) |
①継続して雇用された期間が1年半以上 |
①→撤廃 ※無期雇用労働者と同様に |
5.育児休業の取得状況の公表を義務付け
従業員1,000人以上の企業は、育児休業などの取得状況を公表することが義務付けられます。
具体的な公表内容は男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」となる予定です。
従来はプラチナくるみん企業のみが公表されていたのに対し、改正後は公表対象の企業が一気に増えることとなります。
4. 今後どのように対応しなければならないか
以上の5つのポイントの施行日は、1と2が公布後1年6カ月以内の政令で定める日、3と4が2022年4月1日、5が2023年4月1日となっています。
これらの施策により、男性の育休取得率が向上して出産後の女性の負担が軽減し、女性のキャリアの継続・就業率が向上することが期待されています。
また、男性側の家事や育児への関わりが高い夫婦ほど2人以上の子どもを望む傾向があり、少子化対策にも寄与すると言えそうです。
今回の改正法では企業の責任が強化されたこともあり、施行日を意識しながら適切に「男性版産休」や新しい育休制度に対応した職場の環境づくりをしなければなりません。
ここまで改正育児・介護休業法の改正について解説してきましたが、このような取り組みだけでは問題の解決には至らないと危ぶむ声もあります。たとえば、日本の男性向け育休制度をユニセフが「世界一の水準」と評価する一方で、先述のように男性の育休取得率は依然低いままです。
この乖離は日本企業の人手不足が原因だと指摘されています。少人数の職場では、休みを取ることで同僚や仕事相手に迷惑をかけてしまうのではないかという懸念から、育休を取りたくても取りづらいという実態があります。そのため、育休取得率を向上させるには、人手不足という根本的な問題への手当てが必要と言えるでしょう。
5. まとめ
以上のように、男性の育児休業の取得は政府主導で強く推し進められていることが分かったかと思います。
先述の通り、今回の法改正では企業や事業主に対する規定が増えたため、職場レベルで仕事と育児の両立を実現するためのサポートをすることが重要です。
その一方で、育休の取得率を上げることばかり注力しても、ただリフレッシュをするための“形だけの育休”に休みが充てられてしまう可能性もあります。
男女を問わず、子育ての当事者や社会全体の育児に対する意識や知識まで、より一層向上させていくことが求められています。