社長の右腕人材にフォーカスをあて、彼らが乗り越えてきた過去の体験やビジネススタンス、ボスマネジメントのアレコレなど、財産とも言えるノウハウをお伺いし、記事にまとめていく企画「社長の右腕」
今回は、LIFULL執行役員である羽田さんの右腕エピソードをご紹介。
東証一部に上場しており、社員数も1,500名を超える同社ですが、羽田さんが入社した際は80名程度の組織でまだまだベンチャー企業だったとのこと。
そこから現在に至るまで、井上社長と羽田さんは15年以上の付き合いがありますが、過去にどんなエピソードがあったのか。羽田さんはどのようなことを意識しながら井上社長と向き合っているのか。
羽田さんの「右腕の流儀」をご紹介します。
【人物紹介】羽田 | 株式会社LIFULL 執行役員 CPO(Chief People Officer)人事本部長
目次
HRという側面から、井上社長と二人三脚で組織をつくってきた15年間
―本日はよろしくお願いします。まずは羽田さんの現在のポジションや役割に関して教えてください。
羽田さん:現在は、主に執行役員として経営会議などに参加して重要事項を決議したり、グループの中期経営方針の検討・決定に携わったりしています。
また、CPO(Chief People Officer)という立場から、全社の組織デザイン、組織開発、採用、育成、人事制度構築、労務など、人事に関わる部分をすべて管掌しています。
その他に経営チームのチームビルディングや次期社長の検討、長期的な視点でみたときの経営チームのポートフォリオの検討などもしています。また、細かいところだと、役員や管理職と社員の間の通訳としての役割、社員の個別相談の対応などもやっています。
―役割がかなり幅広いですね。その中で今回は「社長の右腕」というテーマですが、井上社長とは普段どのような距離感でやりとりをされているのでしょうか?
羽田さん:「社長の右腕」などというおこがましいことは思っていませんが、結構近い距離感でやり取りしていると思いますね。
僕は2005年に中途で入社しているのですが、井上とはもう15年ぐらいの付き合いになります。現在はグループ連結で1,500名規模の会社ですが、正社員が80人ぐらいのときから二人三脚で組織をつくってきているんです。
今はやり取りとしては、定期的なものだと隔週で1on1をやっている程度ですが、それ以外にも随時チャットでのやり取りをしたり、ちょくちょく相談をしたりして、密にコミュニケーションを取っています。
―ちなみに、羽田さんから見て井上社長はどのような人柄だと感じていますか?
羽田さん:単語で言うと、「ビジョナリー」「エネルギッシュ」「優しい」「執着心が強い」「バランスがいい」とかですかね。
井上の人生の目標は「世界平和」なんです。そのためにLIFULLでさまざまな事業を育て、さらに複数の財団や社団法人にも関わっていて、かなり精力的に活動しています。
自身の目標への想いやこだわりは本当に強いと思います。
―井上社長は、自身が掲げたビジョンがぶれたりすることはあるものですか?
羽田さん:全くないですね。
もちろん企業として成長するという部分にもこだわりますが、それが目的になったことはありません。
売上や利益は「ビジョンの達成度を測るものさし」という感覚が強いんだと思います。たとえば経営方針の話をしていても、常にビジョン起点で議論が進みます。
LIFULLの社名の由来でもある「世界中のあらゆる『LIFE』を、安心と喜びで『FULL』にする」ために、何ができるのかという話がいつも中心になっていますね。
―あと、「バランスがいい」というのは、どういうところで感じるのですか。
羽田さん:攻めと守りのバランスがいいんですよね。
他社の友人から、社長さんの勢いや想いが先行して「ガーッと攻め攻め攻め」みたいな話を聞くことがありますが、井上の場合は事業系の話も管理系の話も、バランスよく人の話をよく聞くんですよ。
管理系に転職してきた社員から「前職と違って井上さんがよく話を聞いてくれるので提案しやすい」という声を何度か聞きました。
あと、人の話をよく聞きます。井上本人は「周知を集めて決断をする」とよく言っていますね。
―逆に羽田さんから見て、井上社長の弱みだったり「改善してほしいな」と感じたりする部分はありますか?
羽田さん:もう少し健康に気を使ってほしいですね。役割柄、会食も多いのですが、結構お酒を飲むんですよ。
でも、そろそろいい年なので、健康を考えてお酒をもうちょっと控えてもらいたいですね(笑)。
―なんか、嫁さんみたいですね(笑)。
羽田さん:たしかにそうですね(笑)。あとは弱点というか、朝が弱いですね。昔はよく午前中の会議に遅刻したりしてましたね(笑)。
「社長と脳内を同期せよ」井上社長との関わり方で意識していること
―井上社長との関わり方で意識していることを教えてください。
羽田さん:1つ目としては、雑談を結構するようにしています。
たとえば「最近あの会社がこういう動きしていますね」とか、ちょっと前だと「ティール組織って話題になっていますが、どう思いますか」とか、「未来の会社ってどうなってると思いますか」とかですね。
気になる話題があれば、雑談ベースで意見を交わして、お互いの価値観のすり合わせをしています。
それをやっていると、いざ「この方向に動きたい」と思った時に、すっと動けるんですよね。普段の雑談を通して井上の考えを理解できていますし、井上も僕の考えを理解してくれているからです。
このように意思疎通ができている状態をつくっておくことは重要ですね。そうなると、仕事をかなりスムーズに進めることができます。
ですので、1on1では重要案件を除いて、あまりタスクの確認などはせずに、脳内を同期させるために雑談をしていることが結構ありますね。
―普段から社長の考えをキャッチアップしておくことは大事なことですね。
羽田さん:そうですね。社長ともなると、日々大量の情報が入ってきて、頭の中が高速でアップデートされていきます。それをタイムリーにキャッチアップすることをかなりやっています。
あとは、「報告」に関しても意識していることがあります。
社長には多くの情報が入ってくるので、僕が報告したことや依頼したことが忘れ去られてしまう、優先順位が下がる、ということは往々にしてあります。
ですので、「これは絶対に押さえておかなきゃまずい」ということに関しては、雑談の際に合わせて何回も頻繁に報告するようにしています。
「これは覚えておいてほしい」ということは3回ぐらい言いますね。直接言って、チャットでも送って。リマインド、リマインド、リマインド、みたいな。
―あらゆる方向からリマインドするのですね。それでも井上社長と握ったことが、朝令暮改となることはありますか?
羽田さん:そうですね、たまにありますね。
―そういうとき、羽田さんはどうされるのですか?
羽田さん:そこでさっきの雑談が効いてくるんです。僕には朝令暮改した理由がわかるんですよ。「多分こういう理由でこうしたんだな」って。
社長は、未来のことを考えている時間が圧倒的に長いですし、集まってくる情報も他の人より圧倒的に多いので、先のことを考える速度が周囲よりも速くなるんですよね。
彼は何も考えずに朝令暮改しているのではなく、短期間で大量に考えた結果、朝令暮改をしています。この思考プロセスをちゃんと理解できるかどうかが大事だと思っています。
羽田さん:あとは、井上とは適度な緊張感を保つようにしています。
もう井上とは一緒にやってきた年月が長いので、兄のような感じでもあるんですよね。また、僕は人事未経験で採用してもらって今に至っているので、井上に対する恩もすごく感じています。
そんな中で井上はワンピースでいう「覇王色の覇気」を出してくるんですよ。恩を感じているうえに圧が強いとイエスマンになり、言われたことをやるだけになりかねません。
ただ、僕の場合はCPOという役割をいただいて、その役割を果たせるようにプロとして仕事をしているので、「これはやるべき、これはやるべきでない」と、自身の進退をかけてしっかりと考えを伝えていかなければなりません。
ですので、恩やリスペクトの気持ちをベースに、あまり馴れ合いにならないよう、よい緊張感を保つようにしています。
―社長に提言する際に勇気がいることもあると思うのですが、どのようなコミュニケーションをとっていくのでしょうか?
羽田さん:これは社長に限ったことではないのですが、「質問をする」ことですね。
「なんでそう思ったのか」という部分をヒアリングして、「たとえば、こういう場合ってどうなんですかね?」みたいな話をしていきます。
そこで何か、気づいてもらえる部分があれば修正してもらうっていうイメージですね。
―なるほど、質問をして気づきを与える。
羽田さん:あと、今の話に付随して、「社長をリードしよう」という意識は強く持っていますね。
昔、井上と飲みに行ったときに、「まずお前は、組織人事に関して俺と同じ判断ができるようになれ」と言われたことがあったんです。
続けざまに「そのうえで、俺が思いつかないような戦略・施策を提案・実行できるやつになれ」と。「そしたら完全に任せられるからさ」と話をされたんです。
そういうことをあまり考えたことがなく、自分の視野の狭さを痛感しました。
そこからは、井上の言葉を胸に刻み、社長を理解し、社長と同じ判断ができ、社長の期待を超える、そんな社長をリードできる存在になることを日々意識するようになりました。
井上社長が激怒した「type事件」
―過去に井上社長とのやり取りの中で印象に残っているエピソードなどございますか?無茶振りや、叱られた話などもあれば。
羽田さん:無茶振りだと、僕を採用してくれたときの面接の話ですかね。
当時から経営理念の話をよくしていて、面接でも「経営理念を実現したい。不動産領域はもちろんのこと、不動産領域以外のところもやっていきたいし、海外でもやっていきたいんだ」と言っていました。
それから、「それにプラスして社員にとっても日本一の会社にしたいんだけど、羽田くんはやる気ある?」って言われたんです。
当時、僕は人事未経験で何も知見がない状況だったのですが、「この人は未経験者つかまえて、いきなり何を言っているんだろう?」と思いました。
でも、同時に強く共感もしました。というのも、僕が新卒で入社した会社は社員のことをあまり考えないと感じてしまうような会社だったからです。
ですので、「社員が幸せになれる会社をつくりたい」という想いが強く、「やりたいです!」と、覚悟を決めて入社したんです。
そこから15年やってきましたが、リンクアンドモチベーションさんの「ベストモチベーションカンパニーアワード」で1位を獲得できたり、7年連続で「働きがいのある会社」ベストカンパニーに選出されたり、健康経営銘柄に選定されたりと、それなりに評価していただけるようになりました。
ただ、当時の面接のときから振り返ると、あれが一番の無茶振りで過酷なミッションだと思いますね(笑)。
―人事未経験である羽田さんに「社員にとって日本一の会社をつくれ」というミッションを提示したんですね。
羽田さん:そうなんですよ。しかも、入社したら人事は僕だけでしたからね、前任者はすでに辞めていなかったんですよ。
かくいう僕は、「リクナビって、リクルートに連絡したら掲載できるんだっけ?」みたいなレベルでしたね(笑)。
―ちなみに、井上社長はなぜ未経験の羽田さんを採用したのでしょうか?
羽田さん:わからないです。「やりたい」って言ったからじゃないですかね(笑)。
うちの会社って結構そういうところがあって、能力よりも「やりたい」という気持ちを大事にしてるんです。
これは井上の経験からもきているもので、井上はリクルート出身の人間で、当時はHR領域の営業を中心にやっていたのですが、マネジメント経験も特になく26歳で起業したんです。
また、人差し指だけでキーボードを叩くというレベルのITリテラシーだったみたいです。
そういったところから今のLIFULLを創ってきているので、「情熱があれば能力や経験の差は覆せる」というカルチャーがあるんです。
今でも、子会社の社長に、若手であろうと提案した人をそのままアサインします。多分、僕もそんな感じで採用されたんだと思います。
―なるほど。やる気があれば任させるというのは、すごく成長できる環境でいいですね。
羽田さん:2つ目のエピソードとしては、「type事件」ですね。
LIFULLに入社して間もないころの話ですが、typeでの掲載に向けて、井上が取材を受けたんですよ。で、記事の原稿が上がってきて、僕が受け取ってそれを井上に送ったんです。
そしたらその日の夜、井上から電話が掛かってきて、「原稿もらったけど、あの中身見たの?」って言われたんです。
それで、「見てないです」と。なぜなら、新卒で入社した会社のカルチャーだと、社長のインタビュー記事を事前に社員がチェックして赤入れするなんてことはありえなかったんです。
ですので、「僕ごときがチェックするなんておこがましい」と思って、そのまま井上に送ったら、電話でめちゃくちゃ怒られたんです。
「お前の存在意義はなんだ」「お前はメールか?」などいろいろ言われた末にガチャ切りされました。
しばらく経ってから、どうも気が済まなかったらしくまた電話してきて、またものすごく怒られてガチャ切りされたんです。
羽田さん:そこで、「あ、仕事ってこういうものなんだな」と思いました。こうやって自分の介在価値をつくっていくんだなと。
このことがあってからは、結構解き放たれたところがあって、「社長にもどんどん意見を言っていかなきゃいけないんだな」という気づきになりました。それが「type事件」ですね。
―羽田さんにもそんなエピソードが…
羽田さん:いやあ、めっちゃ怒られましたよ(笑)。
あと補足をすると、「type事件」とは言っているものの、typeさんの原稿自体は素晴らしいもので、実際にはほとんど赤入れもありませんでした。私の主体性のないスタンスに対して叱られたということですね。
あとは、中途採用でも失敗エピソードがあります。LIFULLのビジョンやカルチャーに合わない人を採用してしまった結果、LIFULLの企業文化が崩れそうになったことです。
たしか2010年前後だったと思いますが、もともとは井上が中途採用の最終面接をやっていて、徐々に当時の事業部長に最終面接権限を渡していったんです。
そうすると、成長期にあったこともあり、一部の事業部長が採用を焦ってしまったんです。どちらかというとカルチャーではなく、スキル重視で採用をしてしまった。
スキルが高い人材は、当然仕事ができるので、短絡的に見ると評価されやすい傾向にあります。
それで昇進してポジションがあがっていくのですが、ビジョン共感やカルチャーフィットが薄いので、会社に対する愚痴やネガティブな発言が多くなっていくんです。
経営批判のような話をしたり、メンバーへの当たりが強くなって文化に合わない指摘をしたり、成果を残して昇進もして影響力が強い分、ネガティブな発言によって周囲が引きずられるんですよね。
その結果、企業文化が少し乱れてしまいました。井上への提案もLIFULLの理念やカルチャーに合わないような売上重視の内容が出てきたりもしていました。
それで結局、最終面接権限をもう1回井上と僕に戻しました。そこからは、「我々と目線が合っているな」と感じた事業部長から徐々に権限を渡す流れに変えていき、ビジョンフィット・カルチャーフィット採用にシフトするようになりました。
上司を理解し、上司の期待に応え、上司の期待を超えよ
― 最後に「ボスマネジメント」において、HR NOTEの読者の方々に何かアドバイスのようなものをいただけないでしょうか。
羽田さん:先程もお話させていただきましたが、上司を理解し、上司の期待に応え、上司の期待を超える。まずはここかなと思います。
たとえば人事であればただの人事の専門家ではなくて、社長の視座で人事の専門性を活用することが、すごく大事だと思っています。
井上は、よく経営陣のことを「ゴレンジャー」と言っているのですが、各々が社長の視座を持ちながら、各々の専門分野で社長より高い専門性を発揮し、社長をリードして仕事をする必要があるんです。
そのために、まずは社長・上司の視座、価値観をできるだけ理解をしていく、考えの背景を知る努力が求められます。
そうすれば、同じ判断ができるようになり、期待に応えていくことができます。
そうなってくると、「自分がやらなくても、あいつに任せておけば大丈夫」となるんですよね。その結果、だんだんと自由が生まれてきて、さらに自分がやりたいことややるべきことに挑戦できるようになります。
この挑戦で社長や上司の期待を超える結果を残せれば、社長や上司をリードしていくことができるんだと思います。
上司を理解したうえで期待に応えて、自由を確保して、自分のやりたいことをどんどんやって結果を出していく。やりたいことをやっても根っこを理解しているので軸がぶれない。このプロセスが僕は大事だと思います。
―上司の期待ポイントを理解して、それを上回る動きをすればいいと。
羽田さん:そうですね。
そもそも上司が設定した目標や問いが正しいのかという問題はありますが、自分で問いを立てられないうちは、とにかく会社や上司の考えを理解し、上司の期待に応えていくプロセスを徹底していくことは、大事なことですね。
そうすれば上司の問いに応えるだけでなく、自分で問いを立てられるようになるのではないでしょうか。