2020年2月から3月あたりでコロナウィルス感染者の急激な拡大により、すべての企業がコロナウィルスによる対応を迫られました。体制が不十分でないままWFHに移行したりなど、適切な回答が見つからぬまま各企業は瞬時の判断で行動に移してきた数ヶ月だったと思います。
またグローバルに展開している日系企業では日本の状況とは違うため、海外ではどのように対応すべきか困られた方も多かったと思います。特にバックオフィスにおいては、会社の方針がガラッと変わる際に急な組織体制の対応を迫られました。
その状況下において「バックオフィス」として、柔軟に変化に対応できるための施策とはなにか、また今後第二波が予測される未来においてどのような組織をバックオフィス側から作り上げていくのか、Reeracoen IndonesiaのCFOである小林さんに「コロナ状況下の中、バックオフィスとしてすべきこと」についてお伺いしました。
小林 祐介 | PT.Reeracoen Indonesia CFO
2004年新卒として大手IT企業のグループ会社にシステムインテグレーターとして入社。
その後、当時担当していた日系のクライアントが大手外資企業を買収するという、“小が大を食う現実”を目の当たりにし、積極的なグローバル化を企てる市場を意識しはじめ、周囲の反対を押し切り退職・留学を決断する。
オーストラリアの大学院へ留学し、海外でも通用する人材となるため経営学を専攻。卒業後はまさにリーマンショック直後で日本市場の壊滅状態の中、そこでまさにリーマンブラザーズを買収した大手証券会社のファイナンス部としてアサインされる。
その後は大手フリマアプリにて信用を担保にした後払い事業の立ち上げに参画後、現在人材×Techサービスを手掛けるPT. Reeracoen IndonesiaにてCFOとして、最前線でインドネシアの社会課題に向き合っている。
目次
意を決してインドネシアへ移住。CFOとして会社経営のサポートに従事。
インドネシアでCFOとして新しいキャリアをスタートさせたきっかけとは?
前職でインドネシアのモバイルペイメント事情を知った時に、偶然インドネシアのバックオフィスを統括する現職を紹介いただき、これも何かの縁だと感じ就労することを決めました。
当時、インドネシアについては殆ど知識がありませんでしたがその分変なバイアスがなかったため、今この国と純粋に向き合って仕事ができているのではないかと思います。まぁ家も売却してしまい、家族には相当迷惑をかけているかもしれませんが、、。(笑)
普段はバックオフィスとしてどのように経営をサポートされてますか。
下記の領域を統括し、バックオフィス全体から事業部側の支援まで行っているので、一般的なCFOよりも広い範囲を担当しています。
- 財務、会計といったファイナンス領域
- 日本人赴任者のVISA・KITAS、給与・BPJSといった現地労働法に沿った労務領域
- 人事評価制度の運用、バリュー浸透といった人事領域
- オフィス、リーガルドキュメント、株主総会といった総務・法務領域
- 社内ITインフラ、ポータルサイトの運営といったIT領域
- 各種監査、内部統制対応
- 人材紹介、給与前払い事業の販売管理、与信管理、事業企画支援
オフィスビル内でコロナ感染者。翌日から在宅勤務導入など迅速に事態に対応。
2-3月にかけてコロナが発生し、各企業は急な対応を迫られましたが、バックオフィス業務にやはり影響がありましたか?
影響は多少ありましたが、バックオフィス業務の在宅勤務移行は特段ハードルの高いものではありませんでした。というのもインドネシア着任後から財務・経理周りや事業部側との業務フローをすりあわせ、チーム全員で誰がどのタイミングで何をするという責任範囲の可視化ができていたためだと思います。
バックオフィスのプロセスはシンプルにみられがちですが、業務フローが可視化・プロセス化されていないと「誰が」「いつ」「どのプロセス」を担当しているかがわからないため、このような事態が起きた際に、すぐに対応ができない場合もあるため、業務プロセスの可視化は非常に大切だと感じています。
なぜ迅速な対応が可能だったのでしょうか。
そうですね、インドネシアで初めてのコロナ感染者が確認されたのが3月ですが、それ以前から現地のダイレクターと周辺他国の動きを警戒し、インドネシアで起こり得ることを予想するようにしていました。
というのもインドネシアは2.7億という人口がいながら感染者0はありえないですよね。(笑)そのため多少なりとも危険性が確認された時点で、「制限がかかることを想定したアクションプラン」を考えておきました。
事前にこうしたすり合わせができていたため、ガイドラインを作成・全体定例で説明し、全社でリモートワークに移行、とスムーズに対応を進めることができたと思います。
”許容範囲内のリスクは何か?”事業を最大化する攻めと守りのバックオフィス
コロナ感染が拡大したことにより、会社全体にどのような影響を与えましたか。
想定内ではあったもののPSBB(大規模な活動制限)の発令以降、多くの企業が採用活動を自粛し始めたため求人が急減し、業績に影響がでるようになりました。
今回の状況に対して、会社としてどのような施策に取り組まれましたか。
今後の業績・会社の資金繰り、そして社員の生活と安全を考慮した上で、弊社では主に下記のような施策を実行しました。また正直、直面したことがない状況でしたので意思決定はダイレクターと共に慎重に行いました。
- オフィス賃貸の契約見直しによる賃料削減
- 広告・宣伝費の抑制
- 税制優遇施策の活用
- 日本人赴任者の帰国(約半分の人数の帰任)
- 社内の組織の組み換え(non profitメンバーをprofit部門へ配置換え)
- 他国、他社の状況を交え現在の会社の状況を適時社員へ伝える
このように潜在するリスクを考慮し「受け身ではなくこの難局をどう乗り切るか」という攻めの姿勢で、市場の状況とリンクさせつつ組織変更や費用抑制などの施策を実行しました。
その際自分のチーム・マネジメントすべきメンバーに関しては、インドネシアの動向・世界のマーケット、そしてインドネシア国内の他社と当社の比較状況を伝えるように心がけていました。
実際いま誰もが知る大企業ですら厳しい状況になっていますし、メンバーには「まだできることをやろう」という意味もこめて「他社と比べたら当社まだましじゃない?」と前向きに考えられるような言葉をかけるようにしていましたね。
社員と会社を守るための”判断材料”
社内で施策を進めていく際に難しかったこと・苦労したことはありますか?
やはり会社の資金と社員の安全とのバランスを保つことですね。上記のような施策をすることで費用抑制を行い売上が伸びるような組織へと組み換えをしたものの、社員の安全のためリモートワークへ切り替えるなどの対応も必要でした。
このように経験したことのない状況の中で、全社的なリモートワークへの移行が必要となり、売り上げがどれほど減少するかが読めない中で進めていたため、事業部の売り上げが50%減・ 70%減の場合に取るべき対策など、様々なパターンをシミュレーションし「減った売上に対する費用のバランスをどうするか」をとにかく毎週アップデートするようにしていました。またお客様からの入金が滞る可能性もあることを考慮し、社内のオペレーションを変更した部分もあります。
そして固定費に関してもできる限り小さいカテゴリーに分解し、どのような費用を抑えることができるかということを確認しながら、経営の意思決定ができる判断材料を準備をしていました。
対応方法を模索している中で、参考にしたこと・利用したことはありますか?
弊社の人材紹介事業部で全クライアントを対象に行ったアンケートの回答を参考にさせていただきました。
あとはリーマンショックが起きた2009年と違い、今はSNSが普及していることもありSNSを利用し他国の状況や政府の動向等を随時確認していました。
リーマンショック当時はFacebookの認知がようやくではじめた時期だったこともあり、他国の情報を知るためにSNSを見てもリアルな情報が手に入らないこともありましたが、今はソーシャルメディアがあります。だからこそ他国や他社の状況をいち早く確認し、社員に状況を伝えることができたと思います。
また政府や交通機関が施行する規制にも変更点が多かったので、アップデートはSNSで随時更新され社員がシェアしそこから国・地域の対応を知るということもありました。そのため社内でもSNSをうまく利用し社内で定期的に更新される全社ガイドラインの変更を、タイムリーにアップデートする緊急連絡網として活用していました。
Withコロナの時代、取るべき施策とは。
今後バックオフィスとして取り組むべき重要な施策を挙げるとすれば、どういったものがありますか。
今後1年はおそらくマスクの着用、検温、除菌など健康管理に気を配りつつ、どのようにコロナと付き合っていくかを考えなければならない「Withコロナの環境下」で、下記3点を進めていく必要があると感じています。
- オフィスワークとリモートワークの併用と社員の健康管理
- 業務プロセスや評価制度の見直しによる社員の生産性の向上
- 情報セキュリティーの確保と強化
まず1つ目の健康管理について詳しく教えてください。
今までのように全従業員に対しオフィスでの就労を強要することは難しいでしょう。そのためオフィスワークとリモートワークを併用しつつ、会社としても従業員の健康管理に配慮していく必要があります。
また社員の感染リスクを減らすためにも、混雑する公共交通機関を利用するローカルスタッフの出勤を制限しつつ、7割が出社・3割が在宅勤務というように出勤と在宅勤務を組み合わせる必要があるかもしれません。
ローカルスタッフの方の通勤中の感染リスクは心配ですし、外出したがらない人も多いですよね。
そうですね、そして今後もしもそういう働き方が定着するようになれば、収容人数の少ないオフィスに移動するなど、オフィスのあり方を見直し、会社の固定費削減もできるようになるかもしれません。
このようにバックオフィスとしても、コロナを経て生まれた新しい文化に対し、働き方やオフィスのあり方をアジャストしていく必要があるでしょう。
2つ目の業務プロセスや評価システムの見直しによる社員の生産性の向上という点に関してはいかがでしょうか。
リモートワークに切り替わったこともあり「生産性」という点について、多くの企業が注目していることだと思います。私は業務プロセスの可視化と評価制度の改善により生産性は向上できると考えます。
特に評価制度ですが、リモートワークとなり従業員の行動が目の前で管理することができなくなったこともあり、従来の評価制度の見直しが必要になった企業も多数あるのではないでしょうか。
仮に営業のように明確な目標があるポジションであれば、このような状況になったとしても結果をベースに判断できると思います。しかし、そうではないバックオフィスのようなポジションの場合、リモートワークによって従業員の行動が把握できず「従業員を評価する材料が曖昧になってしまう可能性」がありますよね。
このように今までオフィスで可視化された部分だけで評価していた状態を、リモートワークでも同じようにやろうとするとやはり難しいでしょう。
行動が見えにくい中、従業員のパフォーマンスを評価する方法とは。
今後は「何の結果をもとに評価しているのか」という点を明確にする必要がありますよね。毎日オフィスにきて働いていた時は、就業時間を守って出社し寝ながら仕事をしないという環境が当たり前だったと思いますが、今は就業時間が始まってから準備をし、寝ながら仕事をしている人もいるかもしれませんし。。。
このように従業員の勤務態度が在宅になったことで変わってしまう背景として、従業員が与えられている目標が「成果のみの目標」になっているからではないかと考えています。
Reeracoen Indonesiaの評価制度では、どのような工夫をされていますか。
弊社では各ポジション(役職)ごとに、「責務(職務)」と「5つのバリュー(Value)に沿った行動指針(人物像)」を設定しています。弊社の評価はその行動指針を含む「成果7割+バリュー評価3割」の評価制度となっています。
- Version Up
- Professionalism
- Value Creation
- Customer First
- Team Work
※バリュー
各企業が大切にしている「社員に求める価値観」、または、各企業が持つ「自社における優秀な人材の定義」のことを指します。
そのため全従業員は一般的な成果目標(KPI)とは別に、半期に1度、会社の求める人物像(行動指針)に沿った行動目標を定性的かつ定量的に設定し、その目標をもとに評価される仕組みとなっています。
このようにバリューをもとにした行動目標を持たせることで、ただ「成果をだすだけ」ではなく、「成果もだす+役職に沿った行動もできる」といった人材を育成する、という狙いがあります。
そして目標設定を通して社員にバリューを意識づけることで、働く場所が変わっても行動にギャップが生まれず、生産性が下がることなく結果をだし、自社で設定している行動指針を体現できるようになります。
また毎月各メンバーは設定した目標をもとに「成果・行動を振り返る場」とし、上司と1on1を行い、一緒に目標に対する行動を壁うちする時間があります。
このように行動目標は「お互いの評価基準・判断基準を明確にするための手段」にもなりうると思います。
行動に関する「定量的な目標」とはどういったものでしょうか。
たとえば経理であれば「1か月Rp100jutaかかる費用をRp10juta削減するためにAという行動を毎日とる。」「Aという業務プロセスを8月までにBとするために毎朝Cをする。」といったようなものです。
営業であれば「案件獲得に向けて、毎週1回社外へ情報発信を行う」というような目標もあると思います。
このように「いつ(までに)・なにをする」と目標を立てていれば、見えにくい行動に関する話であっても成果をベースに話をすることができるようになりますよね。
実際わたしはこの期間内で、自分の管理下にあるバックオフィスのメンバーに対し、リモートワーク中の就業態度を不安に感じることはなかったです。
小林さんと共にバックオフィスを支えるメンバー
たしかにすべてが結果ベースになると、従業員がやるべき行動がより明確になり、わかりやすい部分もありますね。
そうですね。また結果をベースにした管理の仕方に切り替えることができると、その結果をもとに社員の組織編制等もスムーズに行うことができるようになると思います。この点は日系企業の強みではないでしょうか。
仮に外資企業であれば、就いたポジションにて専門職のようにスキルを伸ばしていくのに対し、日系企業では未経験者でもその人の適正にあわせいろいろなポジションを挑戦することが可能です。結果をもとに向き・不向きを考え調整して、その人にあう環境を用意することができるはずです。
たしかに日系企業は、会社内での異動の話しがよくありますよね。さて3つ目の情報セキュリティーの確保と強化という点に関してはいかがでしょうか?
要は、リモートワークになると各スタッフがPCを持ち帰り、自宅で業務を行いますよね。そのため、パソコンの取扱い・情報の取扱いについては事前にガイドラインを準備するなど注意を払っていました。
しかしITリテラシーは個人によってばらつきがあるため、会社として全員の認識をあわせる必要があると感じています。またそうした社内教育をするのと同時に、サイバー攻撃などの新たな脅威に対する最新のセキュリティー対策の検討と導入が求められると思います。
リモートワークが定常化してきた今、従来会社でしかできなかった業務の「クラウド化」が加速すると思います。まずは業務を可視化し、従来以上のセキュリティを確保した「効率的なシステムの導入」が重要になってくるのではないでしょうか。
新しい未来にアジャスト。未知の経験は、”成長”へ繋がる
最後に、小林さんが考えるWithコロナのインドネシアは、今後どうなると思いますか?
今回の活動制限を通し、一人一人が仕事に行くことや買い物に行くこと・食事に行くことが、生命を脅かす可能性があることを経験しました。その実体験の中で、テクノロジーを活用した働き方・オンラインを活用した買い物や食事の仕方、そして現金を使わないお金の払い方を学び、新しい生活様式が生まれたと思います。
オンライン診療といった医療分野におけるテクノロジーの活用は、日本でも注目されていますし、今後多くの分野でテクノロジー化が進むと考えています。
そしてインドネシアは世界第4位の人口(2.7億)の国で「成人のスマートフォンの利用率も高い」と言われていることもあり、他国と比較してもテクノロジー化はさらに大きく加速していくと思います。
たしかにテクノロジー化は進んでいきそうですね。そして、社会が変わっていくと、会社・組織としても変化が求められそうですね。
そうですね。企業はより一層「マーケットの動向を先読みし、新たな環境にアジャストしていくことを恐れないこと」が重要になってくると思います。また今回のリモート期間の中で、健康と生産性を意識した働き方を体験したため、リモートワークを希望する人など新たな考え方を持つ社員が出てくるかもしれません。
そのため会社としても新たな文化・ニューノーマルにあわせた社内の規定規則の見直し、就業場所を問わないデジタル・トランスフォーメーションを活用した業務プロセスの構築、また今回のようなパンデミック発生時に備えた事業継続計画の準備や企業間の契約内容の見直しなどが求められると思います。また従業員の安全管理を踏まえた、効率的かつ生産性の高い組織を作ることも必要でしょう。
もしも従来のオフィスワークで100%出せていた成果をリモートワークとの併用で同じ成果が出せれば、リモートワークになった分、通勤時の感染リスクの減少・無駄なオフィススペースの賃料削減、などができるはずです。
そのためにトップはより現場のプロセスを把握し、効果的な戦略を考えることが求められるのではないでしょうか。