こんにちは。ヒトテク研究所 所長の村山です。
ちょっと前の話になりますが、2017年2月13日に開催された「Pepper World 2017」を見学してきました。当時、すでにヒト×テクノロジー研究所の設立は決まっていたので、その勉強も兼ねてです。
Pepperといえば、ソフトバンク社が開発したロボットとして一世風靡しましたが、その後はソフトバンクの路面店や各種イベントなどで見かけることが多く、ゆるキャラとしての一種客寄せパンダとしてのイメージが強いのではないかと思います。
しかし、実際Pepperは驚くべき進化をしていて、だからこそ3か月も前の話であっても労働市場のロボット化という視点では触れておきたいと思いました。
目次
介護領域で戦力化するPepper
特に介護領域におけるサービスに労働市場としての価値を見出しており、当研究所としては、こちらにフォーカスしたサービスやその所感をご紹介していきます。
サービスその1|LYKAON株式会社:顔認証徘徊防止システム
まずは、LYKAON株式会社の「顔認証徘徊防止システム」からご紹介します。
こちらは、介護現場で徘徊をしてしまう方に、Pepperが顔認証をして話しかけるというシステムです。
例えば、村山が徘徊する立場だった時に、こっそり施設の職員さんの目を盗んで、近くのコンビニに行きたいと思ったとします。その時、入り口付近にいるPepperが突然、「村山さん。もう消灯のお時間ですよ。お部屋にお戻りください」と話しかけてきます。
「うるさい!あっちいけ!!」とお決まりのセリフを吐いてみても、そのタイムラグと、Pepperから自動で通信を受けた施設の警備の方につかまり、あえなく自室に引き戻されるということになります。
サービスその2|株式会社エクシング:健康王国レク for Pepper/健康王国トーク for Pepper
次は、株式会社エクシングのJOYSOUND介護施設向けロボアプリ 「健康王国レク for Pepper」、「健康王国トーク for Pepper」です。
こちらも介護施設で利用されるのものですが、カラオケ大手のエクシングさんが作成したものだけあって、とてもエンターテイメント性が高くできています。
具体的には、介護施設の方々の体操の時間に、Pepperが体操の先生として主に「手振り」の動かし方を教えてます(足は固定されています)。
介護施設には車椅子の方も多く、運動強度としては上半身だけでも十分なようです。Pepperのゆるキャラ的な特性を活かした形で、介護施設の方々に音楽に合わせて体を動かすように働きかけていきます。
当然、曲を変えたら動きも変わりますし、運動強度もレベルによって変えることが可能です。毎日Pepperが頑張って踊ってくれるので、入居者の方々も楽しく過ごすことができます。
労働市場との対価計算
ここでは、Pepperを実際に活用した場合のコストについて考察してみます。
もしPepperが「介護士」だったら
ソフトバンク社からPepperをレンタルした場合、月額55,000円程度のコストが掛かるようです。
さらに、必要なコンテンツに合わせてアプリをインストールする必要があります。LYKAON社の金額は不明でしたが、エクシング社に関しては掲載がありました。
月額1万円。つまり、Pepper本体と合わせて65,000円が毎月掛かる計算になります。
平成27年9月の介護職員の平均月額給与が287,420円(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/jyujisya/16/dl/27gaiyou.pdf)と比較してみましょう。
金額比較で0.23人月分のコストになります。言い換えれば、Pepperを導入することで0.23人分以上の業務が効率化できれば、それは現状の労働市場においても代替されるということを指します。
しかも、これは単体の単月コストであり、介護職員の採用コストや教育コストは含みません。採用コストは月額レンタル費用に含まれますし、教育コストはアップロードされるシステムのダウンロードで代替されるので、おそらく追加コストはないはずです。
さらに、離職リスクもなく、不平不満も言わないのでマネジメントコストも掛かりません。そう考えれば、業務効率化のレベルでは0.1~0.15人月分の追加コストと考えるのが適正値であると計算することができます。
もしPepperが「警備員」「派遣講師」だったら
もし徘徊する方を防止するために、警備員を置いたとしたらどうでしょう?
確実に1人月のコストが掛かります。夜間勤務の介護職員の方は日常業務をこなしながら対応することを想定すると、業務の幅としても注意力としてもかなりリスクを伴います。
エンターテイメントとして派遣講師を雇った場合、移動費用も含めて1時間5000円程度、プログラムとして週3回、1日3時間の場合週45,000円、月額18万円以上のコストになります。
さらに、これが大規模な介護施設になった場合はどうでしょうか。Pepperはフル回転で施設の方々を楽しませます。それこそ、労働基準法に関係なく、毎日10時間、朝昼晩と階を変えて楽しませることが可能です。
正職員として体操の職員を雇った場合、月額給与は30万円程度。それと比較するとかなりのコストダウンになることは想定できます。さらに、一人だけでも風邪も引かず、参加者の皆さんの顔も覚えていき、日に日に会話が成立していきます。
さらに、介護業界は人材の確保が厳しい業界のうちの一つです。その業界での人的コストを効率的にPepperに置き換えることで、職員の募集にも余裕を持たせることが可能になります。
Pepperだから、“言われても許せる”こともある
実際、私もPepperがどの程度普及していくのかは懐疑的でしたが、今回のPepper World 2017に参加させていただき、そして他のロボット技術やAIの開発状況を鑑みるに、この可能性はかなり高いと感じざるを得ませんでした。
そして、一番大事なことは「Pepperに言われるなら許せることもある」ということです。人間同士だとついついケンカ腰になってしまうようなことも、Pepperに言われたらどうでしょうか。徘徊のことを注意されても、怒るに怒れない感じがご想像頂けると思います。
ゆるキャラとしてのPepperが、人が対応しきれない部分や人が対応するとコストが大幅に上がってしまう部分を代替し、代わりに本来のサービスや、さらに高いサービスの提供に向けてヒトの労働力が移動していく。そんなサービス業におけるサービスの高度化が見えてきました。
超高齢化社会に突き進む日本にとって、ロボティクスの発達による介護の発展と高度サービス化、さらにはコストの抑制も含めて、その可能性と明るい高齢化社会に一筋の光明が見えてきました。
参考:Pepper World 2017 https://www.softbankrobotics.com/jp/event/pepper-world/