
統合型人事システム「ジンジャー」は、人事労務、勤怠管理、給与計算、人事評価、サーベイ、データ分析など、幅広い人事業務を1つの人事データベースで管理できるクラウド型人事労務システムです。
サービス提供開始から10周年を迎えたジンジャーは、データを活用して「ひと」の可能性を引き出し、これからの人事のあり方を考える場としてカンファレンスを開催しました。
本記事では、イベントレポート後編として、人的資本経営と人事データのこれからをテーマにした基調講演の内容をレポートします。
【イベント概要】
イベント名:HR REVEAL2026 データが拓くひとの未来
開催日時:2026.5.20 WED 13:30 – 18:30
開催場所:虎ノ門ヒルズフォーラム(受付開始13:00)
イベントページ:※このイベントは終了しました。
https://hcm-jinjer.com/hr-reveal-2026/
目次
登壇者紹介
今里 和之 氏
経済産業省 経済産業政策局 産業人材課 課長
東京大学大学院生物化学専攻修了、カーネギーメロン大学公共政策管理学専攻修了。
平成15年4月 経済産業省 入省。平成30年6月 大臣官房会計課、令和元年6月 技術振興・大学連携推進課 課長、令和2年7月 中小企業庁 経営支援部 経営支援課 課長、令和3年7月 新エネルギー・産業技術総合開発機構-欧州事務所長、令和6年7月 経済産業政策局 産業人材課 課長、現在に至る。
岩本 隆 氏
慶應義塾大学講師/山形大学客員教授
東京大学工学部卒業後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校にてPh.D.を取得。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア、ドリームインキュベータを経て、2012年に慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授に着任。 産学連携による「産業プロデュース論」の研究に従事する傍ら、山形大学では事業プロデューサーとして地域のイノベーション・エコシステム形成を統括。現在は慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 講師を務め、産業プロデュースに注力している。
冨永 健
jinjer株式会社 代表取締役社長 CEO
シスコ、AWS、Zendesk日本法人社長を経て、グローバル企業のSaaSビジネスと組織拡大を牽引してきたプロフェッショナル。 現在はjinjer代表取締役社長 CEOとして、日本企業の「組織ポテンシャルの最大化」に取り組む。 従来の管理・オペレーションの枠を超え、データとテクノロジーで「事業を伸ばす人事」への変革を推進。日本発HR Tech企業の成長を通じて、組織と個人の可能性を解き放つ。
佐々木 裕子 氏
株式会社チェンジウェーブグループ代表取締役社長 CEO/人的資本経営推進協会代表理事
日本銀行、マッキンゼーを経て株式会社チェンジウェーブを創業。事業、カルチャー変革・経営人材育成・ダイバーシティ推進で500社以上の実績を持ち、無意識バイアスe-learning「ANGLE」を設計・監修。2016年にリクシスを創業し、仕事と介護の両立支援を推進。経産省検討会委員を歴任。2024年、両社を統合しチェンジウェーブグループを設立。2022年に一般社団法人人的資本経営推進協会を設立、代表理事を務める。
「産学官」で描く人的資本経営の現在地と未来~経営戦略としての人事データ活用とPDPの必然性~とは
イベントの中盤では、「学」の視点からPeople Data Platform(PDP)を提唱する慶應義塾大学大学院の岩本氏、「官」の視点から日本企業の産業競争力強化と人材政策を推進する経済産業省の今里氏、そして「産」の視点からテクノロジーによる人事課題の解決に取り組むjinjer代表の冨永氏による基調講演がおこなわれました。
人的資本経営が企業の持続的成長を左右する重要なテーマとなるなか、正しい人事データはなぜ国や経営にとって欠かせない資源となるのでしょうか。産官学それぞれの視点から語られた、これからの時代に求められる「経営を動かす人事」のあり方をご紹介します。
「官」の視点:経済産業省 今里氏

佐々木氏:
本日のモデレーターは、佐々木が務めさせていただきます。人的資本経営という言葉が広がってから数年が経ちましたが、皆さまは現在の浸透度合いをどのように感じていらっしゃいますか。まずは、人的資本経営の議論をリードされてきた経済産業省の今里さんからお話を頂戴したいと思います。
今里氏:
伊藤レポートが公表されてから4年ほどが経ち、皆さまの企業でも、人的資本経営について何らかの取り組みを進めているのではないでしょうか。
そもそも人的資本経営が注目されるようになった背景には、日本において長らく人材への投資が低迷してきたことがあります。かつて「人はコスト」と捉えられ、人件費をいかに圧縮するかが経営の仕事だと考えられてきました。
しかし、少子化が進むなかで、人材に投資し、企業価値を高め、経営の競争力につなげていくことの必要性が高まっています。その後、人的資本経営の概念が広がり、現在では多くの企業がこの言葉を知り、人材への投資を進めています。

ただ、人的資本経営コンソーシアムの皆さまとお話ししていると、目指すべき目的と実態がずれていると感じることもあります。人的資本経営は本来、エンゲージメントサーベイを実施することや、女性管理職比率を上げること自体を目的とするものではありません。
人的資本経営を通じて企業価値を高め、競争力の向上につなげていくことが、本来目指すべき姿です。しかし、いつの間にか「取り組むこと」自体が目的化したり、形骸化したりすることが課題といえるでしょう。
人的資本経営の取り組みは、大企業だけでなく、地方の中堅企業にも広がりを見せています。昨年、人的資本経営コンソーシアムでは4つの地域で活動をおこないましたが、地方企業でも採用活動を中心にさまざまな取り組みが見られました。今後は、それらをいかに実効性のある施策にし、企業の競争力につなげていくかが問われるでしょう。
こちらの図は、AIが社会に入ってきたときに、日本全体で必要な人材ポートフォリオがどのように変化するのかを示したデータです。AIの利活用が進むことで、事務職が余剰になったり、実際に手を動かす人材が日本全体で不足したりする可能性があります。
こうした変化は、企業の現場でもすでに感じられているのではないでしょうか。日本全体として、人材ポートフォリオをどう変えていくかが問われています。
そのために政府としても、人事の現場で進められている取り組みに近いことを進めようとしています。まず、これから本当に必要になるスキルを明らかにし、スキルを見える化する。そのうえで、必要なリスキリングの機会を提供し、企業の採用や待遇につなげていく。こうした循環をつくることが求められています。
この流れは以前から言われてきたことですが、実現の鍵となるのがデータとAIです。
海外の例として、シンガポールでは「SkillsFuture」という仕組みが運用されています。国としてスキル開発を支援し、常に最新の情報にアップデートしながら、国民に学びの機会を提供していく取り組みです。
こうした仕組みが現実的になってきた背景には、データ整備やAI技術の進展があります。政府でもスキルの可視化やリスキリングの仕組みづくりが進み、海外でも同様の取り組みが進んでいます。日本企業においても、データとAIを活用しながら、人材のスキルを把握し、育成や配置につなげていく動きはますます広がっていくと考えています。
佐々木氏:
まさに、政府が日本全体の人事部のような役割を果たしていくというお話で、大変学びになりました。続いて産官学の取り組みをリードされている岩本さんにもお話を伺いたいと思います。
「学」の視点:慶應義塾大学大学院 岩本氏

岩本氏:
今、AIの進化やクラウドアプリケーションの普及によって、コーポレート部門のあり方を見直すタイミングが来ています。会計、法務、人事などの領域でもデジタル化が進み、これまでのように管理業務を担うだけでは、経営への貢献が見えにくくなってきました。
これからのコーポレート部門には、単なる管理部門にとどまらず、経営に寄与する役割が求められます。その意味で、コーポレート部門は「コーポレートエグゼクティブ」へと変革していく必要があると考えています。
海外では、こうした考え方は以前からありました。米国では20年以上前から、CEO、CHRO、CFOが密に連携しながら経営を前に進める考え方が広がっています。
CXO同士が連携するうえで、CHROにはCFOと対等に、論理的かつ定量的に議論できる力が求められます。また、Chief Data Officer(CDO)には、経営に必要なデータを統合し、リアルタイムに経営へ提供できる役割が求められます。
最近ではAIエージェントの活用も進んでいるため、データ基盤そのものをどのようにマネジメントするかが、ますます重要になっているのです。
こちらは、People Data Platform(PDP)のイメージです。PDPは、人材に関するデータを一元的に蓄積し、分析や経営判断に活用できる状態に整えるための基盤です。
People Analyticsを進めるには、従業員の属性情報やスキル、評価、配置、エンゲージメントなどのデータをばらばらに扱うのではなく、経営に活用できる形でつなげていく必要があります。
PDPを活用することで、人材獲得の最適化、適切な人材の定着、公正な評価の実現などにつなげられます。データが集まるほど、採用、配置、育成、評価に関する示唆を得やすくなり、人事が経営に貢献できる領域も広がっていくと考えています。
佐々木氏:
CXO間の連携も、これからさらに高度化していく必要がありそうです。また、その前提となるデータの解像度も、今後ますます高まっていくのだと感じました。
今里さんのお話にもあったように、産官の連携も増えていくと思います。一方で、企業の皆さまからすると、「そうはいっても、簡単にデータを集められるわけではない」「政府や周囲がどこまで支援してくれるのか」といった点も気になるのではないでしょうか。冨永さん、この点はいかがでしょうか。
「産」の視点:jinjer株式会社 冨永氏

冨永氏:
おっしゃるとおり、まずはデータをどのように整備していくかが重要です。
これまで経営資源は「ヒト・モノ・カネ」と言われてきました。皆さまの会社でも、「モノ」は可視化されていると思いますし、「カネ」はもっと以前から管理されてきました。一方で、「ヒト」の可視化は遅れています。なぜかというと、人に関する定量的なデータが少なく、数値化しづらかったからです。
しかしAIの時代になると、AIは非構造化データを構造化することを得意とします。会議のなかの雑談も含めて、AIは情報を構造化し、アウトプットすることができます。
AIに任せることで、1on1のコミュニケーションや会議の履歴から、その人の特徴が浮き彫りになっていく。私たちはAIをはじめとするテクノロジーを活用し、人材のデータ化をはじめ、産官学が目指す世界の実現を支援していきたいと考えています。
佐々木氏:
データを集めることに苦労している企業の皆さまにとっては、どのような可能性があると感じますか。
今里氏:
DX、そしてAIを活用したAX(AIトランスフォーメーション) によって、質的な変化が起きると考えています。AIは非構造化データを扱いやすくするため、これまで企業が感じていたハードルを一気に越えられる可能性があります。
また、これまでは企業ごとにデータの定義が異なり、国としてまとめることが難しい面もありました。しかし、そうしたデータ同士を紐づけることは、AIが得意とする領域です。国と企業の関係においても、これまでの壁を越えていける可能性があると感じています。
岩本氏:
慶應義塾大学ビジネス・スクールでは統計やAIの講座もありますが、担当の先生方の話によると、テクノロジーの進化が激しくてAIでできることが年々増えていくため、授業で教える内容を毎年のように変えていかないといけないようです。テクノロジーの進化は、テクノロジーをつくる側にとっては難易度が高い一方で、使う側にとってはどんどん扱いやすくなっています。だからこそ、使う側も進化していかなければならないと感じています。
クロージング
佐々木氏:
今後の変化や進化を捉えていくために、最後に皆さまからメッセージをいただけますでしょうか。
今里氏:
私は現在、産業人材課にいますが、日本が成長していくうえでの要となるのは、やはり「人」だと思っています。人の力を高めていくために必要なのがデータであり、AIです。ただ、その中心になるのは、やはり人事部門だと思います。人事部の皆様にはぜひ、データやAIという武器を積極的に活用していただきたいです。
岩本氏:
「企業は人なり」という言葉は昔からありますが、これは単に雇用を守るという意味ではありません。本質的には、「人のポテンシャル」を生かしていくことが、企業は人なりの本質的な意味だと思います。
一人ひとりの可能性を最大限に引き出すという原点に立ち返り、ぜひ人的資本経営に取り組んでいただきたいです。
冨永氏:
私たちはテクノロジーを活用しながら、皆さまと一緒に、これまでの人事の常識を変えていきたいと考えています。そして、これからの人事部の当たり前を、ともにつくっていきたいです。
まとめ
基調講演では、人的資本経営の現在地と、これからの人事に求められる役割について、産官学それぞれの視点から議論が交わされました。
人的資本経営の目的は、取り組みそのものを増やすことではなく、人材への投資を通じて企業価値を高め、競争力につなげることにあります。
その実現に向けて鍵となるのが、人事データとAIの活用です。人事部門には、管理業務にとどまらず、データとテクノロジーを活用しながら経営に貢献する役割が求められています。一人ひとりの可能性を引き出し、企業の成長につなげていくことが、これからの人事に問われているのではないでしょうか。
