「HR Tech市場の最新トレンドを知りたい!」
このように考える人事担当者の中には、国内だけでなく海外のHR Tech市場の動向に目を向けている方も多いのではないでしょうか。
先日、2019年10月1日~4日にラスベガスで「HR Technology Conference & Expo 2019」が開催され、業界最先端の商品やサービスの展示発表、および最新トレンドに関するカンファレンスがおこなわれたようです。
この場でも、HR Techがより一層人事業務に欠かせない存在になっていることが主張されています。
HR Techにまつわる7つの”嘘”〜HR Tech Conference 2019でデータが示したHRの未来
HR Tech先進国であるアメリカを筆頭に、海外のHR Tech市場のトレンドやサービスを知っておいて損はありません。
そこで本記事では、海外のHR Tech市場の動向や最新トレンドを振り返り、海外で2019年に注目されたHR Tech企業をまとめました。
これらの企業の特徴から見えてくる、今後のHR Tech市場の最新トレンドとはどのようなものなのでしょうか。
2019年 海外の『HR Tech』を振り返る
まず、2019年における海外のHR Tech市場を振り返ります。
世界全体のHR Tech市場は2019年も成長し続けており、市場規模は今後もますます大きくなっていくことが予想されています。
人材管理市場は年平均11%成長!2025年には300億ドルの市場規模に
Grand View Research社の調査によると、人材管理市場の市場規模は2018年に146億8,000万ドルに達しており、2019年から2025年にかけて年平均11%の成長率で成長すると推測されています。
そして、「この成長は、HR Techの浸透が後押しする」とのこと。
簡単な予想値を出すために146億8000万ドルを1.11乗ずつしていくと、2019年には162億9,000万円、2020年には180億ドルを突破します。
そして2025年には市場規模が300億ドル(=約3兆2800億円)に達します。
資金調達額の合計が160億ドル以上!!
また、HR Tech市場を長年に渡って調査し、現在では国際的なアナリストとしても知られているJosh Bersin氏のレポートによると、資金調達額(Funding Amount)はここ数年で急激に増加しています。
(Josh Bersin氏のレポートから、CB Insights社のグラフを抜粋)
2017年と2018年だけで約65億ドルの資金調達がおこなわれており、これまでの資金調達額の合計は160億ドル以上に伸びています。
企業は従業員1人当たり年間約200ドルをHR Techに投資!?
Josh Bersin氏のレポートの中には、以下のような記述もありました。
According to the Sierra-Cedar study of HR technology usage, which is focused primarily on the developed economies in North America and Europe, large companies spend an average of $176 to $310 per employee per year, and this only covers core platforms. If we assume that developed countries spend an average of $200 per employee on core platforms and developing countries spend an average of $150, the total market for only these two segments alone is $158 billion. While this is a very broad estimate, you can get a sense of how big this market is.
和訳:Sierra-Cedar社が実施したHR Techの普及レベルが高いアメリカやヨーロッパなどの先進国を対象にした調査によると、大企業は主要な(HR Techの)プラットフォームだけの利用で1年間に従業員一人当たり平均176ドル~310ドルほど投資している。もし先進国が平均200ドル、発展途上国が平均150ドルの投資だとすると、先進国と発展途上国だけで市場規模は1580億ドルになる。これは概算ではあるが、HR Techの市場がどれだけ大きいかを感じることはできるだろう。
アメリカやヨーロッパなどでは、企業がHR Techを利用して社員一人当たりに年間約200ドル(約2万2,000円)の投資をしています。
海外、特にアメリカでは多くの企業が社員のエンゲージメントを高めるためにHR Techを利用しており、その普及レベルは、先進国であればあるほど高くなっています。
国際労働機関(ILO)は、世界中に労働者が約33億人いると推定していますが、今後すべての労働者がHR Techを利用するときは来るのでしょうか。
HR Tech市場は、今後も確実に拡大していきますが、果たしてどこまで大きくなるかは未知数です。今後も、定期的に海外のHR Tech市場の動向に注目してみると面白いかもしれません。
HR Technology Market 2019 : Disruption Ahead
【6選】海外で注目のHRTech企業 #2019
2019年の海外HR Tech市場の動向を振り返ったところで、今年海外で注目されたHR Tech企業を6社ご紹介します。
今回ご紹介するのは、今年開催された海外のピッチコンテストで表彰、または良い成績を残した企業です。
「採用」「組織開発」「労務」の3つの分野で、それぞれ2社ずつ選定しました。
①「HR Technology Conference & Expo 2019」 PitchFest
:今年で23回目の開催になる世界的なHR Tech Conference内で開催されるピッチコンテスト。
②「HR TechXpo 2019」 Pitch Competition
:2016年からサンフランシスコで開催されているカンファレンス内のピッチコンテスト。
③「HR Festival Asia 2019」 PitchFest
:シンガポールで今年初開催されたアジア最大級のHR Tech Conferenceのピッチコンテスト。
【採用#1】
ThisWay Global
AIによりバイアスの掛からないマッチングを実現し、企業の採用を支援
創業 | 所在地 | 資金調達額 |
2016年 | アメリカ/テキサス州オースティン | 約270万ドル |
多様性のある人材を採用することが求められる中、海外ではAIを活用したサービスが注目を集めています。
「HR Technology Conference & Expo 2019」のPitchFestでギグエコノミー賞を受賞した「AI4JOBS(エーアイフォージョブス)」は、AIを活用して企業と求職者の間に偏見のないマッチングを実現させるサービスです。
AIを活用した候補者のスクリーニングは、「スキルはあるのに見送ってしまっていた人材」へのアプローチを可能にし、より多くの母集団形成に貢献します。
このサービスを提供するThisWay Global社は、創始者であるAngela Hood氏がケンブリッジ大学のIdeaSpaceで3年間の研究とインキュベーションをおこなった後に設立されました。
サービス名:Ai4JOBS
【採用#2】
TalVista
母集団に多様性のある人材をもたらす採用プラットフォーム
創業 | 所在地 | 資金調達額 |
2018年 | アメリカ/カリフォルニア州サンディエゴ | 不明 |
採用プロセスを見直す上で、データの活用は非常に大事です。
TalVista(タルビスタ)は、職務内容の説明・履歴書の見方・面接の仕方などをデータ活用で改善し、企業のより良い採用決定をサポートしています。
人間が無意識的にかけてしまうバイアスにより、採用プロセスから外されてしまった候補者は多く存在します。
このような候補者でも、AIが客観的にデータを分析して評価するため、多様性のある人材を持つ母集団を形成することができます。
2018年には、それまで総額930万ドルの資金調達を達成したTalent Sonarと合併して創業されており、これからの成長が見込まれています。
また、「HR Technology Conference & Expo 2018」のPitchfestではダイバーシティ賞、HR TechXpo 2019ではファイナリストに残っています。
サービス名:TalVista
【組織開発#1】
PILOT
テクノロジーの力で各社員へのコーチングをサポート
創業 | 所在地 | 資金調達額 |
2015年 | アメリカ/ニューヨーク州ニューヨーク | 不明 |
組織のマネジメントにおいて、社員の自発的な行動を促す「コーチング」はとても重要です。
PILOTは、社員へのコーチングをテクノロジーの力で適切にフォローするプラットフォームです。
創業者のBen Brooks氏は、さまざまな企業や人のコーチングをしてきた実績を持っており、本サービスはその経験から生まれました。
「社員に良い経験を積んでもらいたい」と考える方は多いかもしれません。
しかし、さまざまなバックグラウンドを持つ社員の一人ひとりにパーソナライズ化された経験を与えることは難しくなってきている現状があります。
テクノロジーの力で各社員の経験をデザインし、社員自身の力で自発的に成長していける環境を整える事ができる点が評価され、「HR Technology Conference & Expo 2019」のPitchfestで優勝しました。
サービス名:PILOT
【組織開発#2】
MOODBIT
チームの“雰囲気”を見える化し、全ての組織を「ドリームチーム」へ
創業 | 所在地 | 資金調達額 |
2017年 | アメリカ/ニューヨーク州ニューヨーク | 5万ドル |
社員の生活や仕事に対する幸福度が高ければ高いほど、仕事の生産性やパフォーマンスは高まるでしょう。
しかし、彼らの幸福度の定量的な測定は困難です。
Moodbit(ムードビット)は、社員がモチベーションや抱える課題に関する定期的な質問に答えることで、社員のリアルタイムな感情を確認できるツールです。
質問の回答結果を分析し、その結果に応じたアクションプランを立てることで、社員が常に満足度の高い状態で働くことができます。
離職率の軽減やエンゲージメントの向上につながることが評価され、HR TechXpo 2019のファイナリストに残りました。
サービス名:MOODBIT
【労務#1】
LEARNLUX
社員の「お金」に関する不安やストレスを軽減
創業年数 | 所在地 | 資金調達額 |
2015年 | アメリカ/マサチューセッツ州ボストン | 200万ドル |
金融に関する専門的な知識は中学や高校でほとんど学ぶ機会が無いため、多くの社員がよくわからないまま社会に出てしまいます。
しかし、ビジネスの世界においてファイナンスは避けて通れない分野であり、また、各社員が将来の自分の資産管理を考える上でも必要な知識でしょう。
LEARNLUX(ラーンラックス)は、専門的なファイナンスに関する不安を「教育」「デジタルツール」「専門家のアドバイス」という3つの手段でサポートしています。
社員の精神に大きな影響を与えてしまう恐れがある「お金のトラブル」を無くすことで、経済的に安全な組織となるサポートをしています。
HR TechXpo 2019のファイナリストです。
サービス名:LEARNLUX
【労務#2】
Gpayroll
シンガポール発のオンライン給与計算ソフトウェア
創業 | 所在地 | 資金調達額 |
2015年 | シンガポール | 不明 |
給与計算の効率化に長年課題を感じてきた経営者や人事担当者の方は多いのではないでしょうか。
労務における業務を効率化するHR Techプロダクトは年々増加しており、実際に、日本でもクラウド会計ソフトを提供する「freee(フリー)」が先日上場した際は注目が集まりました。
Gpayroll(ガペイロール)はシンガポールで初のオンライン給与計算ソフトウェアを開発した企業です。
低コストで利用することができるため、資金の少ない中小企業でも利用することができます。また、自動給与振込みや法定申告書類の提出などを自動でおこなう機能も搭載されています。
「HR Festival Asia 2019」のHR Tech Pitch-Festで最優秀賞を受賞しました。
サービス名:Gpayroll
2020年はどうなる?今後の海外HR Techトレンド
2019年、海外のピッチコンテストで注目されたHR Tech企業をご紹介しました。
これらの企業の特徴をまとめるとともに、これらの特徴から見えてくる今後のHR Techのトレンドについて分析したいと思います。
採用:『AIの活用×ダイバーシティ経営推進』
採用の分野では、AIを活用しダイバーシティ経営を促進するサービスが注目されているようです。
日本でも採用工数削減のためにAIを活用することが注目されていますが、海外で注目された企業はそれだけでなく、バイアスのかからない採用をサポートする点に特徴がありました。
アメリカは「人種のるつぼ」と言われるほど多種多様な人々が同じ経済圏で生活しており、同時に過去には差別や偏見が多くあったという歴史があります。
そのため、採用においても「いかにバイアスをかけない採用をするか」が重要視されていることが伺えます。
女性や外国人、高齢者や障害者など人材採用の幅が世界的に広がっていることを考えると、日本においても「ダイバーシティ」を意識した採用は今後のトレンドになるかもしれません。
組織開発:『エンゲージメント向上×パーソナライズ化』
組織開発の分野では、社員へのコーチングやモチベーション把握により、各社員のエンゲージメント向上に貢献するサービスが注目されているようです。
各個人や各企業にパーソナライズ化することができるサービスが提供されており、それぞれの状況に応じたパフォーマンスの最大化に貢献しています。
従来までのタレントマネジメントは俗人的な部分も強く、「限られた”できる”社員を伸ばす」という所までしか手が届いていなかったように思います。
しかし、HR Techを活用することで誰もがより良いパフォーマンスを発揮することができれば、組織(企業)としてより高い生産性を生むことができるでしょう。
日本は国際的に見ても社員のエンゲージメントが低いことが課題となっており、HR Techの浸透がこの課題を解決する一手になることが求められています。
労務:『複雑な業務の効率化×データ活用による経営推進』
労務の分野では、各企業および各社員のお金の管理に関するサービスが注目されているようです。
お金に関する知識は法律などとも密接に関わっているため、専門的になってしまうことも多く、とても複雑です。HR Techによりその知識を補うことができれば、給与計算などのオペレーション業務の効率化、および各社員のお金に関するトラブルの縮小が見込めます。
このように、「複雑になりがちな業務をHR Techでいかに簡単におこなうことができるか」という点が今後もトレンドになりそうです。
人事データのクラウド化による情報の一元管理が進み、各国/各企業は人事主導のもと経営推進をおこなうことが求められてきています。
HR Techの活用により複雑な業務に手を煩わせなくなれば、その空いた時間で得られたデータを活用して新たな経営施策を考案するなどのイノベーティブな業務に従事するようになるでしょう。
最後に
海外のHR Tech市場の動向と注目企業の紹介、および今後のHR Techトレンドについてまとめました。
HR Techの普及レベルは国や地域によって異なりますが、世界的に「AIの活用」や「ダイバーシティ経営」「パーソナライズ化によるパフォーマンス最大化」などがクローズアップされていることがわかります。
日本でHR Techが普及し始めたのは2017年頃からですが、海外では2013年にWorkdayが上場したことを契機に、すでに多くの企業で当たり前のようにHR Techが導入されています。
今後、人事担当者として多様なバックグラウンドを持つ社員を的確に採用、およびマネジメントするためには、今までよりも高度な専門性を持ち、テクノロジーを活用することが必要でしょう。
より良い組織を作るためには、もはやHR Techの活用が欠かせません。
また、HR Techが世界的に普及する中で、それぞれの国ごとに独自のサービスができあがっているように思います。
多様な民族が在籍するアメリカでダイバーシティを推進するサービスが多くリリースされているように、現在の日本でも、日本企業の採用方式や組織形態に合わせたサービスが多く提供されています。
HR Techの市場シェアは、現状アメリカが他国を圧倒していますが、今後は先進国だけでない多くの国々でHR Techを利用する機会が広がっていくでしょう。
そして、各国ごとにさまざまなトレンドが生まれていくかもしれません。
海外のHR Tech市場の動向と企業のチェックは今後も続けていきたいと思います。