「良い組織をつくるには、社員への想いを行動で示す」タイ・日・露の人材に会って気づいたこと

タイ・バンコクを中心にHR系のサービスを展開している TalentExのCEOである越さんにインタビュー。

越さんは、近年ではロシア方面における人材サービスも手がけており、タイ・日本・ロシアの3カ国のHR事情に精通しています。

そんな越さんに今回お伺いした主なテーマは以下になります。

  • タイ・日本・ロシアの3カ国における、人材の異なる特徴や共通点とは?
  • 越さんが意識するタイでの組織づくりのポイントとは?

タイで5年以上活動されている越さんならではの、実体験にもとづくリアルな考えやノウハウが多く、非常に参考になる内容が満載でした。

是非、ご一読ください!

【人物紹介】越 陽二郎(Yojiro Koshi) | TalentEx (Thailand) Co. Ltd. CEO

1984年生まれ。2008年東京大学卒業。幼少期を米ニューヨークにて過ごす。2009年、株式会社JMACに経営戦略コンサルタントとして入社。2011年、株式会社ノボットに入社、KDDI子会社medibaへの売却に伴い、同社の海外戦略部創設に参画。自らタイ拠点を立ち上げた後、2013年3月退社。同年11月バンコクにてTalentExを創業。

人材採用に苦戦した経験から、自分でサービスをつくろうと思った

-まずはTalentExのサービスについてお聞かせください。


越さん
TalentExは、タイ人ジャパニーズスピーカーのマッチングに強みを持つ求人メディア「WakuWaku」、IT業界向けの求人メディア「JobTalents」、給与管理クラウドサービス「Happy HR」という3つのサービスを展開しています。


-タイではいつからサービスを開始されたのですか?


越さん
ちょうど5年前からですね。

もともとは前職で広告系の仕事をしていて、その会社が海外展開をする際に海外事業部リーダーとしてタイにきたんです。そこで1年くらいタイ拠点の立ち上げに携わり、その後退職・独立をしてTalentExを設立しました。


-TalentExではHR系のサービスを展開していますが、HR系の仕事をおこなおうと思ったきっかけは何だったのですか?


越さん
前職でタイに来たときに、採用をしたくてもなかなかできずにかなり苦戦しまして、選択肢が非常に少なかったんです。

まずは、いくつかの人材紹介会社さんにお願いをして、立ち上げメンバー2名を採用したのですが、ジャパニーズスピーカーやITエンジニアの採用には本当に苦労しました。

人材紹介と並行してjobsDBなどの求人メディアも利用したのですが、特にジャパニーズスピーカーやITエンジニアに特化しているものはありません。

多くの方から応募があって面接したのですが、結果としてそこからは採用できませんでした。

周りの話を聞いていても、やはりジャパニーズスピーカーとITエンジニアの採用ニーズが高いけれど採用に苦戦しており、困っている印象を持ちました。

それであれば、ピンポイントにそういった人材を探せるメディアがあったらすごく良いなと思ったのがきっかけですね。


-ITエンジニアといえば、最近はロシア人のITエンジニアと企業とのマッチングもされていますよね。


越さん
ロシアに行ったのは本当にたまたまで、2018年の2月に経産省のツアーがあって参加したんです。

もともと、ロシアには日本語を話せる優秀な人材が多くいることを聞いていたのですが、自分で行くほどの興味はそんなになかったんです。

ただ、そのときに私が悩みとして持っていたのが、日本企業からの海外ITエンジニア人材の採用ニーズが高い割に、東南アジアではなかなか見合う人材がおらず、マッチングに苦戦していたんです。

そんな中、たまたまロシアに行った時に多くのITエンジニアがいることを知って、「これはいけるかもしれない」と思ったんです。

日本に興味を持ってくれるロシア人は多く、半年ぐらい調査をした結果、ロシアをはじめ、ウクライナ、アルメニア、ポーランドといった地域も視野に、日本で働きたいITエンジニア、日本企業が求めるITエンジニアの方をマッチングする事業を開始したんです。

タイ・日本・ロジアの人材の異なる特徴とは?

-今、タイ人・日本人・ロシア人と3カ国の採用に関わっていますが、それぞれ国の人材を見たときに何か特徴の違いはあるのでしょうか?


越さん
違いはもちろんあります。それぞれに特徴があっておもしろいですね。

日本人は仕事へのコミットメントが高い

越さんまず、日本人の特徴をあげると、コミットメントの高さですね。家庭やプライベートを犠牲にしてでも、ときには体を壊してでも仕事をやり抜くという姿勢は、やはり日本人特有ですね。

これはもう美学の問題だと思います。ここまでロイヤリティ高く、コミットメント高く、給料低く、責任感持ってマルチタスクで何でもやってくれる人材は、おそらく日本以外はほとんどいないと思います。あくまでも私の個人の感想ですが。

日本企業が海外で採用に苦労しているのは、そういった日本人の特性が普通だと思っていて、世界的に見たら全然普通じゃなくて、そのギャップがあるんだと思います。

タイ人が重視するものは家族やプライベート

越さん一方でタイ人は、仕事の価値観においては日本人と全くの正反対だと思います。

日本でも最近は働き方改革などが叫ばれていますが、どうしても仕事を第一に考えてしまう部分はあると思います。

ただ、タイ人は圧倒的に家族やプライベートを重視します。「仕事はあくまで二の次」みたいなところがあり、自分の幸せに対して素直です。

家族を犠牲にすることはしないし、自分の体を無理してでも会社の無理難題を聞くことはありません。

入社時に言われたタスクとは異なる業務、プレッシャー・ストレスがかかる業務が一時的にでも来るとすぐに辞めてしまいます。

タイの国民性として「サバーイ・サバーイ(心地良い)」文化があるので、仕事は我慢してでも続けるものではないのです。

これはあくまで一般論で、もちろん責任感の強い方も多くいらっしゃいますが、それを普通と思って採用活動をするとまず出会えません。

ロイヤリティが高いロシア人

越さんロシア人は、タイ人と比較した際に、ストレスのかかる仕事でもわりと前向きにやってくれると思います。

個人的見解ですが、タイは温暖な気候で一年中気温の変化もないし、果物はあるし、生きようと思えばなんとかなると思います。

ロシアの場合は、「寒い中、何もしないと死んでしまう」というマインドが刻み込まれてると思っていて、常に改善・勉強・向上が当たり前で、責任感もすごくあるんです。

たとえば当社のロシア人スタッフは、就業時間が終わっていても働いていて、「自分の責任でまだ終わってないので、終わらせてから帰ります」と、連絡がきます。

会社に対するロイヤリティもすごく高くて、「越さんがカザンに日本語の仕事持ってきてくれたからすごく嬉しくて、いくらでも頑張ります」「TalentExという会社をロシアで大きくするために頑張りたいし、それができたら誇らしいです」と言ってくれるんです。

そういう意味で、すごく真面目で責任感、向上心がありますね。

ただ一方で、日本人ほど計画性はないと思います。計画経済だった国なので計画性あるのかな、と思っていたら、結構行き当たりばったりですね。臨機応変というべきか(笑)。

すごく驚いたことがあって、カザンでロシアンベンチャーフォーラムという大規模なITのカンファレンスで、地域の大統領も来るイベントがあったのですが、「是非この時にロシアに来てくれ」と言われたので、そのイベントに合わせて行ったんですね。

「イベントの最後の日に挨拶程度に顔を出そう」という感じで行ったのですが、ロシアに着くなり、「越さん、パネル用意しといたから」と言われたんです。

越さん「え?」と思って、イベントのパンフレットを見たら私の名前と顔が入っていて、10人ぐらいのパネルディスカッションに参加することになってたんです。しかもお題が「ロシア財閥とスタートアップの協業について」。

ロシアの財閥について何ひとつ知らないですし、時間は90分もあって全部ロシア語です。「大丈夫、50人ぐらいのロシア人が見に来るけど、越さんのために英語通訳を用意してるから」って。

通訳を聴きながらなんとか文脈を読み取って、「あっ、こっちに振られた」と思って、それで私が英語で話して、ロシア語で通訳されて、みんなそれを「うんうん」って聞いてくれてなんとか乗り切ったんですけど・・・(汗)。

さすがにタイで登壇したときでも、1、2ヶ月前から連絡がきてやりとりをするのに、あれにはさすがにびっくりしました(笑)。

3カ国に共通するのは「思いやりの気持ち」

越さん3カ国でさまざまな違いはありますが、共通している部分もあります。それは「思いやりの気持ち」です。気遣い・優しさにあふれていると感じます。

相手を信頼してくれて、人と人との絆をすごく大切にしている印象があって、困っている人がいたら声をかける、咳をしている人がいたら水を持ってきてあげるといった行動を良く見ます。

また、たまたま日本で介護施設の経営をしている女性と話す機会があって、「タイ人の雇用に興味がある」と言っていて、その理由を聞いたんです。

過去に、彼女と彼女の母親がタイに来た時にスパに行ったことがあって、そこで母親がちょっとのぼせてしまったと。ただ、自分はもうちょっと入っていたかったから、先に母親だけ外に出して座らせていたんです。

それで、数分後に彼女が外にでたら、タイ人の掃除のおばちゃんが隣に座って母親をずっとさすりながらついていてくれたらしいんです。

年配の女性が少し苦しそうだと感じたら介抱してあげる。そういう気遣いや優しさに感動した経験があって、タイ人の方を雇ってみたいと思ったとのことでした。


-思いやりってところでいうと、タイで電車乗っていても、ご年配や子供連れの方に席を譲る光景をたくさん見かけます。


越さん
多いですよね。私も3人の子どもがいますが、子供を抱えて電車に乗ると席を譲ってくれる率100%ですからね。誰も声をかけてくれないってことがない。


-日本じゃ考えられない。


越さん
逆に日本で東京に一時帰国した時に、電車でちょっと人が立ってるぐらいの混雑のときにベビーカーを押して入ったら「チッ」て舌打ちされましたからね。東京が怖くなりましたね(笑)。

タイ人と日本人は、仕事のスタンスは違えど、本当に似ている部分が多い人たちだと思います。

また同時に、ロシア人も気遣い・優しさ・恩返しの気持ちはすごく強いです。

たとえば、ロシアの大学で日本語を教えている女性の先生がいて、10月からパートタイマーでうちの会社の仕事も手伝ってもらっているのですが、大学だと「授業1回につき、いくら」という形でその月の給与が決まるらしいのです。

そこから、10月は最初にうちの会社の研修を受けてもらって、最終的に月末に3回だけ仕事として授業をやってもらったんです。

それで、彼女自身は月3回分の授業料しか給料が発生していないと思っていたのですが、私としては研修を受けてもらうところからすでに社員だと思っているので、1ヶ月分の契約した給与をそのままお支払いしました。

そしたら「これは何か間違っていませんか?私3回しか授業していないです」と連絡がきて、「研修も含めて当然あなたがもらうべき報酬ですよ」と返したら、「でもそれは会社にとって出しすぎだと思います」と言ってきたんです。

今までそういうことを言ってくる従業員はいなかったので、大きな驚きでした。

越さんそれで、「私はその給与を受け取ってほしいですし、もらい過ぎてると感じているなら、今後の働きで返してくれれば良いですよ」と言ったんです。

そしたら彼女から「越さん本当に嬉しいです。ありがとうございます。私はTalentExで働けてすごく幸せです。がんばります」と。

そういうことを言われると、こちらとしても胸が熱くなりますよね。

組織づくりのポイントは、タイ人を大切に想う気持ちを行動であらわすこと

-TalentExを立ち上げて5年立ちますが、組織づくりで意識していることはありますか?


越さん
TalentExの社員は、2年以上在籍しているメンバーがいなくて、過去には人材が定着せずに離職をしてしまうということがたくさんありました。

その当時は、「ちょっと話があるんですけど」と社員に呼び出される度に、「辞めたいです」と言われるんじゃないかと、いつもドキドキしていました。

今はどうかというと、そのドキドキはなくなって、この半年ではほとんどのメンバーが辞めずに働いてくれています。その要因のひとつとして、「メンバーが安心して働けるルール」をつくったんです。

何をしたかと言うと、A4用紙2枚くらいに、就業ルールを書いて明文化しました。

【就業ルールの例】

  • 遅刻を何回したらペナルティが発生します
  • 逆に皆勤賞はこのくらいの報奨があります
  • 会社と家の距離によっていくらの手当が出ます
  • 年に2回昇給があります
  • 年に2回ボ-ナスが出ます

このようなことをみんながわかるようにして、そしたらすごく喜んでくれたんです。

なんでこれをやったかというと、今TalentExで一番在籍期間が長いのは、管理をやってくれている女性のメンバーなのですが、うちがガタガタだった頃に、「実は今月辞めるつもりでした」と言われたことがあったんです。

越さん理由を聞いたら、「みんな辞めちゃうし、ここにいても自分の将来は見えない」と。

「でも辞めるつもりだったって、辞めないことにしたのはどうして?」と聞くと、「同僚に子どもが生まれて、今私が辞めるとその人もその人の家族もすごく困るだろうから、今はまだ辞めないことにした」とのことでした。

それで「どうしたらみんなが会社を辞めないでくれるかな」と彼女に聞いていったんです。

そこから、しっかりとした人事制度をつくって、自分たちがどうキャリアアップしていくのか、会社がどう成長していくのかをしっかり見せないといけないと痛感したんです。

今までは「カチッとしたルールをつくるよりは、メンバーを縛らずにフラットな感じでやりたい」と思っていたのですが、そうではなく、組織の変化に合わせて柔軟に変えられるように、幹となる部分はつくりこんで、変えられる部分は変えていこうと思いました。

一番良くないのは何もないことです。今の会社の現状がどうなっていて、どう変えたらいいのかが分からない状態です。それで、就業ルールを明文化したところ、組織の雰囲気が良くなっていったんです。

毎月メンバーごとにメンタリングもおこなっているのですが、以前「辞めようと思っていた」と言っていた女性メンバーに「最近どう?」って聞いたら、「最近みんな良い感じで働いているし、私も楽しい」と。

「越さんが私の言ったことをちゃんと受け止めて会社を良くしてくれていることを感じてるから、今は一緒に会社を大きくしたいと思ってる」って言ってくれたんです。

一緒に働くメンバーを大切にしようと想う気持ちがあって、それをしっかりと行動で示して、「一緒の仲間だよ」ということを伝えることで、タイ人、日本人関係なく一緒に頑張ってくれるんだと思いました。

越さんありがちなのは、そもそもタイ人を大切に思ってないことです。日本人ほど働かないから、というだけで低い評価をしてはいけません。

タイに来て商売をさせてもらっているので、彼らを理解して歩みよることは当たり前のことです。それをせずに「自分と合わないから」といって、冷たい対応をすると、残念ながら見事にどんどん人が辞めていくでしょうね。

彼らを大切に想い、それが伝わるようにアクションを起こすこと。この2つがあればタイで良い組織をつくっていけると思います。

HRで重要なのは、当たり前のことを当たり前にできるようになること

-タイでHRをうまくやるために必要なことはなんでしょうか?


越さん
今までHRに携わってこなかった方が、いきなり採用や組織づくりを任される機会は多いと思うのですが、感覚ではなく、しっかりとHRについて勉強した上でやったほうが良いと感じています。

採用業務に対しては素人だったとしても、言い訳をせずに素人なりにどうやって面談をするのか、何を用意しないといけないのか、しっかりと調べて覚えるべきです。

育成・評価も同様です。基礎知識がない中で実施するのは意味がなく、まずはしっかりと勉強してから取り組むべきだと思います。

「よくわからないけど、取りあえずこの人を採用しよう」「採用しても1週間、オンボーディングも交流も何もしていない」とか、ありえないわけです。

所得税、社会保険など、覚えるのが面倒なこともありますよ。兼任で事業や売上数字を追っている方もいることでしょう。

ただ、HRの業務でうまくいっていないケースは、当たり前のことを当たり前にできていない、ということがほとんどだと思います。

「組織は人なり」と言われるくらいなので、ここを疎かにすると会社の成長は止まってしまいます。


-当たり前の事をちゃんと当たり前にやるのは大事なことですね。


越さん一方で、HRの経験がある方を採用して任せる場合もありますが、それも良し悪しがあると思っています。

人によっては、「自分は今までこういうやり方でやってきたから」と、今までのやり方に固執してしまい、新しいやり方を試したり、周囲の声に耳を傾けにくくなるんです。

雇用の部分で重要なのは事業部との連携です。それなのに、事業部の状況やニーズも十分に聞かずに、募集だけかけて、応募がきたらとりあえずパスする。これだと優秀な人材なんて採用できっこないんです。

特に採用、育成、評価。このあたりは経営者もHRのことをちゃんと勉強して、ある程度の知識や持論を備えるべきだと思います。

そのうえで、自社に合うHR担当を採用する、もしくはいなければ、育てるところから一緒にやることがベストだと思います。

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