専門的なスキルや知識を必要とする仕事に就くことができる外国人材を、「高度(外国)人材」と呼びます。
今回は、「高度(外国)人材」の採用をしている企業に、外国人採用の方法や、採用後の課題と乗り越え方についてお伺いする企画「外国人財採用虎の巻」第4弾をお届けします。
第4弾では、世界15カ国26都市に拠点を持つデジタルコンサルティング事業・プロダクト事業を展開する株式会社モンスター・ラボ(以下:モンスター・ラボ)の人事担当である永田さんと、広報担当の山本さんを取材しました。
モンスター・ラボの強みである「垣根のない」カルチャーがどのように生み出され、外国人社員の受け入れや発言しやすい環境づくりのために現場でどのような取り組みをされてきたのかについて取材しました。
海外のエンジニア採用を検討している企業様や、外国人採用をされている企業様に、ご参考にしていただけますと幸いです。
目次
世の中の才能が活かされる仕組みをITの力で実現する
山本 翼 | 株式会社モンスター・ラボ コーポレートコミュニケーション/広報
慶應法学部卒業後、同大学院にてデザイン思考や民族誌学的調査を活用したプロダクトづくりを学ぶ。稲見昌彦研究室にて旅の記録体験を拡張する浮遊カメラとビューワーの企画開発をおこない、EC、ACEなど国内外の学会やVR学会論文誌に採択。ビッグデータを活用したプロダクト制作を夢見てカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)入社後、IMJ経営戦略本部出向を経てCCCデザインカンパニーにて函館 蔦屋書店、湘南T-SITE、中目黒 蔦屋書店の立ち上げに従事。1年間のイタリア留学の後、モンスター・ラボのブランディング広報として入社。日本PR協会認定PRプランナー。
―モンスター・ラボ設立のきっかけを教えてください。
山本さん:きっかけは代表の鮄川(いながわ)が、音楽活動をしている弟さんやその周りの人たちがつくるインディーズの音楽を、マス(メディア)以外で届ける場をつくることはできないかと考えたことでした。
それは音楽にとどまらず、世の中にいる才能やスキルがありながらも活かす機会がない人や、より活かせる場に出会えていない人に、IT(インターネット)の力で活躍できる場を提供するというアイディアに結びつきました。
こうして誕生したのが、創業事業である音楽業界のサービス「monstar.fm(モンスター・エフエム)」です。
その後「多様性を活かす仕組みをつくる」「テクノロジーで世界を変える」という理念のもと、2009年頃から海外拠点を設立しはじめました。
2014年からは、世界中のクライアントから寄せられる課題をグローバルチームによるデジタルプロダクト開発などを通して解決する事業が本格化しています。
この事業はデジタルコンサルティング事業として当社のメイン事業にまで成長し、現在は調査、マーケティングから開発、グロースに至るまで一気通貫のソリューションを提供しています。
外国人材を惹きつける「垣根のない」カルチャー
永田 貴枝| 株式会社モンスター・ラボ デジタルコンサルティング事業部戦略人事
長野県出身。中央大学卒業後、上智大学法科大学院に入学するも紆余曲折あり路頭に迷う。そんな中、多くのキャリアコンサルタントの方々に出会い助けてもらったことをきっかけに「人」に関わる仕事をしたいという思いが強くなる。ヘッドハンター会社にて修行後、大手日系人材紹介会社に入社。IT/Web領域で主に法人営業に従事した後、大手外資系人材総合サービス系会社に転職。キャリアコンサルタントとしてWeb領域の多くの転職支援に携わる。その後、多様な文化が根付いたモンスター・ラボに魅せられ2018年4月にHR担当として入社。現在はデジタルコンサルティング事業部専任の戦略人事(採用人事)を担当。
―外国人採用をはじめたのはいつ頃からでしょうか。
永田さん:いつから外国籍社員の採用に注力しはじめたということはなく、偶発的にはじまったことでした。
今は海外在住者や留学生でも応募できる企業は結構ありますが、当社が国籍に制限がない採用をし始めた当時は同じことをしている企業は多くはありませんでした。
そのような中で、かなり早い段階から世界に門戸を開いていたことが、今の世界観ができた要因かなと思っています。
結果的に高度人材の応募は継続的に来ていて、彼らが採用されて定着する、という形ができています。
現在は日本国内の拠点だけでいうと153名中22名が外国籍社員なので、全体の14%を占めています。出身国の数でいうと10カ国くらいですかね。
グローバル拠点も含めると、少なくとも30カ国の方と一緒に働いているような状況です。
―もともと世界に開かれた企業のカルチャーがあり、事業を展開していく中で外国人採用がはじまったという流れなのですね。
山本さん:そうですね。ただ外国籍社員自体は、創業当初からいたと聞いています。スペイン、中国、ウェールズの方とか。
永田さん:外国籍の方であっても日本の方であっても、例えばエンジニアであれば技術力やコミュニケーション能力といった平等な採用基準があって、そこをクリアした方に国籍関係なく入社していただいています。
外国籍社員の採用が「偶発的に」 増えたのも、この採用基準によるところが大きいです。
もちろん採用については複数の戦略を考えてはいるのですが、昔も今もやはり「外国籍の方を採用しよう」という戦略があるわけではありません。
もちろん取材などで「日本人」「外国人」と分けてお話しすることもありますが、垣根のないカルチャーが外国籍の方からの応募が多い要因の一つなのではないかと思います。
採用後に活躍するかを見極める大きなポイントは「人柄」
―外国籍の方はどのような経路から応募されているのでしょうか。
永田さん:ここ3年は、外国籍人材に特化した人材紹介会社の紹介でご縁があるケースが多いです。
あとはWantedlyのような求人媒体、リファラル、ダイレクトリクルーティングなども活用しています。
いま15カ国26都市に拠点があるので、例えば「セブ拠点の人とつながっていました」というように、拠点との何らかのつながりで当社のことを知り、応募が来るパターンもあります。
モンスター・ラボの拠点の1つが島根県の松江にあるのですが、松江の場合は行政自体が国内外からのIT人材の確保に力を入れることで地域を活性化しようとしています。
地域が持つインドやベトナムの大学とのつながりを活かして新卒として入社するケースもあります。
ただ、依然として一番多いのは人材紹介会社の紹介からのご縁です。
外国籍の方の気持ちという観点でお話しすると、やはり同じ国から来た人ではなくても、日本人以外の人が働いているというだけで安心感があるようです。
そのため、「他にも(外国籍社員の方が)いますよ」ということを伝えたことで、入社につながったケースもありました。
―外国人材を採用される際に見ているポイントは何でしょうか?
永田さん:主に2つあります。1つ目は技術力がある方。2つ目は、その人の積極性などの人柄です。
2つ目の人柄に関して、日本語の語学力に関係なく、採用後に活躍できるかどうかはその人の積極性によるところが大きいということがわかってきています。
例えば、自分から積極的にコミュニケーションを取りに行ける方は、それほど語学力は関係なく活躍できています。
現在当社のエンジニアの半分以上が外国人なのですが、テックリードエンジニアの選考フローでは、書類と面接以外にもGitHubを見ることによって、技術力や人柄を総合的に判断しています。
外国籍社員入社初期のフォローの場「お悩み相談Slackチャンネル」
―外国人採用の特徴として、採用後の手続きや社内体制の整備が大変だったりしますよね。その点はどのようにされているのでしょうか。
永田さん:当社の採用面接はオンラインで完結できるので、内定後の労働条件などをすり合わせるオファー面談も、日本に来ていただく必要はありません。
ただ、現在外国で暮らしていて、入社を機に日本で働きたいという応募者の場合は、就労ビザの対応を含め採用後に複数の手続きがあります。
一方で、もともと日本で働いていたという応募者の場合は、採用後にさまざまな手続きが必要かはその方の状況によります。
―何をどこまでサポートするかという問題もあると思うのですが、モンスター・ラボでは就労ビザや住居の手続きなどのサポートはされているのでしょうか?
永田さん:現在はある程度日常会話ができることを採用基準にしているので、この1年半ぐらいはその問題は発生していません。
モンスター・ラボの場合、基本的に就労ビザの申請や更新、住居の手続きなどは社員本人にしていただいていますが、サポートが必要なときには、総務や労務の担当が適宜対応しています。
―受け入れ準備のところでいうと、外国人社員の方がすでにいらっしゃるところが強みになりそうですね。
永田さん:社内に既にいる外国籍社員に聞いて解決する方もいますし、Slackでそのような相談ができるチャンネルもあるのでそこで解決する方もいます。
日本人でも英語が話せる社員が多いので、日本での生活に慣れていない外国籍社員が感じやすい生活上の不安や、疑問に対してフォローしています。
永田さん:従業員割合では、まだ日本人が多いので基本的には全体用のSlackチャンネルでも日本語が使われていますが、経理関連などの重要なお知らせを流すときは、英語と日本語の両方で流すようにしています。
また、社内に新しいシステムを導入するときは英語対応が可能なものを選び、英語表記で登録できるようにしています。
モンスター・ラボ流:コミュニケーション術
―言語の壁はどの企業でも課題になるところですが、モンスター・ラボの日本拠点では、公用語の英語化はされていないのでしょうか?
永田さん:はい。日本国内拠点では日本語が公用語といえます。
採用時も、基本的には日本語能力も見ていますが、語学力不足を凌駕する技術力があったときには、比較考量しています。
また、外国籍社員の方が多い企業では、会議も英語にされているところが多いようですが、当社は状況によって使い分けています。
当社のクライアントは日本人である場合が多いので、日本語で会話をしながら進めていく会議は、必然的に日本語でおこなわれます。
一方で、当社のエンジニアは外国籍社員の割合が多いので、社内では英語でコミュニケーションをとることが多く、エンジニアチーム内ではほぼ英語で会議をおこなっているようです。
ミーティングの様子
―エンジニアチームはほぼ英語で会話されているということですが、日本人社員の中には英語が話せない方もいらっしゃるのでは…?
永田さん:そうですね、チームによって若干様子は異なるものの、エンジニアチームは外国籍社員を同じチームに固めたり、日本語を話すことができる外国籍社員が架け橋役となったりもしているので、言語の問題はあまり顕在化していません。
国内拠点にいる外国籍社員は、日本語能力がほぼビジネスレベルで、日常会話レベルかそれ未満の社員は若干名しかいません。
それでも、プロジェクトマネージャーやビジネスプロデューサーをはじめ、もっと英語ができるようになりたいという日本人社員の声も多いため、当社では現在、英語学習支援を福利厚生として提供しています。
それは国内拠点でのコミュニケーション円滑化以上に、今後の展望として、海外拠点・グループ会社とも一体感を持ってデジタルコンサルティング事業をおこなう礎づくりが大きな目的です。
―入社の時点で日本語が話せる方が多いのでしょうか。もともと話せなかった方もいらっしゃいますか?
永田さん:最初はまったく話せなかったけれども、今では話せるようになったという人もいます。
モンスター・ラボに入社したことをきっかけに日本で暮らし始めた社員の中には、国内拠点で1~2年働く間に日本語がネイティブレベルになった人もいます。
日本語の学習方法は人にもよりますが、多くは会社の支援を受けることなく自発的に勉強して話せるようになっています。
第一線で新しい文化を吸収する社長こそが垣根のないカルチャーの源
―社内コミュニケーションのつながりで、国籍豊かな社員の方々が意見をいいやすい職場環境をつくる取り組みは他にもされていますか?
山本さん:はい、しています。意見を言いやすいフラットさは、社員みんなが大事にしてきたことですが、具体的な取り組みとして、先月ぐらいから代表の鮄川が日本に帰国するタイミングを狙って代表と社員のランチ会を開催しています(※新型コロナウィルスの影響でリモートワーク推奨となってからはお休み中)。
3人ずつアサインして、鮄川と会ったことがない社員も直接話せる機会をつくろうという企画です。
当日は鮄川も社員もお弁当持参で、社長室でランチをするのですが、参加者からは「面白い、良い機会になった」などポジティブな声をもらっています。
なるべく全メンバーが声をあげやすい機会や場づくりを会社としても大事にしています。
―このような取り組みが、前半でお話しいただいた「垣根のないカルチャー」を支えているのですね。
永田さん:実は「垣根のない」ということをもっとも意識しているのは代表の鮄川で、彼自身もこのカルチャーを支えています。
代表は年間のほとんどを海外で過ごしているのですが、世界のいろいろな国の文化に基づくトレンドや、新しい経営手法、プロダクトなど技術面での動向を体感しに行っています。
開いたマインドで世界の多様な文化や最新情報を吸収していこうとする代表の姿勢が、私たちらしい「垣根のない」社風を形作る1つの要素だと思います。
代表が世界に目を向け「垣根のない」社風を体現することで、それに共感する人たちが世界中から集まり、そのカルチャーが醸成されていくという好循環が生み出されています。
―「垣根のない」社風を社内に浸透させるためにおこなっている施策もありますか?
山本さん:「なるほど!ザ・いながワールド」(昔のTV番組のタイトル名と代表の鮄川の名前を掛け合わせたネーミングになっている)という、社内向けのSlackチャンネルを活用した取り組みをしています。
そのSlackチャンネルでは、代表が今世界のどこにいて、誰に会って、何を感じ、何が今自分の会社に足りないと思っているのか、などをコラム風に社長の目線で伝えています。
最初は毎日配信していましたが、アンケートなどで社員の意見を集めた結果、今ではテーマを設けてより濃い内容に仕上げ、少し間隔を空けて配信しています。
業務内容によっては、海外とあまりかかわりのない社員もいますが、グローバルに事業を展開する当社の一員として、社員全員がマクロな視点やグローバルな視野を持つことが必要であるし、そうあって欲しい、というのが社長の気持ちでもあります。
定期的に世界の新しい動きや、社長の目線を知ることで、一歩引いて視座をあげ、会社・組織単位で物事を考える機会になるよう取り組んでいます。
世界に通用する企業になるには多様な価値観の社員が必要
―最後に、これから高度外国人材を採用しようと考えている企業様や、外国人採用をされたことがない企業様に対して、アドバイスや外国人社員を採用する良さをお伺いしたいです。
永田さん:社内に外国籍の方が一人もいないところから始める場合は、日本と文化的に近い中国、台湾、韓国などの出身者から採用を検討するとうまくいくかもしれません。
そして外国籍社員を採用する良さは、多様性を受け入れて活用していくカルチャーが社内に根付くことだと思います。
業界によるかもしれませんが、今後日本の企業が海外に事業展開していくなど、市場だけではなくリソースや仲間も海外に求める場合には、世界では「日本固有の」「暗黙の」というものは通用しないと思っています。
その際に、いろいろな価値観やバックグラウンドを持った外国籍社員が社内にいると、組織づくりだけではなく、世界で受け入れられるプロダクトをつくる上でもいい刺激を与えてくれると思います。
また、外国籍社員たちの出身国でのテクノロジー分野の技術的なトレンドや流行している最新のプロダクトなどの情報を社内で共有し合うなど、一次情報に近い海外市場の知見を得られる良さもあると思います。
今回インタビューをさせていただいた株式会社モンスター・ラボは、デジタル領域のコンサルティングおよびプロダクト事業をグローバルに展開しています。
取材をしていて印象的だったのは、社員の方々が持つ社長に対する信頼感と親愛感でした。
記事の中でもご紹介したように、1年の3分の2は海外で過ごし、世界中でさまざまな文化や最先端技術に触れ、企業に還元し、「垣根のない」働き方、文化を体現しているような方です。
何よりも社長の「多様性を活かしたい」という強い想いが、世界中の才能を惹きつけ、外国人社員が働きやすい環境をつくっているのではないかと実感しました。