企業が成長していく過程で、社内ルールの徹底や業務のマニュアル化が進んでいく組織には、ある非効率的な体質が現れ始めます。
これが日本企業の典型的な問題点として挙げられている「大企業病」と呼ばれる状態です。
本記事では、大企業病の症状の特徴や発生する原因、そして大企業病にならないためにできることについて解説します。
大企業病とは
「大企業病」とは、一般的に現状維持を求めて新しいことにチャレンジしない状態や、縦割り組織で意思決定のスピードが非常に遅い状態などにある企業体質や企業風土のことを指します。
大企業病になると、社員のモチベーションやチャレンジ精神が低くなり、組織の不活性化や生産性の低下などが起こります。
また、社内でのイノベーションが阻害され、企業は目まぐるしく変化する経済環境に対応することが難しくなります。
大企業病に陥ってしまう企業の多くが「長く経営を続けている業績の安定した会社」や「急激に成長して規模が大きくなった会社」であるため、『大企業病』と呼ばれていますが、この症状は中小企業やベンチャー企業でも広くみられています。
企業が大企業病に一度陥ってしまうとなかなか治すことはできないため、自社の現状をチェックして兆候があれば早期に対策をして改善を図ることが大事です。
大企業病の兆候・症状
大企業病になると多くの場合、次のような症状が現れるようです。
自社でこのような状態があると感じたら、大企業病の兆候を疑いましょう。
①ルールや習慣に縛られすぎている
社員が増えて組織が大きくなればなるほど、組織が効率的に機能するために一定のルール作りが必要となります。ルールがなければ、社員がそれぞれバラバラの方向に動いてしまう可能性があるからです。
しかし、ルールが多すぎたり細かすぎたりすると、ルールを守ることが最優先になってしまいがちです。その結果として、効率性を高めるために作ったルールによって、効率性が阻害されるという逆効果の現象になります。
さらに「柔軟な考え方や対応が難しくなる」「従業員の個性や特性を活かすことができない」「新しいことにチャレンジする姿勢がなくなる」などの原因となる可能性もあります。
企業を取り巻く社会情勢や経済環境は、日々目まぐるしく変化して新たな課題が生じています。
何事もルールだからと今までの考え方ややり方に固執していては、この変化や課題に対応することができません。
②マニュアルに固執しすぎて臨機応変な対応ができない
業務マニュアルや作業マニュアルを作ると、業務の明確化と標準化ができ経営効率や業務品質を向上させる効果があります。
そのため大企業では、部署や業務ごとに細かなマニュアルが作成されています。マニュアルによって業務を標準化することで、すべての社員が同じレベルで業務を進めることができます。
一方で、マニュアルや手順に固執しすぎると臨機応変に対応できなくなるといったデメリットもあります。
マニュアルは業務を標準化して効率を向上させる効果がありますが、「マニュアルにないことはしてはいけない」と縛り付けると、より効率の良い新たな方法を考えだすなど社員の創造力が失われたり、マニュアルに書いていないイレギュラーな事案に対応できないといった弊害が起こる可能性があります。
③新たなチャレンジをしなくなる
大企業は、中小企業と比較すると経営が安定していることもあり、業績が多少低下したとしても現場で働いている従業員へは、危機感が伝わりにくいものです。
そのため、環境の変化により今までとは違う対応が必要となっても、失敗を避けることを優先して新たなチャレンジをしようと考えません。
もし新たなチャレンジを提案したとして、上司や周囲から否定や反対をされる、社内の協力が得られないといった状況の場合には、会社全体の雰囲気が新たなチャレンジよりも現状維持や安定を望んでいる可能性があります。
このような雰囲気は大企業病の兆候と考えてもいいでしょう。
④意思決定のスピードが遅い
大企業病の特徴には、意思決定のスピードが遅いこともあげられます。
意思決定のスピードが遅い原因には、日本の企業に伝統的に見られる縦割りのヒエラルキー型組織があります。
ヒエラルキー型組織では、たとえ小さなプロジェクトであっても多くの人の決裁を必要とすることがあります。
多様な人の意見を聞くことは、気付かなかった視点や違った知見を得られ失敗のリスクを軽減したりプロジェクトの精度を高めるメリットがありますが、一方でどうしても意思決定が遅くなりがちです。
意思決定に時間がかかりすぎるとビジネスチャンスをのがしてしまう危険性が高くなります。
大企業病が発生する原因
大企業病になってしまう原因として考えられるものはいくつかありますが、代表的なものを紹介します。
これらの原因が自社に当てはまると思われる状況で、対策をせずにそのまま放置すると大企業病が進行してしまう可能性があるので注意しましょう。
①業績が安定している
大企業病が発生する原因として最も考えられるのが、企業の業績が安定して危機感が欠如してしまうことです。
業績が安定していることは企業にとって良いことですが、反面あえて新たなチャレンジをする必要がない状態であると言えます。
新しいことにチャレンジすると、必ず失敗のリスクが伴います。また、新たな業務が増えることになります。
そのため、「現状維持の状態の方が良い」と思うような社員が増えてきたら大企業病が始まったと考えてもよいでしょう。
②組織の巨大化と細分化
社員間のコミュニケーションが取りにくい状態や自由に意見交換ができないような状態も大企業病の原因となります。
会社の規模が大きくなると、業務の効率化のために組織や部署が細分化され、社員は自分が担当する業務以外には関心を持たなくなります。
そのため、部署間の連携がうまくいかなくなり、業務改善に取り組んだり新たなことにチャレンジするとしても、全社的や長期的な視野を持った考えを持つことが難しくなります。
また組織が大きくなると、経営陣と現場の社員との意思疎通が難しくなります。
その結果、経営陣は現場の状況を十分に把握できていない状態となり、社員は経営陣が考えている経営理念や企業方針を理解していないことも考えられます。
③新しい取り組みや挑戦を評価する仕組みが無い
新しいことに取り組む際には、多かれ少なかれ必ずリスクを伴うものです。
取り組んだ結果が成功だったか失敗したかに関わらず、新たなことに取り組んだ社員を評価する仕組みがなければ、社員はわざわざリスクを冒してまで、新しいことにチャレンジしようと思わないものです。
大企業病にかからないためにできること
自社に大企業病の兆候が現れていると診断されたら、大企業病にかかならいように早期にに対策を講じる必要があります。
大企業病が進行すると克服するのは非常に難しく、会社の経営を揺るがすような結果にもなりかねません。
もし、すでに大企業病になってしまったとしても次に紹介する対策が有効です。会社全体で危機感を共有して対応しましょう。
組織構造の見直し
大企業病になってしまう原因として、企業の組織構造そのものに問題があるケースがあります。
社員がマニュアルによって画一化されているような旧態依然の組織では、イノベーションを起こすことが難しく安定志向に走りがちです。
また縦割りの組織では、決裁に関わる人が多くいるため決裁に時間がかかり、意思決定のスピードが遅くなります。できるだけ現場に近いところに決定権や裁量権を持たせるなど、権限の委譲についても検討することが大切です。
今までのスピード感のままでは、現在の環境変化に対応することはできません。
また、スピード感を出すためには、業務内容の効率化も図りましょう。形式的な会議や書類や報告書の削減など、今までの仕事のやり方を見直すことが必要です。
社内コミュニケーションの活性化
大企業病にならないためには、役職や部署に関係なく活発にコミュニケーションがとれる雰囲気を作り、社内の風通しの良い組織を作る必要があります。
大企業病には、組織や業務の分業化が進んで、部門間の垣根が高く意思決定に時間がかかるや各部署の利害で物事の決定が進まないなどの症状もありますが、他の部署や社員と情報を共有することができ、立場に関係なく協力し合える状態であれば、これらを克服することができます。
社内コミュニケーションを活性化すると、社員の一人ひとりが企業理念や経営方針に対して共通の認識を持つといった効果もあります。
大企業病になると、自分の部署や自分のことを優先して考えるようになります。しかし、現場の社員が企業理念を理解することができれば、顧客のニーズを優先するという企業として当たり前の行動をとるようになります。
また、コンプライアンスに対する意識の低下を防ぐこともできると考えらます。
外部からの客観的な視点で診断してもらう
現在の状態が、当たり前の事と思っている経営層や社員は、自社が大企業病に侵されたとしても気づかない可能性があります。
また、気づいたとしても経営層が安定志向が強く変化を避けたいと思っている場合、中間管理職やその下の人たちが声を上げたとしても、組織や意識の改革を行うことは難しいでしょう。
内部からの改革が難しい場合には、外部の経営コンサルタントや人事コンサルティングなどを招いて客観的な意見やアドバイスを取り入れることも必要です。
まとめ
大企業病は、企業の規模に関係なく中小企業でも起こりうる組織の問題です。
一度、大企業病になってしまうと、克服するには組織や社員の意識の改革が必要となり大変です。
自社に大企業病の兆候が現れたら、早期に対策を打つことが重要です。