駐在や現地採用の外国人の場合、BPJSを利用する機会はあまりないと思いますが、加入義務を怠った場合は罰則が生じたり、またKITASの延長時にBPJSの加入カードおよび掛金の支払いを証明する証憑の提出を求められることもあるため、BPJSという単語を聞くことも多いのではないでしょうか。また、ローカルスタッフから、「BPJSだけじゃ物足りないから外部保険に加入して欲しい」とお願いされたことのある担当者様もいらっしゃるのではないでしょうか。
外国人も加入が義務付けられている種類もあるBPJS、理解されている方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。今回はBPJSに関して徹底解説します。
目次
そもそも、BPJSとは
BPJSとは?という疑問に簡潔にお答えすると、Badan Penyelenggara Jaminan Sosialの省略で、インドネシアの社会保障・医療保障制度の総称のことです。
このBPJSは、2014年以降、政府管掌の皆保険制度・国家社会保障制度として“BPJS健康保険”への加入が義務付けられました。またこの法令内にて、6か月以上就労する外国人も加入対象に含まれており、VISA更新の際にはBPJS健康保険への加入が更新の要件となっております。
BPJS健康保険は、雇用者が加入登録をする義務を負っており、システムや社会保険事務所への申請によって従業員の為に加入登録を行わなければなりません。加入者には下記のような健康保険カードが発行されます。
BPJSの加入対象者
公的機関、国営業、民間企業等で就労する労働者は全て対象となります。 外国人の場合、インドネシアで6ヶ月間以上就労する場合は加入対象者とみなされますが、社会保険の年金給付(JP)については、加入義務が免除されます。
また、社員以外の研修生や実習生等(報酬が発生する場合)も含まれます。
BPJSの種類について
またBPJSには下記の2つの種類があります。
- BPJS ketenaga kerjaan 社会保障
- BPJS Kesehatan 医療保障
2つの中でもいろいろな区分けがあるので、細かく見ていきましょう。
引用:PT. Sakura Mitra Perdana (https://sakura-id.com/info/bpjs)
それぞれの掛金は、各従業員の基本給および毎月定額で支給される諸手当(能力給等)を含んだ額に、上記のように定められた料率を適用して算出します。
但し、年金給付(JP)と医療保険(JKN)については、掛金額を算出する上での給与上限が定められています。 また、医療保険の場合、従業員ひとり分の掛金で、当該従業員の家族5人までが保障の対象になります。
【1】BPJS ketenaga kerjaan 社会保障について
(1) JKK(傷害保険 / 労災) : 就業中の事故等に対する保障
会社負担分の率に差がある理由は、会社の業態の危険度に応じて、5段階の料率区分になっているためです。(0.24% 0.54%、0.89%、1.27%、1.74%のいずれかを適用)傷害の場合、基本診察費、初期治療費、入院費、集中治療費、手術費等の医療費、事故現場から病院への搬送費、リハビリテーション費用および一時見舞金等が支給されます。
死亡の場合、前述の費用に追加して、死亡見舞金、埋葬費等が支給されます。
(2) JKM(死亡保険) : 就業中の事故以外での死亡に対する保障
弔慰金、定期見舞金(24回)、埋葬費、遺児への教育費等が支給されます。
※死亡給付金※
給付金 | 給付金額 |
一括払 | 80 カ月分の賃金の 60% |
分割払 | 24 カ月間、毎月 2 0 万ルピア |
葬儀費用 | 200 万ルピア |
(3) JHT(老齢貯蓄) : 老齢年金
加入者が、下記のいずれかの時点で受給可能(一括払い)となります。
(a) 退職年齢(2016年4月1日時点:56歳)に到達した
(b) 全身障害を負った
(c) 死亡時
※ 掛金の払込期間は最低10年間。
※ 外国人の場合、本国に帰国する際に還付申請が可能とされている一方、最低加入期間が10年と規定されているため、実際に帰国時に還付が可能かどうかは不明のままとのことです。また、外国人は加入義務が明記されていないので対象外とも言われています。
(4) JP(年金給付) : 年金の給付
加入者が、下記のいずれかの時点で受給可能となります。
(a) 退職年齢(2016年4月1日時点:56歳)に到達した
(b) 全身障害を負った
(c) 死亡時(受給資格者は配偶者、遺児または両親)
※ 掛け金の払込期間は最低15年間。
※ 保険料の計算の基礎となる固定給には上限が設けられていますが、毎年、GDP成長率等を基に見直される予定。
※ 外国人は加入義務が免除。
【2】BPJS Kesehatan(医療保障)、また加入することで受けることできる保障
BPJS kesehatan (医療保険)に加入すると、BPJSの身分証明カードを受け取ることができ、そのカードを医療機関に持って行くことでサービスが受けられます。ほとんどの医療行為がキャッシュレスで受けられます。
風邪や食あたり、捻挫などの怪我から、輸血、入院を必要とする癌や心臓病、集中医療室での治療までもが対象です。
眼鏡の購入、歯の治療、補聴器、義手義足、コルセット、松葉杖等についても一定の金額まで補助がでるようで、最近では、がん手術で1億2,000万ルピア(110万円相当)の手術費を全て補助した事例があるほどです。
緊急の場合以外は、決められたプロセスを踏む必要があるため、やや手間がかかりますが、普段から掛け金を支払い、登録さえしていれば、キャッシュレスで診察・治療が受けられるため、使い勝手はいいかもしれません。
また、本人以外に、最大で配偶者と子供3人の5名まで含まれますが、夫婦で共働きの場合はどちらか一方での加入ではなく、それぞれがBPJSに加入し、保険料支払いの適用を受けることになります。
BPJS Kesehatan (医療保険)が使いづらい理由
2015年7月から本格施行となったBPJSですが、利用する際には、(緊急の場合を除き)まず初期医療機関(保健所)にかかり、当該機関の判断により指定された病院、専門医および、その他の医療機関での受診が可能になるということで、希望する医療処置が迅速に受けられないため、利用者数が伸び悩んでいるという話を聞きます。実際、診察に至るまでのようなプロセスがあるのかを確認してみましょう。
この制度が使いづらいと問題にあがっている点は、主に以下5点と考えられます。
- BPJSに加盟する医療機関(クリニック/保健所/病院)がそもそも少ない。(特に知名度の高い私立病院の加盟が乏しい。)
- 指定した医療機関にて一次診療を受けなければ、病院での治療を受けられない。(カードに記載あり)
- 一次診療を受ける医療機関は1つしか指定できないため、 渡航先での診療を必要とした場合は、指定先まで戻らなければならない。
- 指定した以外の医療機関で一次診療を受けた、一次診療を経ずに病院にて治療を受けたなど規定に反した場合、治療費は自己負担となる。(実費精算もできない)
- 病院側としても、治療費を稼ぎたいようで、BPJS利用患者を後回しにする傾向がある。
このようなプロセス・事情もあり、BPJSの加入のみの場合、体調が悪くても診察を受けるまで非常に手間のかかるプロセスとなっています。そして、指定した医療機関を利用しなかった場合には、治療費は自己負担となりますので、緊急な容体や病状の際に十分な治療が受けられない上に、自己負担になってしまうという事例が起きています。
また、このBPJSが利用できる医療機関は公立に限られているという点は、日本人医師がいるインターナショナルホスピタルのような大規模病院では、BPJS適用外になるため、私たち外国人にとっても厄介なポイントかもしれません。
日系企業の対応は?
上記のように、多くの課題が残るBPJSの実情から、実際には、多くの日系企業では、会社としてBPJSだけではなく民間保険に加入しているケースが多いです。また、中には医療費のレインバース(家族分も込み)を、福利厚生の1つとして、つけている企業もあるようです。
また日本人駐在員・現地採用の方の多くも、民間保険に加入しているのが一般的です。その保険の内容等は様々ですが、日系病院を利用できること、キャッシュレス対応可、歯科も対応の場合もあることなどが重要視されています。
まとめ
金銭的な面で言うと大助かりな制度ですが、2020年現在、特に地方ではまだまだ現場の対応が追いついていない印象を受けます。実際、個人で民間保険に加入をしているインドネシアの方は多いようです。ぜひこのタイミングで、従業員にBPJSや保険についての意見を聞き、福利厚生の見直しをしてみてはいかがでしょうか。