人手不足が社会問題となっている昨今、人材を確保することに視点がいきがちですが、人材を採用したあと、どのようにして生産性の高い組織づくりをおこなうのかを考えていくことも重要です。
本記事では、組織づくりの中でも組織デザインの重要性と実施ポイントについて、組織デザインの実例も踏まえてご紹介します。
目次
組織改革の4要素を考える|組織デザインとは
近年、世の中の変化のスピードが速くなっています。その変化にあわせて働く人のニーズも変化しており、各企業は自社の従業員のニーズにあわせて変革をおこなっていく必要があります。
企業が働く人のニーズにあわせて大きく変革をおこなう場合、「経営者を変える」「組織自体を改革する」などの手法があります。継続的に企業として利益をあげていくためには、継続可能な変革が必要であり「企業の体質を見直す」、すなわち組織改革が重要となります。
組織改革の4要素とは
企業が組織改革をおこなう場合、カギをにぎるのは次の4要素です。
- リーダーシップ
- 戦略
- 文化
- 組織デザイン
4要素のうち、1つだけに力をいれて改革をおこなっても企業としての変革には結びつかないことが多く、4要素をバランスよく改革していく必要があります。
例えば、この4つの要素のうち「リーダーシップ」において強力に指揮を取れる人がいたとしても、「戦略」が間違っていたり、社内の「文化」や価値観がうまく噛み合わなかったりすると、会社として成長を継続することは難しいのではないでしょうか?
一方で、4つの要素のうち「組織デザイン」については、日本ではまだあまり認知されていないのが現状です。
「組織デザイン」とはいったい何を意味するのでしょうか?
組織デザインの役割
組織で仕事をする理由は、各個人がバラバラに仕事をするより、集団で仕事をおこなうことにメリットがあるからです。
「組織デザイン」とは、組織として仕事をする上で、組織の体制を最大限に生かせる環境をつくることを意味します。
組織デザインをおこなう上で最も重要と言われているのが、各人材の適性を見極め、組織内のどこに配置するかということです。
例えば、「設計は得意だけど、営業はできない人」と「営業は得意だけど、設計ができない人」この2人がバラバラに活動をしても、利益にはつながりません。
いくらレベルの高い設計ができたとしても、営業が苦手だと、客先から仕事をとってくることが困難です。そこで営業と一緒に仕事をすることで、それぞれが得意分野に専念することができ、分業が成立します。
また、営業は、なんでもかんでも仕事を取ってくればいいというわけではありません。企業として方針を決め、その方針を営業および、設計者と調整できるリーダーがいてこそ、利益を生み出せる組織に変わる可能性が高まります。
このように、社員一人ひとりの能力を生かしながら、組織体制を最大限生かせる環境をつくることが「組織デザイン」の役割になります。
組織デザイン以外の3つの要素について
前述の通り、組織改革のためには「組織デザイン」のみを変えても効果は得ることができません。それ以外の3要素についても知っておく必要があります。
リーダーシップ
仮に優れた戦略があっても、それを実現するためのリーダーがいなければ、戦略を遂行することは困難です。
組織をつくるメリットは分業にあります。その分業をまとめるリーダーが重要であることは言うまでもありません。
組織デザインをおこなう際には、その戦略を実現するために必要な分業をできる人材の確保だけでなく、その人材を調整できるリーダーを決めることが最も重要な要素の1つになります。
戦略
企業が競争優位性を発揮できるような事業を運営できるかにおいて、戦略は非常に重要です。いくら優秀な人材がいて、組織として効率よく仕事をおこなうことができたとしても、戦略が誤っていると良い結果を得ることはできません。
戦略を考え、その戦略を実現するためには、どのような組織が必要かを検討していくことが重要です。
文化
素晴らしい戦略、組織、リーダーがいても、その会社や組織の文化が足を引っ張ることもあります。例えば、世の中の変化にあわせて、スピーディに物事を決めていかないといけない場合もあります。
「承認を得るためのスピードが遅くて動けない」「過去の事例からできない」と判断されるなど、古い体制や文化にとらわれすぎると、変革をおこなっていくことはできません。
特に文化については、長年社内に根付いている場合も多いため、変えていくのは容易ではないと考えられています。
組織デザインのフレームワーク「7S分析」とは
組織デザインでは、マッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱した「組織の7S」を意識したいものです。
7Sは組織に必要な経営資源のことで、3つのハード要素と4つのソフト要素から構成されています。ハード面の3つのSは戦略(Strategy)、組織構造(Structure)、システム(System)です。ソフト面の4つのSはスキル(Skill)、人材(Staff)、スタイル(Style)、共通の価値観(Shared Value)となっています。
7Sは相互に影響し合う要素で、1つでも欠ければ組織のバランスが崩れてしまいます。組織デザインでは7Sをもとにして現状分析を行い、問題の解決や組織の成長につなげていく必要があります。
一般的に7S分析ではハード面のほうが改善しやすいといわれます。7S分析の際にはハード面を変えてソフト面に影響を与えていくような対策を行うのが効果的です。
組織デザインをどのように活用するのか?
組織変革の4要素のうち、「組織デザイン」以外についてご紹介しました。それでは、組織デザインをどのように活用していけば効果的に組織改革をおこなっていけるのでしょうか。
組織デザインは単なる「組織を変える」のではなく、以下の6つの要素からなる包括的な取り組みが必要と言われています。ここでは、6つの要素をどのように活用していくのか解説していきます。
組織デザインの6要素について
組織デザインの6要素とは次の通りです。
- 構造
- 業務
- 人材
- 情報
- 意思決定
- 報酬
組織変革の4要素と同じように、効率的な組織デザインをおこなうためには、6要素をバランスよく活用することが重要です。
構造
構造とは組織構造を意味します。その組織にどのような機能を持たせるのか、どのような階層をつくるのかを検討する必要があります。
例えば、策定した事業部に「総務機能をつけるのか」「総務機能は別部署にするのか」や「営業は顧客軸で整理するのか」「扱うメーカー軸で整理するのか」など、組織設計をおこなう必要があります。
業務
これまでは当たり前におこなってきた業務も、改めて見直すと無駄があったということはよくあります。無駄な業務は削減する、もしくは効率よいシステムを導入して工数を削減する。
そのようにすることで、本来注力したい業務に集中できるような環境をつくり、効果的かつ効率的に業務をおこなえるような仕組みづくりをおこなうこともできるようになります。
人材
組織にとって人材は重要です。優秀な人材を採用するだけではなく、教育の改善や戦略にあわせたスキルの取得も重要です。
組織の中で、同じ分野のスキルを持っている人ばかりが集まっても宝の持ち腐れになります。戦略に合わせたスキル分布になるような、人材を集めることが重要です。
また、管理においては「ダメ」という性悪説に基づく管理は時代にあいません。イノベーションを果たすためにも、個人の個性を生かせるような管理を考えていく必要があります。
情報
情報や情報システムは組織を可視化してくれます。そのため、必要に応じて正しい情報や情報システムを用いることが重要です。
例えば、営業部門のKPI(Key Performance Indicator)を売上値だけとするならば、マネージャーは売上だけを見て、部下の行動を方向づけます。
しかし、売上値だけでなく、部下のスキルや組織力の向上をKPIとして示せば、マネージャーは単に売れた、売れなかっただけでなく、組織力の向上に注意を払うはずです。
売れた、売れなかったはタイミング(運)にも大きな影響をうけます。組織として基礎力をつけておくことで、タイミングに依存しない企業貢献が期待できます。
意思決定
意思決定の仕方にもさまざまな方法があります。大きく分けると、トップダウンとボトムアップの2種類に分かれます。
各人材の責任範囲、すなわち権限をどこまで認めるかを決めることも大切です。特にスピードが求められる現在においては、スピーディに意思決定をして物事を決めていくことが非常に重要となっています。
報酬
報酬の重要性は言うまでもありません。
多くの日本企業は、昔からの伝統的な報酬形態である年功序列、職能給といった報酬制度を取り入れています。
しかしこれでは、本気で頑張る人に対して十分な報酬といえるでしょうか?
責任範囲を広げる代わりに報酬を増やすなど、柔軟且つ若手社員がハツラツと働ける環境を作るという意味でも、報酬制度を見直すことは重要です。
柔軟な報酬体系を用いることで、多様な人材の獲得にもつながっていきます。
組織デザインを実施する上での考え方や流れについて
組織デザインを実施するにあたり、戦略をたてることが必要となります。
どのような結果になれば、「改革を達成した」と判断できるのか、判断基準を明確にする必要があります。そのような判断基準を明確にすることで、どのような組織をめざすべきか、そのためにはどのような能力・情報・人材が必要なのかがみえてきます。
組織の能力が足りなければ人材を補充したり、教育を受けさせたりなど、できる施策は広がります。また、必要な情報を取得するためにシステムの導入などを検討することもできます。
組織デザインの実例
組織変革や組織デザインを実践する中で、最近注目されているのが「ティール組織」です。
ここではティール組織を例に、組織デザインを実践する上での事例をご紹介します。
今話題のティール組織とは?
ティール組織はフレデリック・ラル―氏の著書「Reinventing Organizations」の翻訳版である「ティール組織」が出版されたことにより、広まりました。
ティール組織が話題になっている要因としてあげられることは、これまでのマネジメントの常識を覆すアプローチで劇的な成果(変化)をあげる企業が続々と誕生しているということです。
ティール組織は進化型組織とも呼ばれ、以下3つの特徴を持っています。
セルフマネジメント(自主経営)
組織の個々人に意思決定権があり、従来のように上司の指示を受けて行動するのではなく、一人ひとりが自分の判断で行動をします。
ただし、判断するにあたり、専門家および、その決定が影響する人の両方から助言をもらうことで、間違った判断にならないようにする仕組みづくりが必要になります。
ホールネス(全体性)
「社員の意思」を尊重することで、組織のビジョンや事業は変化させることができます。人は、評価される立場になると、意識・無意識を問わず、期待されている役割を演じようとします。このような状態になると、本来もっている優れたスキルなどが発揮できなくなってしまいます。
そのようなことにならないように、個人のありのまま(全体)を尊重して、受け入れるようにすることが重要だといえます。
エボリューショナリーパーパス(進化する目的)
組織自体が存在目的に合わせて進化し続けることを意味します。
組織のリーダーは指示する人ではなく耳を傾ける人であり、組織の目指す方向性などは組織全員で考えるようにします。
ティール組織については、下記記事でより詳細に解説しています。
まとめ
組織改革の重要な要素である、組織デザインについて解説をしました。めまぐるしい変化がおこる現在、古き良き組織文化も重要ですが、時代にあった組織改革が重要です。
また、最近注目を集めているティール組織についても紹介しました。なかなか即実践をすることは難しいかもしれませんが、自社における組織の見直しを定期的に実施することが企業の成長にとって大切になるのではないでしょうか。