今回は、リンクアンドモチベーション取締役の麻野さんと、リブ・コンサルティングCHROの権田さんによる対談内容をご紹介。
対談テーマは『モンスター組織』。これは権田さんが出版された書籍のタイトル名で、日本企業が陥りがちな組織課題を8つのケースに分け、その原因と復活劇をストーリーにしてまとめたものです。
本記事では、「モンスター組織」とはなにか、何が原因でモンスターが生まれるのか、各社どのような組織課題があり、そこに対してどのような施策を打つべきなのか、組織開発のプロである二人の見解をまとめました。
【人物紹介】麻野 耕司 | 株式会社リンクアンドモチベーション 取締役/オープンワーク株式会社 取締役副社長
【人物紹介】権田 和士 | 株式会社リブ・コンサルティング 常務取締役 兼 CHRO
目次
「モンスター組織」とはなにか?
今回は、権田さんが出版された書籍『モンスター組織』をテーマに組織づくりについて話していきたいと思います。
まずそもそも「モンスター組織」とは何か、教えてください。
最近、「モンスター部下」「モンスター上司」という言葉を良く耳にしませんか?問題行動が多いと思われる社員を腫れ物として扱っている。
でもそれは間違いで、「モンスター」と呼ばれている個人が悪いわけではありません。モンスターを生みだしてしまう組織メカニズムが原因なんです。そこに陥っている組織を「モンスター組織」と呼んでいます。
僕が伝えたいメッセージとしては、本当はモンスターなんて組織にはいないんです。周囲が特定の個人をモンスター扱いすることで、結果として組織コンディションが悪くなっていくんです。
ですので、「あいつがモンスターだ」と、モンスターをつくりだす状況を改善したいというのが、この書籍の根底にある発想です。
特定の社員を「モンスター上司」「モンスター部下」にしてしまう、そのメカニズムこそがモンスターだと。
そういうことです。この本ではさまざまなモンスター組織のケースをまとめていますが、「AさんとBさん」「上司と部下」「X事業部とY事業部」のように、すべて対立構造からスタートしています。
ただ、改善するためには、対立構造のどちらかを攻撃するのではなく、全体のメカニズムでどうやって処理していくのかが重要なのです。
それはどのケースにも共通するもので、書籍にはケース別の処方箋が書かれています。
ちなみに、モンスター組織のケースって具体的にどんなものがあるんですか?
大きく「成長企業編」と「成熟企業編」で分けていて、それぞれ4ずつ、計8つのケースがあると考えています。
【成長企業編】
- CASE1:フリーライダー増殖組織
ビジョナリーかつ成長優先の経営者により、フリーライダーが増殖した組織の変革 - CASE2:低体温デジタル組織
業務過多とデジタル偏重コミュニケーションで低体温化した組織の変革 - CASE3:大量採用・大量退職組織
人財育成は「他人事」、大量採用・大量離職が当たり前の組織からの脱却 - CASE4:ワンマン社長の独り相撲組織
責任と権限の不一致により、事業成長を阻むトップダウン型組織の変革
【成熟企業編】
- CASE5:MBA新社長の戦略独走組織
二代目MBAホルダー社長が施した急激な戦略転換が生み出す組織のひずみ解消 - CASE6:肥大化する事業部制組織
「新」「旧」の主力事業部間にできた相互不理解による組織の壁を壊す - CASE7:ロスト・アイデンティティ組織
熟練技術者を活かせず誤った「機能体組織」の導入で窮地に陥った組織の立て直し - CASE8:業績第一パワハラ組織
「業績目標達成第一」の営業部長が苦悩する「脱パワハラ組織」への変革
おもしろい。ちょっとそのケースをいくつか掘り下げていきましょう。
最近よく多く見られるものでいくと、「フリーライダー増殖組織」ですね。
「創業社長VS経営幹部」フリーライダー増殖組織
では、フリーライダー増殖組織とはどのような組織か教えてください。
フリーライダーって、自分の業務をまっとうせずに対価以上の報酬を得ている「タダ乗り社員」のことをいいますよね。要するに組織に主体性がある社員が少なくなっている状態を意味します。
これは、創業社長と経営幹部の間に溝が生まれることからはじまります。経営陣が一枚岩になれていないんですよね。
創業社長はビジョナリーなタイプが多いというか、未来のことを良く語ります。ただ、これって周りから見たら「現実を見ていない」と思われてしまうことがあるんです。
社長は悪気はないのですが、経営幹部は「またはじまった」と思っている。
たとえば採用において、ビジョナリーな話に共感してもらって採用しても、経営幹部は「それで採用されても、今の状況と合わなくてギャップが起きる」と感じています。
これは採用だけでなく、育成、事業でも同じことが言えます。お互い会社のために考えているだけなんですけどね。
社長は「なんでビジョンを示しているのに、それに追いつかないんだ」と思っているし、経営幹部はどちらかと言うと、「いやまたそういう話始まったよ」と思っている状態です。
これですね。書籍の42ページ目。このチャートわかりやすいですね。
社長は、ビジョナリーな良い話をして市場から評価され、それを魅力に感じて人材が入社してくるんですよ。
ただこれは、「よさそう!」みたいなフワフワっとした形で入社しているので、実際に現場からすると「なんや、このフワフワしたやつら」という感じになります。
現場の幹部たちは、成果を出さなきゃいけない中で戦っている状況で、そこにもフラストレーションが溜まっていきます。入社した社員もどうして良いかわからず、徐々にフリーライダー化していきます。
なるほど。そういう場合は、どうすればいいんですか?
まずは、社長の時間軸と幹部の時間軸を一致させることですね。時間軸が一致しないと何も解決しません。
結局、全員が未来のために向かっている組織が、僕はすごく良い組織だと思っています。これはどの組織体においてもそうだと思います。
その未来のたすき掛けが、社長から経営幹部に伝わっていく際に、ここにギャップが生まれてしまい、社長は将来価値を上げようと未来ばかりを見て、経営幹部は今の問題点しか見えなくなってしまう。
ここのねじれが良く見られる現象で、解消をするためにオススメなのは合宿です。1泊2日の合宿をおこない、時間軸をすりあわせていきます。
そうするとフリーライダーがいなくなっていくと。
社長は採用において、魅力づけは得意だと思うんです。ただ重要なのは、組織の未来から逆算したときに現在の組織はどうあるべきかを考え、そのためにマッチした人材を採用することです。
社長が見極めと惹きつけの両方をやっていると、よくわからないフリーライダーがたくさん増えていってしまうので、そこは人事部門が入って、ちゃんと見極めをするという機能を働かせていく必要があります。
「エンジニアVS営業」低体温デジタル組織
次にこれが気になっていたのでお願いします。「低体温デジタル組織」。
これは、テック系の会社にあてはまるケースが多いのですが、エンジニアと営業の対立構造ですね。
たとえば「コミュニケーションっていらなくないですか?」というエンジニアの人たちがいたとします。
「Slackでやりとりすれば良くないですか?」みたいな。
そうそう。一方で営業職などにあるのが、ちゃんと顔を突き合わせてコミュニケーションを取りたいという声。アナログでちゃんと時間つくってFace to Faceのコミュニケーションをしていきたいと。
HR TechやSaasのビジネスモデルの会社が増えてきていますが、そのような会社は、最初のうちは自分たちと近い属性の会社から順調に受注が取れていきます。
ただ、そのフェーズを超えると自分たちと全く異なる属性の会社から受注を取っていく必要が出てくるのです。
そのときに大手や歴史のある会社から受注をする際に、今までのアナログなセールスが求められてくることがあります。
そうすると、30代、40代、50代のアナログなセールスで活躍してきた方が、営業部長として入社してきます。
そうすると、コミュニケーションのあり方にギャップが生まれ、お互いに「なんでこっちのことをわかってくれないんだ」と不満が募っていくんです。
お互いコミュニケーションの仕方で距離がつかめない。良くあるパターンですが、これを解消していくのは割と難易度が高いです。
解決策はなにかあるのですか?
解決策は、二者の間にミッドフィルダーをつくることですね。たとえば、営業とエンジニアの間にディレクターのような存在を置いて、お互いの翻訳をしていく。
プロダクトマネージャーみたいな感じですね。
また、コミュニケーションのルールもつくっていくことが求められるのですが、それよりも意外と効果があるのはオフィスを工夫することですね。
コミュニケーションを取るスペースと、集中ゾーンのスペースをつくる、といったイメージです。そこでコミュニケーションタイムと集中タイムを明確に分ける。
エンジニアの方で良くあるのは、「今はすごく集中したいのに、しょっちゅう話しかけに来られて集中力下がってストレスになる」ということです。
今は何時間も連続して集中しないと成果が出にくいこともありますよね。そういう感覚がセールスとかだとわかりにくい。
「この時間はコミュニケーションタイムだよ」「今は集中タイムだよ」と、お互いにストレスがかからないコミュニケーションの流れを、ハードで解決する手もありますね。
「量VS質」業績第一パワハラ組織
次は、このケースについて伺いたいです。「業績第一パワハラ組織」。
これは基本的に、いわゆる「量の世界」の話です。量をこなせば結果がついてくるという考えのもと、どうやって量をこなすかについてがむしゃらにやって育ってきた組織です。
そこに対し、現代は生産性の向上が叫ばれる中で「量ではなく質ですよね」という考えが出てきて、ここに対立構造ができます。
若い世代はどちらかというと質にこだわりたい。だけど先輩社員は量をこなして成果をだしてきたので、「一日に何件コールをしてアポをとったか」が重要だと思っている。そのすれ違いがあります。
このページですね。課題がわかりやすくておもしろい。
「いいから量をこなせよ」と厳しく指導すると、すぐに「パワハラだ」と言われてします。でも緩いマネジメントだと量をこなせず成果もあがらない。そのような中で事業部の業績は達成しなければならない。
マネージャーはこのようなジレンマを抱えているのですが、「業績を達成するためには厳しく指導をして、量をこなすこと以外にない」と思っている。
一方で、部下のメンバーは「そんなことはない」と思っているわけです。
また同時に人事部にも、「あの人がすごい詰めてきます」みたいな感じで相談がきて困っているという状況もあります。
マネジメントラインが悪いわけではありません。「業績をなんとかしないといけない」という責任感は大事なのですが、「量をこなしていたらなんとかなる」という単純な話ではなくなってきているのです。
これは営業会社でありそうですが、どのような対応をとるのが良いのでしょうか。
量から質の構造に転換する必要がありますよね。量で成果を上げるところから、質で成果を上げる成功事例をつくっていくことですね。
また、業績目標以外の指標をつくることも一つの手だと思います。業績以外の目標設定をおこない、バランスを取っていくと。ただ、業績以外の目標設定に慣れていない会社が結構多いんですよね。
それから評価のやり方ですね。「業績を達成してインセンティブ支給」ではなく、多方向からの成果を評価してくれるような流れにする必要があります。
質をあげるためには育成もしていく必要がありますし、プロセスも見ていく必要があります。業績が上がったかどうかという指標だけだと、「量をこなさないと詰められる」という構造になりがちです。
我々は「5つの成果」と言っているのですが、
- 業績
- 人財育成
- よりよい仕組み
- CIS(顧客満足度)
- EIS®(社員満足度)
この5つの成果をバランスよくしていくことが重要だと思います。
「共同体組織VS機能体組織」ロスト・アイデンティティ組織
最後に「ロスト・アイデンティティ組織」の話をしますね。
ロスト・アイデンティティとは何ですか?
たとえば、もともとは共同体組織でやっていた熟練技術者が多くいる会社が、急に欧米式の機能体組織のやり方を取り入れていった結果、不必要にハレーションを起こしてしまうということです。
急に評価制度を変更したり、若手の抜擢などを実施しても、ベテランの技能熟練工の方々の反発にあうだけです。彼らの存在は会社の財産といえるものなのに、最悪のケースは替えの効かない人材が離職してしまうことです。
こういう会社は結構ありますか?
特に、老舗の製造業などで多くありますね。
熟練工たちが、ちゃんとそのバリューを発揮しているような組織に対しては、なんかカッコいい横文字の施策をそのまま当てはめたとしても、あまり意味がないんです。
「Googleはこうやってるから」みたいに、今のトレンドに盲目的に従った結果、「あれ?自分たちのコア・コンピタンスってなんだっけ?」と、アイデンティティがなくなっていく。
「なにかを変えていきたい」という漠然とした危機感はあるものの、会社としてのビジョンや組織戦略がないままアプローチしても逆効果になるということですね。
そうです。ただ、やり方が正しい・間違っているは置いといて「今のままではいけない」と会社を想って行動しているだけなんです。
ここで重要なのは、「守るべきもの」と「変えるべきもの」の見極めです。そこを理解しないままにやみくもにトレンドに意識を向けてはいけません。
モンスターを生まないためには、全員が未来に目を向けることが大事
ここまでをまとめると、「特定の個人が悪い」というわけではなく、対立構造の関係から僕たちが心の中にモンスターをつくりだしているということですね。
もしかしたら、あなたはAさんのことをモンスターだと思っているかもしれないけれども、Aさんからすると逆にあなたがモンスターだと見えているかもしれない。
そういう対立があらゆる組織で起こっていて、それをどうやって解決していくかが、この書籍には書かれているんですね。
問題は「人」にあるのではなく、「人と人との間」にあると。そうだとした際に、それを乗り越えるために大事なことは一言でいうと何でしょうか?
やはり冒頭でも言ったように、全員が未来に目を向けることが一番大事ですね。
お互いが今だけを見ると、相手が気になってしまい、加害者・被害者の関係性が生まれてしまいやすくなります。
たしかに。これは、M&A後の統合プロセスでも同じことが言えると思いました。
たとえば、A銀行とB銀行が統合して「A銀行ってここがイケてたよね」「B銀行はここが優れていたよね」と、お互いが言い合うのですが、結局「どんな銀行をつくりたいのか」という未来の話がない限り、両者の溝は埋まりません。
また良くあるのが、過去を見て「昔はよかったね」みたいな武勇伝の話をしがちなことですね。それだと何も前進しないので、未来を見るしかないと思います。
あとは、「外を向くこと」ですね。ほとんどの会社がそうなのですが、モンスターをつくってしまうのは社内なんですよ。
社外に目を向けたらモンスターは生まれようがないんです。顧客の方を向いて入れば、「どう対処しようか」と前向きな会話になるわけです。
「世の中にどういう価値を生み出していくか」ということに目が向かなければ、組織は腐っていきますよね。
ちなみに、良い会社・組織かどうかを見極めるひとつの方法としては、「降格人事ができるかどうか」だと思っています。
未来に目を向けていれば降格人事の必要性がわかるのですが、今と過去を見てしまうと、「過去にこれだけ頑張ってきたから」「今のこいつのモチベーションが下がるんじゃないか」考えてしまって降格人事ができないんです。
いろんな理由をつけて、その個人を守って降格人事ができなくなると、その瞬間から組織の適切な新陳代謝ができなくなります。
降格人事ができなくて、ぐちゃぐちゃになっている組織はすごく多いと思っています。
被害者も加害者も表裏一体。組織課題に戦犯はいない
みんなが心の中に「モンスターなんか存在しない。勝手につくりだした幻想だ」と思ってほしいですね。
その人からすると、あるメンバーが横暴に組織を壊そうとしていると見えるかもしれないけれど、もしかしたらあなたが組織を停滞させるかもしれない。
そういうものの見方をみんなができるようにならないと、モンスター生み出す争いが絶えない。
それは本当にその通りだと思います。『包帯クラブ』という映画があるのですが、僕これにすごく感銘を受けたんです。
被害者と加害者がいた際に、「加害者が悪い」という論調になりますよね。でも、加害者にフォーカスすると、彼らも何かしらの傷を背負っているんですよ。
なので、被害者を救済するだけでなく、実は加害者の引っ掛かった傷を解消しないと、本当の意味で良くならない。
加害者は、最初から加害者だったわけでなく、きっとその人の中の悩みやいじめられた経験だとか、加害者になってしまった原因があるんです。ここの部分の解消をしないと、加害者は加害者のままです。
加害者も被害者も表裏一体だと思います。そういう観点だと、組織の中でも同じことが言えます。
すぐ被害者ぶる人もいれば、すぐ加害者ぶる人もいて、結局それって見方を変えればどちらにも転びうると思うんです。
ここの部分の解消をしないと、どんどんモンスターが生まれてしまう。それが今回伝えたいメッセージのベースですね。
「被害者だと思っていた人が実は加害者だったり、加害者だと思っていた人が実は被害者だったりする」
「実際は社内に敵はいない。組織課題に戦犯はいない。意識の中でモンスターは勝手に自己増殖されていく。モンスター化した組織を正常化する唯一の方法は、組織のメカニズムを正していくことである」
この本、めちゃくちゃ良いこと書いてますね。
ありがとうございます(笑)。
実はそもそもは、うちの会社がモンスター組織だったんです。2、3年前くらいになりますが、離職率が28%ぐらいまでいったときがあって。
それで、「なにが原因でこうなっちゃったんだろうな」と、課題を見つけ出して、そのポイントを解消しようと実践していった活動をまとめていったことが、この書籍ができた背景なんです。
これはいろんな人に読んでもらいたいですね。
良い組織は、全員で未来に良いリレーをしていくことだと思います。
会社を辞めたとしても別に良いんですよ。だけど、その個人・その会社が5年後、10年後に良い状態になっているように、ちゃんとリレーをつないでいくことが大事なんです。
組織と個人の両方がお互いにとって良いリレーをしていくと、組織も個人も未来に向かって進んでいき、良い関係になっていく。
良い未来に向かって全員が走っていくことで、全員がハッピーになる。究極的にこの状態以外、組織は多分よくならないと思っています。