「人事から事業を強くする」を目指す株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA)によるイベント『HRBP CRUNCH』の第二弾が開催。
今回は「失敗談から学ぶ戦略人事」をテーマに、実際に社内でHRBPの導入や推進に従事されてきた方々によるパネルディスカッションがおこなわれました。
HRBPの仕組みをいち早く導入したDeNAでは過去の失敗をどのように活かし現在の形になったのでしょうか。本記事では、パネルディスカッションの内容の一部をイベントレポートとしてご紹介します。
目次
1 | DeNA発の人事イベント第2弾「HRBP CRUNCH」とは
坪井さん:本日はお忙しいところ、お集まりいただきありがとうございます。今回のイベントでは「失敗談から学ぶ戦略人事」をテーマに、DeNAにおいて戦略人事を実践するHRBPが必要になった背景やさまざまな失敗から得られた教訓をお伝えできればと思っております。
坪井 一樹氏 | 株式会社ディー・エヌ・エー ゲーム・エンターテインメント事業本部 組織開発部 HRBP
組織人事コンサルティングファームやIT系ベンチャー企業での勤務を経て、前職ではHRBP機能の立ち上げに従事し、社員数と売上が3倍に成長する過程の組織開発に従事。2018年にDeNAへ入社後はHRBPを担当しながらHRBPの広報活動もフルスイング中。
坪井さん:本イベント名である「HRBP CRUNCH」の「CRUNCH」には、“ガミガミかみ砕く”というような意味合いがあります。普段触れる機会が少ない失敗談を通じて、皆さんが戦略人事というテーマをかみ砕きながら自分事化して、それぞれ持ち帰ることができれば、より良い場になると考えています。
そういったイベントになるように、パネルディスカッションの後にはDeNAのHRBPがテーブルに入って、議論する時間もありますので、一緒に戦略人事の考え方を深めていきましょう。
2 | 【パネルディスカッション】HRBP導入の背景
坪井さん:それではパネルディスカッションを始めていきたいと思います。DeNAにおけるHRBPの歴史としては、2014年から取り組んできました。
その中でもちろん紆余曲折あって今に至るということで、どんな取り組みをしてきたのか、導入の背景のようなところも今回のイベントでお伝えできればと思っています。それではパネラー3名をご紹介します。
對馬 誠英氏 | 株式会社ディー・エヌ・エー 執行役員 COO室 室長
経営コンサルティング会社を経て2005年にDeNA入社。広告営業、アライアンス営業の責任者から2012年にHRへ転身。柔軟且つスピーディーな事業戦略を下支えする人事戦略全般を担う。HR本部長を経て2019年より現職。
菅原 啓太氏 | 株式会社ディー・エヌ・エー ゲーム・エンターテインメント事業本部 組織開発部 部長
IT系ベンチャー企業での勤務を経て、2009年にエンジニアとしてDeNAに入社。Mobage事業責任者や新規事業立ち上げを経験した後、2015年からHR本部へ。現在は組織開発部の部長としてゲーム・エンターテインメント事業本部のHRBPに従事。経営と人事をつなぎ、事業に資する人事として戦略人事を実践中。
山下 裕大氏 | 株式会社ディー・エヌ・エー ゲーム・エンターテインメント事業本部 組織開発部 HRBP
IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社(現IBM)でコンサルタントとしてキャリアをスタート。HRコンサルタントを経て、コーポレートHR、新人研修の現場責任者を歴任し、2014年にDeNAに入社。人材企画業務、採用マネージャーを経て、HRBPとして複数の部門、子会社を担当。
坪井さん:まずはどんな背景があって戦略人事を実践するHRBPが必要になったのか。HRBPの導入をリードされていた對馬さんからお話いただけますでしょうか。
2-1 | 会社の中の調整弁、それがDeNAのHRBP
對馬さん:以前は、堅実に収益を出しているEC事業と、伸び始めていたゲーム事業の二軸があり、基本その二つを見ていれば会社としては安心だった、という状況でした。そこから、事業の多角化が始まり、組織が増えていく中でHRBPの検討を本格化させました。
「これは会社の中にアンテナをしっかり張り巡らせておかないと、状況が把握できなくなってしまう」、「一つ一つの組織運営の難易度が相当上がっているな」と、考えたことがHRBPの導入を進めた理由の一つです。
二つ目の理由が、会社の規模が拡大するにつれて、事業リーダーのタイプの差が顕著になったことです。
例えば、中途入社したばかりの社員がDeNAの人や組織のことをよく把握していないまま事業リーダーを任されるパターンです。事業を強力に推進するためにそのようなアサインメントをすることはありますが、そうなると人事部が事業リーダーをサポートしないと組織が上手く回らないという感覚がありました。
そして最後の理由が、何か強い調整弁が会社の中で必要だと考えたからです。DeNAは永久ベンチャーを標榜しているので、日々戦略の見直しをおこなってきましたが、その都度組織を変更するということをやっていたら組織は持ちませんよね。
そこで、HRBPがそれぞれの事業に寄り添って、事業リーダーと一緒に組織を仕上げることができれば、どんな変化があっても常にそこが調整弁になる、血流が保たれると考えたのが、我々なりのHRBPの構想ですね。
3 | 事業部に貢献して信頼残高を積み上げる
菅原さん:もちろん、いきなりHRBPができて、すぐにバリューが出せたわけではありません。例えば、以前は中期経営計画がスタートする前のタイミング、私は戦略の議論をしている場には呼ばれなかったんです。
戦略が決まって、それに応じた組織の方向性の形が決まったあとに呼ばれて、「HRBPなのに…」という悔しい思いをしたときがありました。でもこれって要は信頼関係の問題だったんですよね。
このままでは戦略人事でもないし、真のHRBPではないということを実感しました。そこから、「どうやって人事のバリューを出していくのか」についてかなり真剣に考えました。
對馬さん:試行錯誤を繰り返して今は組織が強くなっていますけど、過去を振り返ってみると、HRBPとしてなかなかバリューを出せずに退職したメンバーが増えた時期もありました。
インナーの人事組織というのは、事業に貢献してなんぼですけど、この「事業に貢献する」について、自分の中で腹落ちできなかったり、イメージが持ちきれなかったりするメンバーは結構苦労していたな、というのは共通点としてありますね。
「私は人事をする側です」といった視点でHRBPを捉えすぎてしまう。
もちろん人事の強みを活かすことは不可欠ですが、拘りすぎるあまり、どれだけ事業に貢献するのかという目的意識を持てなかったメンバーは、HRBPとしてなかなか事業部側から信頼を勝ち得なかったという振り返りはあります。
坪井さん:事業状況や現場を知っているからこそ伝えにくい問題や、やりにくい部分もあるんじゃないかなという気はするのですが、当時はどうでしたか?
菅原さん:今もそうなんですけど、要はパートナーじゃないですか。ビジネスパートナーなので同じサイドに立っているはずなのに、あるときは逆サイドから攻めてくるような状況になることもある。実際に溝ができた時はありますよ。だから私がいつも意識しているのは、そういうときが必ずあるから事業部側との間にとにかく信頼残高を積み上げておくことです。
4 | 「巻き取りBP」ではなく「真のHRBP」へ
坪井さん:HRBPが事業部側との関係性を築くために、実際に何をしていたのか。逆にいうと、事業部側としては、HRBPはどんな価値を事業部に提供できるのかというポイントがコミュニケーションの中で問われると思うのですが、この「信頼関係」の失敗談を聞かせていただきたいです。こちらはHRBPの山下さんからお話いただけますでしょうか。
山下さん:DeNAで戦略人事の実践に近づくための考え方にあるHRBPロードマップの概念でいうと、事業部との関係性を構築するために、まずは「御用聞き」から始めるという話ですね。HRBPの導入当初、現場のマネージャーが何の期待値を持っているかわからない中で、まずは現場のニーズに対して来た球を打ち返す、御用聞きから入ったときがあったんです。
なので、「人事に関わらず、困ったことがあったら何でも相談してくださいね」という角度から入ると、非常に重宝されました(笑)。
マネージャーの業務を巻き取るHRBPとして重宝されると、「自分の存在意義」や「役に立っている感」を感じて、だんだん気持ちよくなってきました。ただ、「御用聞きをするために、この組織を立ち上げたんじゃないよな」っていうところが抜けていました。
現場の感謝で満足しているだけではダメで、経営理解をした上での戦略人事を志さないと真のHRBPにはなれないんですよね。
4-1 | HRBPが介入しすぎるとマネージャーが育たない
山下さん:結果として何が起きたのかというと、HRBPがマネージャー層にアドバイスをするなど、事業のことに介入しすぎることで、組織を育成するという本来の目的とずれて、HRBPが活躍してHRBPがいないと回らない組織になってしまったことがあったのは当時の反省ですね。
對馬さん:HRBPはマネジメントに関する専門性がマネージャーよりも相対的に高かったりするので、意識していないとそうなりがちですよね。
事業部側との信頼関係が全くないところから、いきなり経営課題について議論する場を設けても、本音を聞き出すことは難しいと思います。
なので、小さく稼いでいくフェーズは絶対必要で、そういうときは御用聞きからスタートするっていうのは、私は悪いことではないと思っています。
重要なのは、社長なり事業部長と「この半期でHRBPとして私は何をします、その次の半期は…」とポイントをきちんと握っておき、期待値をすり合わせておくことだと思います。中期目線でHRBPとしてのバリューの出し方のイメージを持ち、それを必要な人と共有しておくということですね。
5 | HRBPの人材開発
坪井さん:“HRBP”というキーワード自体は耳にする機会が増えたと思うのですが、HRBPに求められるスキルは何でしょうか。実際にDeNAではどのような議論がされてきたのかを聞かせてください。
對馬さん:この「HRBPに求める7つのスキル」を作った経緯でいうと、社内のHRBPが少しずつ増えていく中で、共通認識を用意しておかないとスキルに差が出るというタイミングがありました。そこで、自分が思い描くHRBP像を明確にしてみようと書きだしたのがきっかけです。
作った当初、メンバーからは「すべてのスキルを身につけるのは無理ですよ」とよく言われましたね(笑)。私の感覚でいうと全社の調整弁であり血流を担うHRBPは、これをすべてこなして当然という感覚でした。
なので、そのレベルでハイボールを求め続けましたけど、今振りかえると、この7つを完璧にこなせるHRBPはなかなかいなかったのも事実です。
菅原さん:去年この概念を使ってチームで自己評価をしてみたのですが、全体的に「The 人事」の業務に強いHRBPのほうが多かったですね。この結果を踏まえて『1.事業ラインの管理職と同等水準の事業理解』と『6.社長並みの全社目線』のところのスキルが上がるように意識的に取り組んでいました。
坪井さん:実際にどういったことに取り組まれていたんですか?
菅原さん:例えば、ビジネス系の本、経営系の本をひたすら読んでいましたね。基本的に人事は一緒に仕事をしていて、会社にいると黙っていても人事の情報は入ってきます。
そのため、プライベートの時間は事業サイドに寄せた情報収集に徹底していました。そうすることで事業部側と対等に会話ができ、結果的に信頼に繋がると思うので。
坪井さん:紆余曲折を経て「DeNAのHRBP」として機能を発揮できていると思うのですが、HRBPとして心掛けていることはありますか?
菅原さん:あります。一つは育成ですね。育成は基本的にチームでしかできないと思っているんですよ。特にDeNAは「人は仕事で育つ」を謳っているのですが、実際は「仕事だけ」では育ちません。仕事の中で周りからフィードバック、フォローアップがあって初めて人は育つと思っています。
やっぱり戦略的にHRBPを育成しようとしたら、お互いのフォローをする中で気づいていくというような部分がないと、人は育たないと思います。
もう一つは複眼です。人事の仕事ははっきりした答えがない仕事だと思っています。一人の目でなくて複数の目で見た方が絶対に仕上がりがいい。なので、そういう観点でもチームで戦略人事を実践できるように心がけた方が良いと思っています。
6 | おわりに
6月の初回に続き、今回は「失敗談から学ぶ戦略人事」をテーマに開催された『HRBP CRUNCH #02』。
戦略人事に関心がある人事担当の方々の間でも「HRBPを導入しても上手く機能するだろうか」といった不安はあるのではないでしょうか。また、イベント終盤には来場者から多くの質疑応答がおこなわれ、そこからも多くの学びを得ることができました。
・イベント名:HRBP CRUNCH#02 失敗談から学ぶ戦略人事
・開催日:2019年8月27日(火)19:30~21:30
・場所:渋谷ヒカリエ サクラカフェ@DeNAオフィス 24階
・URL:https://hrbpcrunch.connpass.com/event/141347/