昨今、大企業・中小企業関わらず、人手不足に悩んでいる企業は多いです。特に、建設業界では人手不足が深刻な問題になっています。
この原因は一体何なのでしょうか。また、それを解決するにはどうすればよいのでしょうか。
本記事では、建設業の人手不足の原因、解決方法をご紹介します。
1. 建設業界の人手不足の現状
建設業就業者は年々減少傾向にあります。全産業の平均就業者数が横ばいなのに対して、建設業は1997年を境に減少しています。2016年では平均の約半数まで減少していることがわかります。
また、鉄筋工や型枠工などの技能労働者も減少しています。ピークであった1998年には455万人いた技術技能者も、2011年では331万人に減り、約100万人以上も減っています。
また、全産業と建設業の有効求人率を比較してみると、建設業に関わる分野は全産業に比べて有効求人率が高く、一人あたりの求人数の多さがわかります。
特に、建設躯体工事の有効求人率は高くなっており、建設現場の人手不足が顕著であると考えられます。
2. 建設業界の人手不足の原因
少子高齢化により、労働者が減少しているため、どの業界でも人手不足です。しかし、なぜ建設業では深刻な労働力不足が起こっているのでしょうか。
ここでは、人手不足の原因についてご紹介します。
2-1. 若者離れ
建設業の人手不足の原因として、建設業界に興味を持つ若者が少なくなっていることが挙げられます。実際、1995年は64万9,000人だった20~24歳の建設業界入職者数が2010年では15万5,000人と、7割も減少しているのです。
興味を持つ若者が少なくなった理由は、建設業に対して「3K」の印象が強いからでしょう。3Kとは「きつい・汚い・危険」のことです。
建設業では週休二日制が定着していなかったり、肉体労働であったりと「きつい」ことは想像に難くありません。現場での作業のため、雨が降ってきた場合は、「汚く」なることもあります。高い場所での作業のため、命綱をつけているとはいえ「危険」です。
また、若者離れの要因として、建設業界の古い価値観と若者の価値観が合わなくなっているケースもあります。現在の若者は仕事に楽しさややりがいを求め、人間関係を重視する傾向にあります。建設現場の叱られながら学ぶという古い価値観が肌に合わないのかもしれません。
2-2. 離職率の向上
建設業界に入ってくる若者が減少していることに加え、離職率が高いことも人手不足の原因です。離職率が高い要因は、建設業における賃金の低さと長時間労働でしょう。
2014年の建設業の男性生産労働者の平均年収は408万円なのに対し、全産業の一般労働者の平均年収は479万円と、建設業は他の産業に対して年収が低くなっています。給与が低くなる理由としては2つ考えられます。
1つめは日給制であることです。月給制は月あたりの給与が一定額決まっていますが、日給制は遅刻・早退・欠勤によって給与が変わってくるため、収入が不安定である傾向があります。また、もらった日給を時給に換算し直すと、最低賃金よりも低いこともあります。
2つめは建設業に公的な資格がないことです。スイスやドイツにはマイスター制といって、公的な資格が存在します。そのため給与が高く、休暇もしっかり取れる仕組みがあります。
一方、日本では建設キャリアアップシステムという制度はありますが、公的な資格ではありません。職人の技能を証明し、正しく評価するための仕組みではありますが、あくまでも給与設計をするときの目安であり、具体的な給与額は各会社の裁量によります。
これら2つの理由によって、日本における建設業は職人の賃金が低く、離職率が高いのではないかと考えられています。
長時間労働については、全産業の年間総実労働時間が1741時間に対して、建設業は2078時間になっています。また、建設業では、29歳以下の若手の就業者は減っており、55歳以上の就業者が増えています。年配者にとって長時間労働をおこなうのは難しいでしょう。
2-3. 需要の拡大
需要が拡大していることも人手不足の要因です。リーマンショックがあった2008年から落ち込んだ建設業の投資額が、下図のように2011年から緩やかに増加しています。
2011年は東日本大震災があった年であり、住宅の建設やガレキ処理などの需要が高まりました。また、2013年には東京オリンピックの開催が決まり、競技場や選手村、また宿泊施設などの建設が進んでいます。東京オリンピックが終わるまで、需要の拡大は続くでしょう。
3. 建設業界の人手不足の解決策
このように、建設業界は深刻な人手不足に頭を悩ませています。この状況を打破するには、どうすればよいのでしょうか。ここでは、その解決策についてご紹介します。
3-1. 若者のイメージ改善
人手不足の要因の一つは、若者が建設業界に興味を持っていないことです。若者に興味を持ってもらうために、若者の建設業に対するイメージを改善することが求められます。
では、どのように建設業のイメージを改善したらよいのでしょうか。具体的な事例をご紹介します。
たとえば、若者に向けた建設業の魅力アピールをおこなっているのが「ゲンバ男子」です。ゲンバ男子は「Bplats」という大阪産業創造館が発行するビジネス情報マガジンの企画です。ゲンバ男子の内容は、中小製造業の現場で活躍する若手人材のかっこいい姿の写真を掲載しています。
また、文系学生などの「自分に関係ない」と思っている層へのアピールも必要です。そのためには、まず建設業と接点をつくることが重要です。
たとえば、建設現場での仮囲いに窓を設けて中が見えるようにしたり、仮囲いのデザインを募集したりといった取り組みが挙げられます。
また、小中学生に向けて、父親が働く作業所で子供参観を実施したり、大型重機への試乗会・見学会を実施したりなどの施策がおこなわれています。これらによって、建設業との接点をつくることが可能になります。
【参考文献】
3-2. 適切な工期設定
先ほどお伝えした通り、建設業界では需要が拡大しています。2020年のオリンピックに向けて、無理がある工期を設定する発注者もいます。
建設現場では、工事が天候に左右されてしまい、途中で作業を中断することも多々あります。工期に余裕がないと、遅れた分の作業を取り戻すため、長時間労働を強いられます。
このようなことを避けるために、適切な工期を設定する必要があります。国土交通省が2018年3月20日に発表した「働き方改革加速化プログラム」でも適切な工期設定を推進しています。実際に、公共工事では余裕のある工期設定がされています。
▶建設業の働き方改革加速化プログラムを詳しく知りたい方はこちら
3-3. 生産性の向上
建設業のイメージ改善で採用が進んだり、離職率が低下したりしても、人手不足が完全に解消されるとは限りません。そのため、従業員の生産性向上が求められます。
一般社団法人日本建設業連合会が2018年に発表している建築省人化事例集があるので、そちらを参考にしてみてはいかがでしょうか。全部で108の事例が掲載されています。今回は108の事例の中からそのうち3つの事例をご紹介します。
3-3-1. 現場上向きロボット溶接
梁の下フランジをオペレーターが操作するロボットによって上向きに溶接する工法です。一人のオペレーターが複数のロボットを操作できるため、省人化と省力化を実現でき、技術者不足に対処することができます。また、高い耐震性も実現できます。
3-3-2. 内装ボード貼りサービスロボット
石膏ボード貼りをロボットが代わりにおこなう工法です。アタッチメント交換をすることにより、天井・床・壁・外壁・塗装に対応することが可能です。
リモコン操作でビス止めやタッカー止めができるため、熟練した技術がいりません。また、女性でも操作することができます。
3-3-3. 移動式吊り足場(ラック足場®)
構造物に2本のラックレールを取り付け、それを軌道とした移動式吊足場工法です。ラック足場移動床を一度設置すれば、その後は軌道となるラックレールの延長作業のみで、工期短縮が可能となります。また、レールの延長距離が長くなるほど工期短縮効果が大きくなります。
4. まとめ
建設業では就業者数が少なく、有効求人率が高いため、深刻な人手不足に陥っています。
その要因として、大震災や東京オリンピックで需要が拡大しているにも関わらず、建設業に入ってくる若者が少ないことがあげられます。また、リーマンショックによる離職と低い給与や長時間労働が離職につながっています。
労働環境を見直し、求職者や労働者にとって魅力的な職場にすることが人手不足の解決につながるでしょう。