超売手市場といわれる現在、新卒採用のみならず、中途採用にも積極的に取り組んでいる大企業も少なくありません。中小企業の新卒採用や中途採用が困難であることは、今に始まったことではありませんが、中小企業が優秀な人材を確保するには、ますます困難な状況であるといえます。そこで今回は、「中小企業の採用課題とその解決策」についてご紹介します。
目次
1|中小企業の採用の現状
冒頭で述べたように、現在、中小企業の採用の現状は非常に厳しいものとなっています。以下では、中小企業白書の数値的データからみた「中小企業の採用の現状」をご紹介します。
▶中小企業の採用の現状
引用:2018年版「中小企業白書」第2部 第1章|中小企業庁
中小企業白書によると、2009年のリーマンショックをピークに、2013年以降は全業種において人手不足と感じている企業が多くなっており、特に建設業の人手不足感が顕著になっています。
経営上の課題として、「求人難」を挙げた中小企業の割合はバブル期に迫る水準となっており、「採用」は経営における最重要課題として認識されていることがわかります。
企業の従業員規模別に人材の未充足率をみると、規模が小さい企業ほど人手が足りておらず、特に従業員数29人以下の製造業は、1,000人以上の企業と比べて8倍の未充足率となっています。
また、直近5年間の高卒者の充足率に関しては、いずれの規模の企業においても減少傾向にはありますが、特に29人以下の企業は求人数の20%程度しか確保できていない状況であり、中小企業の中でも規模の小さい企業ほど人手不足が深刻であるといえます。
▶人手不足の真実
引用:2018年版「中小企業白書」第2部 第1章|中小企業庁
中小企業白書によると、大卒予定者の求人倍率において、従業員300人以上の企業は1倍程度で推移しているのに対し、299人以下の企業は約3倍~4倍で推移し、2017年には6.4倍になっています。2009年のリーマンショック後、規模の小さい企業ほど新規求人数を増加していることがわかります。
雇用者数の推移に関しては、従業員規模が29人以下の企業は減少傾向にある一方で、500人以上の企業は増加傾向にあります。2014年以降、500人以上の企業が29人以下の企業を上回り、規模の小さな企業ほど、採用難はますます深刻になっていると推察することができます。
▶中小企業が使っている採用手法
引用:2015年版 中小企業白書について|概要 – 中小企業庁 – 経済産業省
中小企業白書によると、中小企業が利用している中途採用の手法は、「ハローワーク」が最も多く、次いで「知人・友人の紹介」が多くなっています。
採用実現率では、「知人・友人の紹介」や「取引先・銀行の紹介」が高く、「自社ホームページ」が最も低くなっていることから、コストがかからず、かつ顔の見える採用手段が効果的だと考えられます。
しかしながら、中小企業の課題である中途採用の採用難を解決するためには、ホームページなどの媒体を利用し、多種多様な採用手法を試してみることも必要ではないかと思われます。
2|中小企業の採用課題とその解決策
以下では、中小企業の採用課題と、それぞれの課題に対する解決策をご紹介します。ぜひ、参考にしてみてください。
▶リソースが足りない
「専任の採用担当者を置けない」「採用に時間をかけることができない」「採用活動に予算をかけることができない」など、大規模かつ計画的な採用をおこなうことのできる大企業に比べて、中小企業の採用活動には多くの制限があります。
現実問題は、知名度だけでなく、リソースの面でも大企業と比べて大幅に不利となってしまいます。
【会社全体で採用活動をおこなう】
解決策として、社員全員が採用担当者になるという方法があります。例えば「希望の部署の社員が面接官の一人となる」「応募者の印象や感想を社員全員で共有する」など社員全員が採用活動に関わることで、リソース不足の解消につながります。
また、普段の業務が忙しく、面接や人物の選定に時間がかけられない場合は、事務作業や応募者への対応などの業務をアウトソーシングして、人材選びに集中するという方法も有効です。
▶優秀な人材が採用できない
中小企業は、知名度などの理由から、そもそも応募者数自体が多くないため、大企業のように大人数から選定することができず、確率的にみて、優秀な人材を採用することが困難であるといえます。
【 必要な人材を採用する】
「自社に必要な人材」を意識して採用することです。優秀そうな人材と、必要な人材は異なります。特に中小企業では中途採用の際、「適材適所」を考えて採用することが重要なポイントとなります。
募集をおこなっている部署で求められている人材の「性格」「スキル」「経験」など、具体的な人物像を明確に決めておくことで、採用の際、会社に本当に必要な人材を見極めることができます。
▶内定辞退者が多い
ネット上で、企業の評判や過去の就活者が提供している情報などをたくさん得られる大企業に比べ、中小企業の場合は、応募または入社前に、応募者がネットから得ることのできる情報は多くはありません。
また、大企業は就活サイトにおいても、自社ホームページにおいても情報が充実しており、上場企業の場合は、さらに売上や事業内容、平均勤続年数などもあらかじめ入手することも可能です。
労働条件等の待遇面や社風、職場環境などが不明確な点が、内定辞退につながっていると考えられます。
【採用時期をズラす】
解決策として、中途採用の採用時期をズラす方法があります。いわゆる、多くの企業が採用活動をおこなう春を避けて、秋の採用活動に重点をおく方法です。
秋は、春に比べると他社との採用競争が激しくなく、自社の求人情報が他社の求人情報に埋もれる可能性も、比較的低くなります。内定を多く保有している応募者も比較的少ないと思われ、企業としては、内定を辞退されるリスクが低減します。
春の就職活動に満足できなかった応募者には、「この機会を逃すと年内に就職できない」という大きな危機感もあるので、内定承諾率が上がると想定されます。
▶採用コストが必要以上にかかってしまう
採用手法として、就活サイトへの掲載や就活情報誌、新聞・雑誌などの求人広告があります。売手市場の現在では、自社の掲載情報が他社の中に埋もれてしまうことも多々あり、「1度や2度掲載しただけでは電話の1本も鳴らない」ということは珍しくありません。結果、採用コストが必要以上にかかってしまいます。
先程述べたように、中小企業の最も多く利用している中途採用の手法が「ハローワーク」や「知人・友人の紹介」などコストのかからないものに限られてしまうのは、これが原因とも考えられます。
【ダイレクト・リクルーティングを活用】
ダイレクト・リクルーティングとは、SNSなどのITツールを活用し、企業から直接人材にアプローチする採用手法です。企業側から直接アプローチすることができるため、知名度の低い企業でも気に入った人材に接触することができます。
就活サイトやハローワークが「待ちの採用」であるのに対し、ダイレクト・リクルーティングは「攻めの採用」です。大企業とは異なり、柔軟な採用活動をおこなえる中小企業にとって、安価かつ効率的で有効な採用手法だといえます。
3|まとめ
中小企業においてはどうしても、知名度が低いなどの理由から新卒採用が不利な立場にあり、また、人材育成にあまりコストをかけられないため、即戦力である中途採用を重視する必要があります。
ただし、大企業も積極的に中途採用をおこなうようになった今、中小企業における中途採用はますます厳しくなっています。そのため、中小企業は今ある採用課題を解決できる、新たな知的戦術が必要になってくるといえます。
いわゆる「ヒト、モノ、カネ」といったリソース面で不利な中小企業が、大企業に採用で勝つためには、同じ土俵で戦うのではなく、低コストで効果的な採用方法や、新しい採用方法を積極的に試してみるなど、多種多様で柔軟な採用活動が必要になってくるでしょう。