今回はRELATIONS株式会社が実践する採用方法についてインタビュー。
「最短4日で離職」というケースもあったくらいミスマッチが課題としてあったRELATIONS。しかし、選考のやり方を変えた結果、マッチング度が一気に改善したとのこと。
はたして、どのような選考方法をおこなっているのでしょうか。同社CCOの高橋さんにお話を伺いました。
【人物紹介】高橋 直也 | RELATIONS株式会社 CCO(Chief Culture Officer)
目次
RELATIONSは「ええ会社をつくる」会社である
-まずはRELATIONSの会社概要について教えてください。
高橋さん:RELATIONSは、2009年に創業した会社です。何をしているのかを一言であらわすと、「ええ会社づくり」をしています。
-「ええ会社づくり」ですか?
高橋さん:はい。「ええ会社をつくる」をミッションに掲げており、社内・社外に向けて2つの意味を込めています。
まずは、そもそも「自社が日本で一番ええ会社であろう」という内向きの意味合いです。
次に対社外では、良い会社をつくることで、良い人材が集まり、良いチームができる。 良いチームが仕事に情熱を注ぐことで、社会に大きな価値が生まれる。そのような会社を増やしていきたいという想いがあります。
社内の組織づくりの施策や、展開している事業に関してもすべてが「ええ会社をつくる」ことに紐付いていますね。
現在はおもに以下3つのサービスを提供しています。
1、コスト削減コンサルティング『Less is Plus』
「Less is Plus」は、クライアントのコスト構造を見直し、コストを適正化していくコンサルティング事業になります。累計で600社以上、平均3,700万円/社の改善実績を持っています。
2、現場の事例から学べるビジネスWebメディア『SELECK』
「SELECK」は、約600社の現場の事例を、「ベストプラクティス」としてインタビュー形式で公開しており、最新のITツールや、ビジネスノウハウについてのコラムも掲載しています。
3、組織のパフォーマンスを高めるマネジメントツール『Wistant』
「Wistant」は、組織のパフォーマンスを高めるマネジメントツールです。1on1を軸としたマネジメントサイクルをつくることで、組織のエンゲージメントとパフォーマンスを向上させるソリューションとして提供しています。
選考プロセスを「長く重く」した理由
-本題である、選考プロセスをあえて長く重くしたことについてお聞きしていきたいのですが、そもそもなぜやろうと思ったのですか?
高橋さん:これは、採用におけるミスマッチに対する課題感からです。
今から3~4年前は、2~3回の面接を実施して内定を出していましたが、双方の目線から「入社後ギャップ」が起こることがあって。
- 私たちが採用したい人材かどうか見極めができなかった
- 候補者の方が会社に求めているもの、期待しているものが実はRELATIONSにはなかった
その結果として、なかには最短4日で離職ということもありました。
-そこからどのようなプロセスを経て改革していったのでしょうか?
高橋さん:ミスマッチを防ぐために、「もっと良いやり方があるのではないか?」といった気運が社内で高まっていったんです。
そこで、採用に関わっていたメンバーを全員集めて、採用の振り返りを実施しました。そこで施策のアイデア出しをしていたところ「ワークサンプル」という手法が出てきたんです。
-ワークサンプルとはどういったものなのでしょうか?
高橋さん:ワークサンプルとは、選考の一貫として候補者の方に実際にオフィスで仕事をしてもらい、それを通じて見極めをおこなう方法です。
ラズロ・ボックさんの「ワーク・ルールズ!」では、によると、一般的な面接で判断できる候補者の職務能力は14%程度である一方、ワークサンプルではそれが29%となり、最も高いとのことでした。判断の精度が倍以上になるんです。
そこは自分の肌感覚と重なる部分があり、「是非取り入れよう」となったんです。そこからワークサンプルを軸に、採用プロセスを全部組み立て直していきました。
その結果として生まれたのが「長くて、重い選考プロセス」です。
「最終選考は7時間」「6人ルール」RELATIONSの選考内容
-具体的な選考プロセスを教えてください。
高橋さん:選考は大きく4ステップに分かれますが、その中には「6人ルール」というものがありまして、候補者の方は選考中に6人以上のメンバーと会ってもらうプロセスになっています。
候補者と会うメンバーには、配属先と関係ないチームの人間が入るように設計しています。あらゆるメンバーと会っていただき、お互いの理解をしっかり深めてもらいたいからです。
また、3次選考では、WEB適性検査を実施しています。事前に全社員にも受けてもらい、その結果を分析して面接以外の新しい判断軸を設けるようにしました。
そして、最終選考の内容がすごく重くなっています。ワークサンプル、ランチ会、面談×2と、実際7時間ぐらいをオフィスで過ごしてもらいます。
最終選考はすべて1日のコンテンツの中に詰め込んでやります。
-新卒採用並の選考プロセスかと思うのですが、選考のリードタイムはどのぐらいになるのでしょうか?
高橋さん:この前ちょうど計測したものをまとめたのですが、平均で35日かかっています。
以前の選考フローでは、2~3回の面接だったので平均17日でした。ですので、実際に2倍くらいのリードタイムになっていますね。
-平均で1ヶ月以上かかるということですね。
高橋さん:そうですね。やはり最初は不安しかなかったですね。
-リードタイムが長すぎることで選考辞退につながらないのですか?
高橋さん:選考辞退につながることはありませんでした。この選考プロセスにしてから最終選考を実施した人数は40名ぐらいなのですが、離脱された方は2名でした。選考途中の離脱率も5%以下ですね。
-離脱が少ないのは、何か理由があるのでしょうか?
高橋さん:まず大きいのは、最初の段階で「お互いが納得できるマッチングがしたい」と、なぜこの選考プロセスなのか、候補者の方にしっかりお伝えしているからだと思います。
また、選考プロセスの前半で、業務内容の詳細よりも、会社のミッションやビジョンなどの上流の考えについて伝える設計になっていることも要因かなと思います。
当社の場合、採用予定のチームのメンバーは最終選考まで出てこず、プロセス前半の面接はそれ以外のメンバーで実施するのが基本のパターンなんです。
ここの順番は、サイモン・シネックが提唱している「ゴールデンサークル理論」を意識しているんです。
-ゴールデンサークル理論とは何ですか?
高橋さん:人に何かしらの情報を伝えるときに「What(何を)・How(どのように)・Why(なぜ)」という構成要素があるのですが、「Why⇒How⇒What」の順序で伝えることが一番響きやすいという考え方です。
多くの人はWhatとHowの部分を主張しがちですが、まずはWhyの部分となる存在意義や目的を明確に伝えることが重要だと思います。
ですので、RELATIONSの採用プロセスでも「Why⇒How⇒What」をイメージしています。
選考プロセスの前半で「なぜやっているのか」「どうやっているのか」という想いや思想を伝え、選考が進むに従って現場がWhatを見せていく流れです。
詳細の検証ができていないので正確な効果はわかりませんが、これをすることで候補者の方への魅力づけが増しているのではないかと思います。
「内定承諾まで2ヶ月も」お互いの腹決めのために承諾期限は設けない
-実際にワークサンプルを実施した感触はいかがでしょうか。
高橋さん:やはりお互いの理解が深まり、良い目線合わせになるので、やって良かったと感じますね。
実際に選考時に「こういう仕事で、おもしろいですよ」「こういう魅力がありますよ」と説明されても、入社後の実際の仕事内容と結構違ったりするじゃないですか。
企業側は候補者の方の人物面や能力について深く知ることができますし、候補者側も仕事の実態が理解でき、働くイメージを描きやすくなるので、オススメですね。
-最終選考はワークサンプルも含め多くの時間を要しますが、これは平日に実施するものですよね?
高橋さん:そうですね。現職中の方でも、しっかりと休みを取って来てくださっているのでありがたいです。また、他社の内定期限が迫っていたとしても、その回答期限を交渉して参加してくれることもあります。
-他社での内定期限が迫っているときは、それに合わせて御社でリードタイムを短くすることはありますか?
高橋さん:はい、日程調整はできるだけ融通をきかせます。一番早いケースだと9日で選考を終えたこともあります。
長くて、重い選考とはいえ、基本的に無駄なリードタイムをつくらないようにしていて、その場ですぐに次の面接日程を組んだりしています。
-ちなみに、どのぐらいまで内定承諾の期限は延ばせるのでしょうか?
高橋さん:候補者の方の意向にあわせて、結構ゆっくりと待ちます。
当社では、「○○日までに回答してもらわないと困る」といった返答期限を一方的に切るようなやりとりは基本的にはしていません。
あれ、個人的に好きじゃないんですよ。諸事情で本当に期限を切らないといけない場合もありますが、私だったら「いやいや絶対に待てるよね」と思ってしまうので。
ただ、お互い腹を決めるのにどれぐらいの期間を要するものか目安は欲しいので「じゃあ、この1週間ぐらいで考えてみて一旦お返事をください」とお伝えします。
でも、ガチガチにはしませんね。「またそのときの状況でいろいろ動いていきましょう」みたいな感じで進めていきます。ですので、選考を終えてから承諾するまでに2ヶ月かかったメンバーもいます。
-最終的に内定承諾率はどのくらいになったのでしょうか?
高橋さん:内定を出した12名中の8名が承諾してくださっているので、だいたい66%くらいですかね。
-実際に入社した方々は「長くて、重い選考」ついてどのように感じていたのでしょうか。
高橋さん:1次選考で採用プロセスについてお話するのですが、やはり最初は「大変そうだな」と思われます。
ただ、「ここまでして、お互いを理解した上で採用をしたいんです」と、人に向き合う姿勢を一緒に伝えると、「そういった採用スタンスにすごく共感ができた」とおっしゃっていただけるので、そこはすごく良かったなと思います。
また、「入社してからもギャップがなくてイメージ通りでした」と言ってくれたメンバーもいました。人事・部長・社長と会って内定が出て、いざ入社したら雰囲気がイメージとまったく違うこともあるじゃないですか。
実際にオフィスの中に入ってきて、社員がどんな感じでコミュニケーション取っているのか、どんな仕事をしているのか。そこを体験した上で入社できているのが大きいという声もありますね。
-そうすると立ち上がりもスムーズそうですね。
高橋さん:そうですね。立ち上がりは良いですね。
入社した時点で、すでに社内に多くの知り合いがいるわけですよ。周りのメンバーも、自分が面接した人が入ってくるとうれしいじゃないですか。
ちょっとランチに誘ったり、飲み会を開催したり、そういったことも起きやすいので、受け入れもスムーズですね。
「S・A・B・NG」の4段階評価で候補者を見極める
-面接における合否の基準はどのように決めているのでしょうか?
高橋さん:当社では、S・A・B・NGの4段階評価をしています。
特徴的なのは、各選考フェーズの面接官は、それまでの他の面接官がつけた評価は見ることができないようにしています。ファクトの部分だけを引き継ぐようにしています。
-それはなぜでしょうか?
高橋さん:他人の評価に引っ張られてしまい、変なバイアスがかかってしまうためです。たとえば、「S評価」という申し送りがきたら、もうNGとかつけられないですよね。
なお、基本的にNGだとその場で不合格、B以上であれば次の選考に移っていくフローなのですが、最終選考はA以上でなければ不採用です。Bだと採用はできません。
これは過去の傾向から、1次・2次・3次の選考プロセスにおいて、Bが2個以上ついている候補者は、最終選考を誰も通過していなかったんです。
なので今では、NGでなくてもBが2個ついた時点でも不採用にしています。
-ちなみに、面接官のトレーニングなどはされているのでしょうか?
高橋さん:人材研究所の曽和さんに来ていただいて、おもしろい研修をやりました。
RELATIONSと採用競合するような企業の内定者を4~5人集めてきて、彼らを模擬面接するというワークをやったんですよ。
そこで、面接官のAさんは「すごく良い学生」と言うのに、Bさんは「そこまでマッチするとは思えない」など、ジャッジのズレが生じるんです。
面接の対応方法、インタビューで聞けている量の差など、ジャッジのズレの要因などについて、全員で体感して学んでいきました。
-内定者はどのように集めてくるのですか?
高橋さん:知り合いの人事の方に「こういう研修をやる予定なのですが、内定者の方に協力をお願いできませんか」とお願いしていきました。
-あえて自社との採用競合の内定者を選定したのは何か理由があるんですか。
高橋さん:明らかにターゲットと違う学生だと、十分な研修にならないんです。
RELATIONSの採用競合となる会社の内定者であれば、当社でも内定を出したいかどうかという合否のジャッジラインが絶妙になり、意見が分かれるので。
-なるほど、判断に迷うくらいの絶妙なラインを考えると、採用競合の他社内定者がぴったりだと。
「リクレポ」の活用で、全社が同じ目線で採用に取り組める
-「長くて、重い選考」は全社を巻き込む必要があると思ったのですが、そのために意識していることはありますか?
高橋さん:メンバーを採用に巻き込むために、別に苦労はしていないんですよね。
それは、会社のベースとなる考え方として、「自社の課題はみんなで解決していきましょう」というものがあるので、採用もその中の一つとして捉えてくれているためだと思います。
また、「リクレポ」という、社内向けの採用状況を可視化できるレポートを、人事チームが定期的に出していることも要因としてあるかもしれません。
-リクレポとはどのようなものでしょうか?
高橋さん:そもそもの採用計画や、採用の進捗などを共有しているレポートです。
-採用計画も見れるのはいいですね。自分ごと化ができるなと思いました。
高橋さん:そうですね。メンバーにも協力してもらっているからには、その結果や進捗をできるだけ共有して同じ目線でやっていきたいと思っています。
「長くて、重い選考」を他社にも推奨していきたい
-現在の選考プロセスにおいて、デメリットや改善ポイントだと感じる部分はありますか?
高橋さん:すでに乗り越えてきたものも含めてお話すると、ワークサンプルに対する見極めポイントが最初はブレブレでした。
ワークサンプルで何を見るべきか、誰もやってきたことがないので「こういう観点で良いと思った、ダメだった」と評価ポイントがすり合わないことが、最初のころはかなりありましたね。
あとは、デメリットとして大きいのは、日程調整が面倒なことですね。最終選考はこちら側も3人が関わりますし、候補者の方にも約7時間拘束する必要が出てくるので、3次選考から最終選考まで2週間以上空くことも多々あります。
-確かに日程調整は大変そうですね・・・。今後、さらに採用プロセスを磨き上げていくために考えていることはありますか?
高橋さん:見極め、惹きつけのレベルを全体的に底上げしていきたいですね。
私たちが掲げている「自律型の組織」においては、全員が採用活動に参加できる体制にしていくべきだと思うので、ここは課題でもあるし、やっていきたいですね。
-この「長くて、重い選考」を他社にもオススメしたいと思いますか?
高橋さん:基本的に、他社様にも勧めたいと考えています。
特にカルチャーづくりに力を入れている会社や、慎重に見極めをされている会社、見極めが難しい会社などは、メリットのほうが大きいと思います。
-カルチャーフィット重視や、見極めが難しい職種は、確かに良さそうですね。
高橋さん:互いにとってマッチングの精度が高まるのであれば、絶対にやるべきだと思います。
「人事と社長しか会っていないので現場のことがわからない」「オフィスの中の雰囲気がわからない」といった声がなくなれば、「4日で辞める」といったミスマッチもなくなると思います。
ちょっとマクロな目線で言うと、そのようなミスマッチがなくなることで、イキイキと働ける人がもっと増え、「ええ会社」が増え、社会全体が良くなっていくと考えています。
ですので、RELATIONSの選考プロセスに共感してくださって、部分的にでも真似してくださる会社様が増えると、とても嬉しいですね。