監修:行政書士 細田加苗
今や、人手不足の影響は宿泊業においても顕著といえるのではないでしょうか。政府は労働人口の拡大を求め、2019年4月に外国人に対して新たな在留資格「特定技能」を施行しました。
特定技能の中には宿泊業の資格も含まれており、宿泊業界においても外国人労働者が増加していくことが考えられます。そこで、今回は、宿泊業で外国人労働者を採用するために必要な資格や、採用の際に必要な書類・採用フローをご紹介します!
【監修】細田 加苗 東京都行政書士会新宿支部所属 行政書士法人jinjer社員
目次
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。
宿泊業において外国人はどれほどニーズがあるのか
日本政府観光局の調査によると、2018年の訪日外国人旅行者数は約3,119.2万人(前年比8.7%増)と、1964年の統計開始以来過去最多となっています。
政府が目標として掲げている訪日外国人旅行者数は、2020年4,000万人、2030年6,000万人であり、目標達成に向けた宿泊業の人材確保が必要となってきています。
また、宿泊業における有効求人倍率は全国で6.15倍(2017年度)で、現時点で約3万人の人手不足が生じており、2023年までには約10万人の人手不足が生じると見込まれています。
そのため、宿泊業を営む企業は、宿泊業の人手不足を解消するためにも訪日外国人と円滑にコミュニケーションをとることができ、一定の専門性や技能のある外国人を採用することが必要になってくるといえます。
1.宿泊業に従事する外国人のデータ
厚生労働省が出した「外国人雇用状況」の届出状況まとめによると、産業別外国人雇用事業所の割合を見たときに、全国216,348の事業所のうち「宿泊業・飲食サービス業」は、31,453ヶ所(前年同期比 0.2%増)で外国人を雇用しているそうです。
また、労働者数の割合から見てみても、全国1,460,463人の外国人労働者のうち「宿泊業、飲食サービス業」では、185,050人(12.7%)の外国人労働者が働いています。この割合は製造業・サービス業に続く数をしめており、年々増加していることが分かります。
2.宿泊業で外国人を採用するメリット
ここでは、宿泊業において外国人ならではの採用メリットをご紹介します。
訪日外国人旅行者に対する良好なコミュニケーションの担保
来年の東京オリンピックを目前に控え、今後、訪日外国人旅行者数はさらに増加することが見込まれます。それにともない、宿泊施設においても外国人旅行者への対応が求められるようになるでしょう。
このような中、文化や習慣が異なる外国人旅行者に合わせた対応をおこなったり、トラブルに対応するには国柄を理解している外国人がいると心強いといえるのではないでしょうか。単に言語の問題ではなく、コミュニケーションの質の面で対応できる外国人がいることは非常に重要です。
斬新なアイデアと高いモチベーション
生まれ育った環境や文化が異なる外国人は、日本人では思いつかないような斬新なアイデア・創意工夫が生まれる可能性が高いといえます。
また、日本に働きに来ている外国人労働者は向上心が高く働く意欲があるため、日本人労働者の良い刺激となりマンネリ化を防ぐという点も期待することができます。
外国人を宿泊業で採用する際に必要な資格
外国人労働者を宿泊業で採用する際には在留資格が必要となりますが、職務内容に制限があります。2019年4月より新たな在留資格「特定技能」が導入され、従事できる職務内容の幅が広くなりました。
特定技能も含め、外国人労働者を宿泊業で採用する際に必要となる在留資格についてご紹介します。
1.宿泊業で働く外国人が取得する在留資格
現在、外国人労働者を宿泊業で採用するには、次のいずれかの在留資格が必要となります。それぞれの資格で就労可能な業務内容も記載しましたので、参考にしてください。
※在留資格の種類によって職務内容の範囲が決められているため、それぞれの在留資格に該当しない業務をおこなった場合は入管法に違反する可能性があるので注意が必要です。
ⅰ)「技術・人文知識・国際業務」
・宿泊プランの企画立案業務
・訪日外国人旅行者マーケティング業務
・外国人の人事管理業務
・通訳・翻訳業務
・外国語でのフロント業務
ⅱ)「特定技能1号」
・フロント業務
・企画・広報
・接客
・レストランの配膳
・これらの業務に関連する館内清掃
※詳細は次章をチェック ▶2.特定技能による資格の変化
ⅲ)「身分系」の在留資格
・日本人の配偶者等永住者
・永住者の配偶者等
・定住者
※この在留資格には就労の制限なし
ⅳ)「技能実習」
宿泊業における在留期間は1年の「技能実習1号」のみ
※2019年7月の省令改正により在留期間が通算3年の「技能実習2号」、通算5年の「技能実習3号」への移行が可能に
ⅴ)「留学」「家族滞在」
別途、資格外活動の許可必須
※ほとんどの場合、「週28時間以内」に労働時間が制限される
ⅵ)「特定活動(日本の大学卒業者)」
・翻訳業務を兼ねた外国語によるホームページの開設、更新作業
・外国人客への通訳(案内)
・他の外国人従業員への指導を兼ねたベルスタッフやドアマンとして接客をおこなうもの(それに併せて、日本人に対する接客を行うことを含む)
※ 客室の清掃にのみ従事することは不可
ⅶ)「特定活動(インターンシップ)」
学業の一環として日本の企業などにおいて実習をおこなう活動であり、大学の専攻に関係する業務に従事する必要あり
ⅷ)「ワーキングホリデー」
ワーキング・ホリデー制度にもとづき、就労時間制限なし、ブルーワーカー的な業務も可能 ※風俗営業関係を除く
2.特定技能による資格の変化
2019年4月より導入した在留資格「特定技能」により、従来は認められていなかった外国人のブルーワーカー業務の就労が認められるようになり、清掃やレストランでの接客、荷物運びなどのいわゆるブルーワーカーといわれるような業務もおこなうことができるようになりました。
これにより、受け入れ見込み最大数の22,000人を上限として、宿泊業における今後5年間の外国人労働者数の受入れはより一層進むことが予想されます。
通常は、宿泊業の「特定技能1号」の在留資格を取得するため「日本語能力試験4級」「宿泊技能測定試験」に合格することが必須となっています。
しかし、前述のように2019年7月の制度改正によって、以前は1号のみだった外国人技能実習が2号や3号へと移行できるようになりました。技能実習2号を優良な実績で終えた実習生は、試験免除で特定技能1号に移行することができます。
この制度改正により、宿泊業においても技能実習→特定技能への移行が可能になったということです。
宿泊業における外国人:就労までのフローと必要書類
ここでは、外国人を採用してから就労するまでのフローをご紹介します。就労までのフローと必要書類は外国人が「日本国内在住」か「海外在留」で異なります。それぞれの場合に適した対応が必要です。
日本国内にいる外国人を採用する場合
[1]在留カードの有無を確認する
日本にいる外国人を採用するためには、在留カードの有無を確認します。原則として特別永住者の方以外で在留カードを持っていない外国人は採用することはできません。
[2]「在留資格」と就労予定の業務内容を照合する
就労予定の業務内容が「在留資格の範囲内の活動であるか」「在留期間内であるか」について確認します。
万一、異なる在留資格が必要となる場合は、在留資格の変更手続きが必要となりますので、在留資格の変更が許可される基準に該当しているか採用するまでに確認しておくことが大切です。
[3]雇用契約書を作成し署名をもらう
企業は雇用契約書の作成をおこない、外国人労働者に署名をもらいます。この際、雇用契約書は日本語のみならず外国人の母国語または英語で作成しておくと、外国人労働者に十分納得してもらうことができ、採用後の労務トラブルを防止することができます。
[4]在留資格変更申請をおこなう
就労予定の業務内容が在留資格の範囲内である場合、在留資格変更申請は必要ありません。しかし、転職する方には学歴や実務経験と業務内容が合致しているか確認することは大切です。
就労予定の業務内容が在留資格の範囲外である場合や留学生を採用する場合は、住居地を管轄する地方入国管理官署へ「在留資格変更許可申請」をおこないます。
この場合、在留資格の変更の事由が生じたときから在留期間満了日以前に申請することが必要です。
「在留資格変更許可申請」の申請時に必要となる書類
・申請書
・写真(1枚)
(縦4㎝×横3㎝、写真の裏面に氏名を記入し,申請書に添付して提出)
・日本での活動内容に応じた資料
・在留カード(在留カードとみなされる外国人登録証明書を含む)
・資格外活動許可書
・旅券又は在留資格証明書
(旅券又は在留資格証明書を提示することができない場合、その理由を記載した理由書)
・身分を証する文書(申請取次者が申請を提出する場合)
・収入印紙(4,000円)
※変更申請に関する詳細はこちら➡法務省:在留資格変更許可申請
[5]各種届出手続き
外国人が転職をして転職元の雇用契約が終了し、転職先の雇用契約の締結があった場合、転職元・転職先両方の契約について最寄りの地方入国管理官署に「契約機関に関する届出」を提出する必要があります。
また、外国人を採用した企業は、ハローワークへ「外国人雇用状況の届出」の提出が必要です。
※届出を怠ると、30万円以下の罰金が科されますので注意が必要です。
海外にいる外国人を採用する場合
[1]「在留資格認定証明書」の交付申請
外国人受入企業または申請取次行政書士等が、勤務予定地を管轄する地方入国管理官署へ「在留資格認定証明書」の交付申請をおこない、交付を受けます。
[2]「在留資格認定証明書」を本人に送付する
受入れ企業は発行された「在留資格認定証明書」を、海外にいる外国人へ送付します。その後、外国人本人が「在留資格認定証明書」および他の必要書類を現地の日本大使館または総領事館へ持参しビザ申請をおこないます。
「在留資格認定証明書」の申請時に必要となる書類
◆共通必要書類
・在留資格認定証明書交付申請書
・写真(1枚)
(縦4㎝×横3㎝)
① 申請前3ヶ月以内に正面から撮影された無帽、無背景で鮮明なもの
② 写真の裏面に申請人の氏名を記載し、申請書の写真欄に貼付
・返信用封筒(1通)(定型封筒に宛先を明記の上、392円分の切手(簡易書留用)を貼付したもの)
◆所属機関カテゴリーごとの必要書類
・四季報の写し又は日本の証券取引所に上場していることを証明する文書の写し
・主務官庁から設立の許可を受けたことを証明する文書の写し(カテゴリー1)
・前年分の職員の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計票(受付印のあるものの写し)(カテゴリー2・3)
・雇用契約書(カテゴリー3・4)
・登記事項証明書原本(カテゴリー3・4)
・会社概要(パンフレット)(カテゴリー3・4)
・直近年度の決算文書の写し(カテゴリー3・4)
・事業計画書、法定調書合計表を提出できない理由を明らかにする資料(カテゴリー4の新規事業の場合)
◆補完書類
・雇用理由書
・パスポートの写し
・大学、日本の専門学校等の卒業証明書(学位の記載があるもの)
・大学、日本の専門学校等の成績証明書
・語学の証明書(日本語検定やTOEICなど)
・履歴書、職務履歴書
カテゴリー1:主に上場企業
カテゴリー2:
「前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」の給与所得の源泉徴収票合計表の源泉徴収税額が1,500万円以上ある団体・個人
カテゴリー3:
「前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」の給与所得の源泉徴収票合計表の源泉徴収税額が1,500万円未満の団体・個人
カテゴリー4:
「前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」がない団体・個人
[3]就労ビザが発行され、外国人本人が来日する
就労ビザが発行されると、外国人は来日し企業で就労を開始することができます。
現地の日本大使館や領事館で申請後、就労ビザが発行されるまでの期間は各国で異なりますが、在留資格認定証明書の有効期限は発行日から3ヶ月以内であることが一般的です。
期限内に日本へ入国しない場合、「在留資格認定証明書」の効力は失われてしまうことになるので注意が必要です。
まとめ
今後増え続ける訪日外国人旅行客に対応するためには、今まで以上に外国人労働者の力が必要になってくるでしょう。
政府も宿泊業の人手不足や訪日外国人旅行客の増加に対応するために新たな在留資格として「特定技能」を創設したり、技能実習制度の改正など宿泊業で働く外国人労働者の受入れ体制を整えています。
そのため、宿泊業の採用担当者の方は、宿泊業に必要な在留資格や外国人労働者の採用課程や申請書類などを理解し、外国人労働者の採用をおこなっていくことが大切ですね!
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。