パートタイム・有期雇用労働法の施行に伴い、大企業では2020年4月1日、中小企業では2021年4月1日より、「同一労働同一賃金」の導入がスタートします。
今回は、同一労働同一賃金とはそもそも何なのか、企業がどのような対策をしなければならないのか、企業にどのような影響をもたらすのか、についてまとめました。
同一労働同一賃金に罰則はありませんが、放置すると損害賠償のリスクが高くなります。
同一労働同一賃金とは、「正社員と非正規社員を平等に扱う概念」のように認識されていても、具体的にどのような対策が必要かわからない方も多いのではないでしょうか?
本資料では、どのような状態が「不平等」とみなされうるのかや、企業が対応すべきことを4つの手順に分けて解説しております。 自社でどのような対応が必要か確認したい方は、こちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
1.同一労働同一賃金とは
同一労働同一賃金とは、「同じ労働(仕事)に従事する労働者には、雇用形態に関わらず同じ賃金を支給するべきである」という考え方です。
性別や人種などの違いで生まれた差別を禁じる「人権保障」の観点から生まれた考え方で、EU諸国で広く普及しています。
2016年に政府が「一億総活躍社会の実現」を目指して働き方改革を掲げた際に、その根幹となる制度として位置づけられたため、日本でも注目されるようになりました。
同一労働同一賃金の導入は、次の3つの課題を解決するための施策となっています。
①正規・非正規間の賃金格差が大きい
1990年代後半のバブル崩壊後、企業が安価な労働力としてパートやアルバイト、派遣などの非正規雇用労働者を利用するニーズが高まりました。
そのため、非正規雇用の拡大、および正規・非正規間の賃金格差が増大しています。
以下の図は、諸外国におけるフルタイム労働者(正社員)とパートタイム労働者の賃金水準を示した資料です。
(出典:「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告参考資料」)
資料によると、日本はパートタイム労働者がフルタイム労働者の約56%の賃金しかもらえていません。
また、諸外国と比べても、パートタイム労働者の賃金水準が日本は低くなっていることがわかります。
このように、正社員と非正規雇用労働者の間には大きな賃金格差があるのです。
②非正規雇用労働者の賃金が上がらない
高度経済成長期を支えた日本型雇用システムは、賃金カーブが勤続年数に応じて増加するため、給与の低い若い世代も勤続年数が上がれば給与が高くなることを期待できます。
しかし、非正規雇用労働者の賃金カーブは、日本型雇用システムのそれと異なります。以下の図は、雇用形態別の賃金カーブを比較したものです。
(出典:「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告参考資料」)
図からは、無期・有期パートや有期社員といった非正規雇用労働者の賃金は、ほぼ横ばいで推移していることがわかります。
非正規雇用労働者は勤続年数が増えたとしても賃金が上がらないため、生涯年収に関して正社員との間に大きな差が生まれているのです。
③非正規雇用労働者の割合は年々増加傾向
非正規雇用労働者の割合は年々増加傾向にあります。
バブル崩壊後の安価な労働力としてのニーズだけでなく、パートタイムや有期雇用労働者での女性の社会進出が進んだこと、派遣労働者としてキャリアアップを目指す人が増えたことなどがその一因としてあげられます。
以下のグラフは、非正規雇用労働者の推移を示したものです。
(出典:「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告参考資料」)
非正規雇用労働者の数は、今後も増加することが考えられています。
そのため、非正規雇用労働者でも安心して生活できるレベルまで給与や待遇を上げる必要が出てきました。
子供の教育費や老後の生活資金など、充実した生活をおくることができる環境を整える必要があります。
同一労働同一賃金は、「パートタイム労働法」に代わって「パートタイム・有期雇用労働法」が施行されるため成立する制度です。この法改正に伴い、これまで法律の対象ではなかった有期雇用労働者が法の対象に含まれることになりました。同時に「労働者派遣法」も改正されているのは、派遣労働者が有期雇用労働者の中に含まれるためです。
2.同一労働同一賃金への対策
同一労働同一賃金の導入により、企業が取るべき対策に関して、順を追って詳しく解説していきます。
厚生労働省や都道府県労働局が作成している「同一労働同一賃金ガイドライン」や「パートタイム・有期雇用労働法 対応のための取組手順書」なども参考に準備を進めてください。
2-1.労働者の雇用状況を確認する
まず、自社に法改正の対象となる非正規雇用労働者(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)がいるかどうか確認し、その非正規雇用労働者の雇用状況をチェックします。
その際に確認するポイントは、「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」の3点です。
職務内容 |
職務内容は、「業務の内容」+「責任の程度」で決定します。正社員と非正規雇用労働者の職務内容が同じか否か判断する上では、「業務の内容が同じか」「責任の程度が同じか」を客観的にチェックするようにしましょう。 |
職務内容・配置 の変更範囲 |
職務内容・範囲の変更範囲とは、人材活用の仕組みや運用がどうなっているかを指します。「人事異動の範囲が同じか」「役職や役割の変化の有無があるか」などです。 |
その他の事情 |
勤続年数や能力・経験の有無など、待遇を決定する要因はさまざまあります。そのため、雇用状況を考慮する上では、それぞれの労働者の状況についてもしっかりと整理しておくことが必要となってきます。 |
2-2.労働者の待遇状況を確認する
次に、各労働者の待遇の内容について確認します。その際には、給与だけでなく、各種手当や福利厚生などの内容もチェックしましょう。
【同一労働同一賃金】待遇に関するチェック表
また、そもそも非正規雇用労働者の賃金決定基準やルールが正社員と異なる指標で設定されている場合でも、客観的・具体的な実態を考慮した上で、待遇が異なることが不合理なものにならないようにする必要があります。
2-3.「均衡待遇」と「均等待遇」の実現を目指す
待遇状況を確認した後、正社員と非正規雇用労働者の不合理な待遇の差をなくすための施策を打つことが必要となります。
その際に重要なのは、均衡待遇と均等待遇が実現されるようにすることです。
もちろん、簡単に変えられない部分も多くあることと思います。
いきなり「給与体系を変えてほしい!」と言われても、すぐには対応できない企業も多いことでしょう。
初めから給与などの大きい部分に取り掛かるのではなく、交通費や食事手当など、変えることができる部分から少しずつ取り組んでいくことも重要です。
2-4.待遇に関する説明を可能にする
最後に、待遇に関して非正規雇用労働者に聞かれた場合に、しっかりと説明ができるように準備しておかなければなりません。
その際には、「比較対象」「説明内容」「説明方法」の3点に注意して準備するようにしましょう。
比較対象 |
非正規雇用労働者と正社員の待遇の間に不合理な差が無いことを示すために、それぞれの待遇を比較する必要があります。非正規雇用労働者と職務内容などが最も近いと判断できる正社員を特定し、その正社員の待遇を把握しておきましょう。 |
説明内容 |
非正規雇用労働者に説明することは、簡潔にわかりやすくまとめられている必要があります。「待遇に関する基準」「具体的な待遇の内容」「正社員との待遇の違い」など、整理しておきましょう。 |
説明方法 |
非正規雇用労働者が待遇について理解できるように、わかりやすく説明しなければなりません。資料(就業規則や賃金表)などを活用しながら、口頭で説明すること望ましいでしょう。また、全てをわかりやすく記載した文書を渡すなどで対応することが可能です。 |
3.「派遣労働者」への対応
前述の通り、同一労働同一賃金には派遣労働者も適用されます。
ただし、派遣労働者は人材派遣会社が雇用しているため、給与などの待遇を決定するのは人材派遣会社となります。
そのため、派遣労働者に対する同一労働同一賃金を実現するためには、人材派遣会社に比較対象となる正社員の待遇に関する情報を提供する必要があります。
直接雇用をしているパートタイム労働者や有期雇用労働者の場合と少し異なるので注意が必要です。
3-1.「派遣先均等・均衡方式」「労使協定方式」のどちらかを選択する
派遣労働者への待遇は、「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」の2つの方式のうち、どちらか1つを取ることになります。
全ての待遇状況を公開しなければならない派遣先均等・均衡方式は対応が難しいため、労使協定方式を採用することが多くなるかもしれません。
しかし、労使協定方式の場合は「均衡待遇」や「均等待遇」が正確に実現したとは言いにくいでしょう。
3-2.各方式における対応の流れ
(厚生労働省・都道府県労働局が作成した「平成30年 労働者派遣法 改正の概要 <同一労働同一賃金>」より抜粋)
派遣先均等・均衡方式の場合、比較対象の正社員の待遇に関する情報を人材派遣会社にすぐに提供する必要があります。人材派遣会社は、その情報をもとに派遣労働者の待遇を決定します。
一方で、労使協定方式は人材派遣会社が最新の統計を確認し、労使協定を結んだ後に、派遣労働者の待遇を決定していきます。
人材派遣会社に比較対象の正社員の待遇に関する情報をすぐに提供しなくても良いため、対応はしやすいでしょう。
4.同一労働同一賃金が企業に与える影響
ここで、同一労働同一賃金が、企業に対してどのような影響を与えるのかについて解説します。
良い影響と悪い影響について表にまとめると、以下のようになります。
良い影響 |
社員のモチベーションが上がる
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生産性が向上する
|
|
悪い影響 |
労務コストがかかる
|
同一労働同一賃金の導入により、企業にとっては今までよりも大きな労務コストがかかることが予想されます。
人件費だけでなく、交通費や昼食代、教育訓練や福利厚生にかかる費用など、さまざまなお金が必要になるでしょう。
しかし、同一労働同一賃金に対応をすることで得られるメリットも多くあります。
非正規雇用労働者のモチベーションが上がれば、仕事への満足度向上、および離職率が低下します。
潜在的な能力を秘めた非正規雇用労働者が活躍する機会が広がることも考えられるかもしれません。
- 同じ仕事であれば、賃金は同一であるべき
- 非正規社員のモチベーションアップにつながる
【反対側の声】
- 何を持って同一労働とするのか曖昧
- 日本の雇用慣習において欧米型の考え方は馴染まない
同一労働同一賃金の導入により各企業が受ける影響は不明瞭な部分も多く、同一労働同一賃金の考えに一定の理解はあるものの、現実的には対応しきれない企業も多くあるかもしれません。
いずれにせよ、制度の導入に合わせて、しっかりとした準備をおこなうことが大切です。
5.企業が注意すべきポイント
ここまで、同一労働同一賃金に対する対応についてまとめてきました。
さらに、これらを実施する上で注意しなければならないポイントについてもまとめました。
①正社員の待遇を引き下げてはいけない
「非正規雇用労働者の待遇を上げるために、正社員の待遇を引き下げる」という対応をしてはいけません。
同一労働同一賃金の導入は、非正規雇用労働者の待遇を正社員と同じにすることが目的ではなく、非正規雇用労働者の待遇が改善されることが目的です。
また、正社員の待遇が現状よりも悪くなることがあれば、正社員の仕事に対するモチベーションが低下してしまいます。
②同一労働同一賃金のための正社員を作ってはいけない
同一労働同一賃金に対応するために、比較対象として非正規雇用労働者に近い待遇の正社員を新たに作ることは望ましくありません。
もちろん、正社員の中にも総合職や一般職などさまざまな違いがあり、待遇にも差があるでしょう。
その中で、全ての雇用管理区分の正社員と非正規雇用労働者の間にある不合理な待遇の差を解消しなければなりません。
③職務内容の違いを客観的に考慮した待遇に
正社員と非正規雇用労働者の職務内容を分け、職務内容が異なることを理由に待遇を決定してはいけません。
それぞれの職務内容に応じて、その職務の大変さや責任の重さなどは異なります。バランスを考慮した上で、正社員と非正規雇用労働者が合理的だと判断する待遇にする必要があります。
④さまざまな支援を活用する
同一労働同一賃金の導入に際して、政府や労働局はさまざまな支援を実施しています。
- 全国で「働き方改革推進センター」が設置され、労務管理の専門家が無料で相談や支援をしてくれる
- 各種対応のための情報(ウェブサイト・資料・マニュアルなど)が提供されている
- 裁判外紛争解決手続『行政ADR』の規定の整備により、労働局長による紛争解決援助が受けられる
これらさまざまな支援があることを念頭に置いた上で、同一労働同一賃金の導入に際して適切な対応ができるように準備してください。
また当サイトでは、同一労働同一賃金について、基礎知識から企業が対応すべきことまでまとめた資料を無料で配布しております。
自社の同一労働同一賃金に対する対応が問題ないか不安なご担当者様は、こちらから「同一労働同一賃金 対応の手引き」をダウンロードしてご確認ください。
6.まとめ
日本の人口が減少する中、企業が人手を確保することはとても重要です。非正規雇用労働者への待遇が改善されることは、自社で雇用する労働者全体のモチベーションを上げるとともに、人材獲得や人材定着につながることでしょう。
もちろん、企業側にはさまざまな点において負荷がかかることと思います。簡単に対応できるものではありませんが、法律が施行されれば対応しなければなりません。
同一労働同一賃金の背景について理解した上で、自社で取るべき対応について時間をかけて検討していくことが求められます。
同一労働同一賃金に罰則はありませんが、放置すると損害賠償のリスクが高くなります。
同一労働同一賃金とは、「正社員と非正規社員を平等に扱う概念」のように認識されていても、具体的にどのような対策が必要かわからない方も多いのではないでしょうか?
本資料では、どのような状態が「不平等」とみなされうるのかや、企業が対応すべきことを4つの手順に分けて解説しております。 自社でどのような対応が必要か確認したい方は、こちらから資料をダウンロードしてご確認ください。