こんにちは、HRNOTE編集部の高木です。今回はアメリカではすでに主流のピアボーナス事情について紹介します。
ラスベガスで開催された世界最大級のHRカンファレンス2017にて、「Discovering the Next Great HR Technology Company」というビジネスコンペティションのセッションがあり、カリフォルニアに拠点がある2013年に設立したスタートアップBlueboardという企業が優勝しました。
Blueboardは、「報酬プラットフォーム」サービスを展開しており、「Points-Based Rewards Systems(=ポイント制ピアボーナス)」に関する記事を公開しています。
その記事では、”ポイント制ピアボーナス”の「強み」や「注意するべき点」、また評価制度において重要なことなどについて説明しており、今回はその内容についてまとめてみました。
目次
原文:The Problem With Points-Based Rewards Systems
【HRTech Conference 2017】ラスベガスで見た最先端のHR情報をレポート#Day1
1. ピアボーナスとは?
ピアボーナスとは、従業員が仕事においてよい働きや感謝されるような行為をおこなった際に、その従業員に対して報酬を付与するという制度です。
昇格などを決める際に参考にする評価制度とは違い、従業員のエンゲージを向上させるために導入されています。
日本語ではよく「ポイント制ピアボーナス」や「ピアボーナス制度」、「ポイント制賞与制度」といった言葉が用いられます。
1-1. ピアボーナスで報酬としてもらえるもの
給与などに変換される「社内ポイント」や、ショッピングで使える「ギフトカード」、また旅行やイベントなど「コト消費」が、報酬として付与されることがよくあります。
しかし、今回紹介する記事の著者であるKevin Yip氏は、「従業員同士を評価する際に、ポイント制の報酬制度を導入するべきか」という質問に対して、いつも決まって「 NO」と答えるようです。
1-2. ピアボーナスが注目されている背景
ピアボーナスが注目を集める理由としては、先述の通り、従業員のモチベーションやエンゲージの向上が挙げられます。従業員の仕事に対するモチベーションが向上すれば、生産性が上がり、業績アップに結びつきます。また、離職を防ぐ効果があることは言うまでもありません。
どのように従業員のモチベーションを上げたらよいか悩んでいる人事担当の方にとって、ピアボーナスは魅力的な制度だといえます。
1-3. ピアボーナスは活用次第では効果が出ない?
人事制度として効果的な制度にも思えるポイント制のピアボーナスですが、「活用次第では効果がでない」といった調査結果も出ています。
アメリカではよい働きをした従業員に対して与えられた報酬の金額(ギフトカードや旅行、社内ポイントなどすべて含む)が、毎年900億ドルを上回っています。
しかし、世界最大の会計事務所のDeloitteが発表した『Bersin』 では、報酬として費やされたコストのうち87%が、従業員のエンゲージメントやパフォーマンス、リテンションなど組織の目標に対して影響がないと主張しました。
Yip氏はこうした問題を深掘る前に、「ポイント制のピアボーナスの強みについて理解することが重要」と以下の4点を挙げています。
2. ピアボーナスのメリット
ピアボーナスを導入することには、以下のようなメリットがあります。
2-1. 手軽に運営できる
ポイント制ピアボーナスは手軽に運営できるとして、米国の多くの企業が導入しています。
またITのサービスを活用し、一つのプラットフォーム内で運用することで、マネージャーや従業員がプラットフォームを通してお互いにポイントを付与することができるほか、付与したポイントの量などをカンタンに管理することもできます。
2-2. 高い頻度で活用される
従業員が他の従業員に対してポイントを付与する際に、柔軟に金額を決めることができます。
たとえば、企業によっては人事評価制度などに費やす予算に制限がある場合も多いでしょう。
しかし、ポイント制ピアボーナスなら付与する際にポイント額には柔軟性があるため、少額から制度を活用することができ、そのため高い頻度で制度が活用されることが期待できます。
従業員も破産することなく、ポイント制ピアボーナスを利用することが可能です。
2-3. 社内のコミュニケーションが活性化する
従業員同士でポイントを付与するにあたって、上司や同僚、後輩といった垣根を超えて、さまざまな人物を観察する必要が出てきます。
その過程で、他の従業員の新たな良い一面を発見できたり、挨拶や会話が生まれたりするため、必然的に社内のコミュニケーションは活性化するでしょう。
2-4. 従業員エンゲージメントが向上する
ポイント制ピアボーナスでは「ポイントをもらう」という行為に伴い、「承認された」というポジティブな感情がもたらされます。
会社や他の従業員から評価されていると感じた従業員は、より組織への帰属意識が高まり、仕事を通して貢献したいと考えるようになります。
3. ピアボーナスのデメリット
Yip氏は、「ポイント制ピアボーナスが違った方向で活用される問題もある」と指摘しています。
また、こうした問題を抱えることでポイント制ピアボーナスが組織にもたらす効果が薄まり、継続性も損なわれると指摘しているため注意が必要です。
では、具体的にどのような問題が起こる可能性があるのでしょうか。Yip氏が指摘するポイント制ピアボーナスの問題は以下となります。
3-1. ポイント制ピアボーナスと組織の目標達成に相関性がない
「ポイント制ピアボーナス」と「組織の目標達成」の関連性がはっきりしていないとYip氏は指摘しています。
従業員はより充実した製品に交換するために、付与されたポイントを使わずに貯め込む傾向があります。
また、ポイントを稼ぐために膨大な時間を費やし、それ自体が目的となり組織の達成に結びつかない可能性もあるでしょう。
一方で、どの行為が「ポイント稼ぎ」といった意図でおこなっているのか、区別が難しいといった点が”ポイント制ピアボーナスの落とし穴”とYip氏は述べています。
3-2. 与えられたポイントや報酬が使用されないケースもある
「できるだけ充実した商品と交換しよう」と、ポイントを貯めようとする従業員に起こりがちな2つの問題をYip氏は指摘しています。
3-2-1. 未使用のまま放置されるギフトカード
ポイントがある程度貯まり、いざ商品と交換する際に、50ドルほどのギフトカードを付与されることが多くあります。
しかし、この行為自体が企業にとって巨額の損失につながっている可能性が高いとYip氏は指摘しました。
Yip氏の記事で紹介していたデータによると、付与されたギフトカードうち、約3分の1のギフトカードが未使用の状態のまま放置されているといった事実があります。
未使用のまま放置される理由としては、ギフトカードをもらった本人が使用することを忘れていたり、紛失したり、初回の買い物以降、使用しておらず残されていたり、といったケースが挙げられます。
同調査によると2008年度には「210億ドルのギフトカードが使用されずに残されていた」という事実がわかりました。
3-2-2. 貯めたポイントが使用されずに忘れられている
従業員はよい商品と交換するためにポイントを貯めるものの、ポイントを貯めていることを忘れてしまい、そのまま放置されるといった問題があります。
結果として、数百万ドルの価値にあたるポイントが交換されずに貯蓄されたままの状態になり、予算の無駄使いになってしまっているといった現状もあるのです。
ポイントが積極的に使用されるようにするためには、これまでの制度に新たなルールを導入するなど工夫して、従業員が積極的に利用する動機付けも必要となります。
3-2-3. 従業員同士が「ポイントのための関係」になりかねない
よい働きをした従業員に対してポイントを付与する制度は「本当に感謝の気持ちを表現する制度として活用されているのか」といった点に、Yip氏は疑問を投げかけています。
実際には、「ポイントを稼ぐため」など不誠実な動機で制度を活用する従業員がいることも事実です。
「どうやってポイントを稼ごうか」と戦略的に考え、従業員同士がポイントのために行動を取ることも懸念されます。
Capgemini Consulting によると、ロイヤルティーを向上させる制度のうち、97%がポイント制の報酬制度であり、そのうち77%が最初の1、2年で失敗しているといったデータもあります。
3-3. ピアボーナス制度の導入に手間とコストがかかる
ポイント制ピアボーナスでは、ポイントを貯めると商品と交換できますが、その商品を購入するための資金が必要となるのは言うまでもありません。また、目立つ部署や人物にスポットライトが当たりがちであることも、制度の懸念の一つです。
普段、他部署と関わることのない部署や職種の人物は、評価されていないことに不満を感じる可能性があるため、運用ルールの制定や適切な対処が必要となります。
4. ピアボーナス制度を含む評価制度の重要性
ポイント制ピアボーナスに関して、「強み」や「注意点」などについて見てきました。
Yip氏はポイント制ピアボーナス以外の承認制度も模索するべきだと主張しています。
また以下の3つ理由をもとに、「従業員のために承認制度の改善に取り組む努力」は必ず組織に「よい結果を生み出す」と述べています。
4-1. 幸福度の高い従業員はより高い成果を出す
幸福度の高い社員は、顧客満足度を向上させるために働くので、結果として収入が増えます。
充実した承認制度に時間や資金を投入し、従業員の幸福度が向上するような承認制度を設計することで、最終的に企業に大きなリターンが返ってくるでしょう。
4-2. 充実した評価制度は求職者も惹きつける
従業員の興味を誘う話題性がある承認制度は、自然と社内にも浸透します。
そういった動きはGlassdoorのような企業文化を理解するために役立つ企業クチコミサイトにも記載されるようになり、結果として、求職者の興味を惹き付けることにもつながります。
人材募集に苦労している企業は、ピアボーナスの導入を検討するとよいでしょう。
4-3. 効果のない評価制度は組織に悪影響を及ぼす
優秀な従業員を惹き付けるためには、積極的に従業員に時間やお金を投資する必要があります。
一方で、数年にもわたり効果のない承認制度を引き続き導入することは、従業員のモチベーションや優秀な人材の定着などに、悪影響を及ぼします。
従業員の流出やモチベーションの低下が続いている場合は、ピアボーナスを含む、新しい評価制度を考えることも必要です。
5. ピアボーナス制度導入で失敗しないためのポイント
ここでは、ピアボーナス制度の導入にあたって気をつけたい、3つのポイントを紹介します。
5-1. 導入の目的を明確にしておく
ピアボーナス制度を導入する際は、最初に明確な目的を設定することが重要です。これにより、従業員全体が導入の狙いを理解し、モチベーションを高めることができます。
たとえば、生産性向上やチームワークの強化などといった具体的な目標を定め、それに基づいて制度を構築することで、効果的な導入ができるでしょう。
5-2. 上のポジションの人も積極的に参加する
ピアボーナス制度の運用は、組織全体での協力が必要です。上司や役職者が積極的に参加し、他の従業員へ模範を示すことで、制度への信頼感が高まります。
また、役職者が参加することで従業員は適切に評価されていると感じるため、モチベーションやエンゲージメントの向上につながります。
5-3. 自社に合った運用ツールを利用する
ピアボーナス制度の効果的な運用には、適切なツール選びが重要です。日常的に業務で使用しているチャットツールや社内SNSなどから簡単にアクセスできるツールであれば、使い勝手が良いため、制度の浸透を期待できます。
また、長期的な運用のために、料金面の負担が少ないツールを選ぶのもポイントです。
6. ピアボーナスの運用ツール
ピアボーナスの運用では、称賛や承認などのメッセージのやりとりが欠かせません。やり取りを管理し制度を効果的に運用するために、専用のツールを導入する企業が増加しています。
ピアボーナスの運用ツールには、メッセージとポイントの送信機能に加えて、利用状況や送受信内容の管理機能が求められます。必要な機能に絞って運用したり、多彩な機能を活用したりと、自社に合った方法でピアボーナスツールを使いましょう。
ここからは、ピアボーナス制度の導入を検討している企業に適した運用ツールを紹介します。
6-1. TUNAG
TUNAGは、株式会社スタメンが提供するピアボーナス運用ツールです。
TUNAGの特徴的な機能として、サンクスカードが挙げられます。サンクスカードは従業員がお互いに感謝の気持ちを記して送り合えるカードです。送信によるポイント付与機能があるので、称賛によるコミュニケーションの活性化やモチベーション向上が期待できます。
ほかに、TUNAGには上司と部下の1on1ミーティング機能、社内報や採用情報など会社からのメッセージ機能も付帯しています。SNSやチャットの機能、ファイル共有機能なども付随しているので、さまざまな業務においてフレキシブルに活用できるでしょう。管理者は利用データの閲覧やプロフィール管理、エンゲージメント診断といった機能も使えます。
システムの導入時には専任コンサルタントが一括サポートをおこなうので安心です。事前のコンサルティングを通して、会社のビジョンをヒアリングしたうえで適したシステムをカスタマイズしてもらえます。
6-2. Unipos
Finger81株式会社が提供するUnipos(ユニポス)は、株式会社メルカリやアース製薬、三越伊勢丹などの大手企業にも導入されている人気のピアボーナスツールです。
お互いの業務や貢献に対する感謝や称賛、激励のメッセージを送り合える基本機能に加え、便利なサービスが豊富に付帯しているのが、Uniposの特徴です。アナリティクス機能やタイムライン、ハッシュタグなどの機能も活用できます。
デザインや機能はシンプルで、誰もが使いやすいスタイルになっています。セキュリティ対策が十分に行き届いており安心して使えるのもUniposならではの魅力です。気軽な称賛コミュニケーションを通じて組織の課題を解決できる、頼れるツールです。
7. ピアボーナス制度を導入してコミュニケーションを活性化させよう!
いかがでしたでしょうか。Yip氏は、米国で主流のポイント制ピアボーナスを完全に否定しているわけではなく、より従業員に寄り添った制度を導入することが重要だと主張している印象を受けます。
「ただポイントを従業員に付与すればいい」と捉えて導入するのではなく、それぞれの従業員に適した報酬を付与するなどの取り組みが重要になるのではないでしょうか。
国内でも徐々に導入され始めたピアボーナス。これから導入を検討されている方は、Yip氏が主張するピアボーナスの強みや注意点を一度参考にしてみるのもいいかもしれません。