「人と組織を動かすエンジンになる」をテーマに発足した、人事コミュニティ『HR ENGINE』のイベントレポートをご紹介。
イベントの前半では、株式会社HARESの西村 創一朗氏が「複業×採用」について登壇。
後半はサイボウズ、ライフネット生命保険、ガイアックスの3社による複業に関するLT(ライトニングトーク)がありました。
西村氏は、複業解禁の推奨派で、複業が解禁されるようになった産業的背景や、企業が複業を解禁するメリットについてお話されており、ライトニングトークでは、各社の実体験をもとにした考え・ノウハウが満載でした。
是非、ご覧ください。
目次
第一部:「複業時代」を生き抜く人事&採用戦略
複業の現状
西村 創一朗 | 株式会社HARES 代表
複業研究家/人事コンサルタント。1988年神奈川県生まれ。大学卒業後、2011年に新卒でリクルートキャリアに入社後、法人営業・新規事業開発・人事採用を歴任。本業の傍ら2015年に株式会社HARESを創業し、仕事、子育て、社外活動などパラレルキャリアの実践者として活動を続けた後、2017年1月に独立。独立後は複業研究家として、働き方改革の専門家として個人・企業向けにコンサルティングを行う。講演・セミナー実績多数。2017年9月〜2018年3月「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」(経済産業省)委員を務めた。
西村氏:2016年の6月にロート製薬が複業を解禁したことがきっかけで、複業解禁に取り組む企業が増えました。
もちろんサイボウズをはじめ、2年以上前から複業を解禁している企業はあったのですが、その多くはIT企業でした。
そのため、「複業OKなのはIT業界の話であって、製造業とか金融業などは関係ない」という風潮がありました。
しかし、製薬メーカーのロート製薬が複業を解禁したことによって、多くの一部上場企業の経営者・人事の中で「うちの会社は複業解禁する?しない?」と議論されるようになりました。
そして、新生銀行が複業解禁を決めたり、国家公務員の兼業を認める動きが進んだりと、この2年で急速に複業が進んでいます。
2014年から2016年のたった2年間で、複業をOKしている会社が8%も増えているんですね。今はもう3割を越えているといわれてます。
複業解禁と同時に、複業で活躍できる場も増えてきています。その結果、1人あたりの複業による収入も増えています。
複業解禁が解禁された理由
西村氏:なぜ今複業が解禁されているのでしょうか。僕は、産業構造が変わって、それにともない最適な働き方も変わったからだと考えています。
今でこそ、日本の終身雇用という考え方は古いといわれていますが、50年前は世界的に見ると終身雇用という考え方は新しい働き方でした。
「『終身雇用』『年功賃金』『解雇規制』という御恩を与えるから、『長時間労働』『単身赴任』『複業禁止』という奉公をしてね」というのが企業からのメッセージでした。
高度経済成長期においては、この働き方が最適だったと思います。しかし、今の日本ではこの働き方は最適ではありません。
「今の時代にあった働き方に改革していかないとやばいよね」ということで、安倍総理の働き方改革推進が立ち上がって、プロジェクトが進んでいます。ここ2年の複業解禁の動きがその一つの形だと思います。
会社員をメインに働きながら、社外でフリーランスとして働いたり、NPOで働いたりと、自分自身を分散投資することが当たり前の時代になってきていると思っています。
複業解禁における7つのメリット
西村氏:企業の視点で複業解禁を見たときに、今まで「うちの会社だけで働いてください」というところから、「どうぞプライベートな時間は他の会社で働いていいですよ」と変わるんですね。
一般的に、複業を解禁すると、「本業に支障をきたす」といわれていますが、企業側のメリットもあります。企業にはどのようなメリットがあるのかをご紹介していきます。
- 会社が教育研修費をかけずにスキルアップ
- 知見が広がることで、社内では得られないアイディアが得られる
- 自分が詳しくない分野の人とのつながりが増える
- やりたいことをやるので、働きがいやモチベーションが上がる
- 「複業OK」を発信することによって、採用で優位に立てる
- 複業での社外活動が会社のブランディングにつながる
- 社員の離職防止
7つ目の離職防止は意外なことだと思うかもしれませんが、複業OKだということが結果的に社員の離職防止につながります。
「こういうことやりたいんで、やりたいこと実現するために転職をします」という意見に対して、「それって正直、隣の芝が青いかもしれないじゃないの?」と思う場面もあると思います。しかし、転職を止める手段はないんですね。
しかし、複業OKだと、「いきなり転職して、『やっぱり違いました』ってなるのであれば、まずは複業でやってみたら?」と提案することができます。
実際に複業でやってみた結果、「複業っていう距離感でやるのが、ちょうどよかったです」ということで、離職防止につながった中小企業の事例は多くあります。
また、複業ができることによって、ガス抜きができ、結果的に離職防止につながることも、最近の研究で明らかになってきています。
複業採用の魅力
西村氏:これまでの話は、社員の複業を認めるという中から外への複業のお話でしたが、一方向だけではもったいないと思っています。
複業でうちの会社で働いてもらうという、外から中への複業をもっと進めていくべきでしょう。それが「複業採用」です。
今、採用市場では、非常に採用難易度が上がっています。求めているスキルに完全に当てはまる人をフルタイムで、この給料で採用したいというのは難しいです。
そういうときには、方法が二つしかありません。
一つは、まだスキルが追いついてない人を採用して育成していくこと。もう一つが、複業採用で、週に1日でも2日でもいいので、スキルがある人を「複業社員」として採用することです。
人手不足の企業は、複業採用を導入することをおすすめします。
第二部:「わが社の複業×採用を語る!」LT大会
LT 01|複業OKの会社の人事が複業してみた:サイボウズ 武部氏
武部 美紀 | サイボウズ株式会社 人事部 採用育成担当
大学卒業後、2005年に人材系コンサルティング会社に入社。営業兼コンサルタントとして中小企業の採用教育企画、組織開発を支援。その後、企業ブランディング専業のコンサルティング会社の戦略プランナーを経て、2016年にサイボウズ株式会社に入社。人事部採用育成チームに所属。複業採用プロジェクトを担当している。
【概要】
武部氏はサイボウズで採用担当として活躍しながらも、個人としてコンサル会社で複業しています。
実際に複業してみて、どのようなメリット・デメリットを感じたのか。その上で、企業目線で複業を導入するメリットは何か、お話しされていました。
複業による個人のメリット
- 複業という選択肢がなければ、キャリアを選択するときに、自分のやりたいことを諦めないといけない。
- しかし、複業という選択肢があれば、複数のキャリアを選択できるので、やりたいことを諦めずにすむ。
- 複業で使う知識は異なるので、本業だけでは得ることができない経験を得ることができる。その結果、将来のキャリアプランを豊かになる。
複業による個人のデメリット
- 本業の業務に複業の業務が重なるので、平日がすごく忙しくなる。また、請求書発行・確定申告などの事務作業に時間を取られる。
複業による企業のメリット
- 複業を含めた多種多様な働き方の人材を受け入れることで、社内にさまざまな人が入ってきて、イノベーションが起こりやすくなる。
メッセージ
LT 02|パラレル採用の始まり:ライフネット生命 篠原氏
篠原 広高 | ライフネット生命保険株式会社 人事総務部 マネージャー
ライフネット生命 人事担当マネジャー。新卒採用、中途採用、人材開発、組織文化醸成等を担当。
新卒で人材採用支援企業に入社。営業、ユーザーセールスグループを経て、フリーランス転身。採用担当者向け講演、就活生向けフリースペース運営、大学法人向け営業等に従事。パララルキャリアで大学の芸術学部にてキャリア支援をしている。
【概要】
ライフネット生命には、「申請をすれば複業できる」制度があります。
この複業制度のノウハウを採用に活かそうということで、2018年の5月からパラレルイノベーター採用(複業新卒採用)を始めています。
パラレルイノベーター採用とは、ライフネット生命で働くのは週3日から4日でOK、新卒から複業可能なものとする採用活動です。
篠原氏がパラレルイノベーター採用を始めて重要だと感じたポイントを中心にお話しされていました。
複業解禁を採用に結びつけるために
- 中途採用は、求めている人物像が明確。募集要項をつくる段階で複業としてジョインする方を想定してつくることはほぼないので、そもそも複業を志向する方は集まりづらい。
- 新卒からの複業をOKにしている企業はほとんどないが、ライフネット生命には複業を応援する文化があるため、「新卒採用×複業」の企画をつくれると考えた。
- 複業解禁が広まっているとはいえ、会社が社員の複業を応援しているケースは多くない。社員に「複業をしてもいいんだ」「会社は応援をしてくれるんだ」という印象をもってもらうには、一定の時間と工夫が必要。
複業採用をはじめて良かったこと
- パラレルイノベーター採用をはじめたことで、メディアなどでも取り上げられる機会が増え、社内外に「働き方が柔軟そう」「働きやすそう」という印象が広がった。
- その結果、パラレルイノベーター採用はもちろん、それ以外の採用への応募者が増えるなど、採用力の強化につながっている。
メッセージ
「複業を応援する」と聞いて、「この会社でだけ頑張りたい」と思っている社員は違和感を持つ可能性もある。複業をするのも、しないのも個人の選択であり、今いる会社にフルコミットしていく働き方も尊重したい。同じ会社で働く社員同士が、それぞれの働き方を尊重し、応援しあえるようにサポートしていきたい。
LT 03|組織の競争戦略:ガイアックス 管氏
管 大輔 | 株式会社ガイアックス ソーシャルマーケティング事業部 事業部長
ガイアックスの中核事業であるSNSのコンサルティング事業、採用PRコンサルティング事業を率いる。2015年から事業部長に就任。クラウドソーシングの活用、リモートワークの推進など働き方の多様化を積極的に進めた結果、社員満足度が大幅に向上し、売上も急拡大。就任後2年間で売上5倍を達成。 2017年上半期ガイアックス全社MVP獲得。 働き方改革関連の取材、イベント登壇実績多数。今年10月に複業で起業し、来年は12ヶ月12ヶ国生活を実施予定。
【概要】
事業を伸ばしていくには、人が大事な役割を担うとよく耳にします。
そのため、管氏は「人が幸せを感じる組織をつくることが重要」だと言っており、どのように従業員に幸せを感じてもらおうとしているのか。そこに複業が関係してきます。
幸せな組織をつくることと、複業がどのように関わってくるのかを中心にお話しされています。
複業の重要さ
- 「幸せに働く=やりがいを感じながら働く」と考えているので、やりがいを感じてもらうために、「やりたいことをやれていますか?」と問い続けている。
- 現在の組織でやりたいことがすべてできるとは思っていない。やりたいことができない場合は、複業することでやりがいを感じてもらう。
複業の受け入れ
- 社員の複業を認めることと同時に、複業での受け入れも重要。今、複業の受け入れを実施している企業は少ないので、複業で活躍できる場所を探している優秀な良い人が集まりやすい。採用にとってプラスになる。
メッセージ
仕事を自由に選べるような時代になってきているので、「優秀な人をいかに囲い込むか」という発想ではなく、「勝手に人が集まってくるくらいの魅力的な組織をどれだけつくれるか」というのが一番の競争戦略になるのではないか。
まとめ
日本の3割の企業が複業を解禁している現状から、日本でも「複業」という文化が進んできているといえるでしょう。
また、自社の社員の複業を認めるだけではなく、複業で活躍の場を求めている人を受け入れるという「複業採用」にも注目が集まっています。
今、複業の受け入れをおこなっている企業は少ないので、複業で活躍できる場所を探している優秀な人が集まりやすいです。
中心が企業から、個人へと移ってきています。そのため、優秀な人をいかに囲い込むという企業中心的な発想ではなく、勝手に人が集まる魅力的な組織つくるという発想に変えたほうがいいのかもしれません。