今回は、数多くの「プロ経営者」を輩出しているYCPグループの、メンバーの育成方法や、マネジメントにおけるこだわりについて紹介。
YCPグループは、アジアを中心に世界各国に19拠点を有しており、各地域の企業に対して「プロ経営者」を派遣するのと並行して、自社事業も展開しています。
経営者となり得る人材を多く輩出することができる、YCPグループの育成ノウハウとは何か。そのカギは「全メンバーに開示される360度評価」や「早期に失敗経験を積ませるマネジメント」にありました。
本記事では、同社パートナーの朝倉さんにお話をおうかがいし、その詳細をまとめました。ぜひ、ご覧くださいませ。
【人物紹介】朝倉 悟郎 | 株式会社 YCP Japan(YCPグループ)
目次
1. 「プロ経営者」を輩出するYCPグループの概要
-まずは、YCPグループについてお聞かせください。
朝倉さん:YCPグループは、「ヤマトキャピタルパートナーズ(現YCP Japan)」が前身としてあり、今ではアジアを中心に世界19都市に拠点を広げるグローバルプロフェッショナルファームです。
社員数でいくとプロフェッショナル250名、連結総社員数550名となっています。
事業は大きく、マネジメントサービス事業とプリンシパル投資事業の2つに分かれます。プリンシパル投資事業では、自社で事業の立ち上げをおこなったり、企業への投資・買収などを実施しています。
YCPでは、「プロ経営者」を育成・輩出・派遣することで、クライアント企業及び投資先の経営に貢献しています。
実際に社員の約半数が「プロ経営者のたまご」として子会社や投資先の企業で経営を担っており、中には入社1年目から事業を立ち上げ、経営に携わる社員もいます。
社員はコンサルティングやM&Aの支援を通じ、実務スキルだけではなく、経営者としての視座を身に着け、オーナーシップや責任感を育んでいくことができます。
こうした環境があるのは、YCPグループで働く大きな魅力だと感じています。
-プロ経営者とは、どのような方を指すのでしょうか?
朝倉さん:なかなか一概に「こうだ」といえるものありません。
ただ、私たちは既存の企業を育成・維持して成長させていくプロジェクトに携わることが多いので、そういった企業の規模や状況に合わせて形をつくり、マネジメントしていける人材のことを「プロ経営者」とよんでいます。
経営では、0から1をつくる創業フェーズもありますが、どちらかというと1を10に、10を100にできる人材のほうをイメージしています。
最終的には、100億円規模の企業を1人でマネジメントできることが、我々の目指すべき経営者像ですね。
2. プロ経営者の素養には「人間力」が欠かせない
-そもそもどういう人がプロ経営者として素養があるのでしょうか?
朝倉さん:面接などにおいて、こちらが見ているポイントとしては、まずはやはりその方のバックグラウンドや知識ですね。特に「自分が強みとしてる分野があるかどうか」は大事ですね。
また、リーダーシップやオーナーシップももちろん重要な要素ですし、さらに事業意欲があるかも大事なポイントですね。
ご自身でも「有名な経営者のようになりたい」という想いがあって、そのために努力や困難を厭わない方は大歓迎です。
-そのような部分は面接だけで見抜けるようなものでしょうか?
朝倉さん:これは、なかなか難しいですね(笑)。
個人的に見ている部分としては、自分が強みとしている分野がありつつも、他の分野に対する学習を疎かにしていないか。それでいて、謙虚である方ですね。
私たちの業務形態上、他社様のコンサルティングを請け負う、傘下の投資の企業に入って仕事をするなど、既に組織ができているところに入っていくケースが多くなります。
その中で、上から目線で横柄な態度が散見されると、周囲から信頼されない、共感が得られない、といったことになり、物事がうまく進みません。
-あとは面接で見ているポイントはありますか?
朝倉さん:今までの環境から異文化の業界に飛び込んだことがあるかどうか。そのときにどう振る舞っていたかは、聞くようにしてます。
先ほど申し上げたように、出来上がった組織に入っていくことが多いので、「自分が自分が」という勢いも非常に大事ではある一方で、相手に合わせたコミュニケーションがとれるかが重要です。
どういった方々が所属していて、どこにポイントを置いて普段仕事をしているのか、生活しているのか。それに合わせて、自分はどう振る舞っていけば良いのかを考えられないと、受け入れてもらえません。
「受け入れてもらえない=組織を引っ張っていくことができない」と考えているので、そのあたりは見極めるようにしています。
能力が高いことは大前提としてはありますが、人についていきたいと思わせるような魅力、信頼・尊敬される人間かどうか。そのような人間力の部分は、ひとつの大事な基準ですね。
3. 「成長間違いなし」YCPグループが実施する360度評価がすごい!
-ここからは「プロ経営者」として成長していくためにどのような仕掛けがあるのか、その辺りをお伺いしたいと思います。
朝倉さん:一番大事なのは評価制度だと思っています。
私たちは、自分で独立してやっていくというよりは、仕組みのもとに経験値やスキルを磨いており、その延長線上としてプロ経営者を輩出したいと考えています。
そのため、自分の現在地はどこにいて、何が足りないのかをはっきり自覚できる場が必要だと思います。そういう意味でいうと、私たちが実施している評価制度は他社様のやり方と違っています。
一番違うところは、透明性が非常に高いんです。360度評価をおこなっており、自分が関わった人間に対し、半期に1回のペースでレビューをするのですが、そのレビュー結果はメンバー全員に開示されます。評価点だけでなく、良いところ、悪いところに関する定性コメントも開示対象になります。
日本オフィスですと、全体で50人分くらいの量になるのですが、半日くらいかけて、個別評価シート一枚一枚を全員で見ていきます。
-全員で、一人ひとりのレビューをしていくのですか?
朝倉さん:そうです。まず、各メンバーからの評価をまとめる役割を担う“エディター”が、「この方は、こういうことが書かれているけど、こういう解釈だと思う」といったコメントを発表します。
それに対し、評価される人が「そのプロジェクトは確かにこうだった。じゃあどうしたらいいんだ」という相談をしたり、 他メンバーが「いや、このプロジェクトはこうだったよ」という追加コメントをしたりと、全員で率直なフィードバックを交換します。
このレビューの最終的なゴールは「どうやったらその人が変われるか、成長できるか」です。そのためには、そのメンバーのことを真剣に考えてくれている他人の言葉が重要になります。
さらに、そのやりとりを全員で見れる機会があるのが大事なポイントです。キャリアを歩む中で、他メンバーが経験するシチュエーションは、いつか自分にも降り掛かってくるものです。
「このポジションになると、こういうことが起きるのか」「こういう状況になるとこうなるのか」という経験値や、「そういう時はこういう対処したよ」「それはこうすると良かったね」という対処法を全員でシェアできるのは、将来の学びを先取りできるという意味でも、非常に意義があると思います。
-360度評価する人たちのコメントは記名制なので、誰が何を言ったかもわかってしまうんですね。
朝倉さん:そうですね。時には、フィードバックがダイレクトになりすぎるケースもあります。
フィードバックの強弱は、受け手側の視点から判断されるべきものだと考えているので、受け手のことを考えて、あえてそのまま共有するケースもありますし、表現が強すぎることで本来のメッセージが伝わりにくくなっている場合は、内容は変更せずに表現を緩めるケースもあります。
こういった受け手視点でのフィードバック調整は、先述の各メンバーからの評価をまとめる役割を担う“エディター”が責任を持っておこなっています。
また、弊社の評価制度を機能させる上で、「評価するメンバーは、評価されるメンバーの3倍その人のことを考える」ということを徹底させており、このポイントが非常に大事だと考えています。
これは量(時間)だけでなく、質(クオリティ)も含めた総量になります。当たり前ですが、フィードバックをされる本人が一番自分の人生を大事に考えているじゃないですか。
「そういったメンバーにフィードバックを届けるとしたら、3倍ぐらいのエネルギーや情熱を傾けてやらないと受け入れてもらえない」という考え方がベースになっています。
-そこまで本気でやった結果、メンバー同士の納得感などはいかがですか?
朝倉さん:360度評価を導入した時期は、システム自体が洗練されておらず、かつ、メンバーも若かったこともあり、評価者と被評価者との間で、口論になるケースも少なくなかったです(笑)。
レビューが終わったあと、打ち上げをするのですが、その打ち上げでまた再燃することもありましたね。
そのような試行錯誤期間を経て、システム自体の完成度やメンバー理解度が上がってきたこともあり、最近はフィードバックが真っ当すぎて反発できないようになっていますね。「ありがとうございます。すいませんでした。次頑張ります」というリアクションがほとんどです。
もちろん「これは違うんだよ」という内容が含まれることがあると思うのですが、少なくともそう思われてしまっていることは事実です。
もしそれが自分の思いと違うのであれば、もっと頑張ってその分野において成果を出すなり、もしくはコミュニケーションの仕方を変えるなり、対処する必要がある。
そういったアプローチこそが正しいレビューの活用法だと考えています。
-それでまた来期こういったレビューがあるんだと思ったら本気で仕事せざるを得ないですね。
朝倉さん:残酷ではありつつ(笑)、公平で客観的な仕組みではあるので、もう頑張るしかないですよね。「プロ経営者」への道のりは、なだらかなものにはなりえません。
天才なんて一握りで、多くの凡人がそこに至るには、努力を重ね、困難を乗り越えないといけません。「まだまだ足りない」と思いを抱えて、歯を食いしばってやるしかないですよね。
-これ、実際にやる立場になったら僕はすごく嫌ですが(笑)、圧倒的な成長ができそうですね。
朝倉さん:私も最初はすごく抵抗があったのですが、今はどちらかというと楽しみなぐらいですね。もちろん、悪い評価がつくこともあるのですが、「やっぱりよく見てもらってるな」って感じるようになりました。
何となく自分の思ってるところと合致するんですよ。「ああー、そうだよね」という納得感があります。良い評価、悪い評価については、必ず原因があります。それを深掘りしていくと「やはりそういうことか」となりますね。
結局、正しいフィードバックを高速で回してくことこそが、成長の源泉になります。もちろん、そんなに簡単に人間は変われるものではないので、日々の努力の積み重ねが前提です。
YCPメンバーには、そういったフィードバックをしっかりと受け入れて、学んでいくという素地があると思います。
4. 「いかに失敗経験を積んでもらうか」メンバーの育成で意識していること
-メンバーの育成において気をつけていることはありますか?
朝倉さん:マイクロマネジメントは極力しないようにしています。
マイクロマネジメントされてしまう側の問題もあると思うのですが、「マイクロマネジメント」=「メンバーを信頼していない」ということだと思います。
成長という観点からは「失敗なしに成長はない」と考えていて、マイクロマネジメントだと失敗体験が積みにくくなってしまいます。
失敗という痛みがあって初めて「これはやってはいけないんだ」「もうそれを繰り返さない」ということを心から認識できます。
そういった経験をどれだけ早くたくさん積めるかにかかっているかが成長には重要なので、保護柵で囲い込んで、できることだけやらせることは成長の最大化という観点では最適ではないと考えています。
-たしかに、すごい経営者の方々は、過去に多くの失敗や修羅場体験をしている印象があります。
朝倉さん:プロジェクトの中で、矢面に立つ経験を積んでもらうことは、育成においてはすごく大事ですね。
もちろん、クライアントに迷惑をかけることはあってはならないので、メンバーに与えるチャレンジは、マネジメントメンバーが尻拭いをできる範囲に収めることが大前提です。
-成長する人材、成長しない人材の傾向・特徴みたいなものはあるのでしょうか?
朝倉さん:これはキャリア段階によって違ってきますが、若手メンバーに関しては「素直さ」と「正直さ」が大事な要素だと思います。
シニアメンバーが言っていることが100%正しい訳ではないことを承知しつつも、経験者が体得してきた各分野での「成功への型」を自分の中でも築くためには、「まずは愚直に模倣する」という姿勢が大事になります。
優秀な方ほどご自身のキャリアと実績に自信を持っていらっしゃるのですが、そういった方でも最初は苦労されます。初めての分野なので当たり前のことです。
その状況下では、なんとか自分なりの価値を出そうと、自分のやり方で取り組まれるよりも、最初は経験者のやり方を模倣した方が、圧倒的に効率が良いなと感じています。
まずは言われたことをやってみて、ダメだったら取捨選択をすればいいんです。「まずは全てを受け入れて模倣してみる」という姿勢がないと、早期適応は難しいと思います。
-「守破離」のようなものですね。
朝倉さん:私たちが言っていることは「凡事徹底」です。
「やるべきことをきちんとやり尽くす」ということが根本です。その姿勢を徹底するために「日報制度」を設けており、「一日一学」というタイトルで、メンバー全員が学びを全体共有しています。
言語化することで、自分の置かれてる状況と、それからの学びを理解し、積み上げていくことができますし、それを全体に共有することによって、他メンバーが同じ落とし穴を避けられるようにしています。
-やはり、当たり前のことを当たり前に突き詰めていくことは、ものすごく大事だとあらためて認識しました。
5. 100億円企業の経営者を100人輩出したい
-最後になりますが、YCPグループの今後の展望など、お聞かせください。
朝倉さん:目標は「100億円企業の経営者を100人輩出する」ことです。
「なぜ100人なのか?」に明確な根拠はないのですが「社会的インパクトを残せるような企業に育てるという観点で、売上1兆円を目安にしており、1社100億円として100人経営者が必要」という逆算です(笑)。
「100億円✕100人」を実現するためには、チームメンバーの成長を加速するプラットフォームを会社として強化し続けること。そして、そのプラットフォームを活用して各メンバー自身が成長を最大化する努力をすること、その2点に尽きると思います。
-経営者という肩書きを持っている方は、現時点で何名ぐらいいらっしゃるんですか?
朝倉さん:YCPジャパンやYCP香港など、コンサルティングサービスを提供する機能会社にも代表はいますが、自社事業の経営に関与している割合は、全体の20%程度です。
今後は、機能会社側でのサービスメニュー拡充や拠点増加を通してアジア圏で存在感を強めていくことはもちろん、自社事業を展開する経営者をどんどん増やしていきたいと考えています。
そのためには、結局「人材を育成する」しかありません。存在感を強める手段として、もちろんブランディングも必要な要素ですが、やはり「人を育てて、その人が結果を出し、その結果によってさらなる存在感を構築する」以外の近道はないと考えています。