2019年2月、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社(以下P&G)主催の、主に1・2年生を対象にしたビジネスコンテスト「マーケッターズ・ハイ2019」が開催。
マーケッターズ・ハイ2019で優勝したチームには、プラン実施予算300万円が付与され、実際に提案したプランを実行してもらいます。
P&Gが同イベントを開催した背景には、「海外と日本の学生が大学生活で体験する機会の違い」がありました。海外の学生は長期インターンの機会や授業に能動的に取り組むことが求められますが、日本の学生はそういった機会や経験を持つことなく、大学生活を過ごしているケースが多いとのこと。
マーケッターズ・ハイ2019は、そのような日本の学生に、戦略・企画の立案だけではなく、その実行まで関わる機会を提供したいと考え生まれた育成プログラムです。実行のプロセスに携わるという経験をきっかけに、より学生生活を有意義に過ごし、グローバルで活躍するリーダーへと成長していけるよう人材育成に非常に力を入れています。
それでは、P&Gが考えるグローバル人材育成法とはどのようなものなのでしょうか。同社執行役員の松浦さんにお話をお伺いしました。
ぜひご覧ください!
松浦 香織| プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社 執行役員
立命館大学とアメリカン大学を卒業後、新卒でP&Gに入社。日本・ロシア・シンガポールでブランド・マネージャーを担当した後、2014年からメディア・オリンピック・デジタル担当。2016年に執行役員に就任。現在はマーケティング本部を統括するとともにベビーケア製品を統括
P&Gが考えるグローバルで活躍する社会人の特徴とは
ーP&Gが考える、グローバルで活躍する人材の特徴とはどのようなものでしょうか。
松浦さん:一番重要な特徴だと位置づけているのは、社内で「Passion For Winning」と呼んでいるものです。Passion For Winningとは、「勝ちたい!」「何とかしたい!」「成長したい!」といった気持ちのことです。これは、どのような仕事をする上でも土台になるものなので、P&Gでは重要視しています。
次に重要視している特徴が、「リーダーシップ」です。P&Gが考えるリーダーシップとは、多種多様なチームを率いて、障害や困難なことを乗り越えながら、達成までやり抜く力です。これらはグローバルで活躍する社会人に共通する特徴だと思います。
ー近年、グローバル化が進み、「多様性」というキーワードが注目されていますが、多様性のあるチームにおいてリーダーに求められる役割とはどのようなものでしょうか?
松浦さん:チームに多種多様な人がいることは大事なことです。しかし、多種多様な人がいるからこそ、バラバラの方角を向いてしまい、チームとしての力を最大化できないケースもあります。リーダーは、そのようなバラバラな方角を向いているメンバーの道標になり、道筋を示すことが求められます。
一方で、ただの道標となり、道筋を示すだけではいけません。目標に向かって進んでいく中で、困難にぶつかることもありますよね。そのときに、リーダーが手を差し伸べて周りを助けてあげられるかという、フォロワーシップの役割も大事です。さらに、リーダーにはチームメンバーのモチベーションを保つことも求められます。
つまり、グローバルで求められているリーダーは、道標をつくり、常にメンバーのモチベーションを鼓舞し、個人の能力を最大限発揮できる環境を整えてあげられる人です。
ーグローバル人材が多く働いているP&Gから見て、日本の学生はどういう印象を持ちますか?
松浦さん:日本の学生は、全般的に教育レベルが高く、質の高いサービスや高品質な製品に対する感覚が鋭く、理解力も高いため、優れたマーケッターとしての素養を持っています。実際に、P&Gでは日本人の社員によるイノベーションが数多く生まれています。
その一方で、課題も感じています。P&Gでは、入社後すぐにプロジェクトを任され、経験のある社員と対等に仕事をすることが求められています。しかし、日本の学生は経験が少ないためか、「絶対に自分で最後まで成し遂げる」という気概を持って取り組む人が少ないという印象を受けています。
海外の学生の多くは、長期インターンを経験し、学生の時から戦略や企画のみならず、提案した企画の採算性の検証やその実行まで携わる機会があります。海外の学生と比べると、日本の学生は学生時代の経験が不足しているように感じます。
アメリカと日本の学生の差は「大学4年間の過ごし方」
ー今回のビジネスコンテストはグローバル人材の育成のために開催したそうですが、どう繋がってくるのですか?
松浦さん:今回のビジネスコンテストは主に1・2年生が対象という部分に、開催の意図があります。
個人の経験ですが、私はアメリカの大学と日本の大学の両方を卒業しています。両方の大学に通って感じたことは、授業の質の違いです。
アメリカの授業は、単位を一つ取るにしても、授業の中でどれだけ発言したか、どれだけディスカッションで意味のある発言をしたかが見られています。また、どの講義でも論文を必ず書かされます。論文を書くために、図書館で調べて、仮説をつくって自分で検証して、提案することが求められます。
このようなプロセスを何度も繰り返すうちに、自分の頭で考えて、自分なりの仮説をつくって提案するという思考がすごく鍛えられました。
それに対して、日本の大学の授業は教授が言ったり書いたりしたことを、必死にメモするだけの授業が多く、ディスカッションや論文作成はあまりおこなわれませんでした。これを4年間続け、大学を卒業するときに、アメリカの学生と日本の学生の間に違いができて当然です。
先程お伝えした海外の学生と日本の学生の経験の違いは、長期インターンの有無だけではなく、日頃の授業への取り組み方とも関わりがあると考えています。
松浦さん:このような背景があり、大学生活の4年間をより有意義に過ごしてもらうために、今回のビジネスコンテストを開催しました。このビジネスコンテストで、自分の頭で考えて、仮設を立て、実行まで提案する経験は、参加した学生にとっていろいろな気付きの場になったのではないかと思います。
ビジネスコンテストに参加する中で、「やっぱりビジネスって面白い」と思ったかもしれないですし、人によっては「経理がやっぱ面白い」と思ったかもしれません。「マーケティングって面白いな」と思ったかもしれないですし、「製品開発したいな」と思ったかもしれません。
ビジネスコンテストが終わった後、これを通じて自分が興味を持ったことに、能動的にチャレンジしてほしいなと思っています。そうすることによって、自分の頭で考えて、行動できるようになり、世界に通用するような日本の学生がよりたくさん生まれると思っています。
※以下は、実際のビジネスプランコンテンスト決勝戦の様子。決勝に残ったのは、チームA、チームY、チームL、チームAOの4チーム。
見事、優勝したのはYチーム。Yチームが発表したプランは、P&Gの製品を「親から子への仕送り」でキャンペーンを実施するというものでした。審査員からは、製品の利用者(子)と購入者(親)を分けて考えた部分と、「仕送り」に注目したのは学生ならではのアイデアという部分が良かったとフィードバックがありました。
1・2年生向けの機会提供が日本を活性化させる
ー今後、グローバル人材育成のために、どのような取り組みを考えていらっしゃいますか?
松浦さん:引き続き、今回のビジネスコンテストのように、1・2年生に向けて機会提供をしていきたいですね。
多くの学生が、就職活動を始めたときに、初めていろいろな業種を知ったと思います。1・2年生の間に、どのような仕事があるのかを知った上で、自分が少しでも興味のある分野がわかれば、その分野を勉強したり、実際に仕事をしたりして経験することができます。
このような気づきやきっかけとなる機会を、できるだけ学生時代が残っているうちに提供していきたいです。