こんにちは、HR NOTE編集部 働き方改革プロデューサーの井上です。
今回は、「働き方を可視化する方法」についてご紹介。
働き方改革を実践している現場では、「何から手をつけたらよいのかわからない」「実施したものの、効果が出ているのかわからない」といった話をよく聞きます。
そのような状態にならないようにするためには、「働き方」に関する情報を「見える化」することがとても重要になってきます。
本記事では、コクヨの高木さんに、働き方改革に役立つ調査の重要性や、可視化するための調査手法、その事例などをお伺いし、記事にまとめました。
【人物紹介】高木 秀樹 |コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部 スペースソリューション事業部 ワークスタイルコンサルタント
働き方改革で重要なのは「自社のグランドコンセプト」を描くこと
働き方改革の「特徴的な2つの実例」と「計測方法」
働き方改革で「オフィス空間づくり」は重要なのか
「意味のあるフリーアドレス」にするために必要な考え方
健康経営による4つのメリットと、その取組み方法とは
「テレワーク導入」は社員の働き方にどんな影響をもたらすのか?
働き方改革に欠かせない「ICTツール活用」を考える
コクヨ流ICTツール活用とプロセス管理ツール『KAKIAGE』をご紹介
働き方改革で「ITインフラ環境」の重要性について考える
働き方改革で「ITインフラ整備」に求められる攻めの姿勢とは?
働き方の見える化に欠かせない!調査の重要性
-働き方改革において調査を実施することの重要性について教えてください。
高木氏:調査の目的は、改革や改善の対象となる場(オフィス)などの現状を把握し、効果的な打ち手を考えることです。
たとえば、会議に関する課題をお客様にヒアリングすると、「会議室が少ない」「会議の数が多い」、もしくは「会議が長い」「会議を仕切る人がいない」など、さまざま出てきますが、それだけでは本当に解決すべき課題は見えてきません。
そのため、会議そのものや会議室の利用状況に関する調査をおこないます。
調査によって、利用状況を数値化したり、多くの意見を定性的にまとめたりすることで、本当の課題が浮き彫りになり、その結果をもとに、具体的な施策についてお客様とディスカッションしていきます。
-「なんとなく」で実施すると、効果的な施策となりにくいですよね。
高木氏:そうですね。
もちろんしっかりと検討したうえで施策を打っている企業がほとんどだと思いますが、明確な根拠もないままにトップダウンで「働き方改革」「オフィスリニューアル」「人事制度改革などの施策」などが決められたり、「働き方改革が世の中的に流行っているらしい」という情報だけで、「とりあえず施策を打ってみる」という動きも見られます。
しかし、目的や方向性が定まっていなければ、結果として「何のために取り組んだのか・・・?」と意味や意義を見失ってしまいますし、施策の効果が出ない可能性も高いです。
-調査を実施することによるメリットは他にもありますか?
高木氏:働き方改革などの大きなプロジェクトを推進しようとする際には多くの人を巻き込む必要がありますので、可視化された調査結果は、状況に対する共通認識を図ることができ、とても役立ちます。
また、改革の規模が大きくなればなるほど経費もかさむため、経営陣や社員に納得してもらうためにも、より明確で具体的な根拠が求められます。
そこで、調査によって理由や根拠を明確化できれば、「オフィスを調査した結果、現状は○○で、△△という明確な課題があることがわかったので、××の施策を打ちましょう」と、説得力のある提案ができると考えています。
また、調査によって明確になる課題は複数であることが多く、おのずと施策も複数になります。ただ、すべてを同時並行で進めるのは負担も大きいですし、場合によっては段階的に取り組んだほうが効果が上がることもあります。
そのため、施策の精度を上げ、効果的に進めるために、どの施策からスタートし、どの順番で取り組むのがいいのか・・・と、お客様とディスカッションをするのですが、そのような優先順位をつける際にも、調査によって集めたデータが非常に役に立ちます。
-実施前後の差を比較することにも役立ちそうですね。
高木氏:そうですね。調査をすることで現状が明確になります。
それはすなわち「起点」を明確にするということです。この「起点」が明確になっていれば、施策実施後に効果の有無を検証することもできます。
また、施策が上手くいかず、「なぜ失敗したのか?」と振り返るときにも、「起点」が明確であればこそ、ブレずにしっかりと振り返り、次の施策を考えることができるのです。
働き方の状態を可視化するための方法
-どのような方法で調査をするのでしょうか?
高木氏:よくおこなっているのは、以下のようなものです。定性・定量の両面から、現在を把握するようにしています。
- トップインタビュー
- 部門インタビュー
- Web意識調査(アンケート)
- 目視調査
- 面積調査
- 会議室利用率調査
- 在席率調査
- 行動特性調査
- 書類量調査
トップインタビューは必ずおこないたい調査です。大前提はトップの意向に沿うことですので、トップの熱い想いを語っていただきます。
このトップが示す方向性や戦略が社内で十分に理解されていれば問題ないのですが、そうでない場合は、なぜ理解されていないのか、どのくらいズレているのかというギャップを把握するためにも、このトップインタビューはとても重要です。
次に関係部署や部門にインタビューをしていきます。現場の生の声を聞き、どのような想いでどのように働いているのかを把握します。
Webでの意識調査は、主にアンケート形式で実施していきます。すべての人から対面で話を聞くことはできないので、より多くの人の意見を把握するために実施します。また、社員の意識を数値化することもできるので、施策を検討する際に優先順位をつけやすくなります。
目視調査は、私たちが目視で働き方やオフィスを注意深く見させていただき「あ、ここはマズそうだな」と、課題やリスクとなりそうな部分を拾っていきます。普段からさまざまなお客様の課題と向き合っていますので、客観的に状況を把握することが可能です。
面積調査は、オフィスレイアウトを見直すときなどに有効な調査です。「何がどのぐらいの面積を占めているか」を図面上で確認し、一般的な値と比べたり見直しの方向性とどのくらい差があるかをチェックします。
会議室利用率、在席率、行動特性調査は、社員の行動を定量的に把握するための調査です。どのような働き方をしているのか、どんな傾向があるのかを数値として確認すると、「ここが課題だと思っていたけど、実際はそうでもなかった」などという結論に至ることも多くあります。
また、情報管理やペーパーレスなどは働き方改革やオフィス構築の際には重要な要素となることも多いため、必要に応じて書類量調査や机上面調査をおこない、どのくらい紙や物があるのか、その紙や物をどのように利用しているかを確認することもあります。
-本当にさまざまなやり方がありますね。調査で意識している部分は何でしょうか?
高木氏:「いかにして調査して得た情報に説得力を持たせるか」ですね。
オフィス調査によって、数値データが取れるものと取れないものがあり、数値自体も限られた短い期間の中で取らなければなりません。
そのため、短期間でどれだけ多くの意味のあるデータを取得できるかが、説得力のある調査結果が示せるかどうかのカギを握っています。
また、定量的な調査によって可視化した数値データだけでなく、ピンポイントでもより具体的な定性情報も集めるように心がけています。
写真を撮影することも多いのですが、たとえば、物が山積みになっているデットスペースや、書類が散乱しているデスクの写真などには説得力があり、共感を得られる場合も多くあります。
具体的な提案の流れ
-具体的にどのような流れで実施されるのでしょうか?
高木氏:まずは、インタビューやアンケートを実施していきます。
これは、「課題がこのあたりにありそうだ」といった、ザックリとした全体の傾向や課題を見ることを目的とした調査になります。
そして、全体の傾向や課題が見えてきたら、もう少し細かいところを深掘りするような実態調査を実施していきます。
たとえば、「会議室が足りない」とみんなが言っているというような場合は、「いつ」「誰が(どの部署が)」「誰と(他部署、外部パートナーと)」「何人で」「どんな目的の会議を」「何時間」しているのか、といったことをさらに調査していきます。
この調査によって、たとえば、「定員10人の部屋を2人で使っている比率が高い」「予約だけして実際は使われていない」といった状況が具体的にわかってくるのです。
-調査はどのくらいの期間でやるものなのでしょうか。
高木氏:1~2週間くらいの期間で調査ができればいいですが、「3日間で1日3回だけ見て回る」だけでも調査をやる価値はあります。
少しでも調査データが集められれば、大まかでも現状や課題を把握することができますので、お客様と意識や目線を合わせていく精度が高まります。
-その他の調査における、事例などあれば教えてください。
高木氏:目視調査をおこなっている際、「誰かの席のところに他の人がきて相談している」というシーンを見ることがよくあるのですが、その頻度が1時間に10件ぐらいあるなら、「席で立ち話をさせるよりも、打ち合わせコーナーをつくるのはどうですか?」「面と向かって相談できるような空間がないのは働きにくそうですね」という話をします。
また、フリーアドレス導入のための調査であれば、「在席率がこのぐらいなので、席数はこのくらいでやってみませんか」と、仮説を立ててから実際の空間に落としていきます。
調査結果から仮説立てをし、具体的な提案から実践に移した後は、定点観測をして実施前後の状況などを数字で見比べながら、さらなる改善のためのディスカッションを継続しておこなうようなケースもあります。
「もう少し席を減らして、ミーティングスペースと執務席を兼用できる場をつくったほうがいいかもしれません」「社員の働き方が変わってきたので、新しいツールを入れてみてはどうですか?」といった、さらなる改善案まで、お客様と一緒に考えながら実行していきます。
調査することでわかる「想定とは違った結果」
-調査をしていく中で、「想定とは違った、意外な結果だった」という事例はありますか?
高木氏:ある企業様のオフィススペースを広げるために「書類量」の調査をしたのですが、デスクや個人ロッカー、キャビネットなどに保管されている書類の量を調べたところ、1人当たり「5ファイルメータ」くらい保管していました。(※1ファイルメータ=書類を積み上げた高さが1メートル。書類約10,000枚に相当)
一般的な平均値が一人当たり2~3ファイルメータと言われていますので、当初は「半分くらいは減らせるだろう」と思いながら調査をしていました。
しかし、大量の書類を確認していくと、その多くの書類がキレイに整理され実際に活用されていることが判明し、「ムダなく整理しているから、これ以上減らない」という結論に至りました。そのため、書類を減らす以外の方法でオフィススペースを広げる施策を考えようと方向転換をしたのです。
このケースの場合、「書類を減らす⇒オフィススペースを広げられる」という仮説通りにはいきませんでしたが、調査と検証をしたことで、施策の見直しをすることができました。
-そういったこともわかるのですね。ちなみに、最近はAIなど最新のテクノロジーに注目が集まっていますが、今後はそういったツールの活用も考えているのでしょうか?
高木氏:最近では、IoTを活用し、オフィス空間の利用状況をリアルタイムにセンシングし分析する『FUJITSU Workplace Innovation 在席状況分析活用サービス』を富士通株式会社と共創開発しています。
いままでお話してきた、目視やヒアリングといった人が携わることで現状や課題を把握していく調査とは異なり、IoTを活用することで、在席状況がリアルタイムで可視化でき、その分析によってワークスペースの最適化や効果測定ができるというものです。
センサーを調査エリアの机に設置するだけで簡単に状況測定ができるのが特徴です。それぞれの調査にはそれぞれのメリットがありますので、お客様の状況にあわせて提案させていただいています。