<働き方改革>の実態〜企業が抱えるジレンマ〜 | 人事部から企業成長を応援するメディアHR NOTE

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<働き方改革>の実態〜企業が抱えるジレンマ〜

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【前編】「生産性向上」というアプローチは妥当か?

今回、株式会社ビジネスリサーチラボが主催する「<働き方改革>を再訪する」というセミナーに参加してきました。

大手企業を中心とした働き方改革のコンサルティングを手掛ける同社が、改革を推進する企業の経営層・マネジャー層と対峙して感じた「生産性向上」における矛盾や課題を対談形式でお話いただきました。

本記事は、【前編】【中編】【後編】と3つに分けて連載形式でご紹介。各記事において働き方改革における主要なテーマを取り上げ注目していきます。
【中編、後編の記事はこちらから】
▶[中編]ビジネスモデルを変えずに働き方改革は成功するのか?
▶[後編]働き方改革の中で苦悩する管理職
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株式会社ビジネスリサーチラボ
組織課題の本質に迫る調査を展開する会社。経営ボード・事業責任者の意思決定の精度を上げるためのコンサルティングを実施。働き方改革については詳細な調査と分析によって、経営的観点から変革推進案を編み出し、経営者に進言する独自のアプローチをとっている。
伊達さん

伊達 洋駆(だて ようく)|株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役

神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。同研究科在籍中、2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、経営層・マネジメント層をクライアントに意思決定の精度を高めるためのリサーチ・コンサルティング事業を展開。
神谷さん

神谷 俊(かみや しゅん)|株式会社ビジネスリサーチラボ 研究員・コンサルタント

法政大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。エスノグラフィーという調査方法を専門技能として、企業や地域などの分野でフィールドワークを実践。株式会社ビジネスリサーチラボでは研究員・コンサルタントとして大手企業を中心とした組織開発に関与。株式会社エスノグラファー代表取締役、面白法人カヤック社外人事など複数の職務を兼任しながら独自のキャリアを歩む。

「<働き方改革>を再訪する」セミナーとは何か?

セミナーの冒頭に、ビジネスリサーチラボ代表のビジネスリサーチラボ社代表の伊達洋駆氏から、今回のセミナーの開催趣旨について説明がありました。
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伊達氏:経営・人事の世界では、毎年のように新しいコンセプトが登場し、流行しています。ところが流行したコンセプトは、普及の中で単純化されていく。例えば、今回取り上げる「働き方改革」は、徐々に「長時間労働の是正」に集約されてきていますよね。

こうした問題意識を受けてビジネスリサーチラボは、世の中で話題になっているコンセプトを「再訪する」(もう一度考え直す)ことで、コンセプトが本来持っていた様々な視点を発掘する場を企画しました。

参加者が自社の状況と照らし合わせてそれらの視点を吟味すれば、意思決定の質を高められるでしょう。それが再訪セミナーの目的です。

働き方改革の動向報告

次に、同社コンサルタントの神谷俊氏より、基調レクチャーとして働き方改革の背景や現在の主要な動向について報告がありました。神谷氏の話の要点をまとめると以下の通りです。

<日本政府の観点から見た働き方改革の要点>

  • 政府・労働者・雇用者の3者により推進していくことが規定事項となっている(政府がリーダーシップを発揮し、スピード感を持って推進している戦略的国家施策)
  • 労働生産性を改善し、社会・経済の問題を解決する狙い
  • 「中間層」の雇用問題を改善し、全体的な所得・消費を増大させる

日本政府の観点から見た働き方改革のアプローチの要点>

  • 正規・非正規社員の不合理な処遇の改善
  • 長時間労働尊重の風潮を是正
  • 単線型キャリアパスの是正

神谷氏:要するに、「誰もが働きやすい土壌をつくるために企業の動きを合わせましょう。そして各社で労働価値を高めて効率化を図りましょう」というのが大筋です。

高齢者も女性も学歴や転職歴なども関係なく、誰もが働けるような土壌にしていくためには労働市場の標準化が求められるわけです。労働時間が過剰だと標準化が進まないので、労働時間のルール化などが推進されるようになる。働き方改革の政策的主眼は、当然ですが日本国内の最大多数の最大幸福にあるのでしょう。

そこで、より多くの人が参加しやすい労働市場を構築しようと画策すると、市場のプレイヤーの動きを標準化する必要がある。これが働き方改革の背景にあるメカニズムです。

神谷氏は日本政府の審議会の議事を参照しながら、国の方向性についてわかりやすく解説していました。さらに、神谷氏は企業の取り組みについても言及します。

神谷氏:実際に国の推進施策に従って、次のような導入施策を進めている企業も多くあります。しかし、この労働市場の標準化という考え方。誤解を恐れずに言えば、企業の本質にある営利というスタンスと相性が良いものでしょうか?

必ずしも、そうとは言い切れないでしょう。たくさん働ける人にはたくさん働いてもらいたい。稼げる機会がそこにあるなら、そこに労働力を集中させてたくさん投下したい。「標準化」は、そういう姿勢にそのままフィットするものでもないと思います。

働き方改革は日本にとってはマストでしょう。非常に重要なシフトだと思っています。だからこそ、今日はそこから聞こえてくる不協和にもきちんと向き合いたいと考えています。

<企業の主な導入施策例>

  • 育休産休及び年次有給取得の促進
  • 年間・月間労働時間の制限ルールの徹底
  • ノー残業デー等の習慣的制約の導入
  • フレックス及び裁量労働制の導入
  • リモートワークの導入
  • 健康管理支援の開始

<業者による提供サービスの施策例>

  • 社内調査(意識・労働時間等の調査)
  • 意識醸成施策(研修・パンフレット・ポータルサイト等の実施・制作)
  • 改善活動(専門部署設置、改革プロジェクト等の実施)
  • 定着・習慣化支援施策(効果測定調査・好事例集の作成)

「生産性向上」というアプローチは妥当だろうか?

今回のセミナーのメインパートは、伊達氏と神谷氏による対談になります。

対談においては、働き方改革の文脈でしばしば持ち出される幾つかのキーワードに注目し、そのキーワードが使用される背景や意味が議論されました。以降、伊達氏と神谷氏の対談内容をお届けします。

「そもそも、生産性とは何だろうか?」

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伊達氏:働き方改革について議論する際によく登場するのが「生産性向上」という言葉です。働き方改革に関する記事でもそうですし、行政のウェブサイトでも言及されてます。私たちが依頼を受けて実施した企業のインタビュー調査でも、生産性の話は頻出してましたね。

神谷氏:本当によく目にしますよね。確かに「労働時間を減らしましょう」というメッセージにつなげて、「だから生産性を上げましょう」と言われると、「そりゃそうだよな」と思ってしまうんですけどね。でも、まずはこの生産性という言語を紐解くところから始めませんか。

伊達氏:「生産性向上とは何か」というところから始めていきましょうか。私の見る限り、働き方改革の文脈を問わず広く一般的に、生産性向上とは「少ないインプットで大きなアウトプットを出す」という意味で使われています。

神谷氏:ですね。働き方改革の文脈では、インプットは労働時間や労働の総量、アウトプットはパフォーマンスや業績、顧客への提供価値などですかね。だから、それらをつなぐスループットの改善を図り生産性を上げましょうということなんでしょうね。

伊達氏:働き方改革において、「インプット(労働時間)は減らすが、アウトプット(業務成果)は変えない、後は生産性向上でスループットを改善してね」となっている企業は少なくありません。我々がコンサルティングをおこなった企業の中にも、まさにそのような状態にある企業がありました。

「高めるべき生産性の主語は、いったい誰(何)なのか?」

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神谷氏:「生産性」のスローガンで全てを改善していこうというのは、ちょっと無理筋ですよね。そもそもの話をしていいですか?生産性の向上というのは「何の」あるいは「誰の」生産性を高めることが求められているんでしょうか。皆さん、自分ごとのように仕事の生産性を高めると言っていますが、本当にあなた個人の生産性で良いのでしょうか。

伊達氏:「主語」をどのように設定するか、ですね。

神谷氏:そう、主語によって「生産性」の意味も「向上」のアプローチも変わりますよね。

①個人の生産性であれば、セルフマネジメントをしっかりおこないましょう、というアプローチとかですね。②チームの生産性であれば、マネジメントの機能が重視されます。そして③事業の生産性ということであれば、少ないコストで高いリターンを得るために付加価値の高い商品開発やマーケティングに注力する必要が出てきます。

働き方改革がいつも当然のことのように個人の文脈で語られるのは違和感を感じてしまいます。全企業がきちんと付加価値をつくって利益率あげたら働かなくていい(笑)。

伊達氏:各企業で、「一体、『何の/誰の』生産性を向上させようとしているのか」を意識しなければなりませんね。その点が曖昧なままでは、個々人が勝手に主語を想定し始め、「同じ話をしているようでいてどこか噛み合わない」という状況に陥る。

神谷氏:「生産性向上しよう」という投げかけを、企業の経営層や人事が主語を明らかにすることないまま、現場にパスをしてたら、現場は混乱するでしょうね。

「現場を覆う利害関係の複雑さ、そして生産性を促す管理職」

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伊達氏:さらに言うなら、どの主語を採用したとしても、生産性向上は機械的に実行できるものではありませんよね。企業における業務は、複雑な利害関係に組み込まれています。生産性向上も例外ではありません。

生産性を向上させようと思うと、利害を丁寧に調整しながら進めなければならない。そして利害関係者の中でも、とりわけ「顧客」の影響は大きいでしょうね。

神谷氏:実際に、我々がコンサルティングに入った大手企業の現場の営業職の方がこんなことを言ってました。「私たちの仕事における価値は、いついかなる時もスタンバイし、顧客のリクエストに対して迅速に対応することだ」と。

非常にクレバーな方が真剣な顔で仰る。「おいおい」と思いつつも、このコメントは実に興味深いです。最大限の時間を割いて、顧客のリクエストに意識的であることが、そのまま業績や価値であると認識されているのですから。

伊達氏:つまり、「インプット=アウトプット」になってしまっている(笑)。

神谷氏:そう。時間を割いて顧客ニーズに文字通り寄り添う。それが価値であるという認識。「そこにおいて個人の生産性を求められても・・・」という現場のストレスは強烈でした。

特に大きなプロジェクトを手がけるBtoB事業では、現場業務におけるイレギュラー性や特殊性、個別性がどうしたって大きくなるでしょう。だからこそ、それらを効率的に解消するために顧客との関係性の強さが求められるし、その関係性を築くために時間の投資も必要なのだという意見でした。

伊達氏:その企業では生産性という言葉は、一体どのような意味を持っていたのでしょうね。

神谷氏:インタビュースクリプトを分析すると、管理職から生産性向上のワードが多く発せられてました。ここからは考察ですが、「とにかく顧客のリクエストに応えるという現場の実態」と、「労働時間削減という組織の方針」の狭間で、そのトレードオフを何とか成立させるための言葉として「生産性向上」が持ち出されたのかもしれませんね。

伊達氏:トップとボトムに挟まれてもなお「何とかしよう」という、ある種の「あがき」の中で漏れ出た言葉が「生産性向上」というわけですね。

裏を返せば、そこにおける生産性向上とは「何とかしよう」という抽象的な意味でしかない。そこにおける生産性向上は「気合」とほとんど同義ではないか(笑)。ポジティブに解釈すれば、個人の主体的な行動を促進するためにあえて抽象度を上げている、と言うことも出来ますが、実際のところ、そこまで考えられているようには思えません。

神谷氏:抽象的な方針になってしまうと組織にとってはややリスクですね。例えば、グローバリズムの分野で語られる多様性文化論では、組織における判断の不確実性はモラルハザードを招くと言われています。

異なる価値観が互いの利己のためにぶつかったりしかねない。生産性という多くの主語と意味を帯びる言葉で帳尻合わせるのは本質的ではないなと感じます。

「生産性」対談のまとめ

  • 働き方改革では、頻繁に「生産性向上」が言及される
    働き方改革でしばしば言及される「生産性向上」。「インプット(労働時間)を小さくしてもアウトプット(業務成果)は維持する」ための前向きな改善姿勢を促す意味合いで持ち出されている。果たして妥当なアプローチなのだろうか。
  • しかし、「生産性向上」は多様な意味を含む言葉である。
    生産性向上と言っても、個人の生産性か、チームの生産性か、事業の生産性なのかによって、生産性の意味や向上のためのアプローチが異なる。具体的に、主語と対象を定めアプローチを検討すべきではないだろうか。
  • また、「生産性」は現場の複雑性との間に矛盾を生み出す可能性もある。
    生産性を向上させる上で顧客の存在は大きく、顧客との利害調整無しに働き方改革を本格的に進めるのは困難である。顧客との関係性に手を打たずして、生産性の本質的な改善をおこなうことは限界があるのではないだろうか。
  • 管理職から生産性向上を部下に指示することは妥当だろうか。
    顧客の要求に応えなければならない現場と労働時間を削減しようとする組織の間の矛盾に対応するために、マネジャーの口から生産性向上という言葉が頻繁に用いられる事例があった。抽象性・多様性の高い言語であるために、現場の混乱を招くリスクがあるのではないか。

次回の【中編】以降では、働き方改革をめぐる以下の観点に関する対談記事をご紹介しています。

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