企業の採用担当や経営者が、少人数でのディスカッションを通して全員にとって学びや発見のある場をつくっていくイベント「Recruiting Disscution Series」。
人事領域で活躍されている方々による、「強い採用チームをつくるには何が必要か」をテーマにしたディスカッションの後編をご紹介。それぞれの採用スタンスや実体験をお話されており、非常に勉強になる内容となっています。
【特別ゲスト】
- 株式会社サイバーエージェント 曽山哲人 氏
【ゲスト】
- 株式会社R09(アールナイン) 長井 亮 氏
- 株式会社ネクストスケープ 橋本 祐造 氏
- Retty株式会社 奥田 健太 氏
- Syn.ホールディングス株式会社 大月 英照 氏
- 株式会社ネットマーケティング 宇田川 奈津紀 氏
- 株式会社HARES 西村 創一朗 氏
【イベントオーナー】
- 株式会社カリーグズ 福田 航太氏
- 株式会社MOLTS 寺倉 そめひこ氏
目次
採用チームが黒子に徹することで、社員が主体的に動いてくれる
話の構図的に人事と事業部の距離感の話になってきてるんですが、奥田さんそのあたりいかがですか?
採用チームは、黒子に徹したほうがいいのではないか思います。
代表の武田と私と採用担当者と3人で採用チームを構成しているのですが、そんな中で全社キャンペーンとして、リファラル採用に向けてチームをつくって、社員にKPIを持ってもらって、みんなで面白く競争してもらえるみたいな仕組みをつくって走らせています。まだ始めたばかりですが、社員紹介の数が2倍くらいのペースになっています。
採用チームが前に出ていると、「この人たちが採用してくれるからいいや」と思われがちです。
ただ採用チームだけでやれることは非常に限定的なので、現場の社員を巻き込んで彼らが主体的にかつ「なんか採用してて楽しい」という感覚を持って進めてもらって、採用チームが最低限の部分をフォローする。
そうすると意識が全然違ってきて、「自分たちが採用しなきゃいけないんだ」という風に変わります。多くの社員が当事者意識持ってリファラル採用を進めてくれています。
僕も採用担当が存在感を消すための仕組みをつくって、現場主体でどう採用していくのかという流れにしたところ、みんなが主体的になったケースがありました。
オペレーティングや求人票作成など、分からない部分だけ介入して意図のある黒子に徹してあげることは大事だと思います。
興味深いのが、こういうキャンペーンをやっても、正直盛り上がらない会社の方が多いと思うんですよ。なんで上手くいったんですか?
今回の場合に限っていうと、それぞれのチームごとに賞品が違っていて、みんなそれぞれ欲しいものを決めてもらってるんですよ。常識的な範囲内で(笑)。
チームによっては沖縄旅行、一週間休暇などあって、プラス個人賞もあります。費用はある程度かかりますが、それが成功すれば、インパクトは大きいので。
戦略と戦術を使い分け、採用を可視化しよう
私は採用で戦術と戦略を使い分けることを意識していて、求人広告やエージェント、データベースでも、各社ごとに特徴が異なっていて効果もそれによって変わってきます。
それぞれのサービスでどの職種が母集団が多いのか、どのくらいの金額でリードタイムはどのくらいになるのか、職種ごとに全部効果測定とってPDCAをまわしています。
なので、採用予算、職種、スペック、リードタイムなどの要素から、会社や現場が何を重要視するのか、その上でどのようなやり方がいいのかを常に考えて実践しています。
エージェントの方々とも随時、「この戦術が駄目だったらこっちにしよう、これが駄目だったらこっちだ」と戦術を何パターンか組んで一緒に動くことを意識していますね。
あと、この紙に書いている六職種の能力っていうのは、人事に必要だなと思ったのが、営業・マーケティング・ディレクター・広報、ライティング、採用PLを悪化させないような経理の分析能力。
私は営業力とライティングと広報の経験がありますが、私が経験したことの無い能力を持った人材を採用したら、また人事が強くなると思っています。そういう観点でメンバー集めができたらいいなと思っています。
チームの作り方で、必要な要素を可視化して、それに当てはまる人をちゃんとそろえていくのは、合理的ですね。
前職でキャリア採用をやってたときに、縦ミッションと横ミッションで分けて実施していました。
縦ミッションは職種。この職種に対して、いついつまでに充足するというのがミッションです。横ミッションは採用手法です。たとえば、総合職の採用を担当しながら、媒体担当、エージェント担当などもおこなっていきます。
僕はエリア採用をやりながら、リファラル採用やダイレクトリクルーティングをやっていましたが、総合職の採用プロジェクトにリファラル採用の部分で携わるなど、縦横でみんなミッションを持ってやってましたね。
現場社員の協力を得られているかで、強い採用チームかどうかがわかる
人事や組織は変わり続けないといけないと思っていますが、共通しているのは、「社員の力をずっと借り続ける」これを最大化する方法は何かを考え続ける必要があります。
社員の力をたくさん得られれば得られているほど、会社全体ではものすごい強い採用チームがあるといえます。
弊社でもリファラル採用をおこなっていますが、やはり一番効果があるのは、社員一人ひとりにお願いするということですね。これに尽きます。
現場の不満や要望といった社員一人ひとりの声をどれだけ僕ら人事が拾って、悩みをどれだけ取り除けるかで「あ、そんなにやってくれるんだったら、社員としても採用を頑張ろう」と協力してくれるというのがあります。
だから採用機能を社員に求めるというだけより「その社員の力になることを会社が頑張ることで、社員も採用に力を貸してくれる」という、ギブ&テイクの関係が重要だと思います。
小さな感動をどれだけ提供できるかで、採用への協力度は変わります。その小さな感謝や、小さな約束をどれだけ提供できるかは意識してますね。
よく事業部のエースを人事に持ってくるとかって言うじゃないですか。でも現場からするとエースとられたら痛いじゃないですか。
あれってどうやってるんですか?それを実現できる会社、実現できない会社って何が違うんですか?
意外に、抜けたら次の人が頑張ってくれます。
トップが強すぎてトップダウンのような組織だとトップが抜けるマイナスは大きいと思いますが、そうでもない限り、その下にいた人がそれをチャンスととらえてやる気を見せるので大丈夫だと思います。
弊社では、エースやトップの異動を決めるときに役員会でルールがあって「抜くのが先」って決めてるんですよ。「まず異動させよう。異動させて欠員がでた場合、欠員を本当に補充すべきかどうかを、あらためて一回考えよう」と。
で、補充すべきとなれば、キャリアエージェントグループという社内ヘッドハンターが適切な人材を推薦するのです。
ただ、それでまた新たに異動が発生するとなると当然時間かかるので、大抵No.2を上げようと判断することが結構多いんですね。そうすると、結果的にもともとNo.2だった人がやれるものなのです。
抜擢や異動などでエースが抜かれるというケースだと、その事業部の事業部長が不満に思うということが以前はよくありましたが、そういった事例を積み重ねることで、最近は「もしエースが抜かれても、2番手が成長するチャンス」と思ってくれるようになってきましたね。
あと、大きな異動の場合は役員会決議で決定しているのですが、役員8人がそれぞれ担当事業を持っているなか、役員全員での合議にしているので、現場に近い事業部長も納得せざるをえないというのはあります。
異動による悪影響が起きそうなところは、役員会で経営陣の問題として決議しています。
求職者の人生に寄り添うことで、強い信頼関係が生まれる
橋本さんはいかがですか?
人事ってどんな仕事か考えたときに、私は、人の人生に関わる、重要で、意義のある仕事なんだっていう価値観を伝えて、共有するってことを、強烈に意識していつもやっています。
私の人事の中で、すごく印象に残ってることいくつかあるんですけど、以前在籍していた会社で、代表に呼ばれて「相手の希望年収が150万円下げても入社してもらえるような人事になれ」と言われたんですね。
当時それこそ採用競合では、サイバーエージェント、ソフトバンク、マイクロソフト、ヤフー、ライブドア、日本を代表する会社ばかりです。
当時の市場の状況と会社の給与テーブルの構造をみたときに、市場のスピード感に会社が全然追いついておらず、他社よりも低い条件でしか提示できないことはジレンマとして感じていました。
その中で色々やったのですが、最終的に行き着いたのは「結局どう死にたいですか」でした。毎回、オファー面談や最終面接のときに「どう死にたいですか。死ぬときに誰に看取られたいですか、何を成し遂げたいと思いたいですか」と聞くようにしたんですね。
「じゃあ今とのそのギャップをどう埋めてくのかっていうのを、たとえばじゃあウチの会社で3年、5年、もしかして一生やるかもしれません。その中でその生き様に沿った人生を歩めるかどうかを一緒に考えましょうよ」と、そういう話をしています。
エージェントの方ともやりとりをよくしてたんですけど、「この方は、御社では採用確率は5%くらいしかありません。橋本さん厳しいです。でもよろしくお願いします」と言われるときが多かったです。ただそんな状況でも、面談して1時間半後に握手して、「一緒にやろうぜ!」みたいになるケースがありました。
それ、すごいですね!
なんでそれができてるのかなって思ったら、相手の人生に寄り添っているからじゃないかなと。相手の人生を聞きながらホワイトボードに年表を書いてるんですよ。
あなたの人生はほぼこうなっていくと思うって。場合によっては「ウチの会社に入社しない方がいいかもしれないよ」といったことを伝えるようにしていますね。
そういうやりとりをしてて、同じ価値観が共有できてくると、比較的素敵な方が入社をしてくれるようになったと感じています。承諾率も、ずっと人生で90%くらいなんですよ。
え、90%ですか!?高い!9割・・・!
そういう私の経験値や価値観をチームに落としてどう採用していくのかは、非常に難しいし、課題ではあるんですけど、少なくともこの考え方を、ずっと悩んで悩んで、たどり着きました。
「どんな人生歩んでるんですか」ってことを、候補者の人と語れるような、文化ができてくるといいなとずっと思っています。
人事と内定出て入社してくる人の間の信頼関係ってすごいと思うんですよ。ただ、そこと現場とギャップって生まれないんですか。
すごい大事なところで、大変だったけどやってよかったなと思うのは、採用担当が入社後もフォローもするというところまで心がけたんです。
入社した人の一年間を追いかけ続けるんですよ。1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月と追いかけてその変化を、現場の上長なり、リーダーなり、同僚なりに伝えていってちょっとずつちょっとずつ溝を埋めていくと、辞めずにちょうど一年後くらいには活躍してくれています。
提示年収のバランス感覚って難しいですよね。やはり、市場がどうなってるかを人事は敏感に感じる必要があって、提示年収が何の根拠もなく会社の独りよがりになってはいけません。
その職種の市場価値が上がっていて、どうしても会社としてその職種が必要であれば、給与テーブルの変更は当然検討すべきです。
あとは、金銭報酬と感情報酬。この二つの報酬をちゃんと考えることが大事です。
たとえば既に会社に所属している社員であれば、他社との転職を常に考える人がいてもおかしくないわけなんですけど、「転職することと最後まで残って頑張ることが、自分の人生にとってどちらがプラスなんだろう」という感情。
これは福利厚生なのか、やり甲斐なのか、新規事業経験なのか、人によってとらえ方が違うので、感情報酬と金銭報酬といろんな面をカバーすることで、トータルで他社よりも相対的に高くなってるようにすることが、人事のやることだと理解しています。
最後に
いかがでしたでしょうか。
人事領域に関わる方々の考えや想い、そのうえで何をしてきたのか。そのような経験にもとづいたお話をお伺いすることができ、非常に勉強になりました。
- 周囲を巻きこんで採用をつくりあげるためにキャッチコピーにもこだわりを持つべし
- 面接官同士、採用担当者の間での情報連携を強化することが、求職者の惹きつけにつながる
- 採用担当者は事業部の「身内」になれているかが大事。事業部の痛みを知ろう
- 採用担当者は時には黒子に徹することで、社員が採用に主体的に取り組む
- 採用担当者は6職種に関連する能力が求められている
- 社員の力を借り続けることができる人事は強い
- 候補者の人生に寄り添う面接をすることで、信頼関係が生まれ、入社につながる
人事、採用に携わるみなさまにとって、何かしらご参考となれば幸いでございます。