昨今の新卒採用市場を見ると、採用時期の変動、有効求人倍率の上昇、WebメディアやSNSの台頭による採用手法の多様化など、変化が著しくなってきているように感じています。
採用担当者もそれに応じて、求められているものが多くなってきているのではないでしょうか。
そこで今回は、採用コンサルタント/アナリストの谷出 正直氏にインタビューの機会をいただき、多様化・複雑化する新卒採用において、
- 採用への取り組み方
- 学生、採用支援会社との付き合い方
など、採用担当者はどのようなスタンス、考え方をもつべきか、谷出さんのお考えや他社事例など、記事にしてご紹介します。
谷出 正直(たにで まさなお | 採用コンサルタント/アナリスト
目次
依然として大手就職サイトメインだが、ただ待つだけでは採用充足が難しくなってきている
-最近、就職サイトや合説(合同説明会)といった既存の採用活動に加えて、スカウト、新卒紹介など新しい採用支援サービスが増えてきているよう感じますが、実際にはいかがでしょうか。
谷出氏:大手の就職サイトの求人広告や合同企業説明会(合説)で学生全体にアプローチしていくやり方に加えて、個別にその学生にあった情報を届けるアプローチも増えてきています。
実際、就職サイト以外に新卒紹介、各種イベント、ソーシャルリクルーティング、ダイレクトリクルーティング、リファラルリクルーティング、ミートアップなど、さまざまなアプローチができるようになりました。
HR NOTEさんでも先日、新卒採用のトレンドに関して記事書かれていましたね。
-ご覧いただきありがとうございます(笑)。なぜ採用活動は多様化しているのでしょうか。
谷出氏:採用の充足が難しくなってきているからだと思います。
今までは大手の就職サイトに掲載して、数多く母集団を集めて、説明会に来てもらい、絞る、ということを当たり前にやってきましたが、それでは数が集まらなくなってきています。
また、就職サイトに掲載して待つという方法だけでは、企業が求める人材が来てくれないということもあります。
-就職活動をする学生の数が減ってきているのでしょうか?
谷出氏:就職活動する学生数自体は、この20年間は横ばいです。リクルートホールディングスのリクルートワークス研究所の調査では、約40~45万人という数字が出ていますし、そこは変わらないですね。
-就職活動をする学生が減っているわけではないのに、なぜ採用が難しくなってきているのでしょうか?
谷出氏:要因は2点考えられます。
ひとつは、有効求人倍率の増加です。ここ3、4年にかけて有効求人倍率が上昇しています。各社の採用意欲が高まっているにも関わらず、就職活動をする学生の数が変わらなければ、売り手市場となり採用が難しくなるのは当然ですよね。
もうひとつは、一度上げた採用の基準を下げない企業が増えたことです。リーマンショックの前に有効求人倍率が2倍を超えていました。
あのときは「多少、採用基準に満たなくとも、採用数は確保する」という『大量採用』の動きがありました。
その後、リーマンショックがおきて有効求人倍率が下がり、学生に求める資質や能力といった採用基準が上がりました。いわゆる『厳選採用』ですね。
採用基準を満たす人材を採っていかないと、中長期的に見たときに企業のダメージは大きいですから、「求人倍率が上がったからといって、一度引き上げた採用基準は下げられない」と考える企業が多いのだと思います。
-採用担当者としては、どのように採用活動をしていけば良いか悩むところですね。
谷出氏:採用のメインはまだまだ大手の就職サイトだと思います。
実際、大多数の学生が使っていますし、一定の採用数を確保したい企業にとっては、就職サイトはすごい力を持っています。
なにより費用対効果が良いですよね。1人あたりの採用単価で考えると、採用数が多い企業ほど費用対効果が高いですから。
ただ、すべての企業にとって大手の就職サイトを使用することが1番良い方法だとは思いません。採用数が1、2名の企業は、費用対効果や工数を考えるとダイレクトリクルーティングツールやWantedlyなどを活用しても良いと思います。
あとは「そのサービスを利用している学生はどんな学生が多いのか?」という観点でサービスを選ぶのもオススメです。
例えば、Wantedly。リクナビやマイナビは全国の大学生が利用しているのに対し、WantedlyはFacebookなどのSNSと親和性の高いサービスになるので、エンジニアやWebデザイナーなどWeb関連のことに興味がある人が母集団の中に多くいる傾向があります。
Web関連に興味のある人材を狙うのであれば、Wantedlyを利用してみる価値はあると思います。
それぞれの採用支援サービスによって持っている学生のデータベースの特徴は違うので、そこに注目して使い分けてみると良いのではないでしょうか。
採用が上手くいっている企業の共通点は、「企業の理念やビジョンが明確である」
-採用担当者の方々とお話をされる際、現状抱えている悩みや要望などは何か聞かれますか?
谷出氏:学生に関して良く耳にする悩みは『予約した説明会の無断欠席』ですね。
-永遠の課題みたいなものですよね(笑)。
谷出氏:面接の無断キャンセルや無断欠席、連絡を取り合っていたのに急に連絡が取れなくなる、などなど・・・。
「不採用の場合は企業から学生に何も連絡しませんよ」という『サイレントお祈り』と呼ばれるものがありましたが、逆に学生もまた企業に対してサイレントをしかけるようになっています(笑)。
「行きたくない」と断るのが伝えにくいにしても、「これから社会人になっていくのに大丈夫なのかな」といった不安の声はよく聞きますね。
-谷出さんは採用支援会社でご活躍された経歴がありますが、採用支援会社の人から相談されることはありますか?
谷出氏:前職の経験から、採用支援会社の営業の方から「採用担当者は何を知りたいのでしょうか?」といった質問を良く受けます。
当然ですが、人事は、自社の採用のことに関しては詳しいですよね。ですが、世の中全体が今どうなっているのか、他社がどういう動きをしているのか、その効果は上手くいっているのかという情報がないので全体との比較ができません。
ですから、「世の中ってどうなっているんだろう」という質問をしたときに、世の中の動きや他社の成功事例を答えてくれる方は貴重な存在で、「そういう方が営業に来てくれると嬉しい」と良く聞きます。
-採用支援会社は自社サービスはもちろん、採用市場の把握もする必要がありますね。
谷出氏:そうですね。ひとつは「自分が人事だったら・・・」という観点を持つと良いと思います。意識しないと情報は入ってきません。
新聞や雑誌、Webでニュースなどの情報を見るときに、「自分が人事だったらどんなことにつながるかな」という意識で見るのか、ただ単にネットサーフィンのように見るのかだと、注目する情報や頭に入ってくる量が違ってきます。
あとは、見た情報に対してどのような解釈ができるかです。「採用の人数が増えている」「有効求人倍率が高くなっている」というのが事実としてデータで出て来たときに、それに対して自分はどう考え、何の取り組みに活かせるかを考える。
そのような、採用担当者と同じ観点を持つことが大切だと思います。
-採用が上手くいっている企業と上手くいってない企業の違いは何だと思いますか。
谷出氏:採用が上手くいっている企業の共通点は、企業の理念やビジョンが明確である点です。
では、「なぜ理念やビジョンが明確だと採用が上手くいくのか?」というと、明確な理念やビジョンが描けていると、「5年後10年後、私たちはこうなるために組織を作っていきます。そのためにこういう人が必要です」といったように「求める人物像」も必然的に明確になります。
明確に「求める人物像」が描けていれば、「その人はどこにいて、いつから就活を始めて、自社のどこに興味を持つか」と考えることができますから、無駄な時間や労力をかけずに、的を絞った採用活動ができるのです。
「0から1を生み出す起業家タイプの人材が欲しい」と思っている企業が、とりあえず数を集めることに注力して「一般職でもいいんです」という学生を1万人集めても、採用にはつながりませんよね。
採用を成功させるためには、企業が目指している未来をどれだけ具体的に伝えられるかどうかが重要なのです。
明確な理念やビジョンがある企業は、それだけ学生の興味関心を引くことができ、志望動機形成がしやすいというわけです。
-なるほど。逆に上手くいかないところはそういうところができていないと。
谷出氏:よく人事の方に、「あなたが就活をしている学生だったとするなら、今の企業に入社しますか?」もしくは「採用対象の学生に、自社を根拠のある自信をもって入社を進めることができますか?」という質問をします。
どう答えるか。その回答が、その企業の採用力と関係があると思います。
-それ、いいですね、ハッとしますね。
谷出氏:採用活動ってやり方は無数にあるはずなんです。
例えば選考をみても、面接で判断をするのもひとつのやり方ですし、グループワーク、適性テスト、飲みに行くっていうのもありかもしれません。
学生のことをどうやって知ることができるかというやり方です。
ただ、そのような採用手法を考える前に、「自分自身が社会人としてどうあるべきか」「採用担当としてどうあるべきか」「企業に対して何ができるか」というスタンスやマインドがどうであるか。これが一番重要だと思います。
その考えがない限り、「他の企業がやっているから真似してみよう」などという、やり方だけを持ってきても意味がありません。
どのようなスタンスを持つべきか、ここでは2つあると思っています。
ひとつは学生から見て“かっこいい社会人”であるかどうかです。優秀な学生に対して自社を魅力に感じてもらうためには、まずは人事がその学生が憧れるような存在になれていないと、そもそも興味を持ってくれないかもしれません。
もうひとつは、企業の代表者として、「私たちの企業はこういう方向に進みます」「こういう思いで創業をしました」「こういうサービスを通じて世の中に○○という価値を残します」などを自信を持って本気で学生に伝えることができるかです。
企業や理念、ビジョンに対しての自信がなく借りてきた言葉を言われても、「本当かな?」と、学生は感じてしまうこともあるでしょう。
想いが本気であればあるほど、学生に伝わったときに心が動かされます。人事は企業に対しての自信や、自社の商品・サービスに対しての自信、そもそも人事という仕事に対しての自信、あとは自分自身が1人の社会人として見たときに、「やりきれているんだ」という自信を持っているかどうかが重要になってくると思います。
ただ、なんとなく「経営陣から落ちてきた採用人数を採るために活動しています」という方は、企業にとってもマイナスになるだけなので、考え方を変えるか、人事からはずれたほうがいいと思います。
-採用において、社内の巻き込み方も重要だと思うのですが、その辺が上手い企業は何をしているのでしょうか。
谷出氏:新卒も中途も含めて、「採用活動は企業を作るうえで一番重要である」ということを、全社員が理解しているという状態をつくれるかどうかがポイントだと思います。
採用活動は人事の仕事で、現場の人からすると他人事になりがちです。
「私は、営業職なので、営業をがんばります」「私は、企画職なので、企画をがんばります」「採用は人事の仕事ですよね?」といったセクショナリズムが起こるかもしれません。
採用というのは、企業を未来永続的にするための非常に重要なミッションです。新しい仲間を受け入れるということを考えて、自分事として捉えるという土台を全社員に持ってもらう必要があります。
そもそも採用担当者が、「単なる人員補助です」というような様子でやっていると、なかなか協力は得られないと思います。
学生や採用支援会社と、中長期的な視点を持って人間関係を築くことを意識する
-採用担当者は、学生や採用支援会社とどう向き合うべきなのかお考えをお聞かせください。
谷出氏:学生と向き合うということに関しては、1人の社会人として向き合うことが重要だと思います。採用活動、就職活動は平等と言われながらもやはり企業のほうが強いと思うので、学生を軽視してしまいがちです。
新卒採用はエントリー数から考えると、採用人数はごく一部で大多数が不採用になっています。
そのため、「縁あって内定となれば関係は続きますが、縁がなければ関係はその場限りで終了」となりがちです。
しかし、今後の部分で考えると、「3年、5年経ったときに、転職して入社するかもしれない」「取引先企業の営業担当として関わるかもしれない」ということも可能性としてあるかもしれません。
そう考えると、学生を1人の社会人としてしっかりと敬意を持って向き合い、自社のファンになってもらう、応援してくれるようになってもらうということが重要だと思います。
採用活動においても「あの企業、面白かったよ。受けてみたら?」と後輩に伝えてくれることで、結果的に自社の採用活動のメリットにもつながるでしょう。
そう考えると、中長期的な視点を持って人間関係を築くことやファンになってもらうことは非常に大切なことだと思います。
-採用広報という言葉があるように、そのような考え方、対応が自社のブランディングにつながっていきますよね。
谷出氏:2017年度の採用であれば、「2017年4月に入社するか否か」だけで見てしまいがちです。
ただ、会社説明会で自社の強みや特徴を2時間も話を聞いてくれるという機会は、マーケティングで考えたときに、非常に効果的なことだと思います。
数百万社の法人がある中で、たまたま1社として出会う。本当に縁だと思うので、その縁を大切にして、「あの企業面白そうだな」などと、思ってもらうことが、中長期的に考えると非常に企業にとってもプラスになるのではないでしょうか。
-採用支援会社の方々に対しての付き合い方では、何かございますか。
谷出氏:採用支援会社が持っている情報と企業が持っている情報は大きな違いがあります。
採用支援会社が持っている情報は、採用の全体動向や個別企業のざっくりとした動向です。そういった情報を人事が知れることは、採用活動にプラスに働きます。
また、そこに営業担当が解説をしてくれて、自分が気づけなかったことを気づかせてくれる、というのが採用成功に近づく道になると思うんです。
そのような関係を営業担当と成り立たせるために、『人事のあなたは、何ができますか』ということを考えみると良いかもしれません。要するに、一方的に「情報をくれくれ」言っていませんか?って(笑)。
-win‐winになっていないと。
谷出氏:なぜその情報が欲しいのか、その背景を伝えるだけでも営業担当としては、「こういうデータがあります」と言えるかもしれないのに、「このデータだけください」といきなり言われても、用途がわからないため、適切なものが出せないこともあります。いつの間にか疎遠になり、情報そのものがもらえなくなることもあります。
「ください、いただきます」ということに対して、逆に自分が何をできるのかを考えるべきだと思います。
採用支援会社が持っていない、もしくは採用支援会社の営業が欲しがる情報は何かを考え、提供することで「この企業と一緒にやっていきたい」と思ってもらえるかもしれません。
歩み寄る姿勢を持って、「弊社は、ここが困っています」と正直に言ってもらえると非常に助かりますね。
イメージはパートナーですね。企業は違えど、「同じ方向を向きながら、採用成功に向けて一緒に歩みましょう」という関係が良いですね。
ですので、「採用マーケットの話を教えてください。私(人事)からは、企業の状況を伝えます。実際こういう採用状況で推移しています」と信頼関係をつくった上でお互いの情報開示をすると、同じ方向に進めると思います。
-そのような関係性が一番いいですね。
谷出氏:お互い「くれくれ」になってもいけません。また、営業はなんとなく商品、サービスを組み合わせて「はいどうぞ」ではなく、本当に企業の役に立つ提案をしないといけません。
根拠も何も考えないで提案すると、人事はそれを見抜きます。採用成功のイメージが持てないと「何でこういう提案なんですか」という突っ込みが来ると思います。
そうなると、信頼関係が築けなくなるので、お互いプロとして誇りを持って対応するべきです。採用支援会社は、採用のプロとして「こういうやり方をやったほうがいいです。
そのためには費用が○○○万円かかります」と、自信を持って本当に必要なものを提案し、それに対する適切な対価をいただく。
人事は人事でしっかりと自分たちがやるべき事柄、方向性を伝えていく。プロとプロの姿勢の中で、お互い切磋琢磨していくことにより、最善の結果が生まれてくると思います。
-では最後に、採用コンサルタントとして活躍されている谷出さんの今後の展望があればお聞かせください。
谷出氏:「イキイキと働く人が増える社会を作りたい」と考えています。新卒採用の領域をメインで仕事をしてきましたが、そこだけにこだわらず取り組んでいければと思います。
新卒採用って、企業・学生・大学・採用支援会社・国・地方自治体など、多様な領域にまたがっています。また、採用、就活の先には、働き方やキャリア形成、生き方につながっていきます。
仕事を通じて、多くの方と出会わせていただいています。その人たちといろんな領域を上手く組み合わせる中で、新しい価値を作っていきたいと思います。
就活については、就活のための就活でなく、社会に出て活躍するきっかけにしたいですね。社会全体で、次世代を応援するような取り組みをしていきたいですね。