株式会社ビジネスリサーチラボと横浜国立大学の服部泰宏研究室によって発足した『採用学研究所』の4周年記念セミナーを取材。
今回は、その中で、株式会社モザイクワークの杉浦 二郎氏と、横浜国立大学 准教授の服部 泰宏氏の講話内容を記事にしてご紹介。
本記事では、採用において「手法論ばかりが先行していないか」「採用をもっとシンプルに考えてもいいのではないか」「データ分析は必要なのか」といった内容を中心にまとめています。
自社の採用を見つめ直す上で、非常に参考となる内容が満載です!是非、ご覧ください!
目次
採用を「シンプルに削ぎ落とす」考え方の大切さ
杉浦氏は、自身の採用支援の経験を踏まえた上で、採用の在り方やアプローチの考え方について、お話をされていました。
採用は極めてシンプルでもいいのではないか?
杉浦氏:「なぜ、採用が必要なのか」「なぜ、選考をするのか」「そもそも母集団はいるのか」。
このようなことを自分自身にも、お客様にも常に問いています。採用支援のご依頼をいただく際に、こういった議論からスタートするんですね。
採用で「HOW」の議論ばかりが先行していないか?
基本的には、採用活動は「100社あったら、100通りあっていい」と思っています。ただ、「How(どのように)」の議論が非常に多いように感じています。
経営戦略があって、人事戦略に落とし込まれ、求める人材を考え、その先にようやく「How」があるわけです。
ただ、「How」の議論が先行してしまい、いかに「その手法を使うことがいかにすごいか」という話が、多くなっているのではないでしょうか。
大事なのは、採用を「シンプルに、削ぎ落とす」こと
私は、「採用はきわめてシンプルであるべきだ」と考えています。
「採用とは何か?」と聞かれたら、私は「入社したい人をとるだけです」と答えます。
入社したいという気持ちも、「なんだかわからないけど、この会社で働かせてもらいたいです」というくらいの気持ちです。
「入社したいという気持ちを醸成させ、その方をいかに採用していくか」。これをひたすらシンプルに考えていくことが、私が一生懸命取り組んでいることです。
その取り組みで感じることは、大事なことは「シンプルに、削ぎ落とす」ことです。「本質をいかにしっかりと突いていくか」ということです。
とにかく「自社にとっての採用とはなにか?どうあるべきなのか?」。これを徹底的に考え、そぎ落としていくことが、すごく大事なことだと思っています。
事例紹介|総研ホールディングスの採用戦略。求めたものは「覚悟」だけ
業績は好調だが、“不人気業界”のため採用に苦戦
杉浦氏:1社、採用支援事例をご紹介します。
「総研ホールディングス」という企業で、事業内容は、住宅のリフォーム、外壁・塗装業、不動産サイト「ウチコミ」を運営しています。
従業員数は現在で200人くらいなのですが、業績好調のため、毎年120%~130%ほど、社員数が増え続けている状況です。
ただ、採用は苦戦の連続でした。「ずっと屋根に登って仕事をしないといけない」などといった、過酷な労働環境のため、基本的に採用においては不人気の業界で、離職も非常に多い状況でした。
私は、2016年の7月から総研ホールディングスさんと一緒に、採用の取り組みを実施してきましたが、人生で初めて「リクナビの登録がゼロ」という経験をしました。まったくエントリーがこないのです。
学生に聞いても、「そんな業界、よくわかんないです」「あまり行きたいと思わないです」と。
そもそも採用力は企業基礎力(規模・知名度)×採用設計力で決まってくると思っていますが、要するに「企業基礎力」がほぼ0なんです。
「そもそも採用は必要か?」原点に立ち返る
杉浦氏:そこで「もう1度、原点に立ち返ろう」と、経営陣と「そもそも、なんで採用をするのか」というところから、一緒に話し合っていったんです。
その中で「事業モデルはシンプルで、企業成長と人がリンクする」という話になりました。
総研ホールディングスの事業は、労働集約型のビジネスにきわめて近い産業で、「多くの人材が、当たり前のことを当たり前にやれば売上が伸びていく」のです。
売上と社員数がキレイにリンクして、右肩上がりに上がっていく。わりとわかりやすい構造のビジネスモデルでした。
ですので、企業成長にはやはり人が必要になると。人がいてくれないと、そもそもビジネスにつながっていかないから、やっぱり採用は必要だと。
それで、あらためて採用に向けてスタートしていきました。
採用要件をつくるためにデータ分析を実施したが、途中でやめた
杉浦氏:次に、採用要件を設定するためにさまざま分析をしようと思い、適性検査やアンケート、インタビューを全社に展開していきました。
ただ、途中でやめました。なんでかというと「この会社はこれじゃないな」と思ったんです。また、「このフェーズではない」と感じたんです。分析以前に、もう少しやるべきことがあるし、少し違うなと。
「事業モデルがそもそもシンプルである」という部分や、成長フェーズの企業なので、日々事業モデルや役割が変わっていくし、人も増えていく。そんな変化が多い状況で、細かく分析していったところであまり意味はないんです。
分析したところで、来年だと使えなくなる可能性もあるし、さまざまなカテゴリに分けて分析していけば、当然その対象となる母集団が少なくなるため、正確性に欠ける可能性も高くなります。
もっと総研ホールディングスに合ったやり方があるはずだと考え、「もう少しシンプルな形で考えていこう」と、私自身も、もう一度原点に戻っていったんです。
「仲間意識」を大事にした、社員全員が納得できる採用プランを
杉浦氏:今の総研ホールディングスの企業フェーズは、同質性をどんどん高めていくべき時期だと思いました。
「とにかく、やるぞ」となれば、「わかった」と、右であればみんなで右に行く、そういったイメージです。
そのようなフェーズであれば、価値観や相性を共有化していくことが重要になります。
そう考えてたときに、求める人物像に関して、高いところを求めがちですが、そうではないと。自社のカルチャーにフィットするような人材を採用していく必要があります。
とにかく強固な組織を作り上げていくために、「結びつき、絆」をとにかく高めていこうと思いました。
また、総研ホールディングスが最も大事にしているものは何か。「仲間意識」です。「社風担当役員」という役職もあるくらいです。それくらい「社風」や「仲間」という部分に、ものすごく力を入れています。
そうすると、社員が納得できないようなやり方で採用活動をするのではなく、全員がわかりやすくシンプルに、「それだったら面白い。一緒にやりたい」と思ってもらえるような、採用プランを考えていきました。
大事なのは、総研ホールディングスの仲間として飛び込める「覚悟」
杉浦氏:そんな中で、考えていったのは「きわめて、シンプルにそぎ落として、本質をつく」ということです。経営陣と議論して、この会社が最も大事にしたいこと、求めていることを1つだけ決めていきました。
それ以外はなくてもいい、「これだけは持っていてほしい」ものは何か。そこで決めたのが「覚悟」だったんです。
採用する人には、総研ホールディングスという集団に仲間として飛び込める「覚悟」を持ってもらいたいと。
現場の社員の方々も、「それさえ持っていてくれていれば、責任持って育てます」「覚悟さえあれば、どんな人間でも僕らは仲間として迎え入れます」と言ってくれたんです。
そこで生まれたのが『即、採用』です。
2つの項目を入力すると採用決定となる『即、採用』とは?
杉浦氏:即、採用は、連絡先の電話番号と入社希望日の2つを入力したら「採用」になるものです。辞退はできません。
「えっ、こんなので、内定出しちゃうの」と思いますよね。本当に内定となります。実は、このプランを出したときに、社内から猛反発があったんです。まあそうですよね(笑)。
そこから丁寧に説明し、納得してもらうように動いていきました。「逆の立場で、入社する覚悟を想像してみてください」と。
その会社に行ったことがない。社員に会ってもいない。面接もされていない。そんな状況で、名前も入力せずに連絡先と入社希望日だけで内定が出て、しかも辞退できないって、よほどの覚悟が必要です。
「僕だったら、応募しないです」って、説明をしていって、「たしかにそれでくる人材は相当な覚悟を持っている」と理解いただきました。
「これでくるのは、どんな人か見てみたいよね」と言ってくれる人も出てきて、グッと盛り上がっていったんですね。
総研ホールディングは、企業基礎力もなければ、採用に割けるリソースもありません。そうなったときに、「集め方そのもの」に工夫を凝らすしかないわけです。
『即、採用』実施の結果として・・・
杉浦氏:結果、即、採用コースから3名の内定が決定しました。
それ以外にも『弟子入りコース』など、さまざまな採用コースを設けており、即、採用以外にも内定者がいるのですが、内定式の際に社長の目に留まった人が3人いて、それがなんと全員、即、採用コースからの採用だったんです。
モチベーションが全然違うんですよ。入る気満々どころか、もう入ったあとのことを想定してるんです。
さらに面白いのが、その3人が「この会社やっぱりいいよね」とまわりの内定者に言っていて、その熱がさらに伝播していって大きくなっていったんです。
採用における「データ分析」と「シンプルに考える」ことについて
次に、服部氏のお話をご紹介。
服部氏は杉浦氏のお話へのフィードバックとして、採用において「データ分析することの必要性」と「本質をとらえて、シンプルに考えるための方法」についてお話をされていました。
データ分析に必要なのは「環境の安定性」と「大量のサンプル」
服部氏:杉浦さんが総研ホールディングスで最初に実施したデータ分析。
データを取って分析することは、大事なことです。ただし、それには使える状況と使えない状況があると思っています。
データ分析が使えるための条件として、「環境の安定性」と「大量のサンプル」が挙げられます。
環境の安定性
1つ目の条件は、環境の安定性です。データ分析をする前後で「状況が変わっていない」「優秀さの定義が変わっていない」などを、まず考えないといけません。
「ある時点を分析したこんなデータがあります」と言っても、会社がその時と同じような状況にあるのかどうか。その状況を鑑みた上で、そのデータは意味のあるものなのか。これが1つです。
大量のサンプル
2つ目は大量のサンプルです。
たとえば、AさんとBさんの2人が入社前にテストを受けたとします。Aさんはテストですごく良い結果を出し、一方でBさんはテストの結果が悪かった。
しかし、入社後にAさんは全然ダメかもしれない。Bさんは逆にすごく優秀に成長していくかもしれない。
この2人だけのケースで見ると、こういったことは結構あり得ます。入社後、テスト以外のさまざまな要素が絡んでくるためです。
データ分析に価値があるのは、それを100人、200人、1,000人、1万人とやるからです。Aさんのたまたまの部分など、さまざまな要素が全部相殺されていくので、「じゃあ、テストは大事なのか」ということが見えてきます。
100を超える量があれば、ある程度の安定性はありますが、それでもやはりノイズが入ります。1,000くらいの量があればかなり安定していきます。
自社でデータ分析をするとしても、この2つについて見極めていく必要があります。
データ分析で優秀な人材を見抜ける確率は、最高でも50%
仮に、環境が安定していて、大量のサンプルがあり、データ分析が可能な状況だとします。
その場合、データ分析によってどのくらいの確率で、将来の優秀な人材を見抜けるかというと、最も予測の精度が高いもので50%です。
これは、アメリカの研究によって結果が出ています。最も予測の精度が高くなったケース。これは、同じ環境でまったく同じことをやらせた場合です。
言い方を変えると、データをもとに選抜した人材に同じ環境で同じことをやらせても、50%は違ってくるということです。
これをどう考えるか。「データ分析ってこんなものか」と考えるのも1つ。一方で、「しっかりやれば、数十%くらいはいけるんだ」という考え方も1つです。
これは、考え方の問題、価値観の問題です。どうするかは、みなさんが選び取るものです。
ちなみに私は、5%でも意味があると思ってます。何も予測できないよりも、5%予測できるのであれば、それはすごいことだと思います。
ただし、先に述べたように、「環境の安定性」や「大量のサンプル」が前提条件として大切だということを忘れてはいけません。
本質をつかみシンプルに考えるために「言葉」を用いる
服部氏:もう1つ、「シンプルに考える」ということについて。
私は、シンプルに考えるための大前提として、「まずはとことん考え、本質をつかむ」ことが大事だと思っています。
私は、杉浦さんが三幸製菓で人事をしていた時から、ずっと議論や話を聞かせていただいています。同様に、新しい採用にチャレンジしている企業にも、ずっと向き合ってきて、フィールドワークも5年くらい重ねています。
その中で、新しい採用にチャレンジしていて、それが「本質的なものである」企業には、1つの共通点があると考えています。
「自社の採用を表現する言葉」があるかが重要
何かというと、早期の段階で、自社の採用について一種の比喩のような形で、しっかりと表現する言葉が登場していることです。私はこれは重要なポイントだと思ってます。
たとえば、杉浦さんが携わった三幸製菓の事例でいえば、「カフェテリア採用」です。「いつ、その言葉は出てきたんですか?」と聞くと、「割りと早期にぽっと出てきた」とのこと。
「カフェテリア」という言葉はさまざまな意味を含みます。「自由に選べる」「押しつけてない」「ゆったりできる」。いろんなものが想像できます。
おそらく、この言葉が最初に出てきたときは、杉浦さんが意識されていたことと、他のメンバーが意識されていたことが、どこまで一致するかというと、実は若干ズレているはずです。
ただ、メンバー内で「うちはカフェテリア採用だ」と、この言葉が出てきたことが重要なんです。
なぜなら、その言葉があったことで議論の質が高まったと思っているからです。「カフェテリア採用という共通のコンセプトをみんな持って議論をしているんだ」という信頼感が生まれ、「そのコンセプトを詰めていこう」と、具体的な議論に発展していくことができた。
ですので、この「フレーズ」は、すごく大事な意味を持っていると思っています。
言葉を用いて、物事をシンプルに考える
「自分の採用とは何か」「求職者と会社の関係はどうあるべきか」ということについて、たとえでもジョークでもなんでも、言葉として表現する。
三幸製菓では、「カフェテリア」という言葉であらわし、とある企業では「ヤジロベー」という表現をしています。
一見すると「何それ」と思うのですが、そこには「こういう採用をしていきたい」という想いが込められています。
たとえば、「学生と会社との関係性」を考えたときに、とある企業では「恋愛」という言葉を出したんです。
では、「恋愛」という言葉を突き詰めたときに、今の採用のおかしいところは、恋愛にも関わらず出会ったその日に、「どうして、俺のこと好きなの」と、志望動機をいきなり聞きますよね。
これは恋愛ではあり得ません。そこから、「それを聞くのは最後だよね」という話になり、採用の在り方が変わってきます。
今のは一つの事例ですが、採用において、比喩やたとえを用いて議論をするプロセスがあると、本質的に何が大事かということを考えるきっかけになります。
「シンプルに物事を考える」ために、「自社の採用を表現する言葉を用いる」ことは、1つのやり方になるのではないかと思っています。
【イベント概要】
- 採用学4周年記念セミナー
- 主催:採用学研究所/株式会社ビジネスリサーチラボ/株式会社モザイクワーク
- 日時:2017年10月25日 (水) 18:00~
- 場所:「僕らのワークデザインラボ」東京都港区浜松町2-4-1 世界貿易センタービル8F