こんにちは!Ad Libitum代表の松永 大輝です
先日、政府主導による「働き方改革実行計画」が決定されました。この内容には同一労働同一賃金の実現や、罰則付き残業時間の上限規制導入など、日本の雇用問題に対して真っ向から立ち向かおうとしている政府の意気込みが感じ取れます。
今回の実行計画では、長時間労働の改善策として「罰則付き残業時間の上限規制導入」が盛り込まれていますが、じつは昨年末に厚労省からも「『過労死等ゼロ』緊急対策」というものが発表されています。
今回の記事では、この「『過労死等ゼロ』緊急対策」の内容について概要を解説するとともに、この対策を受け、企業はどう対応すべきかについても示していきたいと思います。
目次
1. 「過労死等ゼロ」緊急対策の概要
「過労死等ゼロ」緊急対策は大きく分けると「3つ」についての取り組みの強化をすると掲げています。
1-1. 違法な長時間労働を許さない取り組みの強化
この項目のポイントとしては、使用者(会社)向けに労働時間を「適正に」把握するためのガイドラインが定められた点です。
これまでも、「申告のあった時間」と労働者が「実際に働いた時間」とに乖離があることが問題視されていましたが、ガイドラインではこの2つの時間に乖離がある場合、会社に実態調査をおこなうよう求めています。また、これまで労働者のスキルアップのための研修・資格取得の学習が実質業務「外」でおこなわれていた現状を受け、この時間を労働時間、つまり業務「内」におこなわなければならないと明確化されています。
1-2. メンタルヘルス・パワハラ防止対策のための取り組みの強化
この項目の大きなポイントとしては、「個別指導」があげられます。これまで、行政のメンタルヘルス対策はその管轄ごとにおこなわれていましたが、特定の企業グループが精神障害の労災事故を複数回引き起こしている場合は「本社」に個別指導がおこなわれることになりました。
とくに、過労自殺・自殺未遂があった事案に対しては、会社に対して改善計画の策定を命じ、1年間継続して指導がおこなわれることになっています。
1-3. 社会全体で過労死等ゼロを目指す取り組みの強化
この項目では「社会全体で」とある通り、個別企業に対する対策だけでなくもっと大きな視点で取り組みの強化が盛り込まれています。具体的には、「事業主団体」に対して長時間労働の抑制に向けた協力要請がおこなわれたり、労働者の相談窓口を毎日・夜間帯にも拡大して実施されたりすることが予定されています。
また、労基法違反で公表された事案についてはその内容が一定期間厚労省のホームページで掲載されることも予定されています。
2. 緊急対策を受け、企業がおこなうべきこと
まず企業にとってインパクトが大きいのは、自己啓発の学習や研修受講の時間を「労働時間」として扱わなければならないという点でしょう。たとえば、衛生管理者という資格者は従業員数50名以上の事業場では設置が義務付けられるため、会社が一定規模になれば業種を問わず衛生管理者が必要になります。
恐らくこのような資格取得は「暗に」取得するよう従業員へ促していた会社も少なくないと思いますが、今回のガイドラインによってこのように業務上必要な研修などの時間は「労働時間」として取り扱わなければならなくなります。取り扱わなかったとしても、このガイドラインを根拠に後々になって個別の従業員から「未払い残業代」として訴えられてしまうというリーガルリスクが発生します。外部研修や資格取得をどこまで業務上の指示として「労働時間」とするのか社内で基準を設ける必要が新たに生じたといえます。
また、上記概要では触れていませんでしたが、「公表制度」の適用範囲拡大もこの緊急対策の大きなポイントであるといえます。法違反をしていること、長時間労働が蔓延していることが外部に公表されれば大きく報道されることになり、人材離れなどのレピュテーションリスクは計り知れません。自社が労務違反をしていないかチェックすることは今や人事担当者が抱えるタスクではなく、重大な経営課題として認識すべきものであるといえるでしょう。
3. さいごに
今回解説した緊急対策や、働き方改革実行計画の内容を見ていて感じるのは、今回の一連の対策は行政側も「結構本気」で取り組む意思があるということです。労働局などが発表する各種の調査に目を通すと、これまでは労務違反のある事業所は過半数を超えており、「どの会社でもある程度の法違反があるのが当たり前」で、行政も違反に対して「指導」程度で済ませていましたが、これからはそうはいかない時代がやってくるでしょう。
今のうちから従業員の長時間労働・メンタルヘルスに関して自社にどのくらいリスクがあるのかを調査することで可視化し、改善策を打っておき、いつ行政に見られても問題ないような体制にしておくことをお勧めします。労務管理はもう「なあなあ」で済まされる時代ではなくなってきているのですから。