こんにちは、ポライト社会保険労務士法人、マネージング・パートナーの榊です。
近年、「女性活躍」や「ワークライフバランスの実現」といった言葉を随所で聞くようになりました。また、「イクメン」「イクボス」といった男性の育児への参画を促すキーワードも市民権を得つつあります。企業としても、男性女性に関わらず、出産や育児に直面した社員を積極的にサポートしていかなければならない時代になりました。
そこで、今回は「産休・育休取得前」「産休・育休取得中」「産休・育休からの復帰後」の3つのステージに分けて、人事担当者が押さえておきたいポイントを解説していきたいと思います。
なお、冒頭でイメージが持てますよう、産前休暇から職場復帰後までの流れを簡単に時系列で下図にまとめてみました。
1. 「産休・育休取得前」のポイント
まずは、産休・育休取得前ですが、次の4点のポイントがあります。
1-1. 産前休暇が始まる前の女性社員へのフォロー
労働基準法では、産前6週間前(多胎妊娠の場合は14週前)から産前休暇を取得できることとしています。しかし、「つわりがひどい」などの事情で、前倒しで産前休暇に入りたいという相談を受けることがあります。このような場合、労働基準法上の産前休暇はあくまでも産前6週間で固定されているので、会社の対応としては、医師の診断書を取得してもらい傷病手当金を申請するか、有給休暇を取得するかを提案する形になります。
また、休むとまではいかなくても妊娠中の女性社員から「業務内容を体に負担のかからないものにしてほしい」という相談を受けることがあります。このような場合には、労働基準法には「妊娠中の女性が請求した場合には、他の軽易な業務に転換させなければならない」という規定がありますので、会社は配置転換などにより、当該女性の業務負荷を軽減する対応をしなければなりません。
1-2. 出産手当金・出産一時金・育児休業給付金などの手続きをスムーズに進める準備
これらの公的給付金の手続きは、本人が申請することも、会社が申請代行することもできますが、「本人にやってもらう認識だった」「会社がやってくれると思っていた」という認識のズレによるトラブルが発生する恐れがあります。本人か会社、どちらが対応するのかを、まずはキッチリと整合しておきましょう。会社が対応する場合には、「委任状をもらう」とか、「給付金の振込口座を確認しておく」というような、手続きに必要となる情報などを産休開始前になるべく本人から取得しておきましょう。
また、休業期間中の住所や連絡先も確認しておきましょう。会社からの連絡書類を本人の自宅に送ったら、本人は実家に帰っていて書類を受け取れなかった、というようなトラブルもしばしば発生しています。
1-3. 特別徴収されている住民税の処理に関する整合
産休・育休の期間中は、社会保険料は免除になるのですが、住民税は引き続き発生します。しかし、産休・育休期間中は、会社から支払われる給料は0円になりますので、天引きをすることができません。
この点の対応としては
1.会社が立替えて復職後に精算する
2.本人から一括で、または毎月振り込んでもらう
3.普通徴収に切り替える
という3つの方法があるので、会社と本人で話し合って、どう対応するのかを決めて下さい。
1-4. 男性社員から育児休業取得の申請があった場合の対応
以前は、配偶者が専業主婦の場合などは、男性の育児休業取得を拒む余地があったのですが、現在は配偶者の職業や属性よって男性社員の育児休業取得を拒むことはできません。現行の育児介護休業法のもとでは、男性も女性も育児休業を取得できる条件は同一ですので、男性から育児休業の申出があった場合に不用意に拒まないよう気を付けて下さい。
2. 「産休・育休取得中」のポイント
次に、実際に産休・育休の取得をしている期間中についてです。こちらには、3点ポイントがあります。
2-1. 社会保険料の免除手続きを忘れずにおこなう
産休・育休を取得している期間は、本人負担分・会社負担分ともに、社会保険料が免除になります。免除を受けるためには、会社を管轄する年金事務所または事務センター宛に「健康保険・厚生年金保険産前産後休業取得者申出書」および「健康保険・厚生年金保険育児休業等取得者申出書」という書類に必要事項を記入して提出して下さい。
2-2. 出産手当金・出産一時金・育児休業給付金の申請を会社がおこなう場合は確実に
本人から事前に受け取っている情報および、出産日の情報や医師の証明書類などは電話や郵送で随時追加取得して、申請手続きを進めます。とくに育児休業給付金は、2か月ごとの申請となっていて、申請期限が各回決められていますので、忘れないように気を付け、期限管理を確実におこなうようにして下さい。
なお、本人が給付金の申請をおこなう場合でも、会社が記名押印する証明欄などがありますので、協力をしてあげて下さい。
2-3. 産休・育休期間中の情報提供や職場復帰に向けたサポートをおこなう
産休・育休は1年以上の期間にわたりますので、それだけブランクが空いてしまうと円滑な職場復帰も難しくなってきます。
産休・育休の取得者ができる限り円滑に職場復帰できるよう、社内報など、勤務していれば手に入る情報を定期的に提供したり、eラーニングなどで研修メニューを提供したりすることなども考えられるでしょう。なお、こうしたeラーニングの研修時間は、受講を強制するものでなければ業務時間として扱う必要はありません。
3. 「産休・育休からの復帰後」のポイント
最後に、産休・育休からの復帰後についてですが、次の3点のポイントがあります。
3-1. 復帰後の職務内容に関して
育児介護休業法や厚生労働省の指針を踏まえますと「育児休業を終了した社員を原職または原職相当職に復帰させる」ことが原則となります。もちろん、本人と話し合いの上、本人の希望を踏まえて従前と異なる業務で復職させることは問題ありません。しかし、会社が一方的に本人の望まない業務内容に変更して復職をさせることは法的に望ましくないですし、本人とのトラブルの原因にもなりますので、充分に配慮をしましょう。
3-2. 復職後も育児介護休業法に基づき、会社にはさまざまな配慮をする義務がある
たとえば、男性、女性に関わらず3歳に満たない子を育てる社員が請求したら、「時間外労働の免除」「短時間勤務を許可」する必要があります。また、小学校就学前の子を持つ社員に対しては「子の看護休暇」を年間5日間まで年次有給休暇とは別に与えなければなりません。人事担当者の方は、育児介護休業法や自社の育児介護休業規程をよく読み、子育てをしている社員に対し、法的にどのような配慮をしなければならないのかを理解しておく必要があります。
3-3. 育休復帰時の社会保険料に関する諸手続きの対応
通常は標準報酬月額に2等級以上の変動があったとき社会保険料の「随時改定」の対象となりますが、育休からの復帰後は、短時間勤務や職務の変更などで1等級でも標準報酬月額が変動すれば、標準報酬月額の改定対象となります。会社を管轄する年金事務所または事務センターへ「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出して下さい。
また、「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」という制度があり、子が3歳までの間、勤務時間短縮等の措置を受けて働き、それに伴って標準報酬月額が低下した場合、子が生まれる前の標準報酬月額に基づく年金額を受け取ることができます。すなわち、標準報酬月額の等級が下がって毎月の給与から天引きされる社会保険料は安くなるが、将来受給できる年金額には、従来の高かったときの標準報酬月額が反映されるということです。この制度の恩恵を受けるためには、「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書」という書類を、会社を管轄する年金事務所または事務センターへ提出する必要があります。
人事担当者は、産休・育休取得者の、復職前後の給与額を比較して、漏れなく「育児休業等終了時報酬月額変更届」や「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出し、社員が社会保険料や将来の年金額で不利益を被らないように気を付けたいものです。
4. まとめ
以上のように、産休・育休は、取得前から取得後まで、会社が対応しなければならない手続きや配慮すべき事項は多岐に渡ります。
しかし、社員が安心して産休や育休を取得できることは、「働きやすい会社」であるための重要な要素であることは間違いありません。ですから、社員のモチベーションの維持向上や、優秀な社員に長く働いてもらうという人事戦略の観点まで踏まえ、産休・育休を円滑に取得できる体制づくりを進めていっていただきたいものです。