「求める人物像の設計」に関して、課題に感じている人事の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「欠員が出たからとりあえず採用する」「毎年この基準で採用しているから」と、求める人物像に対する明確な根拠もなく採用活動を行っていると組織の活性化や会社の成長が伸び悩む要因につながる可能性があります。
たとえば、応募が集まっても書類選考で大半を落とすことになり、何人面接をしても内定を出すことができず、非効率的な業務をこなすだけで採用活動自体が停滞してしまいます。
また、仮に内定を出しても入社後の早期離職につながり、経験やスキルが合わないと業務を遂行できず生産性が落ち、利益が減少する恐れもあります。
そこで今回は採用における「求める人物像の設計」について7つの考え方をご紹介したいと思います。
【目次】
目次
人材要件フレーム作成に役立つ7つの考え方
【1】経営計画と採用計画を連動させる|ベーシックな人物像設計
通常、採用計画は経営計画と連動し、中期(3年~5年)において、どんな人材が必要かを把握して人事計画を構築します。
経営計画と採用計画を連動させずに採用活動を行っていくと、社内で周知できていないプロジェクトが水面下で進み、そのプロジェクト要員として社内の人材が引き抜かれるケースなどにより、人員計画や採用計画に狂いが生じることもあります。
また、採用業務は「いかに予算を確保できるか」も重要です。そのために中長期的に経営計画を把握し、採用計画と連動させることで、経営陣に「なぜ予算が必要なのか」という質問に正確に回答し、説得することが求められます。
ここでは、経営計画と採用計画を連動させることで、どのように求める人物像設計につなげていくか、3つの考え方を紹介します。
1.経営計画と採用目的を明確にして人員計画と採用計画を立てる
経営計画に基づき、なぜ新規で採用するのかを明確にして言語化します。 ここを明確にすることで、「事業内容や企業ビジョンに共感してくれる人」を設定することができます。
2.社員の働き方を明確にする
職場環境やどのようなスケジュールで働いているのか、働く上で何を大切にしているのかなど、職場環境を言語化します。この作業により、「企業風土や雰囲気に合う人」を設定できます。
3.将来の事業計画と働き方の変化を予測する
たとえば、5年後の新規事業立ち上げる計画があり、新規事業をマネジメントできる人材が欲しい場合、5年後にマネジメント職につけるような年齢や経験を設定して、「スキル要件、性格や適性を細かく言語化」していきます。
ここまでの1~3をまとめることで求める人材像を明確化することにつながります。
【2】ヒアリングした内容を整理する時の基準|MUST/WANT/NEGATIVE
求める人物像を設計するには、オーダーをもらった部署へのヒアリングが重要になります。
実際には該当部署の仕事内容を経験していないと難しい部分もあり、何を聞けば良いのかわからないこともあります。そこで以下の3つの要件を基準にしてヒアリングをおこなうようにしましょう。
- MUST(必要条件)
- WANT(十分要件)
- NEGATIVE(不要要件)
オーダーする側は、高い理想を語りやすくなるものです。MUSTとWANTは慎重に分類し、まずはMUSTとNEGATIVEを中心にして求める人材像を作ります。
そこにWANTの要件は実務経験や研修で補うことを前提にし「WANT要件の素養があるか」という項目を追加して求める人材像を完成させます。
また、そもそも本当にWANT要件が必要なのか議論しても良いかもしれません。
【3】キャラクターを作りあげる|ペルソナ設計
ペルソナは本来、商品・サービスの対象となるユーザーを実在する人物のように詳細に設定をするマーケティング手法で、これを採用に応用します。
小説や漫画の登場人物を設定するような感覚で、たとえとして、人事課長の補佐ができるような人を採用するとしたらどんな人物が良いか、現状の状況や課題を踏まえて考えていきます。
- 「課長は関西出身だから関西出身者だと相性が良さそうだ、ゆくゆくは幹部候補に成長して欲しいから経営感覚を持っている経営学部出身者が良い。」
- 「人事にそれほど詳しい必要はないが人事に関心があって、課長の補佐をするには資料作成が上手い人が良いだろう。」
- 「人事部は面倒見が良い人でないと務まらないため、何人か兄弟のいる長男や部活で部長やキャプテンをしていた人、またはボランティア活動で人の面倒を見た経験がある人が適性がある傾向がある。」
このように、思いつくまま人物像を作り上げていき、最終的に要件をまとめ1人のキャラクター(ペルソナ)を作り上げます。
【ペルソナ設計シート(例)】
【4】優秀な社員をリサーチする|コンピテンシー採用
社内のハイパフォーマーの行動特性をリサーチ・分析し、類型化して求める人材像を作り上げる方法です。
以下では、行動特性のリサーチ項目の例を紹介します。自社独自のコンピテンシー項目を作成の参考となれば幸いです。
1.対人スキル
- 他社との豊かな関係性を築くことができる親和力
- 目標に向けて協力的に仕事を進めることができる
- 状況を読み組織を動かすことができる統率力
2.マインド
- どのような場面でも気持ちの揺れを制御できる
- 前向きな考え方やモチベーションを維持できる
- 主体的に動き、仕事を完遂させるための行動を習慣づけている
3.課題解決能力
- 課題を見つけ必要な情報分析を行うことができる
- 課題解決のために適切な計画を立てることができる
- 計画が変更になっても自ら行動を起こして調整をし、業務を遂行できる
【5】非金銭報酬型の求める人物像|企業風土や働き方に合う人物像を作成する
スキルや経験が理想的な応募者が現れても、企業風土や働き方が合わないと入社後に「こんなはずではなかった」と離職につながる可能性もあります。
たとえば、起業家精神を持つ人が集まる企業にワークライフバランスを重視する人が入社すると、当然ミスマッチが起こります。スキルや経験だけでなく性格や仕事に対する考え方についても、求める人物像に加えましょう。
非金銭報酬型というのはマズローの欲求5段階のうちの3つの高次欲求、「社会的欲求(社会に受け入れられること)」、「承認欲求(求められること)」、「自己実現欲求(自分の欲求が満たされること)」のことであり、これらの欲求を自社でどのように果たされるかまとめ、求める人物像に加えます。
- 企業:企業規模、業界地位、業績、経営ビジョン、経営者の人柄など
- 人間関係:職場の雰囲気、仲間との関係やコミュニケーションなど
- 仕事:仕事のやりがい、クライアントとの関係性など
- 処遇:福利厚生、評価方法など
- スキル:研修体制、知識の習得、難しい案件へチャレンジできる制度など
- ライフ:プライベート時間の充実、ワークライフバランスなど
自社の制度や人間関係を各項目に書き込んでいくと、自社に合う人物像ができあがります。この作業を行うことで、優秀な人材ではなく自社にマッチした優秀な人材を採用できるようになります。
【6】人材要件フレーム|スキル・マインド・属性で人物像を作成する
人材要件フレームとは、培った専門性や経験等のスキル、地頭や価値観等のマインド、性別や国籍等の属性で求める人物像を作成する手法です。
1.スキル
- 専門性、保有資格、職務経験、実績、課題や難題を乗り越えた経験
- 一般知識、業界知識、専門知識、自己啓発で得た知識
- 業務遂行能力、判断力、企画開発力、情報分析能力、折衝力、指導統率力など
2.マインド
- 高学歴や知識ではなく、柔軟な発想や創意工夫を生み出せる地頭の良さ
- 変化や困難に立ち向かうエネルギーや活力
- 主体性や向上心、責任感、協調性、柔軟性、継続力等の仕事に取り組む姿勢
- 高い目標を掲げて達成することに価値観を見出すのか、社会貢献に価値観を見出すのか等の職務志向や仕事に対する価値観
3.属性
- 性別や国籍、新卒か中途か等の物理的な条件
1~3をまとめることで求める人物像を作成することができます。
【7】新卒採用向け|STP法
次に新卒採用向けにはなりますが、STP法に関してご紹介します。
「Sはセグメンテーション」、「Tはターゲティング」、「Pはポジショニング」の略で、STPはマーケティングの基本的な流れです。これを採用に応用をしていきます。
まず、新卒採用市場を一定の基準(学科、大卒・高卒、校風、偏差値等)で分類して市場を切り分けるセグメントを行い、セグメントをした市場から狙うべき市場を抽出するターゲティングをおこないます。
そして、ターゲットに定めた市場の中でさらにどのポジションを狙うかを決めます。
このSTP法を活用している企業が東京都八王子市にある中小メーカーのエリオニクス社です。エリオニクス社では、地元の高専に対してインターンシップの受け入れや授業への協力を行い、定期的に学生を受け入れています。
このように、ターゲットを詳細にすることで、条件に当てはまる学校と提携するなど明確な打ち手ができるため、求める人材を確保することにつなげやすくなります。
まとめ
人材要件フレームがなかなか上手く作成できない場合は、これまで採用した社員と求める人物像との間にギャップがなかったのかを振り返り、採用活動自体を見直してみましょう。
また、人材要件フレームを作成できても採用市場に求める人物像に合う人材がいなければ意味がありません。
求める人物像がある程度固まってきたら、採用市場に求める人物像がいるのかリサーチしておくことも重要になります。