人事に携って約16年間。現在では組織人事コンサルタントとして「QGEN」「QElitez」のCEOとして活躍しているApichatさん。
Apichatさんは、約27万人がフォローするFacebookページ「HR The NextGen」を立ち上げ、人事だけでなく、働く人が抱える多くの悩みについても解決策などを共有し、多くの方に支持されています。
今回は、数多くの組織課題に向き合ってきたApichatさんが考える「Z世代のキャリア観」についてお話をお伺いしました。
人事の方はもちろん、Z世代の部下を持つマネジメント層の方や、従業員の関係性に悩まれている方は是非参考にしてみてください。
目次
「忍耐が弱いから」が理由ではない。
Z世代がすぐに仕事をやめる背景にある「豊富な選択肢」
「毎日9時に出社することが不満」。Z世代が辞める理由は様々。
どの世代においても従業員の離職はあるものですが、確かに他の世代と比べて、Z世代は仕事をすぐに辞める傾向にあると思います。
たとえば、数ヶ月前に仕事を辞めたZ世代の方がいたのですが、彼に仕事を辞めた理由を尋ねると「毎日9時に出社すること」に対して苦痛を感じていたようです。
「9時の出社が厳しい」という理由以外にも、「仕事量が多すぎる」「成長できない」などの理由で、Z世代の方は簡単に会社を辞めてしまいます。
これは、価値観の多様化が考えられます。様々な価値観をもった従業員が増えた結果、従業員全員の仕事に対する要求を満たすことが非常に難しくなっています。
「他の仕事について知る機会」が格段に増えたZ世代
X世代の時代は、分厚い求人情報誌や新聞の求人欄から仕事を探していました。求人情報を得られる頻度としては週1回から月1回と、現在と比べ仕事を探す機会がかなり制限されていました。
一方で、Z世代はオンライン上でいつでもどこでも求人情報にアクセスすることができます。
さらに仕事の情報だけでなく、写真や動画を通して職場の雰囲気を見られるので、他社についても具体的に知ることができます。
そのため「いまの職場にいる意味はあるのか」「他にもいい仕事があるのではないか」と考える機会が多くなりました。
また、今は膨大な数の求人情報のなかでも、2~3割の企業は新卒学生などの若手社員を募集しているので、転職は難しいことではありません。つまりいつでも仕事を変えることができる状況にあります。
Z世代の充実した教育環境が、恵まれた機会につながっている
X世代の両親はベビーブームの世代でした。X世代の中でも約半数の方は大学を卒業できましたが、もう半数の方は家族や親戚を養うために大学には行かず、就職を選択する方が多くいらっしゃいました。
一方でZ世代は、経済がよくなり、裕福な家庭が増えてきています。Y世代も、両親にあたるX世代が経済状況などにより十分な教育を享受できなかったこともあり、自分たちの子供にあたるZ世代の教育に対して、非常に重視するようになりました。
そのため家庭が裕福で、教育をしっかり受けてきたZ世代は、いつでも再就職しやすい状況にあり、仕事を辞める決断が容易にできるようになりました。
Z世代が仕事に求める「自由」とは
「どう時間を使うかが重要。」Z世代のキャリアにおいて重要な3つのこと
あるリサーチの結果によれば、いまのZ世代がキャリアにおいて重視するポイントは大きく3つあります。
まず1つ目は安定した企業に属したいという思いがあるということ。2つ目はワークライフバランス、3つ目は組織内で「主体性」を発揮することができるかどうかです。
これらの3つの特徴をふまえると、Z世代は「個人」にフォーカスした世代ともいえます。
安定した企業に就職し、自分が実現したい働き方で働く。そして同時に家族、友人と過ごす時間や娯楽に費やす時間と仕事を両立したいと考えています。
厳しい環境に身を置き、毎日バリバリと働くというよりも、自由や柔軟性を重要視し、外部から干渉されることに対して抵抗を感じる方が多いでしょう。
捉え方によっては自己中心的に感じるかもしれませんが、我々はそれらをZ世代の価値観として受け入れる必要があります。
Z世代がお金を得る手段は「企業で働く」だけではない
Z世代が仕事を辞めやすくなった理由として、「お金を稼ぐ手段が増えた」ことも挙げられます。
昔はお金を稼ぐために「企業に就職する」という発想は当たり前でしたが、今では企業で働く以外にも、あらゆる手段でお金を稼ぐことができます。
たとえばブログを書いて収益を得たり、フリーランスになったり、またオンラインで物販を始める方も多くいらっしゃいます。
組織に属さなくても収益を得ることができる時代なので、辛いことを我慢してまで企業で働き続ける必要がなくなりつつあります。
もちろんZ世代の中にも「組織内でマネージャーに昇格したい」などの思いをもって取り組む人は多くいらっしゃいますが、やはり半数の方はフリーランスになったり、自分でビジネスを始めたりなど、自分のやり方での成功を望む方が多い世代です。
近い将来は2つ以上の会社で働くことが当たり前になる時代になるといえるでしょう。
そのため、会社でプレッシャーを感じながら働いている場合は、違う環境を探しだすかもしれません。
「勤務時間1日8時間、月給30000THB」の企業Aと「勤務時間1日4時間、月給25000THB」の企業B
Z世代と他の世代との共通点は、「お金を稼ぐため」に働いているということですが、これまで述べてきたように、Z世代にとって大きなテーマは「自由」です。
彼らは何よりも自分の時間を大事にし、それに伴い企業の選択軸も変わってきています。
例えば、ある2つの企業AとBがあるとします。
企業Aでは毎日労働時間が8時間で月給が30000THB。一方で企業Bでは、時間内の仕事はかなりハードですが、労働時間が4時間で月給が25000THB。
どちらを選ぶかを考えた際に、今の世代は企業Bを選ぶのではないでしょうか。
お金よりも時間を重視する傾向にあり、いかに自分の時間を確保できるかが彼らにとって重要になります。
Z世代に告ぐ。仕事の自由は簡単に得られるものではない
もしマネジメント層の方が、Z世代のニーズを満たせない場合に、彼らは別の仕事をすぐに探し出すかもしれません。
特に今は人材を募集する際に「ワークライフバランス」を全面的にPRしている企業も多くあります。
Z世代に伝えたいこととしては、彼らは優れたポテンシャルを持っていますが、それが必ずしも仕事の自由につながるとはいえないということです。
実際おこなっている「仕事に対してどれくらい成果を出せているか」「コミットできているか」を周りの同僚、上司にアピールして信頼を積み重ねていく必要があります。
信頼を積み重ねていくことで、仕事の幅も広がり、結果として組織内で自由を手に入れることができるのではないでしょうか。
一方で部下にZ世代がいる方へ伝えたいこととしては、組織がもつ文化をZ世代にも積極的に発信する必要があるということです。
組織文化を発信し、組織の方向性とZ世代のニーズが必ずしも一致しないことを伝えていく必要があります。
「個人の価値観」にフォーカスすることが、Z世代のポテンシャルを引き出す鍵となる
「今、私の部下やメンバーはどんな仕事をしているのか」
Z世代の価値観にあわせて仕事を任せたりすることも重要になりますが、彼らもまだまだ新人で、全て任せることにリスクを感じる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、Z世代が仕事を通して意味や意義を感じてもらうことは、組織にとってもいい影響を及ぼします。
そのためにも「その仕事は果たして新人がする必要があるのか」「テクノロジーが代替できるものか」といった点を改めて見つめ直す必要があります。
Z世代がおこなっている仕事がテクノロジーで代替できるのであれば、どんどん作業効率化を図るべきでしょう。
単純作業などを効率化し、さらに価値のある仕事を任せてみるのもいいかもしれません。
彼らの価値観と仕事をすりあわせることは、モチベーションを上げることにもつながり、新しい世代のマネジメントの成功にも繋がります。
アイディアを表現できる機会を提供する
Z世代が所属している企業に魅力を感じてもらうためには、彼らが少しでも自分のアイディアを表現できる機会を提供することです。
Z世代は「パッション」というキーワードに対して関心が高い世代でもあるので、どういうタスクであれば熱心に打ち込むのかを汲み取り、適した機会を与えることで「いま属している企業が適した場所」だということを認識してもらうことが重要だと思います。
そうすることで、より一層仕事に対して粘り強く取り組むことが期待できますし、またさらに高いパフォーマンスを発揮するでしょう。
上司とZ世代のコミュニケーションは「双方向」であるべき
幹部やマネジメント層とZ世代とのコミュニケーションは「双方向」であることが望ましいでしょう。
企業はこれからどんどん入社してくるZ世代を企業に適応していく必要があります。
新しい世代の人材を適応させるためには、コミュニケーションが重要になります。幹部クラスの方からも直接彼らに話しかけることで心を開いてもらい、彼らの価値観を打ち明けてもらうことが重要です。
従来の価値観に沿って否定していたことであっても、それはもしかしたらZ世代にとっては許容してほしいことかもしれません。
最初から否定していると、Z世代がなかなか定着しにくい組織体質になってしまうかもしれません。
従来の考え方をアップデートし、彼らが自社で働いてくれることに対して感謝の気持ちをもつことが重要です。
グループ化が難しい世代。個人の価値観にフォーカスを当てることが重要
どの世代においても「傾向」はあります。しかし、これから社会で活躍していくZ世代はグルーピングが難しい世代でもあり、一人ひとりの価値観が大きく違います。
そのため、今のZ世代の価値観を「世代」などの枠組みで判断しないことが重要になります。
一人ひとりが何を考え、好んでいるものは何かといった点に対してフォーカスしていくべきだと思います。
「若者」「新卒」「入社1年目」などカテゴリーとして捉えるのではなく、一人ひとりの特徴、考え方、特技などに適した機会を与えていくことが、彼らのポテンシャルを引き出していく上で必要になります。そのためには1on1ミーティングなどが効果的でしょう。
またそのミーティングなどを通して、上司やマネジメント層が頼れる存在と認識されることも重要です。組織内で頼れる存在がいるとZ世代の従業員も長く会社に定着するのではないでしょうか。
とはいえ、他の会社が給料を高く設定していたりすると、その企業にいってしまう可能性ももちろんあります。
そこでマネージャーは、コントロールできる事実と、そうでない事実に分ける必要があります。
コントロールできない事実は例えば、他社の給料。こればかりはマネジメント層がどれだけ頑張っても変えることはできません。
一方で、コントロールできる事実としては、Z世代が何を考えているのかを把握し、それに見合った環境を整備することです。
職場内の自由、裁量などがそれに該当するでしょう。Z世代の人に「これだけの目標を達成できたら、これだけの仕事を任せる」といった共通認識を持ち、その都度彼らの職場の環境を変えていくことが重要でしょう。
まずは「ポテンシャルをどのように引き出すことができるのか」を第一優先に考え、それにあったルールや規則を導入するべきです。
私の会社でも、従業員の意見を聞いて、出社時間などを変更したりしました。従業員に「会社の規則が変えられる」ということを理解してもらうこと。それによってやめない従業員がいるかもしれません。
会社側も従業員に対して多くのことを要求しているため、お互いがWin-Winな関係を保ち、従業員が「縛られている」という感覚が生まれない組織づくりが今後求められるのではないでしょうか。