最近では、企業経営においても「SDGs」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
そして、これに伴い、「ESG」という言葉の認知度も高くなってきたように感じます。
本記事では、「ESGという言葉は知っているけれどSDGsやCSRとどう違うの?」と感じている方に向けて、「ESG」という用語のほかにも「ESG投資」についてや、企業が実際にどのようにいてESGに取り組んでいるのかをご紹介します。
目次
1.ESGとは
そもそもESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」のそれぞれの頭文字をとった言葉のことを指します。
これら3つは具体的に以下のようなことをそれぞれ指しています。
②社会:ジェンダー問題やサプライチェーン上における人権問題の解決
③企業統治:情報の開示など、透明性の高い経営
この言葉は、投資家や金融機関が投資をおこなう際の新たな判断基準として国連が提唱したものであり、企業の長期的な成長のために重要な指標として多くの企業に注目されています。
1-1.ESG投資とは
ESG投資とは、ESGの3つの観点から企業の将来性などを評価・分析したうえで、どの企業に投資するかを選択する方法のことを指します。
従来は、その企業の業績や財務情報などを基準に投資先を選択することが一般的でした。しかし、近年になってそれらの基準だけでは投資先を判断するには不十分なのではないかという考えが広まっています。
そうした中で、新たな判断基準として「ESG」という非財産情報が評価されるようになってきているのです。
1-2.SDGs・CSRとの違い
ESGに似た言葉として「SDGs」や「CSR」があります。これらはESGとどのような違いがあるのでしょうか?
SDGs(Sustainable Development Goals)とは
SDGsは「持続可能な開発目標」とも呼ばれており、合計17の目標と、そこから枝分かれした169のターゲット(具体的な目標)から構成されています。
SDGsでは2030年までの目標達成を目指しており、そのなかには「ジェンダー平等を実現しよう」や「働きがいも経済成長も」といった目標が掲げられています。
ESGは、このSDGsを達成するための1つのプロセスであるといえるでしょう。
CSR(Corporate Social Responsibility)とは
CSRは、「企業の社会的責任」と呼ばれる言葉です。厚生労働省によると、CSRは以下のように定義されています。
企業活動において社会的公正や環境などへの配慮を組み込み、従業員、投資家、地域社会などの利害関係者に対して責任ある行動をとるとともに、説明責任を果たしていくことを求める考え方
厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudouseisaku/csr.html
つまり企業は、利益の追求のみを考えるのではなく、人権を尊重した雇用や労働条件、消費者に対する適切な対応、環境に対する配慮などといった責任を果たす必要があるということになります。
一見すると、ESGとCSRは同じような意味合いであるように感じますが、ESGは「企業を評価する側の視点」から見た企業の活動を示し、CSRは「評価される側の視点」から見た企業の活動を示しているという違いがあります。
2. ESG投資の種類
ここでは先ほど説明したESG投資について解説します。
ESG投資には様々な種類があり、それぞれに特徴があります。
投資をおこなう人が企業のどういったことを評価しているのかを知り、これからどのような活動に力を入れていくのかを明確にしましょう。
2-1. ネガティブ・スクリーニング
ESG投資の手法として代表的なのが、「ネガティブ・スクリーニング」です。
これは、武器・タバコ・化石燃料・アルコールなどといった特定の業界を選択の対象から外し、投資を行う手法になります。
企業が投資を受けたいと考える場合は、このネガティブスクリーニングにかからないことが大事です。
2-2.ポジティブ・スクリーニング
「ポジティブ・スクリーニング」は、ネガティブ・スクリーニングと反対に、ESGに対しての取り組みが高い評価を得ている企業に積極的に投資する方法を指します。
この投資方法が浸透すれば、ESGに取り組む企業でなければ投資を受けることが難しくなり、今後の企業成長に大きな影響を与える可能性があります。
ESGの評価は、環境問題や人権問題、従業員への対応などといった様々な基準からおこなわれたうえでスコアリングされています。
2-3.規範に基づくスクリーニング
「規範に基づくスクリーニング」はESGに関する国際規範を基に、基準を満たしていない企業や特定の業界を投資の対象から外す手法です。
国際規範の例としては児童労働や環境破壊などがあり、どの規範を基にして投資先を選択するかは投資家自身が判断をおこないます。
2-4.ESGインテグレーション型
「ESGインテグレーション型」は、財務情報とESG情報のそれぞれを総合的に判断し、投資先を決定する方法を指します。
財務情報とESG情報、それぞれのどちらを重要視するかは投資家によって異なります。
2-5.サステナビリティ・テーマ投資型
「サステナビリティ・テーマ投資型」は、その名前の通り、サステナビリティ(持続可能性)をテーマにしている企業・ファンドに投資する方法です。
エコファンド・水ファンドなどといった投資ファンドなどが例としてあげられます。
2-6.インパクト投資
「インパクト投資」は、社会や環境などに強い影響力を持つ活動をおこなう企業へ投資をおこなう手法です。
こういった活動をおこなっている企業は比較的小規模な企業であることが多いため、非上場企業への投資が多くなります。
2-7.エンゲージメント・議決権行使型
「エンゲージメント・議決権行使型」とは、上述した6つの手法と異なり、株主の立場から企業へESGへの取り組みを積極的に働きかける方法を指します。
この手法は単独で使用されるほかに、上の手法のどれかと併用されることもあります。
3.ESGへの企業の取り組み事例
これまででESGについて、他の類似した用語との違いやESG投資の手法について説明をしてきました。
ここでは最後に、実際にESGに取り組んでいる企業を紹介します。
3-1.キヤノンマーケティングジャパン
キヤノンマーケティングジャパン株式会社は、環境活動として、製品のリサイクルや廃棄物の削減、持続可能な水資源の利用といった活動に取り組むほか、生命の循環について考える「バードブランチプロジェクト」や、楽しみながら環境や生物多様性の大切さを感じさせてくれる「アニマリウム」などといった活動をおこなっています。
3-2.キリンホールディングス株式会社
キリンホールディングス株式会社は、長期経営目標を達成するための指針としてCSV(Created Shared Value:共通価値の創造)パーパスを策定しています。
そしてそのうえで、「酒類メーカーの責任」として、アルコール関連問題に取り組むほか、「健康」「地域社会・コミュニティ」「環境」の3つの社会問題の解決に事業を通じて取り組んでいます。
3-3.KDDI株式会社
KDDI株式会社は、「ステークホルダーの評価や意思決定への影響」という視点と、「自社が社会・環境・経済に与えるインパクト」という2つの視点をもとに、人権やエネルギー資源、人材の多様性などといった6つの項目を定め、それぞれに詳細な数値目標を設けています。
4.企業のESGへの取り組み方
それでは、企業がESGについて対応しようと考える時、まず何から始めれば良いでしょうか?
4-1.株主・投資家の視点からESG経営を考える
まずは、株主・投資家が企業のどのようなことを重要視しているのかを考えましょう。
令和2年7月の経済産業省の発表によると、機関投資家が重視するESG要因の割合は、「経営理念・ビジョン」が最も高く、続いて「人材資源の有効活用・人材育成」、「取締役会の役割・責務」となっています。
こうしたデータをもとに、企業としてこれからどのような課題に取り組んでいくのかを定めていきましょう。
4-2.透明性の高い情報開示をおこなう
ESG経営を行う上で、株主や投資家といったステークホルダーから必要とされるのが、透明性の高い情報開示です。
開示する情報は上で述べたそれぞれの投資の種類によって、
- 国際的な規範によって定められた基準に対しての情報
- 財務情報とESG情報のそれぞれを総合的に判断された場合に必要な各情報
- 社会や環境に対してどのような影響力を持っているのかという情報
などに分けられます。
情報開示を効果的におこなうためには、こういった情報を明確にすることを意識することが大切です。
5.まとめ
いかがでしたでしょうか。
ESGそれぞれの観点から企業を見つめなおし、改善をおこなうことで、企業価値が向上するだけでなく、企業の長期的な成長にも繋がります。
これを機に、ESGについて、今取り組めることを考えてみるのも良いのではないでしょうか。