今回のテーマは東南アジアで組織マネジメントに携わる方々に参考になるコンテンツです。東南アジアで活躍する日本人の多くは、企業規模の大小に関わらず、各国のローカル社員のマネジメントに関わることが多いのではないでしょうか。
商習慣や文化の異なる海外の国々において人や組織を管理することは容易ではありません。また、変化の激しい時代においては、企業の成長を実現するための組織マネジメントが必要になります。
「これ以上詰めたら辞めてしまう?」「もう少し踏ん張ってほしいメンバーがいるが、揉めたくないので強く言えない」と二の足を踏むマネジメント層が多い中、人や組織をどのように活かしながら企業を成長させていけば良いのでしょうか。
今回は、アジアNo.1PR会社という実績を基盤としながら、あらゆる領域における事業創造企業として進化を続けるベクトルにて、東南アジア現地子会社のマネジメントに携わる加藤さんに「持続的成長を支える組織づくり」についてお話を伺いました。
加藤 伸彦 | ベクトル 海外事業部 ASEAN担当
大学卒業後、リクル−トHD、世界100カ国以上を訪問、英国大学院修士を経てベクトルへ入社。日本とASEAN圏を繋ぐPR活動や現地パートナー開拓に従事した後、ベクトル海外事業部ASEAN担当兼タイ、インドネシア支社代表を務める。
目次
組織の目標達成のために、人材をどう活かせるか
東南アジアでは「家族的な組織づくり」が大事だとよく言われますが、企業の組織づくりについてどのようにお考えですか。
現在ベクトルでは、PRを主軸としながら、顧客企業の成長を様々な角度から支援するための新規事業領域の開拓を進めています。そのビジョンに沿って、ASEAN圏の海外人材マネジメントに関しても、変化に柔軟且つスピーディに対応し、新たな価値を創り出していけるような人材育成に取り組んでいます。
まず、東南アジアで事業を成長させる上では、組織の一体感を醸成することが働くメンバーのモチベーション向上(アップ)に繋がりますので、家族的な組織づくりが重要という点は賛成です。
特に、新規事業立ち上げ時等においては、業務が定型化しにくく、個人の能力に依存しがちであり、結果メンバーとの信頼関係が日々の業務の成果に大きな影響をもたらします。とはいえ、メンバーと食事に行って関係を構築するだけで仕事のパフォーマンスが上がるほど簡単なものではありません。プロジェクトごとの目標をフェーズ毎に設定し、チームで達成するまでのプロセスを可視化することで、メンバー間の仲間意識やお互いを高め合う競争心が湧いてきます。
また、「この国の人は〇〇だから」と型にはめて考えるのは本質的ではなく、一人の人として向き合い、このプロジェクトを立ち上げるためにどうしたら一人ひとり違う個性を持ったメンバーが自分で工夫して全力を尽くしてくれるのか?を考え抜くことが大事なのではないかと考えます。
組織の方向性や目標をオープンに伝え、相手をリスペクトしながらも余計な遠慮をせずフェアに向き合うことで、自然と同じ方向を向いてくれる社員が増えてきます。
組織の中で、そのプロジェクトに携わる人材同士が良い化学反応を起こし、チームとしての力が向上、結果的に会社自体の魅力が上がることで、より良い人材の興味を引くという「正の(正しい)いスパイラル」に入っていくので、モチベーションを維持・向上するための一体感づくりに特に注力しています。
「社員が言うことを聞いてくれない」と諦める前に、メンバーとの向き合い方を考える
社員が言うことを聞いてくれない、チームがまとまらないという嘆きもよく聞こえてきます。
それはみなさん通る道だと思いますし、現場のリーダーからもそういった声が上がってくることがあります。
しかし、急に現れた外国人がお互いの母国語でもない英語で、自分とは異なる考えを押し付けて組織を統制しようとしてきたらどうでしょうか。
スパルタ教育的なマネジメント方法ではなく、多少回り道になったとしても、普段から出来る限り丁寧な対応を心がけることが重要だと考えています。
「自分の業務範囲以外の仕事をしてくれない」という話もよく聞きますが、どのように対処してきましたか?
東南アジアでは職務内容ありきの採用が一般的ですので、まず日本に比べると、一人ひとりの担当職種が明確に分かれているという前提を理解することが必要です。
そのため、担当職務をしっかりこなすことで一定の責任を果たしてくれていることになるのですが、一方で、新たな領域への挑戦を必要最小限の組織規模でスピーディに進めていく場合、担当以外の業務に挑戦してもらうことも求めなければなりません。その際は、その事業の目的や価値をストレートに社員に説明するようにしています。
会社として変化が求められている場合、前提には社会の変化があるわけで、そうすると個人も変化にさらされる可能性が高いですよね。この変化を乗り越えることで、会社だけでなく個人のスキルアップにつながり、自分の価値が上がる可能性が高い、つまり自分のキャリアのためになると説明し、本人が納得感を持って前向きに新しい仕事に向き合ってもらえるようにしてきました。
会社として、そしてマネジメントサイドとしてのビジョンやコミュニケーションを明確にし、わかりやすく伝えることが重要だと思っています。
メンバーのパフォーマンスを引き上げる時にはどのようなコミュニケーションをとっていますか?
シンプルにマネージャーやメンバーと話しながら、目標達成に必要な課題を抽出し、どこがボトルネックになっているのかを一緒に考えています。
その上で、答えを一つずつ見つけ、各メンバー個々人がスキルを身につけられるようにしています。そうすると、その下のメンバーにもこういった考え方がインプットされ、良い循環が生まれます。
また、伝え方が非常に重要であるといつも感じさせられます。ASEANではストレートな伝え方は合わないとよく言われますが、必ずしもそれが正しいわけではありません。悪いときも伝えるべきことはしっかり伝えるようにしています。良いことももちろん素直に褒めますし、悪いことも放置すると問題が大きくなるので、なるべく早く通達し先送りしないようにしています。
仕事で求める基準を曖昧にして、全体の雰囲気に緊張感がなくなることが組織にとっては致命的だと思うので、普段からメンバー一人ひとりが成果を求めつつ、楽しく働ける環境作りを心がけています。
パフォーマンスが上がらない、社内の雰囲気をかき乱すメンバーについてはどう対処しますか?
例えば、これまで成果を出していたメンバーの仕事に対する向き合い方が変わり、パフォーマンスが突然下がることがあります。そういった社員のネガティブな感情が他の社員を巻き込み、組織全体のモチベーションに悪影響をもたらしてしまうことが何度もありました。
そこで、まず彼らのミッションとして何が求められているのかを話します。課題解決に向けた方向性を双方で決めた後、定期的に現状確認をしながら伴走します。それでも何ヶ月たっても業務態度やパフォーマンスが改善しない場合は、こちらも厳しい対応を取らざるを得なくなりますし、結果的に社員が離れていくこともありました。
こういった問題に向き合うことは感情的にとても辛いですし、億劫に感じるものです。ただ、見て見ぬ振りを続けると、周りの優秀な社員から退職相談が来たり、同じようにわがままに振る舞う社員がでてきたりと、時がたつほど修復が大変になるため、冷静かつ早めにネガティブを払拭することが大事だと考えています。
ゼロから成長する組織づくりは仲間づくりから
現地メンバーに柔軟性のある働き方を求めるのは、日本より難易度が高いと感じています。その他に組織づくりで意識しているポイントなどはありますか。
特にゼロから立ち上げた組織においては、それぞれの国の市場の中でどんな会社にしていきたいのか、そのために誰がいるべきなのか、そのための採用が経営の中でも非常に重要な課題の一つだと思います。
特に、ローカルメンバーをまとめるミドルマネジメントの採用と活用は、トップが注力すべき重要な業務の一つです。初期メンバーは組織の要となるため、採用においては、しっかりと一人ひとりの候補者と向き合い、同じマインドをもって活躍してくれる人材かを見極めることが、組織文化を醸成していく上で大切です。
成長を求められる組織の場合は、スキルなどの能力だけでなく、主体性や柔軟性があるか、素直で明るい性格かなど、抽象的な部分も重要になると思います。
採用面接での具体的な気をつけるべきポイントを教えて下さい。
これまでの経験した仕事や出来事に対して、その成果はもちろん重要ですが、それ以上に「自分がどう工夫したのか」「なぜそう考えたか」を、具体的なケーススタディを元に深く聞いていくようにしています。
求職者は面接で過去の実績など自分を大きく見せようとすることが多いですし、鵜呑みにしていたらきりがありません。候補者が話すストーリーの中で、具体的にその人がどんなロジックに基づいてどんな行動をして変化を生み出せたのかを深堀りすることで、本人が当事者意識をもって仕事をしていたかどうかがわかり、新しい職場で活躍できるかどうかイメージが湧きます。
組織の成長を支えるために取り続けてきたマネジメントスタイルとは
少数先鋭のチームで高いモチベーションを持って仕事に取り組んでもらうために、気をつけているポイントなどはありますか
要所ごとのフォローはする前提で、基本的な部分だとは思いますが、やはり社員には明確な目標を伝えた上で、しっかりと任せてみることが大切だと思います。細かくマネジメントをすると、萎縮し、つい人任せな姿勢になってしまいます。
一方、多少の失敗はしながらも自分の力で課題を解決することができれば、自信がついて次のさらに難しい課題にも取り組めるようになります。また、良いと思ったことは小さなことでも素直に学び合える、褒め合える文化づくりも大切です。
社員との面談や会議では、良い仕事をすることで、自分のキャリアアップにつながるだけでなく、お客様を通して社会に貢献できるのも醍醐味だと話しています。これも、海外組織だけの話ではないと思いますが、仕事を作業と捉えるのか、自分が属する社会を良くするための活動だと捉えられるかで、人のやる気は大きく変わってくるというのは、共通する価値観かなと思います。
仕事の任せ方は様々ですが、どのようにメンバーに仕事を任せていますか。
当社の業種柄、社員が覚えるべきことは非常に多岐に渡ります。組織が大きくなれば分業体制にすることが可能ですが、小さな組織ではよりマルチタスクが求められるため、なるべく一人ひとりに一連の業務ができるようになってもらいます。
具体的には、プロジェクトの全体像を理解してもらった上で、優先順位をつけて部分ごとに仕事を任せていきます。単純作業にならないよう、今任せているパートがプロジェクト全体の中でどんな意味をもっていて、次のフェーズではどんなことが求められるかを丁寧に説明します。
最初から全体像を深く理解してもらうのは難しいですが、ここを雑にすると、部分的な作業だけをこなす「指示待ち」の社員が増えて、組織の成長につながりません。
新卒入社でも他業種からの転職の方でも、既存の社員と区別はせず業務の全体像から伝えて、会議でもその人なりの意見を必ず聞きます。そうすることで、メンバーも当事者意識が早く芽生えてより良い議論が生まれ、より良い成果を生み出すことができるのではないかと思います。
海外赴任初期と比べてマネジメントは変化していきましたか?
赴任初期は、仕事に対する価値観や商習慣の違いに苦労しました。自分に染み付いている「当たり前」の感覚から見ると、明らかに無駄が多いと感じても、現地の商習慣に従えば結果が出ることも多いと知りました。こういった経験を経て、自分の考え方と異文化の相手の考え方のバランスを意識するようになったと思います。
「この人からの学びは多い」と思ってもらえるか。個人としてあるべき姿とは。
最後に、どういうマネジメントであれば現地のメンバーはついてきてくれると思いますか。現地の言葉や文化について習得することが鍵だとも言いますが。
現地の言葉で会話ができたら、心の距離が一気に縮まって深い関係づくりができるようになると思います。一方、言語力以上に大事なのは、「この人と一緒にいると自分にとって得だ」と感じてもらえることだと思います。
外国人がいきなり来てマネジメントになるわけですから、社長が一番事業に対して真剣に取り組んでいる姿勢を見せる必要があります。他にも、情報にオープンであること、結果を出した社員に明確な評価をすること、働く環境が成果に対して厳しくてもそれが自分の楽しさや成長につながることなど、この組織で自分の時間を使う価値をメンバーにしっかりと感じてもらえるよう、行動を取り続けることが大事だと思います。