タイ バンコクにおいて、マーケティングSaaS事業とWebコンサルティング事業を提供している、株式会社エフ・コード。
エフ・コードは日本で創業し、現在はタイ、インドネシアと東南アジアでの事業を拡大し、急成長を遂げている会社です。
今回は、同社の海外担当執行役員として東南アジアのマネジメントをされている島田さんに「エフ・コードがタイ拠点で実施している採用・組織マネジメント」についてインタビュー。
島田さんは前職も合わせて東南アジアで10年以上ビジネスに携わっており、成功・失敗も含め数多くの経験をされてきています。過去には従業員と亀裂が生じ、「ボイコット運動」が起こるなんてこともあったとのこと。
本記事では、そんな島田さんが、苦境をどう乗り越え、現在どのような考えのもと会社づくりをされているのかをお伺いし、まとめました。エフ・コード島田流、採用・組織づくりのノウハウをご紹介します。
島田 裕一 | 株式会社エフ・コード 海外担当執行役員
大学卒業後、アウンコンサルティング株式会社にて、検索エンジンマーケティングコンサルタントとして、大手企業のマーケティング支援に従事。その後、海外事業統括責任者として台湾、香港、タイ、シンガポール全拠点のマネージングダイレクターを兼任。2016年に株式会社エフ・コードに海外担当執行役員として参画。
目次
2年間で延べ18人を雇用し、残った社員は4人。だが、それでいい。
-まずはエフ・コードの事業や島田さんの経歴についてお聞かせください。
島田さん:エフ・コードは、「マーケティングテクノロジーで世界を豊かに」をミッションに、WEB接客ツール「CODE Marketing Cloud」「f-tra CTA」「f-tra Push」を提供している会社です。
WEB接客ツールとは、WEBサイトを訪問してくれたユーザーの一人ひとりに合わせて「おもてなし・接客」ができるもので、購入意欲の促進や、問い合わせの向上につなげることができます。
私は、前職のときから10年以上、東南アジアでビジネスをしていたこともあり、エフ・コードには海外担当執行役員として2016年に入社しました。
同年にバンコク法人を立ち上げ、2017年9月にはジャカルタ法人も展開し、今は2拠点のマネジメントをしています。
エフ・コードのサービスはアジア企業ではすでに多くの導入実績があり、大手の企業も活用してくださっています。
-ありがとうございます。ちなみに、タイ拠点はどのような組織構成なのでしょうか?
島田さん:タイ拠点は、私も含めて現在は5名の組織体制です。その構成は、営業、カスタマーサクセス、経理となっており、メンバーは全員タイ人です。
1人だけ、ほぼ設立時から働いてくれていて、それ以外はみんな在籍期間は短く、入社して6ヶ月以内の社員ばかりです。
実は、この2年間で従業員の入れ替わりがかなりありました。2年間で延べ18人を雇用し、結果として今のメンバーが残って働いてくれています。
なぜかこのようになったかというと、その理由は明確で、採用もマーケティングと同様に、タイにおける最適な人材を見つけるためのトライ&エラーを繰り返していったからです。
つまり、タイでどのようにエフ・コードのプロダクトが売れるのか、さまざまなアプローチを試すのと並行しながら、採用するペルソナもクォーターごとに変えていったんです。
どういった人材がエフ・コードで力を発揮してくれるのか、毎回タイプの異なる人材を採用し検証していきました。
たとえば、ある時期は新卒で高学歴の人、ある時期は社会人歴5年目で広告代理店やWEBメディアでの業務経験がある人、または学歴や経歴に関係なくパリッとした見た目の男性など、本当にいろいろな方を採用していましたね。
ただ、結局その方々はエフ・コードにマッチしなかったというのが結論です。
-逆にどのような方がフィットしたのですか?
島田さん:今の結論としては、弊社が対象としているクライアント層と、クラウドサービス、デジタルマーケティングに関するビジネスをしたことがある、シニアレベルの方ですね。
これは正直、即戦力となる超希少人材です。そういう人材は、求人広告や人材紹介会社ではなかなか出会えません。
そこで、LinkedInを活用しダイレクトリクルーティングをおこなったり、ヘッドハンティング会社にお願いして直接スカウトしたり、そのような採用手法でアプローチしています。
-そういう方々は、当然他の会社からもオファーがくると思うのですが、最終的になぜエフ・コードに入社してくれたのでしょうか。
島田さん:優秀な人材を雇用するために一番重要なのは、トップの魅力だと思っておりまして、私が先頭に立って頑張って口説きまくるんです。
-どのように口説くのでしょうか?
島田さん:一番は、最初の面接から私が出ていって熱く想いを伝えることですね。
よくあるのは、一次面接、二次面接を人事に任せて、その上で最終面接に拠点長などのトップが出てくるパターンです。
ただ、エグゼクティブクラスの採用となると、最初から拠点長が出て行くべきだと思っています。中途半端な面接をすると、「この会社はこんなものか」と候補者の志望度が下がってしまうんです。
優秀な方はいろんな会社からモテるので、選ばれるのでなく、選ぶ立場であるということを忘れてはいけません。
ですので、逆に私が最初から面接に入って、自社の魅力やビジョンをアピールをし、その上で「このピースにあなたは絶対ハマるから来てほしい。十分な報酬も約束します」と、ラブコールをおくります。
一次面接でそのようにグリップした後に、「でも、あなたが当社のメンバーと合うかどうかもみたいです」と、既存メンバーと二次面接をしてもらいます。
-トップが最初から出ていくことがポイントなんですね。
島田さん:超重要だと思います。このように、いろいろ試行錯誤を重ねていって今のやり方になっています。
たしかに以前は、JobsDBのような求人広告や人材紹介を中心に採用していました。ただ、今はまったく使っておらず、完全にスカウトかLinkedInを活用して採用しています。
たとえば、インドネシアの拠点では、弊社の競合や類似サービスを提供している企業が80社くらいあるのですが、LinkedInから各企業のマネージャークラス以上を3人ずつピックアップして、私が約240人に片っ端からアプローチしていって採用したんですよ。
「履歴書を見て1秒でだいたいわかる」面接で見ているポイントは?
-島田さんは面接でどのようなことを聞かれるのですか?
島田さん:基本的によく聞くのは「5年後どうなっていたいのか?」「どういう会社を受けてますか?」など、日本で面接しているときとそんなには大きく変わりません。
ただ、なるべく「何をしてきたのか」ということよりは、「何でそれをしたのか」という行動原理を聞くことが多いですね。
-なぜ、行動原理を聞くようにしているのですか?
島田さん:その人が働くモチベーションの源泉が知りたいからです。働くモチベーションがわかれば、弊社でも前向きに働いてくれるためのマネジメントができるので、それは聞いてますね。
たとえば、当社で「今までとは違った行動」をするとしても、「それを突き動かす理由や想いは今までと同じ」だということはあると思います。
それが行動原理だと考えていて、そこを「なんとなく気分で・・・」みたいなことを言う求職者も多いんです。でも、自分の行動原理を明確に理解して説明できる方もいて、そういう方は得てして活躍してくれていますね。
-社員のモチベーションの源泉を知っておくことは、マネジメントする上で役に立ちますね。ちなみに、レジュメの内容をパッと見て自社にマッチするかどうかってわかるものですか?
島田さん:分かります。レジュメを見て1秒後に「この方は合いそう」とか、「この方は難しいかもしれない」というのはある程度分かりますね。
-それってどのあたりを見ているんですか?
島田さん:顔写真やレジュメの書き方です。「メタ認知」って結構大事だと思っていて、自分をしっかりと俯瞰して見れる方はいろいろな仕事をきちんとこなすことができるんですよね。
そう考えたときに、レジュメの写真、書き方ひとつとっても、その気遣いが見えるんです。もちろん学歴も見ているポイントなのですが、学歴の高い方が100%イケてる人材かというとそうではないので、そこは面接をして見極めていく感じです。
-島田さんが採用において、一番重要だと思う部分はなんですか?
島田さん:「採用ありきの事業戦略」ではなく、当然「事業戦略ありきの採用」で考えるということです。「採用ありき」で考えるのは危険ですね。
これは私の考えですが、社員は少なければ少ないほうが良いんですよ。
なぜかというと100の仕事を10人でやるよりも、2人でおこなうほうがメンバー間のコミュニケーションコストが低く効率的であり、トップの考えも伝播しやすいので、「なぜその業務を行うのか」というWHYを理解しやすく、さらに一人あたりの報酬も高くできるので離職も防げるなどメリットが大きいからです。
とくに当社は広告運用やBPOなど多くの人手が必要なサービスではなく、限られた優秀なコンサルタントが深くお客様のビジネスモデルや現状のペインを理解し、それを自社ツールを利用して解決することが肝要なので、多くの一般社員よりも少数精鋭の優秀なメンバーをそろえることが必須です。
ただそれも、全ては事業戦略に紐づくものです。まずは、事業戦略をしっかり考え、事業戦略をもとに人事戦略ができて、人事戦略の中に採用戦略があると思います。
『ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則』では、“誰をバスに乗せるか”が重要で、成功企業は「だれを選ぶか」をまず決めて、その後に「何をすべきか」決めるとありますが、特にプロダクトの方針などがある程度日本サイドに依存する当社のような海外法人は、何をすべきかに紐づく人事戦略が重要だと考えています。
採用戦略に関しては、事業戦略の中でどういったマインドやスキルの人材が必要なのかを考えに考えた上で、その人材と出会えるための接点はどこになるのか、選択と集中をしてきっちりとやるべきです。
そこを何も考えず、「とにかく人材紹介会社に丸投げする」という方が多いように感じています。 それだと自社に採用ノウハウがたまらずに、再現性もないので、ちゃんと考えるべきですね。
また、深い議論もせずに、「このポジションなら何人ぐらい欲しいよね」と進めていくのは絶対NGです。
事業の目標は何で、どのくらい売上をつくりたくて、それには何人必要なのか、どういうスキルが必須なのかというところまで、考え抜くことが必要だと思っています。
マネジメントのポイントは「オーナーシップの醸成」
-島田さんは普段どんな感じで社員のマネジメントをされているのですか?
島田さん:エフ・コードの海外拠点は私が全員をマネジメントしており、私がバンコクでいる時は全社員と毎朝5分ずつ1on1やっています。
そこで施策の進捗確認や、悩みごとや要望を聞いています。そこで社員のやるべきことを全部洗い出し、それ以外は基本的に介入せずに社員に任せています。
-それだけで、あとはお任せなんですね。
島田さん:はい。メンバーのマネジメントで一番大事なのがオーナーシップの譲渡だと思っています。ですのでオーナーシップが醸成されるように意識してやってますね。
-オーナーシップ醸成のために具体的に何をしているのですか?
島田さん:たとえば営業に関しては、もちろん何件くらい企業にアプローチして、その中でどれくらいポテンシャルがありそうか、そこからいくつ受注したかという進捗の確認はしています。
その中で、「受注を取ってこい」というよりは、「受注を取ることが、あなたのためにもなるよね」という会話をして、マインドセットをしてもらって、その上で自分から進んでやってもらうことを意識しています。
ただ、私が求めている売上数字やレポート内容と、社員のオーナーシップがずれてしまうことはよくあります。主体的にやってくれているけれど、こちらが求めている数字に全然届いていない、みたいな。
ですので、いかにオーナーシップをキープしたままお願いするが結構ポイントだと思いますね。お任せするとしても、しっかりと再現性が生まれる仕組みをつくった上でお任せしていくイメージですね。
-会社と社員の働くベクトルをそろえていくイメージですね。悩みに関しては、どのような相談が出てきますか?
島田さん:各案件に対するアプローチでの悩みもありますし、この部分の説明が難しいとか、あるいは最近体調が悪いとか、思いのほか大小さまざまな相談がありますね。
週に1度のペースでがっつりと話をするよりも、頻度高く毎日コミュニケーションをとって、その都度悩みを解消しています。
マネジメントで一番苦労するのは、やはりお国柄の違いですね。たとえば、当社の場合になりますが、タイとインドネシアのメンバーと比べたときに、会社への帰属意識が違ってきます。タイのほうがそこまで帰属意識は高くない。
なので、タイの場合は会社への帰属意識を求めるのでなく、帰属意識がない中でどのように中期的にパフォーマンスを発揮し続けてもらう仕組みをつくり、マネジメントしていくのかを考えています。
一方でインドネシアに関しては、割と帰属意識があり、「このチームが好きでがんばります」という感じなので、どちらかというと馴れ合いにならないように、しっかりと個々人のパフォーマンスを可視化するマネジメントが必要だと思っています。
-優秀な社員に長く働いてもらうためには、どんな工夫が必要だと思いますか?
島田さん:大前提は、「売上がすべてを癒す」ということですね。
売上が継続的に上がっていき、それで給料がどんどん上がり、メンバーも仲良くやってて、かつ上司を尊敬できてたら、中長期的にがんばってくれると思いますね。
特に我々のようなベンチャー企業においてはそうだと思います。
「にわとりたまご」かもしれませんが、メンバーを幸せにする原資をまずは創り出すことが重要かと思います。
自分の考えを押し付けた結果、「島田さんボイコット運動」が勃発
-島田さんは前職も含めると東南アジアに10年以上いますが、振り返って一番つらかった時期はいつですか?
島田さん:一番つらかったのは、24、5歳くらいのときだったと思うのですが、前職で25人ぐらいのタイ人をマネジメントしていて、「島田さんボイコット運動」が起きたときですね。
当時は私もまだ若かったので、いわゆる「オラオラ系デジタルマーケティング営業」みたいなやり方をメンバーに押し付けようとしたことが結構あったんです。
私が理想とする営業手法や、組織形態、事業形態にしたくて、自分の考えを押し付けていった結果、「ボイコット運動」が起きました。
みんな仕事は一応するのですが、生産性やモチベーションがものすごく低かったり、あからさまな感じで悪口を言われたり、離職率も高くてポロポロ辞めたり、あの時期は結構つらかったですね。
-どうやってその状況を脱したのですか?
島田さん:結局、社員一人ひとりに寄り添うことですね。
さっきのオーナーシップじゃないですけど、私が全て指示するのではなく、みんなとちゃんとコミュニケーションを取って、「この人は何でこの会社にいてくれるんだろう」「この人はこういう人生を生きてるんだな」と、私の方からちゃんと理解するようにしたんです。
「興味を持ってくれている、大切にしようとしてくれている」ということが伝わってくれ、そこからちょっとずつ融和してきた感じはありますね。
今は自分が理想とする営業手法をすることよりも、メンバーがオーナーシップを持って売上が上がったほうがみんながハッピーだよね、ということが分かってるので、そういうことはやらないようにしています。
「愛されるためにはまず愛せ」ということを痛感し、学びましたね。
10年前の自分にアドバイスするなら「人には金をかけろ」
-10年前の自分にアドバイスをするのであれば、どんなことを伝えたいですか?
島田さん:「人には金をかけろ」ですね。
-それは何でですか?
島田さん:人のパフォーマンスは、給料が上がるにつれて、正比例してあがっていくものではないと思っています。
おそらく2万バーツの人材と、6万バーツの人材をみたときに、6万バーツの人材は2万バーツの人材の3倍ではなくそれ以上の成果を出してくれると思うんです。
かつ、6万バーツの人材が出すアウトプットに対し、2万バーツの人材が3人いて、できるかというとそんなことはありません。
なので、なるべく高い給料を出して良い人材を採用したほうが良くて、そのためには、できるだけ少数精鋭のほうが良いんですよね。
世の中のイケてる人材は“跳ねっ返り”が多いので、たしかにマネジメントが難しい部分はあります。そのため、どうしても新卒で自社の文化に染まってくれやすい人を雇って、ゆっくりと育てたいと思うんですよ。
ただ、有名大学卒業の地頭が良い新卒を5人採用したとして、その中で全員が良いコンサルタントに育つかどうかは2年後ぐらいになってわかってきて、おそらく5人のうち1人がなれるどうかだと思うんですよね。
苦労して育てても、そのタイミングで給料の高い他社に引き抜かれる可能性も考えられます。であれば、現在社会人3年目のイケてる人材を高い給与で採用したほうが良いと思います。
2年という育成時間と、育つかどうかわからない確率をお金によってクリアしていく。特に欧米の外資企業はそのような採用スタイルなので、スピード感で遅れてしまうと思います。
また、「日本の人事制度に縛られるな」と言いたいですね。
完全にこちらの拠点は、日本と関係ない現地で立ち上げたベンチャー企業として考え、日本とは関係ないタイのカルチャーに合った企業体型をつくったほうが早く立ち上がると思います。
-なるほど。最後になりますが、島田さんが考える今後の組織の展望はございますか?
島田さん:最終的には、タイローカルのメンバーが拠点長になるべきだと思っています。これはタイだけでなく、全ての国においてですね。
ですので、そういった拠点長になれる人材を育て、設立後3年終了時点でお任せできるような状態にしていきたいと考えています。
ちゃんと「マーケットの手触り感」を大事にしながら、お客様と寄り添って事業運営ができる人に拠点長を任せたいと思っていて、偉いからといってあぐらをかかずに、しっかりと現場感を忘れないことが重要です。
その上で人数はできるだけ少数精鋭でいきたいので、高い給料で楽しく働いて成果を出せるような仕組みづくりと商品づくりをしていきたいですね。