2020年11月4日、ウォンテッドリー株式会社が主催する採用と組織をリードするオンラインカンファレンス、『FUZE 2020 ONLINE』が開催されました。
今回の記事では、Keynote「これからの働き方、これからの生き方」の内容についてお届けします。
人生100年時代と言われる中で起こったCOVID-19の蔓延。こういった将来の予測が困難な現代において、人類はどのような働き方・生き方を通じて幸福に辿りつくことができるのか。
『WIRED』日本版編集長・松島倫明氏と予防医学研究者・石川善樹氏をゲストに迎え、テクノロジーとウェルビーングの観点からこれからの世界の生き方を模索しました。
■登壇者紹介
松島 倫明|『WIRED』日本版編集長
石川 善樹|予防医学研究社、博士(医学)
パンデミックによる「働き方の変化」
それでは、「これからの働き方、これからの生き方」ということで進めていきたいと思います。
今年一番語ることが難しいテーマかと思うのですが、パンデミックやニューノーマルといった話がある中で、たとえば働き方に関しても「変わったもの」と「変わらなかったもの」が出てきている気がしています。
石川さんは、全体の変化をどのようにご覧になっていますか。私は、割とポジティブに捉えているのですが。
どのような変化であっても、それをポジティブに捉える人とネガティブに捉える人はいます。なので、まず「全体がどうなのか」という話をする前に、「私個人がどうなのか」と思ったんですよね。
それで、ウォンテッドリーさんが「ココロオドル」というキーワードを上げているので、「仕事でココロオドル」状況を実現するためには、どうしたら良いか考えてみたんです。
そこで、気付いたことは、やっぱり「これを越えたらココロオドル」といった毎日のハードルをどこに設定していくかが大事だなと感じるようになりました。
たとえば「非常に意義深い仕事と出会えたら心が躍る」とか「一緒に働く仲間が素敵だと心が躍る」といったように、自分なりに「こうしたら心躍る働き方ができる」というものは誰しもあると思うんです。
こういったハードルを設定して、1つずつクリアすることで、毎日の仕事に対して「ココロオドル」状況が出来上がるのではないかなと。
ただ、これまで私個人としては、このハードルがとても高くなってしまいがちでした。
もちろん、高いハードルがあるから頑張れる部分もあったのですが、毎日が「ハードルをクリアできていない日々」を過ごしていた20代30代は、もうずっと「今日も何もできなかった」と思って絶望しながら眠りについていたんです。
「ハードルが高すぎる」石川さんを救ったけんすうさんの言葉
このような中で、そんな僕を救ってくれた人がいます。
けんすうさんって人なんですが、率直に「ハードルが高い」って言われたんですよね。「人はもっと弱いものだから、人は弱いという前提でハードルを設定した方がいい」と。
そこで「けんすうさんはどのように設定していますか」と聞いたら、「自分は本当に弱い人間だから、毎日ある to do リストの中に『to do リストを開く』という項目があり、そのto doリストを開いたら、その1日は終えていい」っていうルールを作っているらしいんですよ。
そこで、「ああ、なるほど」と思い、そこから「仕事で心躍る」ために、僕のto doリストは次の3つに決めました。
そして、この3つの項目をできたら、今日は心躍る1日だとしています。
なるほど。これは、始まってすぐに正解が出てしまいましたね。
3つともに、すごく謙虚な目標だと思いますが、3つ目の「今日のハイライトを決める」という項目は非常に面白いと思います。
たとえば、「今日はスケジュールがたくさん入っているので、これを全部終えてビール飲もう。」といったことがハイライトになっても良いのでしょうか。
3つ目に関しては、あらかじめ決められていたスケジュールの中から選んでもいいし、スケジュールには無かった何かをハイライトにしてもいいのですが、必ず「1個だけ」に絞るようにしています。
人は弱いので、スケジュールがいっぱいあったら、こなせないんですよね。今日の私のハイライトは、「このイベント30分が無事終わること」です。
そして、「この3つがこなせたら、その日は良い1日だったことにする」と決めてからは、人生が本当に楽になりました。
ハードルを下げることで、毎日の満足度を高めて、「ココロオドル」状況を実感できるようにしたんですね。
恐らく、1日にいくつもスケジュールがあると思うのですが、1つやれば満足するっていうのは、相当ハードルを下げてますよね。
はい。多分、これまでと比較すると、すごく下げたんですよね。
実際、仕事で心を躍らせるためには、素敵な仲間が必要だし、社会的にも意味がある、そして、自分にとっても意味がある仕事が必要だし、もちろん給料も高いといったことも必要かもしれない。
でも、たくさんあり過ぎると、もうそれは「白馬に乗った王子さまに出会う」みたいに確率低いと感じています。
「ダメ出しな毎日」から解放されるためには
確かに、全てを追い求めすぎるあまり、結果的に「今日も白馬の王子様に出会えなかった」とダメ出しな毎日が続いちゃうんですね。
この「ハイライトを決める」ことを始めた石川さんにはどのような効果が現れたり、また、どういうマインドセットに変化したりしましたか?
とても良い質問ですね。
僕自身やってみて気づいたのですが、「全てに全力じゃなくなります」。
そもそも、全てに全力で取り組むことは無理な話なのですが、その状況を認められるようになるというのが正しいかもしれません。
また、今日のハイライトとして本当に大事なことを1つだけ決めることで、それ以外はあまりエネルギーを使わなくてもできるようなもので埋まってくるので、予定の組み方自体も少しずつ変わっていきました。
これまでは、どうしても1日の業務をこなしてしまって、我に返ったら1日が終わっていたこともしょっちゅうありましたが、ハイライトを決めることで、毎日の中に少しの緊張やドキドキが生まれてきており、この緊張感のおかげで、結果として、すごく良い働きができることもありました。
この考え方は、全員が幸せになる感じがしますね。
要するに、ハイライト級のものがいくつも同じ日にあったら、自分も辛いかもしれないし、パフォーマンスとして相手にも返せないかもしれないわけです。
また、毎日のハードルを確実に1つずつ越えていることが実感できるので、ある種の達成感も生まれるのではないでしょうか。
人はどうしても「自分が弱い」という前提じゃなくて、「自分が強い」という前提でいろんなことをやりがちです。
僕も毎日が「これだけやれるはずだったのに、これしかできなかった」という毎日の繰り返しでしかないのですが、これは、もう何十年も前から完全に最初のハードル設定が誤っているということですね。
では、石川さんが、こういったことを始められた理由は、「移動しなくなった」とか「人と直接会わなくなった」というような今回のパンデミックによる働き方の変化と何か関連があるのでしょうか。
それはまさにこのセッションのテーマでもある「これからの働き方、これからの生き方」と関係していますね。
実際に時間ができたことで、「これからどう生きるのか」ということを考えるようになった人は増えたと思いますが、私もこれからの働き方や生き方について自分なりに向き合うことになりました。
しかし、結果的に、その答えはよくわからなかったんですよね。
ただ、私たちはどうしようもできないような大きな力の中で生きており、かなり長期的なメタ視点で物事を考えることはできたと思っています。
これだけ未来が分からない状況だと、何か未来を想定してそこから逆算することがなかなか難しいじゃないですか。
なので、そういう時代には未来ではなく、あえて原点から考え直してみることも大事になっていると思うんですね。
「我々はどこ行くのか」ではなく「我々はどこから来たのか」を考えること、つまり、人類の原点を考え直すことで、これからの働き方や生き方が見えないかと考えた次第です。
「これからの働き方、これからの生き方」を人類の原点から考える
それで、行き着いた先は、東アフリカでした。
東アフリカまで行き着きましたか。グレートジャーニーを逆に行ったということですね。
僕らのご先祖さまは、結局、もともと東アフリカにいた、たかだか百数十人です。
そこにはジャングルもあるし、食べ物も水も家もあったはずですが、それだけ安定した環境を捨てて、世界各地に散っていったわけで、こんなに各地に散っていった動物(生き物)は、人類をおいて他にいません。
つまり、人類は原点として「安心安全」を求めているわけじゃなくて、「未知なる道」を求めてグレートジャーニーをしてきている。
私たちはその血を受け継いでいるわけなので、「あ、そっか。グレートジャーニーはまだ終わってないんだ」と思うようになったんです。なんなら、まだ始まってすらいないのではないかと。
もし、私たちが東アフリカのご先祖様の想いを受け継いでいるならば、私たちは次の世代にそのバトンを渡していかないといけないので、これからも「未知なる道」を求めていく必要があります。
未来はわからないですが、その道を探して行くことはしなければならないということですよね。
このコロナ禍において移動の制限が掛かる中で、私たちはこの「未知なる道」をどのように見つけていくことができるでしょうか。
結局、毎日のハイライトで「未知なる道」に踏み出したかって話にしかならないと考えています。
1日のスケジュール見たときに、どこが「未知なる道」なのかスポットできるかどうかが大事です。
また、それはどのようなことでも良くて、たとえば、ご近所さんの家に行ってみるようなマイクロツーリズムでも、行ったことがないところに行ってみることは「未知なる道」に繋がります。
確かに「未知なる道」に踏み出すことは重要ですよね。
ただ、同じ企業に勤めていると、今日も明日も昨日も同じプロジェクトが出てきたり、「来年はもっと売り上げを立てろ」と常に言われたりすることで、気を抜くとすぐに仕事が「繰り返しの作業」になってしまう人が大半かと思います。
こういったマインドを切り替えるためには、今どういう方法を取ることができるでしょうか。
これまでは、やはり会社という「箱」をいかに大きくするかが大事でしたが、コロナによって、各個人がだいぶそこから離れる動きが見られるようになっています。
つまり、会社やオフィスに通わなくなることで、その箱から精神的にも離れることができ、会社という箱から飛び出して活動する人が増えているということです。
個人的には、ココロオドルための重要なKPIが「移動の多様性」だと思っています。
どれだけいろんな場所に移動したか、それは「組織」ということかもしれないし、ひとつの会社だけではなくて、さまざまな種類の会社を経験することかもしれない。
また、狭い東京の範囲の中だけで移動するのではなく、地方に行ってみたりとかなのかもしれない。
私は、物理的な空間だけじゃなく、オンラインの側でもそういう意味での移動先があるのではないかなと思っています。
フィジカルを伴うもの・伴わないものはあると思いますが、グレートジャーニーの話の中で考えると、まさに「まだ始まってなかった」というのがしっくりくるかもしれません。
まだオンライン側には、広大なニューフロンティアがあって、だからこそ僕らは実際にアフリカぐらいの段階にしかいないんじゃないかとも思っています。
今後、オンラインとオフラインの垣根が交わっていくことも、移動の多様性に繋がっていくのではないでしょうか。
日本は、全体として社会のモビリティがまだまだ低いと思います。
だから、Wantedlyは、「もっとここに面白いことがある」「この会社で面白いことやっている」といったことを発信できる場として、この移動の対応性を表しているとも言えるでしょう。
また、やっぱり新しいところにどんどん行く人の姿を次世代の人に見せることで、人生って楽しそうだなと思ってもらうことも大事かもしれないですね。
自分も「未知なるところに行きたい」という欲求をしっかり持てれば、そこからの可能性はものすごく開けてるっていうことですよね。
そういう意味では、まさに「移動の多様性」というものの先に、「未知なる道」は無限にあって、1日1個、各個人が進む「未知なる道」を決めることができれば、後はto doリストを開くだけでいいと。
『これからの働き方、これからの生き方』は、石川さんのto doリストにまとめられている3つのことや、人類の原点に戻ってアフリカからもう一度「人類の移動」について考え直すことなどを重ね合わせることで、全体としての視点からの考えが持てるようになるのかなという風に思いました。