2020年10月27日にインドネシア労働省から、2021年の最低賃金の決定方法に関する発表があり、来年の人員計画等の検討を意識し始めている方も多いのではないでしょうか。
報道の中で、2021年の最低賃金は「2020年と同一とする。」とした内容が多く見られますが、どのような背景で「変更なし」という決断に至ったのか、またどうしてジャカルタなどの一部地域では上昇しているのか、現地のさまざまなメディアが発表している内容を翻訳した内容をご紹介します。
2021年の最低賃金の決定方法とは
インドネシアのイダ・ファウジヤ労働相は10月26日、2021年の最低賃金決定に関するSurat Edaran(回状)を公布しました。
その書面の内容によると、政府は各知事に対し、2020年世界的に感染した新型コロナウイルスによる国内の経済状況と経済回復の必要性を考慮した上で、下記3点を実行することを求めています
- 2021年の最低賃金が、2020年の最低賃金と同一になるよう調整を行うこと。
- 2021年以降の最低賃金は、法規制の規定に従って決定する。
- 2020年10月31日に2021年の州の最低賃金を決定して発表すること。
資料引用:PENETAPAN UPAH MINIMUM TAHUN 2021 PADA MASA PANDEMI CORONO VIRUS DISEASE 2019 (COVID-19)
日本語訳引用:労働省、2021年の州別最低賃金を引き上げないよう要請
最低賃金「変更なし」という決断の背景
国際通貨基金(IMF)によると、インドネシアは、現在もなお新型コロナウイルスの感染が収まらず、引き続き景気が後退し、インドネシアの国内総生産(GDP)も更に縮小する可能性を示唆しています。
またインドネシア中央統計局(Badan Pusat Statistik)も2020年4〜6月期の実質GDPが、前年同期比マイナス5.32%であると発表しています。
このように現在のインドネシアの経済は、パンデミックの継続的な拡大そして観光業など深刻な影響を受けたセクターによる悪影響により、引き続きマイナスでの着地になると予測されています。
このような経済状況の中で、中央統計局(BPS)が34,559社の企業に対し、新型コロナウイルスによる影響に関する調査を行なったところ、82.85%の企業の収益が減少していることがわかりました。
その数のうち、53.17%は中規模および大規模企業であり、62.21%は財政的および運用上の制約のある小規模企業だったようです。
このように全体の8割の企業にて収益減少や財政難があるということで、最低賃金を上げたとしても、給与の支払いが困難な企業が今後更に増える可能性もふまえ「変化なし」という結果になったようです。
ジャカルタを含め最低賃金が上昇した5つの地域
2020年 | 2021年 | 上昇率 | |
ジャカルタ特別州 | 4,276,350 | 4,416,186 | 3.27% |
中部ジャワ | 1,742,015 | 1,798,979 | 3.27% |
ジョグジャカルタ特別州 | 1,704,608 | 1,765,000 | 3.54% |
東ジャワ | 1,768,000 | 1,868,777 | 5.65% |
南スラウェシ | 3,103,800 | 3,165,876 | 2% |
また下記にて、昨年2020年の最低賃金トップ上位10位のエリアをご紹介します。
- Kabupaten Karawang:Rp 4.594.000 (西ジャワ)
- Kota Bekasi:Rp 4.589.000 (西ジャワ)
- Kabupaten Bekasi:Rp 4.498.000 (西ジャワ)
- Seluruh Kotamadya DKI Jakarta:Rp 4.276.000 (ジャカルタ特別州)
- Kota Cilegon:Rp 4.426.000(バンテン州)
- Kota Depok:Rp 4.202.000(西ジャワ)
- Kota Surabaya:Rp 4.200.000 (東ジャワ)
- Kota Tangerang:Rp 4.199.000(バンテン州)
- Kota Gresik:Rp 4.197.000 (東ジャワ)
- Kabupaten Sidoarjo:Rp 3.864.000(東ジャワ)
このように日系企業も多く進出しているような工業地帯がある地域の最低賃金が高いことがわかるでしょう。
しかし今回は西ジャワエリアに関しては、労働者から最低賃金引き上げに関するデモが起きていたものの「最低賃金の上昇はない」とリドワン知事が発表しています。
そのため2020年の最低賃金上位10位のうち6つのエリアにて、2021年は最低賃金に変更なしということになるようです。
ジャカルタ特別州のみの施策詳細
ジャカルタ特別州の知事であるアニス氏は、10月31日に「新型コロナの影響で経営が悪化した企業の事業存続と労働者の雇用維持の両方を考慮した結果、最低賃金を調整する必要が生じた」と説明した上で、2021年の最低賃金を発表しました。
ジャカルタ特別州は最低賃金引き上げだけでなく、労働者の福祉改善のため、下記4点の施策も行なうと発表しています。
- 公共バス「トランスジャカルタ」の主要13路線の運賃無料
- 指定スーパーにて、日用品を低価格で提供
- 米・鶏肉・牛肉・魚・卵の5アイテムを低価格で提供
- 金銭面に余裕のない6歳~21歳の子供たちの教育補助
また、ジャカルタ特別州は、新型コロナで経営が悪化した企業に対しては、州労働局に申請することを条件に据え置くことも認めています。
この申請方法ですが、2021年ジャカルタの最低賃金確定の発表がなされた政令(Pergub 103 Tahun 2020 tentang UMP 2021 Jakarta)によると、2007年に発表されている42番の政令に基づき申請するように、という記載がありました。
上記の政令によると、以下の書類をDinus(労働局)に提出する必要があるようです。しかし申請時のフォーマット等に関しての詳細は記載がないようでしたので、不明点がある場合は、の電話番号から確認をするようにお願いいたします。
必要書類
- 企業と従業員間の「2020年の最低賃金が適応されること」に関する同意書
- 会社の財務状況がわかるような直近2年の損益計算書・バランスシート
- 会社設立証明書のコピー
- 役職ごとの給与明細
- 全従業員数と2020年の最低賃金が適応される従業員数
- 過去2年の営業実績と今後2年分の事業計画
申請場所
Dinas Tenaga Kerja, Transmigrasi dan Energi Provinsi DKI Jakarta
- 電話番号:(021) 3848303
- 住所:
Jl. Prajurit KKO Usman dan Harun No.52, RT.7/RW.1, Gambir, Kecamatan Gambir, Kota Jakarta Pusat, Daerah Khusus Ibukota Jakarta 10110
まとめ
いかがでしたでしょうか。ジャカルタ特別州に関しては、最低賃金が引き上げとなったものの、会社の状況にあわせ救済措置があります。しかし申請した企業全てが2020年の最低賃金適応でいい、というわけではないようですので、事前に情報を確認しながらプロセスを進めるようにしたほうがよいかもしれません。