時間とお金をかけて採用をしたものの、勤務態度やパフォーマンスが悪く、他の従業員に悪い影響を与えているとなった時、やはり“解雇”という言葉が頭をよぎることかと思います。実際、何度か「どうやって従業員を退職させればいい?」という相談を受けたこともあります。そのため、今回は、インドネシアでの従業員の解雇・退職・退職金にフォーカスして、ポイントをお伝えします。
とはいえ、注意が必要なセンシティブなトピックのため、ネットの情報だけでなく専門家にご相談してみるのもよいかもしれません。
目次
インドネシアにて、”従業員の解雇”の難易度とは
インドネシアは、いろいろな国と比べてもトップクラスで従業員の解雇が難しいといわれていますが、実際どのくらい難しいのか、
OECD(経済協力開発機構)が、数値化している雇用保護指標を元にお伝えします。
日本も加入しているOECDは、各国の雇用保護に関する規制・市場慣行の厳格さの程度を数値化しています。この数値は、(1)手続の不便さ、(2)予告期間・解雇手当金、(3)解雇の困難性から算出されており、0~6の中であらわされています。そして、この数値が6に近いほど、雇用者の保護度合いが強いことを意味します。
また、資料の中にも雇用保護指標について、下記のように記載があります。
引用:http://www.oecd.org/employment/emp/oecdindicatorsofemploymentprotection.htm
日本と比較したインドネシアの雇用保護指標
OECDが出しているいくつかあるデータの中に、とても興味深いデータがありました。
*Protection of permanent workers against (individual) dismissal
引用:http://www.oecd.org/employment/emp/oecdindicatorsofemploymentprotection.htm
日本の数値は、1.62とサウジアラビアと近い数値のためサウジアラビアの数値にマークをつけています。差は一目瞭然ですね。このように、インドネシアは日本や、他の国とも比べ、解雇が難しいことがわかります。ちなみに、同じ項目の点数で、4点以上の評価になっていたのは、インドネシアだけでした。
インドネシアでの”従業員の解雇”のプロセスに関して
インドネシアでの解雇は、従業員に対し有利に設計されており、会社の意思で自由に労働者を解雇することができないようになっています。そのため、産業関係紛争解決機関 (産業関係裁判所)の決定を待ってからでなければ、原則として労働者は解雇されず、仮に懲戒解雇の場合であったとしても、退職金の支払いが労働法上義務付けられています。また、解雇が極力なされることのないよう、労働法の中で、会社や労働組合、労働者、政府に対する努力義務が課せられています。(具体的には、配置転換・経費削減・会社再編・勤務形態の変更など。)
また、解雇が避けられない場合、もしも解雇の対象となる従業員が労働組合に加入していれば、会社は 同労働組合と交渉を行うことになるかと思います。ここで合意に達すれば、産業関係紛争解決機関の決定を得て、 解雇を実施することが可能になるようです。
(1)解雇にむけた具体的なプロセス
実際のプロセスは、大きくわけて下記のAとBの2つに分けられます。
A.産業関係紛争解決期間(産業関係裁判所)の決定が必要な場合
- 犯罪となりうる重大な行為
- 書面での説明を省いた5日連続の無断欠勤
- 労働契約・就業規則又は労働協約の違反
- 会社の組織変更・合併又は株主の変更
- 整理解雇
整理解雇の条件
- 会社が2年以上継続して損失を計上している場合、又は不可抗力による場合で、事業を閉鎖・廃業しなくてはならない場合(労働法164条1項)
- 1以外で、会社の合理化を理由として閉鎖・廃業する場合(同条3項)
- その他会社が閉鎖・廃業・破産する場合(同条3項、165条)
B.産業関係紛争解決機関(産業関係裁判所)の決定が不要な場合
- 試用期間中の解雇
- 自己都合による退職
- 有期雇用契約における期間の満了
- 定年
- 死亡
- 従業員が刑事事件につき拘束され6カ月を経過しても業務に復帰できない場合、または6カ月以内に有罪判決が確定した場合
- 従業員が主張する3カ月以上連続の賃金不払いや使用者の契約不履行等の違反が労働裁判所に認められなかった場合
上記6.の付け足し
通常、拘束されている間は、仕事をしていないため給与を払う必要がなくなると、考えるところですが、インドネシアでは、刑が確定するまでの拘留期間、会社はその従業員の家族を養う義務があるので、給与を支払う必要があります。その期間は最長6ヶ月です。 扶養者一人の場合は、当該従業員の基本給の25%、扶養者二人で35%、扶養者三人で45%、扶養者四人で50%を従業員の扶養者に給付しなければなりません。
上記のBにあてはまる場合は、会社側の負担が減りますが、このように、会社が従業員を解雇する場合に、裁判所への登録や決定が必要だというのは、会社側にとっては非常にハードルが高い内容ではないでしょうか。また、上記のように解雇のたびに労働裁判所の手続きをするのは時間もコストも必要ですし、労使紛争が解決するまでの間は、会社は従業員に対して給与を支払い続ける必要があるようです。
よって、多くの場合、会社と従業員の間で退職金の支払い額などを含めて雇用関係の終了を合意することが実務上ほとんどのようです。その後、労働裁判所への登録は必須になりますが、登録を行えば労働者から事後の訴えを退けることができます。
(2)懲戒解雇を行うためのプロセス
インドネシアの法律では、懲戒解雇を行う上で、警告書という制度があります。会社は、従業員が労働協約、就業規則または個別の雇用契約に定める内容に違反した場合、この警告書を出すことができます。また、警告書には3種類があり、警告書それぞれの有効期限は6カ月です。
警告書の提出から懲戒解雇の実行までは、下記のようなプロセスが必要です。
- 初回の違反行為による、第1警告書の提示
- その後、6カ月以内に再度違反。違反自由の重さにより、第2警告書の提示
- その後、6カ月以内に再度違反があった場合、第3警告書の提示
- その後、有効期間内に再度違反があった場合、使用者は当該労働者を懲戒解雇できる
- 後日、産業関係紛争解決機関による承認を受ける。
一般的に、労働協約や就業規則は、労働者側の意見に基づき作成されているため、その内容が懲戒解雇に結び付きやすくなるよう(軽い違反事由で警告)に規定することは、難しいといわれています。
正社員の退職金の種類と仕組み
退職金には、下記の4種類があります。
1.退職手当(Severance Pay)―勤続年数に応じたもの。
2.勤続慰労金(Reward for Service)-勤続年数に応じたもの。
3.権利損失補償金(Compensation Pay)
- 有効かつ未取得の年次有給休暇分
- 最初に雇用された地域へ労働者及びその家族を戻すための帰省費用(支払がなされていない場合)
- 住宅手当、医療・健康手当に対する権利保障金として、退職金又は/及び勤続慰労金の15%
- 労働協約、就業規則、又は個別労働契約で定められたその他
4.解雇金(Detachment Money)
会社が内容を決めることが可能。またその内容は就業規則内に記載する必要がある。
(※従業員による希望退職及び懲戒解雇のとき、会社は解雇金を支払わなければならない。)
退職手当と勤続慰労金は、基本給と固定給の合計額をベースとし、勤続年数に応じてその額が決められています。また、それぞれの算定方法の詳細、具体的な各手当の支払倍率等については、解雇原因(上記の区分AとB)ごとに、労働法で額が定められているため、従業員の退職時には法令の確認が必要です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。時間・費用をかけて採用した従業員を解雇するとなった際にも、このように更に時間・費用がかかることが想定されます。解雇に至ることは、なかなかないかもしれませんが、あらかじめ会社と従業員で認識の違いが生じないように、雇用契約書・就業規則に、詳細な記載をしておくと良いかもしれません。また、急に訴えられ長引くケースも少なからずあるようなので、少しでも不安がある際は、下記のような労務を扱うコンサルティング会社に相談するようにしてください。
日本語での相談が可能な労務を扱うコンサルティング会社
1.Intelligence HRSolutions Indonesia (PERSOL Indonesia)
電話番号 :(021) 570 2071
2.OS Selnajaya Indonesia
電話番号 :(021) 572-7214
URL: https://www.osselnajaya.com/service/ManagementSupportService/HR_Consulting_Business/
3.Tokyo Consulting Indonesia
電話番号 :(021) 2553-2561
URL : http://www.tokyoconsultingfirm.com/indonesia/