応募者が経歴詐称をしていた場合、会社はどのように対応すればよいのでしょうか。
「経歴詐称をしている社員を雇ってしまったので解雇したい。」「経歴詐称をしている社員を雇わないためにはどうすればいいか?」といった悩みを抱えている方も多いかもしれません。
今回は、経歴詐称をしていた社員を解雇ができるケースとできないケース、雇用保険被保険者証・年金手帳・源泉徴収票などから経歴詐称を見抜く方法や、面接やリファレンスチェックにおける経歴詐称の具体的な調べ方について解説します。
労働者保護の観点から、解雇には様々な法規定があり、解雇の理由に合理性が無ければ認められません。
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1. 経歴詐称とは
経歴詐称とは、労働者が求人に応募する際に、提出する応募書類の内容および面接の応答を偽ることをいいます。
経歴を詐称されることにより、応募者を採用したのちに、会社が大きな不利益が生じる可能性があります。
経歴詐称の具体的な内容は、主に「学歴」「職歴」「犯罪歴」の3つです。労働者が経歴を詐称する理由は、自分をより良く見せたい場合や、自分のマイナス面を隠したい場合、またはこの両方ということになるでしょう。
経歴を詐称する応募者がどれくらい存在するかは、業種や職種によっても違いますし、企業規模によっても異なります。
ですが、一定数存在することは事実です。以下、詳しく見ていきましょう。
2. 経歴詐称による社員の解雇は可能か
労働者の経歴詐称があった場合、解雇することは可能でしょうか。
結論としては、どのような場合でも解雇できるわけではないものの、条件付きで可能です。
経歴詐称の内容および影響は多種多様であり、それぞれの事情に合わせて、個別かつ慎重に判断していく必要があります。
2-1. 「懲戒解雇」をおこなう前に
まず、前提として労働者側に相当程度の非がある場合に適用する「懲戒解雇」をおこなう場合は、あらかじめ就業規則などでその該当要件を定めておく必要があります。
労働基準法第89条では、就労規則に記載しなければならない絶対的記載事項が定められていて、その中に「退職に関する事項(解雇の事由を含む)」が含まれています。
そのうえで、個別の経歴詐称の事情に合わせて、懲戒解雇が認められる程度の重大さがあるかどうか、を判断するという流れになります。
条件を満たさない懲戒解雇は無効になり、のちのち復職、または損害賠償を請求されるおそれがあります。
現実には、懲戒解雇をめぐって争った労働者が実際に復職するケースは多くはなく、損害賠償にて決着することが大半ですが、いずれにしろ、懲戒解雇をおこなう場合は、十分に注意しておかなければならないポイントです。
2-2. 「懲戒解雇」ができる可能性が高いのは?
では、具体的に懲戒解雇ができる可能性が高いのは、どのような場合でしょうか。
たとえば、詐称でない本来の経歴が選考時にわかっていたとしたならば、その労働者を採用しなかったであろう、または採用した際の賃金等労働条件を提示することはなかったであろう、という程度の重大な経歴詐称の場合などが挙げられます。
逆をいえば、詐称している内容が、応募した職種の業務遂行に直接影響を与えない、もしくは影響が少ない程度のものであれば、解雇は無効となる場合がある、ということです。
2-3. 経歴詐称の各事例における注意点
それでは、続けて事例を見ていきましょう。
「学歴」「職歴」「犯罪歴」それぞれで詐称があった場合に、それぞれ押さえておくべき点を確認します。
学歴を詐称していた場合
学歴をどれほど重視するかは、それぞれの会社によって大きく異なるところですが、原則として学歴の詐称は「重大な詐称」となる可能性が高いといえます。
特に、学歴によって賃金テーブルを定めている会社の場合は、学歴を詐称されると不当に高い賃金を支払うことになるからです。
ただし、その労働者の募集時、そもそも求人票に学歴要件を記載していなかった場合や、その職種の業務を遂行するうえで現実に詐称による実害が認められないなどであれば、重大な経歴詐称とはみなされず、懲戒解雇が認められない場合があります。
なお、学歴の詐称は「大卒」であるのに「高卒者」と低く偽る場合でも、詐称にあたります。多くはないケースですが、職種の特性によってはまれにみられます。
職歴を詐称していた場合
職歴の詐称は、個別のケースで重大さの度合いが大きく変わるものといえます。
まったく未経験であるのに「10年の実務経験がある」と詐称するケースから、一週間だけ勤務した職歴を記載しない程度のケースまで、極めて多種多様であるからです。
原則的には、職歴の詐称は実際の業務遂行に直接影響が生じ得るものであるため、こちらも「重大な詐称」となる可能性が高いです。
ただし、学歴の詐称と同じように、その労働者の募集時、求人票に「経験不問」などの記載をしていた場合や、その職種で問題なく相応の業務遂行がなされている場合は、職歴に詐称があったとしても、重大な経歴詐称とはみなされず、懲戒解雇は認められない場合があります。
犯罪歴を詐称していた場合
まず、前提として犯罪歴があると扱われるのは「刑が確定しているもの」のみです。
そうでないものは、もともと賞罰欄への記載義務もありませんし、面接時に犯罪歴を問われても答える必要がありません。
具体的には、起訴猶予になった、執行猶予期間が経過した、刑期を終えて10年が経過した、などといった場合は、「犯罪歴はない」ということになります。
そして、犯罪歴の詐称も、その与えられた業務が適切に遂行され、かつ企業の秩序に影響を与えていない場合、重大な経歴詐称とはみなされず、懲戒解雇が有効とならない可能性があります。
このように解雇を実際に実施するには、誰もが納得する妥当な理由が必要になるため、問題を起こしたり、経歴詐称をしたりした従業員がいる場合は、当サイトで無料で配布している「雇用契約手続きマニュアル」を参考にしながら、対象の従業員を解雇できるかぜひご確認ください。
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詐称により業務遂行に著しい問題が出ている、企業の秩序を乱すような事業が生じている、といったケースであれば、当然に懲戒解雇を検討すべきでしょう。いっぽうで、別段業務遂行に問題がなく、企業の秩序にも影響を与えていないのであれば、必ずしも懲戒解雇を検討する必要はない、ともいえます。もちろん、発覚した以上は、経歴詐称の事実そのものを当該労働者に通知しても構わないでしょう。そのうえで、反省を促す等の措置を経て雇用を継続することは、ひとつの選択肢としてあり得ると考えられます。
3. 経歴詐称の見抜き方・調べ方
経歴詐称の見抜き方、その代表的な方法は、以下の3つです。
- 提出された書類から見抜く方法
- 面接時のヒアリング事項から見抜く方法
- 第三者のリファレンスチェックで見抜く方法
1. 提出された書類から見抜く方法
代表的な提出書類である「雇用保険被保険者証」「年金手帳」「源泉徴収票」を、順に確認していきましょう。
「雇用保険被保険証」から見抜く!
まず、雇用保険被保険者証には、資格取得に必要な被保険者番号のほかに、前職の会社名や入社日が記載されています。
これら前職の情報を見られたくないがために、たとえば雇用保険被保険者証を提出せず、取得手続きに必要な被保険者番号のみをメモして提出する場合などは、経歴詐称の可能性があります。
「年金手帳」から見抜く!
次に、年金手帳です。年金手帳には、社会保険加入手続きに必要な基礎年金番号のほかに、前職までの年金の加入歴が記載されています(一部のみ記載、または記載されていない場合もあります)。
これを隠すため、年金事務所で年金手帳の紛失再発行依頼をし、再発行された年金手帳を提出してくる者もいます。
再発行された年金手帳には「再発行」とスタンプが押されているため、それとわかります。この場合も、経歴詐称の可能性があります。
「源泉徴収票」から見抜く!
最後に、源泉徴収票です。前職を退職したあと、同じ年のうちに再就職した場合、再就職先で年末調整をおこなうため、前職の会社で発行された源泉徴収票を提出してもらう必要があります。
源泉徴収票には、前職の会社名、退職日が記載されています。これを見られたくないがために、本人が翌年自ら確定申告をするからと申し出て、会社での年末調整を拒否する場合があります。
その場合、源泉徴収票を提出しなくてよいことになりますので、経歴詐称の疑いが生じる余地があります。
2. 面接時のヒアリング事項から見抜く方法
面接時の質問の仕方によって嘘を見抜くという方法もあります。
ひとつは、応募者をリラックスさせる態度や言葉がけをおこなうことによって、応募者から本音を引き出して、矛盾点がないか確認していく方法です。人間は感情の生き物なので、古典的ながらたいへん有効な方法です。
また、本来その応募者の人格や力量を測るべき質問とは異なる、いわば的を外した質問を混ぜてみる方法があります。
相手が「問われることを想定して、先に準備している質問」から外れることで、本音が浮かび上がらせるわけです。
詐称している内容を隠すために、応募者は相応の準備をしているはずです。そのため、応募者の準備している防御壁をうまく乗り越えていくことが必要になります。
とはいえ、面接時間には限りがありますし、応募者を不快にさせてもなりません。このあたりはさじ加減が重要になりますので、注意しながら行ってください。
3. 第三者のリファレンスチェックで見抜く方法
リファレンスチェックとは、会社がその応募者の前職での仕事内容、勤務態度、実績、退職理由などを、その上司、同僚、取引先などの第三者に確認することです。
現在は個人情報保護が厳格化されたことにより、いきなり応募者の前職会社に問い合わせを行ってもまず応じることはないでしょうし、トラブルの元にすらなりかねません。
そのため、応募者の前職などをチェックするために第三者への確認を行う場合は、必ず事前に応募者本人の同意を得たうえで、応募者に前職などの仕事関係者の問い合わせ先リストを提出してもらい、そのリストに基づいて、選考側の会社が確認をしていくことになります。
通常、ここまでチェックをおこなうのは、幹部クラスの採用の場合が多く、一般社員採用にもおこなうケース少ないかもしれません。
しかし、幹部クラス限定だとしても、このチェックは選考を行う側にとって、相応に負担がかかるものでしょう。
そこで、このリファレンスチェック部分を請け負ってくれる外部の会社に依頼するのも一案です。
たとえば、転職エージェントや信用調査会社などですが、これらの会社に依頼すれば、応募者の間に立って、確認作業を代行し、結果を報告してくれます。
このあたりは、リファレンスチェックを実施するかしないか、代行会社に依頼するかどうか、コスト面はどうか、を総合的に勘案して決定していくところになります。
4.まとめ
経歴詐称は、意外とありふれた行為です。
経歴詐称にかかる解雇の可否は、判例としては会社が経歴詐称により明確な不利益を被っているかどうかがポイントになりますが、会社としては、現実に不利益が生じるような事態に陥る前に、未然に防ぎたいものです。
これまで見てきたように、経歴詐称は複合的な対策をとることで対応できる部分がたくさんあります。ぜひ、しっかりとした準備をしておきましょう。
労働者保護の観点から、解雇には様々な法規定があり、解雇の理由に合理性が無ければ認められません。
当サイトでは、解雇の種類や解雇を適切に進めるための手順をまとめた資料を無料で配布しております。合理性がないとみなされた解雇の例も紹介しておりますので、法律に則った解雇の対応を知りたい方は、こちらから資料をダウンロードしてご覧ください。