「その道のプロ」に1時間からピンポイントに相談できる、日本最大の“スポットコンサルサービス”を提供するビザスク。
同社は2012年より創業開始、現在は社員数約30名規模となっています。そんなベンチャー企業であるビザスクが、2017年の4月より「家事代行サービス」を福利厚生として導入し話題になりました。
今回は、同社代表の端羽氏にインタビューの機会をいただき、なぜ家事代行サービスを導入したのか、導入の際に意識したことは何か、社員の反応はどうか、実施した結果どのような変化があったのかなど、「ベンチャー企業における福利厚生の導入効果」についてさまざまお伺いし、記事にさせていただきました。
端羽 英子(はしば えいこ)|株式会社ビザスク 代表取締役
東京大学経済学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券投資銀行部門にて企業ファイナンス、日本ロレアルにて化粧品ブランドのヘレナルビンスタインの予算立案・管理を経験し、マサチューセッツ工科大学にてMBAを取得。ユニゾン・キャピタルにてバイアウト投資に5年間携わった後、ビザスクを立ち上げる。米国公認会計士試験合格。
目次
家事代行サービス導入のきっかけは、取締役の結婚式
―今回、家事代行サービスを導入するに至った背景やきっかけはどのようなものでしょうか?
端羽氏:実は、直接のきっかけは弊社の取締役である田中の結婚です。もちろん、既婚の社員も数名いますが、ビザスクの社員として結婚するのは田中が第一号でした。そして、その結婚式で主賓の挨拶を任せてもらったんです。
私の中で起業したときの1つのマイルストーンが「社員の結婚式でスピーチすること」でした。実現させてくれて本当に嬉しかったです。そこから、「今回をきっかけに何かできないかな」と考えはじめたんです。頑張っていることを応援し合えるような、共働きのカップルが世の中に増えたら素敵なことで、何か貢献したいと思いました。
また、それとは別に、「子どもを育てながら、仕事へのやりがいを持って頑張りたい」「結婚しても長く働ける仕事に就きたい」「バリバリ働いてキャリアを積みたい」と、弊社には、子どもがいる社員や結婚している社員、独身の社員などがおり、働き方が多様です。その人たちの活躍を平等に推進してあげる仕組みも考えていました。
その多様な社員たちの中で共通しているものが、「仕事を一生懸命頑張りたい」という気持ちでした。
そこで、私としては「特定の誰かだけではなく、全員が使える制度」をつくりたいと思いました。それで家事代行サービスの導入を思いつきました。
―家事代行サービスの詳細を教えてください。
端羽氏:家事代行サービスは、現在はメインでCaSy(カジー)さんを活用しています。社員は月2回まで無料で利用することができます。
回数は決まっていますが、会社が全額出します。「使わなきゃもったいない制度」にしようと思ったんです。
子どもがいる、結婚している女性は、「家事は自分で頑張らなきゃ」となりがちです。そうすると、家事代行を使うことが、楽をしている、手を抜いていると罪悪感につながることになるかもしれません。
そこを、「会社が全額出します」となれば、「そうしたら使わないともったいない」という心理が働きます。旦那さんにも言い訳ができるし、自分自身の心の負担も軽くなります。「だって会社がお金出してくれるから使わないともったいないじゃん」って(笑)。
「もっと仕事をしたいけれど、家事のために2時間早く帰らないといけない」という方がいた際は、そこは会社がお金を払ってでもサポートしていきたいと思っています。
制度導入は「気軽にはじめて、だめならやめる」意識で実施
―家事代行サービスの導入に至るまでの経緯を教えてください。
端羽氏:まず、弊社取締役の田中に「家事代行制度ってどう思う?家事代行サービスを会社が補助するのってどう?」と相談しました。
そしたら田中が「それ、すごいいいですね」って言ったんです。子持ちのお母さんでもない、今度結婚する男性の田中が「それ絶対いいと思う」「それ入れましょうよ。うちの嫁超喜びます」と乗り気だったんです。
私は、基本なんでもオープンに話すので、そのときも特に隠さずにオープンスペースで話をしていたのですが、それをたまたま聞いていた独身の男性社員が、「あれ、いつできるんですか?話してたじゃないですか」って聞いてきて。「君もそれ使いたいのか・・・笑」と。
「昇給したから、家事代行使ってみようかな」と言っていた社員もいたので、これであればみんなハッピーになるなと感じましたね。
―スムーズに導入させるために、意識したことはありますか?
端羽氏:当時、サイボウズの青野さんが書かれた『チームのことだけ、考えた。(ダイヤモンド社)』という本を読んでたんですね。
サイボウズさんは、本当にさまざまなおもしろい制度をされていて、そこに書いてあったのが「気軽に始めようよ」ということです。その代わり、「これは試しでおこなっています。うまくいかなければ、半年でやめます」ということもしっかりと伝えることも大事で、それをおさえてはじめれば大丈夫という内容でした。本当にその通りだと思いました。
そこで、導入時の社員へのメールに、「とりあえず3カ月導入します。あまりにも一部の人しか使ってない、想定外のコストがかかる、あるいはもっといい福利厚生の制度を考えつきました、などということがあったら、3ヶ月後に見直しをします。でもとりあえず何はともあれやってみようじゃないか」と言ってはじめました。
また、CaSyさんとは会社として提携しましたが、他のサービスの活用もOKにしました。家事代行の領収書を出してくれたら、MAXで月1万円まで補助するという内容です。その人にあったピンポイントの家事制度がひょっとしたらあるかもしれないので。
ですので、制度としては、「家事代行制度が無料で利用できます」「月1万円まで出します」という制度なんですよね。
―社員に積極的に使ってもらうための工夫などはありますか?
端羽氏:何のために家事代行サービスを導入するのかを明確にして、社内メッセージを出しました。あと、ブログも書きました。個人ブログでは社外の方々に対して見てもらうことも意識して書いています。
「本当に家事は自分でするべきなのか。勝手に「やるべきだ」と思って、自分で自分の首を絞めてないか。ぜひこれ使ってみようよ」というようなメッセージを書きました。
みんなその想いに共感してくれたのか、嬉しかったのは家事代行を活用した後に、みんなFacebookでシェアしてくれるんですよね。
Facebookに投稿してくれるぐらい、多分社員にとって嬉しい制度になっているのではないかと感じました。その投稿を見て、利用することを迷っていた社員も「じゃあ、使ってみようかな」と、使った人がどんどん伝播していってくれる制度になったのが良かったですね。
こんなに社員が喜んでくれるのにも関わらず、会社視点で見るとコストはMAX使ったとしても社員1人辺りプラス1万円です。この喜びを昇給であげようとしたら、なかなか難しい。そう思うと、みんなが喜んでくれる制度をつくって活用することは本当にいいなと感じました。
―活用に向けた細かいサービス詳細の説明はどのようにしているのですか?
端羽氏:弊社では、情報共有サービスQiita(キータ)を社内チャットとしてコミュニケーションで活用しているのですが、Qiitaに詳細な申込み内容やマニュアルを書いています。
たとえば、CaSyさんを使いたいと思ったら、「CaSy」とQiitaに入力すると、マニュアルがでてくるんですよ。マニュアルをクリックすると、導入した理由や利用手続きの流れ、私のブログのリンクなどが貼ってあります。
[CaSy利用マニュアル]
―5月時点では、何割ぐらい使ってらっしゃるんですか?
端羽氏:4月の半ばに始めた制度なんですけど、早速5月の段階で30人中16人が利用してくれています。16人で27件の申し込みがありました。
これからもっともっと増えてくると思います。
さらに社員が自社を好きになってくれて、それが採用広報につながった
―実際に利用を開始されて、社員の方々からどのような声がありましたか?
端羽氏:実際に使ってみてどうだったか、属性別に社員アンケートをとってみたんです。そしたら、以下のような嬉しい声がたくさんあがってきました。
[未婚男性]
- なかなか普段手がつけられないところを、自分の時間を取られずにやってもらえる。
- 家をきれいにする良いきっかけになり、仕事へ意識が集中できる。
[未婚女性]
- 家事以外のことに割ける時間が増えたのでありがたい。
- 自分でお金を払って試してみようとは思わなかったので、導入してもらえて大変ありがたい。
[既婚男性]
- とても便利で気持ちがいい。本当にキレイになる。何より、家族が喜んでくれる。
- 非常にキレイにしてもらい、QOLが向上。妻も喜んでいる。
[既婚女性]
- 思っていた以上に助かることがわかった。自分でやるよりキレイになった。
- 家族のため、自分のために時間が使えるようになった。
- 今回料理代行で作り置きを依頼したが、平日に調理する時間がとれず毎週末にまとめて料理をしていたことが負担になっていたので本当に助かった。自分では作らないような料理のレパートリーも増えて家族も喜んでくれた。
[既婚女性(子供あり)]
- 家事もプロがやると、本当に凄い。自分の時間も増え、精神的余裕もできることがわかった。
- 家もきれいになって「家事をやらなくては」というプレッシャーからも解放されて精神衛生面上とても良い。
- 週末のストレス軽減につながった。仕事が忙しくなると掃除が後回しになるので、明確に仕事にかけられる時間が増えた。
- 夫に家事負担を強いてしまっているのではないかという心の負担が軽減され、ストレス軽減につながった。
私の目から見ると台所がものすごく汚いように見えるのに、なぜかプロの手にかかるとあっという間に台所がきれいになるんですね。あと「こんな洗剤があったほうがいいと思います」と、教えてくれて非常に参考になります。
また、「社員の多様な働き方を応援します」「社員一人ひとりを大事にします」といった会社からのメッセージに対し、「本当に実践してくれている。嘘じゃないんだ」とすごく感じてくれています。
―採用においても何か変化がありましたか?
端羽氏:弊社の採用は、リファラル採用、Wantedly、人材紹介経由といった感じなのですが、結果として、自社の採用情報を社員が積極的にSNSなどで拡散してくれるようになったことがあります。
また、この前社員紹介経由で面接した方と話をしたときに言われたことは、「本当に社員を大切に考えてくれている」「実際に家事代行サービスも福利厚生で導入してくれた」と、弊社の社員に熱心にアピールされたから応募してみようと思ったとのことでした。
特に家事育児に追われている女性の方には、この福利厚生制度の導入以来、ビザスクに興味を持っていただく機会が多くなったと実感していますし、そうでない方にもより具体的に自社のカルチャーを示せるようになり、採用活動がしやすくなったという社員が多いですね。
肌感覚として、社員が会社をさらに好きになってくれることで、採用広報や社員紹介に貢献してくれてきているように感じています。
私たちのようなベンチャー企業は、優秀なメンバーが新しく1人入社して頑張ってくれることでさらに成長していくと思うんですよね。
その優秀な人に入社してきてもらうために、今の社員が「自社が好き」と感じてくれることはすごく大事だと思っています。そういったことにも家事代行サービスの導入は役に立っていると思います。
「意欲があって優秀だけど働けない」人材を輝かせたい
―結婚や子育てなどを機に働きたくても働けない人もいると思います。でも、家事代行制度などを導入することによって、働けない制約がはずれて、活躍したくてもできなかった優秀な人材の活用につながるのではないでしょうか。
端羽氏:そうですね。私は心底女性に活躍してほしいと思っていますし、働きたいと思っている、輝ける力があるのに何か制限があって動けない方に貢献していきたいです。頑張ってほしいと思っています。
本当は頑張りたいのに制限があるという方には、「じゃあ、どうしたらその制限とうまくつきあって働ける環境をつくれるか?」を一緒に考え、実現させていきたいと思っています。
たとえば弊社では、エンジニアは10時-19時が定時なのですが、9時-18時も選択できます。保育園の時間に合わせて働くことも可能です。8時-17時で働いている方もいます。
働くうえでの制限は何か。その制限はビザスクでどうやったらカバーできるのか。「それならじゃあやろう」みたいな感じで、どんどん誰もが働ける環境をつくっていきたいですね。
―働くうえでの制限があるからといって優秀な人材を登用できないのはもったいですね。
端羽氏:最初から無理だと決めつけないで寄り添う姿勢が大事ですね。
弊社でこの前、執行役員に昇格した女性がいるのですが、その社員はビザスク入る前に2年間主婦をしていました。もともと外資の金融系の会社ですごくバリバリ働いていたのですが、子どもができて、子育てをしながら旦那さんの転勤についていくなど、直前の2年間は、まったく働いていませんでした。
出会ったきっかけは、まず旦那さんと知り合いになって、「ビザスクの仕事にうちの妻どうですか」という話になったんです。それで面談させていただいたのですが、最初、「リモートワークであれば・・・」と言う感じだったんです。ただ、話をしているうちにすごく優秀でビザスクに欠かせない人間だと感じたんです。
そこで、「リモートワークも用意できます。でもあなたがフルタイムでやってくれるんだったら、部長職を用意します」「オススメのベビーシッターも教えます!あなたが働きやすい環境をつくるために相談に乗ります」といった感じで誘い入れました。
また、この前入社してくれた方も、前職を辞めて主婦になるかビザスクかで迷っていたのですが、同じようなかたちで、制約をひとつずつ解消していくことでビザスクへの入社を決意してくれました。
むしろそうやって“優秀だけれども何かしら働くうえでの制約がある人材”をなんとかして採用したいですね。「こっちは、カバーできるところはいくらでもカバーするよ」という意気込みです。
―ビザスクとしてこれから取組んでいきたいことなど、今後の展望をお聞かせください。
端羽氏:まだ弊社は在籍中に妊娠をして出産した社員がいないので、今後はその方たちに対して、産後に安心して戻ってこれるような仕組みをつくりたいと思っています。
たとえばメルカリさんが認可保育園に入れず認可外保育園に入園する場合、保育料の差額を全額負担するという制度をつくられたじゃないですか。あれはすごく素晴らしい制度だと思います。復職するにあたって懸念点や問題点があるなら、そこをサポートできる仕組みをつくっていきたいですね。
働き方は人それぞれで多様です。子育てはただの一例で、それ以外では、たとえば副業などもあります。その人の夢があって、仕事を頑張りながら、その夢も追いかけたい、大学院に通いたい、そういったことも応援していきたいですね。
私がひたすら大事にしたいのは、社員の「ビザスクの理念を実現するために頑張りたい」という気持ちです。それの制約になってるものを1個1個、取り除いていけるようにしていきたいです。
最後に
いかがでしたでしょうか。
多くの社員に喜ばれる家事代行サービス制度を導入したビザスク。今回のケースにおいては、ただ単に家事代行制度が社員の方々にハマっただけではないと思います。
ただ制度を導入するだけでなく、社員が喜んで使ってくれる制度はどのようなものかを考えヒアリングし、なぜ導入するのか背景を伝え、使いやすいように工夫する仕組みづくりなど、しっかりとおこなったことも大きく寄与しているのではないでしょうか。
福利厚生も内容によっては形骸化してしまうものもあるかと思いますが、やり方次第では大きな効果を生み出すことができます。何かしらご参考となれば幸いです。