今回は、HR NOTEの新企画『社長の右腕』コンテンツをご紹介。
「社長の右腕」と言われると聞こえは良いですが、社長からの朝令暮改、高すぎる目標、超緊急の依頼など、無理難題の連続に振り回されることもしばしばあるのではないでしょうか。
しかし、社長の右腕と呼ばれる方々がいないと会社はスムーズにまわらない、非常に重要なポジションでもあります。
本企画は、そんな「右腕人材」にフォーカスをあて、彼らが乗り越えてきた過去の体験やビジネススタンス、上司との付き合い方など、財産とも言えるノウハウをお伺いし、記事にまとめていきます。
記念すべき第一弾として、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」を運営している「株式会社PR TIMES」の執行役員兼社長室長を務める名越さんにインタビュー。
立場上、社長といつも身近にやりとりをされているという名越さん。本記事では、名越さんのPR TIMESでのこれまので経験や仕事上実践していることなどをご紹介します。
【人物紹介】名越 里美 | 株式会社PR TIMES 執行役員兼社長室長
目次
全社の組織構築に携わる「ママさん執行役員」として奮闘
―はじめに、PR TIMESにおける名越さんの担当領域や役割について教えてください。
名越さん:私は現在、執行役員 兼 社長室長という役割を任されています。当社は2019年の10月に新体制を発表するのですが、そのタイミングで就任しました。
社長室では
- 事業部化していないサービスのオーナー機能
- 組織力強化のためのコア施策
- M&A案件の交渉
- 社外監査
など、多岐にわたって活動をしています。
一言で言えば、PR TIMESのミッションである「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」の実現に向けて、中長期的な重要度が高い業務を形にする部署になります。
―ありがとうございます。ちなみに、10月に執行役員に就任される以前は、どのような業務をされていたのですか?
名越さん:コーポレートカルチャーマネージャーというポジションで、バリューの刷新プロジェクトの責任者をはじめ、カルチャーの醸成・浸透のため、社内外に向けたブランディング活動をおこなっていました。
2017年に産休・育休を取得し2018年春に職場復帰しており、その半年後にコーポレートカルチャーマネージャーを任されました。
社長室長となった今もコーポレートカルチャーの責任者として、組織の成長が、私の第一のミッションです。
―なるほど、ママさん執行役員でもあるのですね。
名越さん:そうですね。母親としても日々勉強中です。
「ロジカル&チャーミングな変わり者?」山口社長とはどのような人物なのか
―今回は「社長の右腕」ということで、PR TIMESの代表を務める山口社長についてもお伺いしたいのですが、まずは経歴やビジネススタンスについて教えてください。
名越さん:山口は、もともと山一證券出身で、その後コンサルティングファームに転職。その数年後にベクトルの取締役CFOとして入社し、今に至るという経歴です。
山口のキャリアからも分かるように、厳しくとも数字と向き合うことや、戦略思考がベースにあると思います。
また、彼がよく言うのが「自分の能力以上の目標を設定し、それを超えていくこと」です。それが習慣となっているんです。
「目標を達成しないことも失敗だし、野心的ではない目標を達成することも失敗」という言葉を自分自身でも強く意識していると思いますし、その言葉はよく引用されますね。
―すごく厳しそうな印象を持ちましたが、実際のお人柄はいかがでしょうか?
名越さん:人柄は穏やかですね。喜怒哀楽が激しいタイプではありません。山口自身が自分のことを「普通」と言うくらい普通の人ですね。
また山口は、自分でプレスリリースを書くなど、「それもやるの?」というくらい、変に仕事を限定しません。
もちろん、代表という役割を踏まえた上でですが、そこは世間一般的な社長のイメージからすると良い意味で変わっているのだと思います。
[PR TIMES 山口社長]
名越さん:また、誰に対してもオープンですし、フラットに接します。それは社内でも社外でも、変わりません。
山口は、相談をもちかければ惜しみなくオープンにするし、立場や年齢や年次ではなく、その人ならではの可能性を信じることに長けているので、誰よりもフラットです。
あとは小話ですが…オフィススペースをいつも走ってますね(笑)
「また走ってどこかいったなー」と思っていたら、だいたい何か忘れ物して戻ってくる。「名刺が無いなぁ」って。で、結構な確率でカバンに入っていたりする(笑)。
戦略思考でロジカルな人ですが、そういったチャーミングなところもありますね。
山口社長と膝を付き合わせ議論した、苦悩の10ヶ月
―山口社長とのエピソードで印象的なことはありますか?
名越さん:私たちの行動指針である「Value」の刷新プロジェクトですね。
もともと「6つの宣言、3つの秘密」という9つのValueがあったのですが、そのValueが「形骸化の一歩手前」という時期があったんです。それがちょうど育休明けで職場復帰したころでした。
そこから、Value刷新の責任者をオファーされたのですが、たしか産休明けから3ヶ月後くらいのタイミングで、あのときは「本当に!?」と思いましたね。嬉しさよりもまず驚きでした。
[PR TIMES 旧バリュー]
―それは結構な思い切った抜擢ですね。
名越さん:PR TIMESでは、思い切りのある権限委譲が珍しくありません。役割は固定化するものではなく、常に変化するものという位置付けです。
プロジェクトの責任者を引き受けてからは、「会社の成長とは何か?」「私たちが共有すべき価値観は何か?」「事業成長の源は何か?」など、抽象度の高い問いと向き合い、山口と膝を突き合わせて話すことに多くの時間をかけました。
これらを言語化することがとにかく難しくて・・・何回案を出したか分からないですね。何度出しても「ズレてる、全然違う」とよく言われていました。
新しいバリューを発表するまでに10ヶ月を要したのですが、振り返ればそのうちの8ヶ月はダメ出しの連続でしたね…。
特によく覚えているのですが、練りに練った自信作を持っていったときのことです。「今度こそいける!」と思って臨んだのですが、それでもバッサリ切られました。「全然違う」と。
何が違うのか、さっぱりわからなくなってしまって。全く進展しないことへの焦りから、もう全部投げ出したい気持ちにもなりました。
名越さん:そんなときに山口が、「名越さんは、この提案してきたバリューを通じて、一体何が変わったんですか?」と言われて、すごくハッとしたんです。
今でもこのときのことは鮮明に覚えています。
社員のあるべき行動を導くものとして、Valueをアップデートしようとしているのに、「自分自身が何一つ変われていない」ということをすごく感じて、「このままでは刷新なんてできない」とすごく危機感を持ちました。
それで、「私自身がまず行動を変えないと」と思えたんです。
―そこから、バリュー刷新に向けてどのように動いていったのでしょうか?
名越さん:自分が責任を持つプロジェクトで、意識的にバリューに立ち返って判断し、行動してみました。
当時だと、新聞広告のクリエイティブを担当しており、デザイン案やコピー案など何十案とある中で、企業広告としてベストなアウトプットを目指して、これまでの自分の経験による判断ではなく、バリューに基づくとどうなのかを考え、動くようにしました。
結果的に、この経験が私にとってとても大きなターニングポイントになっています。
苦難にぶつかった際や、簡単に決断できない際に「組織の一人ひとりが乗り越えられるようになるには何が必要なのか」「会社の成長につながる成果をいかに出せるか」ということを、自分の仕事を通じて考え、そのギャップを感じるきっかけになったんです。
それくらいの頃から、山口とのValueに関する打ち合わせ内容も変わっていきました。常にその時のベストな案を出して、やはり「何だか違う」と言われるのですが、「何だか」のニュアンスが少しずつ分かるようになりました。
それで、修正してもう一回打ち返すと当たるんです。野球にたとえると、ずっと内野ゴロだったけど、いきなり右中間に飛んだみたいな感じを持てるようになりました。
Valueは、4月に開催する全社の社員総会で正式に発表する予定でしたが、発表する2日前に完成しました。
日が迫ってくる中で山口からは、「また次の機会でも」と言われたのですが、「絶対にこの総会で発表する」と、最後は気力でしたね。
―ちなみに、新バリューはどのような内容なのでしょうか?
名越さん:現在は以下の3つになります。
名越さん:今の3つのValueはこれまでPR TIMESが大事にしてきたことであり、その中でも特にフォーカスしたい部分を定めただけにすぎません。
従来のValueと源流となる部分は変わらずに、より私たちらしい言葉になりました。今後も会社のフェーズや成長に合わせてValueは変えるべきものだと思います。
組織の状態と向き合い続け、私自身もValueで判断し、行動し続けなければと思っています。
[PR TIMES 新バリューカード]
「互いにバイアスを持っていること」を意識しろ!名越さんが実践するコミュニケ―ション術
―「社長の右腕」として、山口社長との関わり方で意識してることはございますか?
名越さん:この取材をお引き受けしておきながらとても言いづらいのですが、わたしだけが社長の右腕ではありません(笑)。
さらにいうと、別の誰かの責任と決定に基づいて、山口自身が右腕になることもあります。
わたしたちは役割に権限と責任が付帯するので、誰もがリーダーシップとフォロワーシップを発揮し合うという関係です。
それがValue philosophyで定めた「Most Valuable Teamであるために全力最善で相互に協力し合う」という部分です。
その上でですが、私が山口との関わり方で大切にしていることは、雑談ですね。雑談は単純な笑い話もたくさんあるんですが、業務に関する雑談も、カジュアルな雑談も、情報収集であり情報発信だと思っています。
この前もデスクで雑談をしてて、時計屋さんの話だったんですよ。その時計屋さんは最寄り駅が遠くてアクセスが良くないのにめちゃくちゃ売れていると。
話を聞いていると確かにすごい数字なんですよ。でも、「途中までこれ何の話だろう?」と思って聞いていて。そしたら最後に少しつながるところがあったんです。
「ずっとその場所に行きたくなるためにどういうポイントがあるんだろう?」とか、「カスタマーサクセスってなんだろう?」とか、考えるヒントがあったりするんですよね。
私の考えすぎかもしれませんし、山口の意図とは全然違うかもしれませんが、打ち合わせなどとは違う情報共有ができると思っています。
―私は、名越さんの感度がすごく高いなと思いました…!
名越さん:もう1つ意識していることとして、「人はお互いにバイアスを持っている」ということですね。
バイアスを持ってしまうのは感情の部分も多いですし、それぞれ生きてきた中での経験や、価値観が100%一致することはないので、それ自体をなくすことは難しいですが、皆バイアスを持っていることを相互に理解しあった上で話すということが大事だと思います。
パートナー、お客様、社内と関わるいずれの時も、「ズレることはある」という前提を握り合っておけば、誰とコミュニケーションをとる上でも良いですよね。
名越さん:あとは、直接話せる距離でも、あえて社内の誰もが見ることのできるSlackのチャンネルでコミュニケーションをとることもあります。
―それはどのような時におこなうのですか?
名越さん:たとえば、何か新しい素案を出す時や、自分の考えを述べる時、7割くらい完成した資料を添付して「こういう方針でいこうと思ってます」とSlackで共有します。
それに対してフィードバックや意見があって、「それってこういうことですか?」みたいなかたちで会話を重ねていく。
当然、他のメンバーもそのやり取りを見ているわけです。
そこから「ザクッとした感じで出して、ヒントを得て精度を上げていく進め方もある」とか「全然違うって言われてるけど、それで良いんだ!」とか、そういうリアルなやりとりが後押しになる人もいると思っています。
ボスマネジメントの前に自分を変えなければ何もはじまらない
―最後に、上司とうまく向き合うための「ボスマネジメント」ついて名越さんが考えるメッセージをいただけないでしょうか。
名越さん:今の時代、業界業種に限らず、変化のスピードがとても速いですよね。
会社が変化しようとする時に、それを察知して共に変わろうと意識できるかは、すごく大事なことだと思います。何かを感じ取り、吸収しようとする力ですね。
でも、変化に対応することは結構なパワーが必要です。だからこそ、“変われるチーム”はすごく強く、反対に変化を恐れて留まるチームは、負けると思っています。
ルールや基準、方針や目標が変わったときに、チームとして前向きに一歩踏み出せるかどうかは、この先の成長の別れ道だと思います。
PR TIMESではボスマネジメントという言葉は全くなじみがありませんが、対上司、対社長だけじゃなく、誰に対しても相手ではなく、まず自分の向き合い方を変えるほうが良いと思います。
―ボスマネジメントの前に、まずは自分を変えようと。
名越さん:そうですね。組織である以上、企業活動の目的があるので、誰かや何かを変えるより、同じ一歩を踏み出せるかどうかは大切だと思います。
家族など、他のコミュニティでも同じですよね。それでしか未来は変わらないと思います。