現在、世界はIoTやAIを代表とする第4次産業革命の真っただ中にあります。
独立行政法人情報処理推進機構の「IT人材白書2018」によると、社会は第4次産業革命を通して、Connected Industriesと呼ばれる超スマート社会に移ろいつつあるようです。
さらに、ものづくりにおいても化学業界や飲食料品・医薬品業界において発展が続いており、ものづくりの技術者が求められるようになりました。
このような超スマート社会を生き抜く為に、企業には新しい時代に適した価値創造ができるIT人材やものづくりエンジニアが必要になります。
そこで今回は、現在のエンジニア採用状況から新しい採用経路である外国人エンジニアの採用についてご紹介します。
1. エンジニアの採用状況
1-1. 国内外のエンジニアの採用状況
日本ではIT・ものづくりエンジニアが不足し続けている状況です。経済産業省の調査によるとIT人材においては、2015年の時点で既に約17万人が不足しているという結果が出ています。今後さらに受容と供給の差は拡大し続け、2030年には約40~80万人規模で人材不足に陥ると予測されています。
また、日本には化学業界や食飲料品・医薬品業界など、世界シェアトップクラスの重要なミッションを担っている企業が多々あります。そのため、これらの業界に関わるものづくり人材の需要が非常に高くなっていますが、それに対して人材が追いついていない状況です。
この深刻な状況において、政府は新しいエンジニア層(外国人エンジニア、女性エンジニア、シニアエンジニア)が今後の日本のIT産業のキーポイントになると見込んでいるようです。
1-2. エンジニアの需要増加(エンジニア人材不足)の背景
では、なぜエンジニアの重要が増加の一途をたどる一方でエンジニアの人材不足が改善されないのでしょうか。
それにはIoT、ビッグデータ、人工知能(AI)、ブロックチェーンなどの新技術を活用した分野が注目される中、それらを駆使して新たな価値を生み出す人材の供給が追いついていないという背景があります。
特に日本国内では、エンジニアに対して技術者というイメージが強く、自ら新しいものを作り出すことを望むよりは「決められた企画書通りにこなしてくれればいい」という意識が根強くあるようです。
これはエンジニアの中長期的な育成を現場がする余裕がないという原因があります。際立って高いレベルよりはとにかく目の前のタスクをこなしてくれる即戦力が求められているのです。
さらに、これは日本の教育機関についてもいえることです。世界技術は日進月歩で成長を遂げていますが、一方で、日本の教育機関ではそれを拾いきることができていないという現状があります。このような要因からトップエンジニアを輩出する環境が充実していないといえるでしょう。
しかし、第4次産業革命を迎えるに当たり、新技術を駆使し、新しいサービスやシステムで差別化をしていくために、よりクリエイティブでレベルの高いエンジニアの受容が高まってきています。
1-3. 人材不足のために増加傾向にある外国人エンジニア
外国人材の取り組みで代表的なものとして、法務省入国管理局では平成24年5月7日より「高度人材ポイント制による出入国管理上の優遇制度」を設けています。
この制度はIT分野のみならず、高度な学術研究や技術、経営・管理に関する能力や学歴・実務経験などから、政府がポイントを設けることで出入国管理上の優遇措置を講ずるというものです。基本的に入国資格は特定の活動のみに許可されますが、この制度が適用されると複合的な業務をおこなうことができ、より多くのシナジーを生み出すことができます。
このような制度が生まれた背景には、国内の人口が減少し、労働人口が減少していくという状況がありました。特にIT人材の外国人化は顕著で、経済産業省の調査では、平成20年(2008年)から平成27年(2015年)の7年間で情報通信業に就労している外国人数は約2倍に拡大しており、よりその存在感を増しています。
国籍別では、「中国人」が半数以上を占めており、次いで「韓国人」、「アメリカ人」、「ベトナム人」という国籍のIT人材・ものづくりエンジニアが日本で就労しています。
特にベトナム人は3年前と比較して就労者数が約2.5倍と増大しています。東南アジア諸国では日本で働きたいという人が多く、ベトナム以外ではタイやインドネシアもエンジニア獲得先として期待できるといえます。
2. 外国人エンジニアを採用するにあたってのメリットとデメリット
外国人エンジニアは日本の人材不足を解決するためのキーとされており、採用状況をみてきました。ここからは、そんな外国人エンジニア採用のメリットとデメリットを紹介します。
2-1. 外国人エンジニアを採用するメリット
海外進出の際の中核となる
外国人を採用することでその社員の出身国に必然的につながりが生まれます。外国人同士のリファラル採用をはじめ、その国の土地勘やトレンドなど新鮮でリアルな情報を手に入れることができます。
またその社員の周辺においては社名が知れ渡り、採用すればするほど現地でのプロモーションにもつながるでしょう。海外進出を視野に入れている企業にとっては、その国の社員を採用することが海外進出の大きなチャンスになります。
モチベーションが高い
アジア諸国の若い世代の多くはハングリー精神が旺盛で、日本人に比べ必死さや貪欲さがあります。
新興国の多くが日本よりも給与水準が低いため、家族への仕送りをする人が多く、そのような責任感から仕事に励むということがあります。
欧米などの先進国出身の場合も、わざわざ日本で働くという選択肢を選んでいるため、何らかの明確な意図があり、意識高く業務に臨む姿勢を持っているということができます。
労働環境の整備が進む
国内ではIT業界の長時間労働が大きな問題となっています。しかし、外国人採用で欠かせないのがワークライフバランスです。オンとオフの切り替えを重要視する外国人労働者を確保するためには、労働環境の整備を無視できません。
労働環境を整備することで、結果的に全体の応募数も増加するため、外国人だけではなく日本人のエンジニア人材にも訴求ができ、採用力の強化をもたらします。
【関連記事】Web面接とは?メリットや導入効果、学生の声を徹底解説|システムもご紹介
2-2. 外国人エンジニアを採用するデメリット
文化の違い
外国人社員を日本人社員と全く同じように扱うことは難しいです。文化や宗教上の理由により、祈りの時間や場所が必要であったり、食生活で守らなければならないといった事項があります。
これらの文化は彼らにとって生活習慣であり、生きる上での大切なルールです。郷に入っては郷に従えという言葉もありますが、これらの文化の違いを尊重できない企業では外国人エンジニアを採用することは難しいでしょう。
しかし、外国人社員ならではのルールの容認により日本人社員との連携が難しくなることもあります。両者のバランスを見ながら文化の違いを認めていくことが大切です。
マネジメントの難しさ
日本には一般的なビジネスマナーが存在します。しかしながら、外国人社員には日本式のビジネスマナーの感覚がありません。
例えば、「報連相」は新卒研修などで当たり前のように叩き込まれるマナーです。日本人は、まず言われたことをやってみてその必要性を経験の中から理解していきます。
しかし、外国人社員の場合には仕事の生産性や効率を重視している人が多いので、報連相がなぜ必要なのか、報連相ができないとどのような影響があるのかなどを丁寧に説明し、納得させる必要があります。
納得していないことを頭ごなしに「そういうルールだから」と言われてもほとんどの場合が機能しません。そこにマネジメントの難しさがあるのではないでしょうか。
また、言葉の壁も大きく存在します。言語スキルは個人差がありますが、日本の「空気を読む」や「察しのコミュニケーション」は誤解とすれ違いを生み出す原因です。
些細な事でもコミュニケーションをとることを欠かさず、認識をすりあわせることが必要となります。
煩雑なVISA取得手続き
日本で働くには職種やスキルに応じた就労資格が必要です。複雑な内容となるので、申請までには外国人雇用についての法律をしっかりと学ぶ必要があります。少しでも手続きを誤ると、不法就労として強制送還となってしまう可能性もあります。
企業側が準備する書類の作成や内定者とのやり取りなど煩雑な事務作業が発生するので、事前準備を整えた上で、計画的に遂行する必要があります。
さらに採用後は、定期的に在留資格の更新手続きがやってきます。人によって更新期限が異なるため、企業側もそれぞれの更新日を把握し、余裕をもって更新準備をおこなうようにしましょう。
3. 外国人エンジニア採用のポイント
外国人エンジニアを採用する上でのメリット・デメリットをみていきました。ここでは、メリット・デメリットを踏まえた上で外国人エンジニアを採用するにはどんな点に注意すべきか、ポイントを抑えています。
3-1. 本当に日本で働く覚悟があるのかを確認する
「日本に行けば生活が豊かになる」「海外で働くことがなんとなく格好いいから」という理由で日本で働くことを選択している外国人エンジニアも少なからずいる場合があります。
日本で働く覚悟や日本と自国の文化の違い、カルチャーショックに耐えうる精神力があるかなど、面接の段階で確認しておく必要があります。面接ではいいことばかりではなく、日本で働くことの厳しさや独特な日本のビジネスマナーなどを事前に説明しておくことがポイントです。
3-2. 受け入れ側の体制強化
実際に配属される部門はもちろん社内全体で外国人や異文化を受け入れる体制を整えておきましょう。
例えば日本人側から積極的にコミュニケーションをはかるようにする、外国人エンジニアと日本人エンジニアとの違い、日本語初心者に対しての伝わりやすい話し方を心がけるなど、入社前までに出来る限り受け入れ側のマインドセットをしておくことが必要です。
3-3. 生活環境の整備
現地採用をおこなった場合は、特に社宅の提供や生活環境へのサポートも企業側に求められます。
少しでも安心して業務に臨めるように、日々の通勤や路線の知識・衣食住に関する様々な悩みや疑問に対して、会社の中に頼れる窓口を設置するなどホットラインを作ることも受け入れ体制強化の一つとなるでしょう。
4. 外国人エンジニア採用の疑問を解消!サービスも紹介
メリット・デメリットを見ていきましたが、外国人エンジニアを採用したことがない採用担当者様には疑問や不安が多々あると思います。ここでは、そんな疑問や不安を解消します!
4-1. 日本語は話せたほうがいいの?
もちろん日本で働く上で日本語を話せた方が断然いいでしょう。外国人エンジニアとのトラブルの多くは「ミス・コミュニケーション」が原因です。しかし、外国人エンジニアに日本人と同レベルの日本語スキルを求めることは必要ありません。それにより、エンジニアとしての技術を諦めることになっては本末転倒です。
そのような場合は、通訳としてブリッジエンジニアを介することでコミュニケーションの橋渡しを担ってもらうことも方法としてあります。実際に、社内はもちろんお客様との間での齟齬が起こらないよう常駐先においてもブリッジエンジニアを活用する企業が増えています。
4-2. 外国人エンジニア採用したいけれどどこで採用したらいいの?
まずは外国人に特化したナビサイトや人材紹介会社を活用しましょう。現地採用を希望する場合は、現地で開催する採用イベントに担当者が直接出向いて、合同説明会と面接をその場でおこなうことができるサービスもあります。
徐々に社内に優秀な外国人エンジニアが増えていけばその界隈でのリファラル採用も可能となり、いい循環を生むことができるでしょう。
4-3. ビザ取得はどうやってとるの?
基本的には書類審査となります。会社が用意する書類(履歴事項全部証明書、定款、法定調書、財務諸表、雇用契約書、雇用理由書など)と外国人側が用意する申請書(卒業証明書、履歴書などを含む)を揃え、管轄の入国管理局へ提出します。
その後は、許可が下りるまでひたすら待つのみですが、提出書類の不備があれば、再度提出しに行ったり、審査期間が予想以上に延びたりすることがあります。
安心して予定通りの入社日を迎えるためには、行政書士などの専門家に依頼することもポイントです。
5. 最後に
エンジニア人材不足の解決策として、外国人エンジニアの採用を選択肢とするならば同時に社内変革も迫られることになるでしょう。なぜなら「日本で働きたい」と思ってもらうためにその魅力をきちんとアピールできなければ、優秀な外国人エンジニアは他国にどんどん奪われていってしまうからです。
今後は優秀な外国人エンジニアへのアプローチと共に、国内のIT・ものづくり産業の成長と発展に向けて、企業のさらなる環境整備とグローバル化が強く求められていきます。厳しい状況が続くエンジニア人材採用ですが、本記事が外国人エンジニア採用のための社内変革の手がかりとなれれば幸いです。