こんにちは、社会保険労務士の近藤由香です。
新たな1年がスタートしたところで、今年はどのような1年にしようか考えられている方も多いでしょう。そして2016年は1日の大半を会社で過ごしていたという方も少なくないのではないでしょうか。
長時間労働がメンタルヘルス疾患につながることは周知の事実ですが、「分かってはいるけれどなかなか減らすことができない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
目次
1.実は減っている?労働時間
「日本人は働き過ぎだ」そう言われることが久しいですが、厚生労働省の調査によると、1990年には年間2000時間を超えていた労働時間が、2009年には1800時間以下まで減ってきています。
「働きすぎの日本人」ですが少しずつ労働時間がデータ上では減ってきているのです。ただ、このデータはパート、アルバイトの方も含んでいるので、その比率も高いことから、単純に「改善されている」とは言い難いのが現状です。
また、週50時間以上働く人の割合を諸外国と比べると、日本人は28.1%で、アメリカ、イギリス、ドイツに比べて高いことから、日本人は働きすぎというのは未だ改善されている訳ではありません。
2.長時間労働以外にもあった?ストレス原因|ERIモデル
長時間労働がメンタルヘルス疾患につながるのは周知の事実ですが、仕事の仲間、上司というメンバーから認められていないことがメンタルヘルス疾患に関係していることは余り知られていないのではないでしょうか。
過重労働とメンタルヘルスの研究モデルであるERI(努力・報酬不均衡)モデルをご紹介します。これでは努力に見合った「報酬」がないことがストレス要因となり、メンタルヘルス疾患のリスクを高めるといわれています。逆にいうと、「報酬」を与えればこのリスクを減らすことができるということです。
ポイントは、この「報酬」は金銭や地位だけではなく、周りから「尊重されること」も含んでいるということです。つまり、部下や仲間から「認められ」たり、「尊重される」ことが、ストレスの軽減につながり、メンタルヘルス疾患のリスクを減らすというのです。
3.労務管理のポイントとマズローの5段階欲求説
アメリカの心理学者マズローの5段階欲求説では、人間の欲求は生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、尊厳欲求、自己実現欲求の5段階があり、低階層の欲求が満たされると、次の高次の欲求を欲するという説でよく知られています。
メンタルヘルス疾患のリスクを減らす「認められたい」という欲求は、まさにマズローの5段階欲求のうち、「尊厳欲求」のことで、他者から認められたい、尊敬されたいという欲求です。マズローによると人間はこの欲求を性質として元来持っているのです。
たとえば、どんなに仕事を頑張っても「よくやったね」「頑張ったね」という頑張りを認めてもらえないと、頑張っても意味がないのではないか、頑張っても頑張らなくても同じではないかとモチベーションの低下につながったことはないでしょうか。
つまり人間の尊厳欲求を満たすことが、メンタルヘルス対策上でも、とても大切なポイントになり得るということなのです。
4.労務管理する上でのポイント
メンタルヘルスにより休職者が発生すると、企業は休職者対応(休職命令発令、休職中のフォロー、復職時の産業医面談等)採用をすることとなります。さらにノーワークノーペイの原則から会社は給与を支払うことはありませんが、その間も社会保険料は発生しており、採用コスト、社会保険料、時間・労力のコストを合わせると休職者1名につき数十万~数百万のコストが発生することとなります。休職者を発生させない(休職者の発生を防止する)労務管理をすることは、企業として経営戦略としてとても大切なのです。
5.メンタルヘルス疾患対策として具体的に何から始めよう?
時間管理をきちんとおこない、長時間労働をさせない労務管理をおこなうことは人事担当者としては欠かせません。時間管理についてさまざまな手法で取り組んでいる企業も多いことでしょう。そしてその効果をさらにアップさせるために、部下、メンバーを「尊重する」こと、「認める」ことがメンタルヘルス疾患を減らすことにつながります。部下、メンバーが頑張った行動や素晴らしい仕事への姿勢を見つけたら、意識的にその行動、姿勢を褒める、称えることから始めてみましょう。部下、メンバーを褒め、称えることはこの記事を読んだ“今”からできるメンタルヘルス対策です。