「働き方改革」というキーワードが日本社会で注目を浴びるようになり、企業は長時間労働の是正、労働生産性の向上、社員の健康推進に取り組む必要が出てきています。
特に中堅企業のバックオフィスは、業務の負荷がどうしても多くなってしまいがちです。中には、総務や法務、情シスや人事などを少人数で兼任しているケースも珍しくはありません。
今回は、企業へのPC販売導入の支援、IT変革コンサルティングをおこなうデル株式会社が、2017年よりスタートした中堅企業の「ひとり情シス」向け施策において、新たに2つの人事/労務系クラウドサービスの提供を開始するということで、メディア向けの発表会に取材をさせていただきました。
デルが提唱する「ひとり情シス」とは何なのか?デルが中堅企業に注力する理由とは?人事/労務系クラウドサービスの販売をおこなう理由とは?デルが協業する2サービス「ジンジャー」「OFFICE STATION」とは?など、発表会での内容をご紹介します。
中堅企業に多い「ひとり情シス」の働き方改革
「ひとり情シス」とは
デルは自社サービスを国内の企業に展開をしていく中で、その多くの企業が従業員100名以上1000名未満の大企業・中堅企業を占めています。この大企業・中堅企業数は、教育・医療系企業を除くと約5万社に上り、デルはその内約3万社を担当しています。
デルの創業者であるマイケル・デル氏は「中堅企業には、大企業や小企業とは異なった独自のニーズがある」と提言しており、日本国内では中規模大企業営業担当部署として24年にわたり100名以上1000名以下の企業にサービスの提供をおこなっています。
2017年1月には広域営業統括本部を発足させ、100名以上1000名以下の企業を対象に、IT人材不足に向けたソリューションの提供やセミナーを開催しています。
深刻化するIT人材不足なかで「ひとり情シス」という言葉があります。これは、特に中堅企業に多く、人事・総務・経理などのバックオフィス系業務を少人数で兼任しながら、テクノロジーの発達やセキュリティーなどの専門知識が必要な情報システム部門の業務や、1人で情報システム部門を担っている担当者のことです。
従業員の入社や、退社の際のPCの準備やセキュリティーの設定や、システムトラブルへの対応など業務には専門性が必要になりますが、IT人材が不足する中で「ひとり情シス」が問題視されるようになってきています。
デルでは、この「ひとり情シス」に向けたソリューションの提供や、中堅企業の「ひとり情シス」を集めた大会議や、オフ会などを開催して、IT人材不足の企業に対して支援をおこなっています。デルは中堅企業を支援する中で出会った、1000人近くの「ひとり情シス」との対話から生まれた内容を書籍化しています。
「兼任型ひとり情シス」は情シス業務に3割以下のリソース
長時間労働や残業に関するニュースは、大企業が比較的に取り上げられることが多かったですが、デルが中堅企業を対象におこなったIT投資動向や働き方改革に関する調査の結果では、中堅企業の80%以上が働き方改革に着手していることがわかりました。
中でも、「長時間労働の是正」「労働生産性の向上」の2点が働き方改革に取り組む目的の50%以上を占めており、そのための対策としては「時間外労働の上限設定」「ノー残業デーの徹底」が上位を占めています。
このように中堅企業の働き方改革が進む一方で、欠かせないのがITへの投資です。これまでは従業員が担当していたオペレーション業務などをIT化していくことで、働き方改革に取り組む事が可能になります。中堅企業のITへの関心が増えてきていることから「ひとり情シス」が企業に増えてきている一方で、他の業務と兼任をしながら情シス業務をおこなっている「兼任型ひとり情シス」も増えてきています。
デルの「働き方改革」関連の調査によると「兼任型ひとり情シス」の24%が労務・人事、総務、経理などのバックオフィス系業務と兼任しており、IT活用に時間を捻出するには、管理部門・バックオフィス系業務の合理化が必須になってきます。
「兼任型ひとり情シス」は情シス業務にあてるリソースが約3割以下となっていることが明らかになっています。
「働き方改革」によるIT化は進む一方、人事・労務業務の改善は急務に
中堅企業の80%以上が「働き方改革」に取り組んでいると、デルの調査結果にもありましたが、その内43%の企業では経営層がトップダウンでメッセージを発信して「働き方改革」に取り組んでいます。
これまでは会社に出勤しなければ業務ができなかった従業員が、クラウドサービスの普及によって働き方が多様化し、社外や在宅で仕事ができるリモートワークが増えてきています。
デルの調査では、社外・在宅での業務時間が増加している企業は15%増加してはいるものの、従業員1人あたりの仕事の負荷は増加しています。
リモートワークが増えていく一方で、デルが調査した23%の中堅企業では、残業・休日出勤が増加している傾向となり、多様な働き方に対応できるように人事・労務の可視化と労務プロセスの改善が急務になります。
IT化が進むにあたって、社外での業務はどこまでやるべきなのか、リモートワークの従業員とのコミュニケーションをどうするのかなど、制度やフロー面の改善が今後重要になるでしょう。
デルが中堅企業向けに人事・労務系クラウドサービスを提供する理由
デルが中堅企業に対してサービスを展開していく中で「働き方改革」に取り組んでいる企業が増えていること、その中でもクラウドサービスの導入が増えてきているという調査結果がありました。
中堅企業における「ひとり情シス」にみられるように、1人に業務が集中している企業では負担がかかりすぎないように、労務管理を可視化し整備していくことが必要になります。
また、企業の経営層がトップダウンで働き方改革を主導している企業では、IT投資もおこなっている傾向があります。デルのお客様においてもクラウドサービスを活用する中堅企業が51.6%と大幅に増加しており、労務・人事領域においての活用が中でも大きく伸びています。
デルでは2017年から中堅企業向けに、3社のクラウドサービスと協業しサービスを提供しています。中堅企業のクラウドサービス導入には「ひとり情シス」が抱える課題を解決し、環境変化をもたらすとしてデルではクラウドサービスの提供を進めています。
デルが2017年にクラウドサービスの提供を開始したのは、中堅企業のクラウド活用で最も需要がある、電子メール、ファイル保管・データ共有、サーバ利用、スケジュール共有、社内情報共有・ポータル、データバックアップの領域がカバーできる、株式会社ラクス、カゴヤ・ジャパン株式会社、エックスサーバー株式会社の3社のサービスでした。
2018年からは前年の領域の次に需要がある、給与、財務会計、人事システムに注力。それらの領域をカバーしている株式会社ネオキャリア、株式会社エフアンドエムの2社と協業し、クラウドサービスの提供を進めていきます。
今回デルが提供するクラウドサービスの領域は、総務省の調査によると、2017年に比べて2018年は14%の成長が見込まれています。
デルがネオキャリア、エフアンドエムと協業する経緯については、「中堅企業において、高い納入実績があること」「中堅企業という、コストセンシティブな分野で長期間に渡り実績を上げ続けていること」「2社のお客様とデルのお客様が同一領域で、レバレッジが図れる可能性があること」「デルの製品での運用に親和性があり、今後のハイブリッドが考慮できること」だと述べていました。
デルが今回協業する2社のクラウドサービスとは
ジンジャー|株式会社ネオキャリア(※2021年にjinjer株式会社へサービスを譲渡)
「ジンジャー」は、1つのプラットフォームに”人事業務”の全てを集約できる、クラウドサービスです。
「ジンジャー」からは社会保障の各種手続きをオンライン化し、書類の作成・申請業務を自動化する「ジンジャー人事労務(社保手続き)」、タレントマネジメント、組織情報、異動情報、履歴情報、報酬、福利厚生、教育研修などの人的資源における人事データを一括管理する「ジンジャー人事労務」、多彩な打刻方法、アプリ対応、シフト作成、予実管理などの機能を備え、管理・作業コストを軽減しオペレーション効率化を実現する「ジンジャー勤怠」の3つのサービスが提供されます。
ネオキャリアはこれまで採用領域をメインにサービスを提供していましたが、人手不足が進む中で、採用領域のサービスだけでは企業が抱える課題を解決するのは難しくなっており、採用以降の人材の定着・活性化・配置、人事・労務担当者が抱える労務・勤怠・経費精算などの管理業務の生産性向上に役立つツールとして「ジンジャー」を開発。(※現在はjinjer株式会社へ権利譲渡済)
これまでの人事業務は、勤怠管理や、モチベーション管理、労務管理など、それぞれの管理業務で別々の担当者がエクセルや別々のシステムでデータを管理しているケースが多かったですが、「ジンジャー」では全ての人事業務を横断したサービスを提供することで、1つのデータベースで1人の従業員にまつわるデータを全て管理できるようになります。
また、「ジンジャー」で全ての人事業務を1つのプラットフォームに集約することで、人事担当者のオペレーションの改善や、従業員データの活用、組織データの活用が可能になります。
エンゲージアラートメント機能では、従業員の勤怠データを企業で数ヶ月間ためていくことで、離職しそうな従業員を予測できるので、離床を未然に防ぐことが可能になるといいます。
このように人事で管理しているデータを集約し活用することで、育成・定着・組織改善に向けた一手が打てるようになるといいます。
当日登壇した、加藤氏は「これまでの採用領域といった人事業務の入口だけでなく、育成・定着・組織改善、従業員のエンゲージメント管理や退職までの、入り口から出口までを一気通貫できるサービスを企業に提供をして、人事担当者様の生産性向上につなげていきたい」と今後の狙いを語っていました。
OFFICE STATION|株式会社エフアンドエム
エフアンドエムは、中堅企業のバックオフィスに特化してコンサルティングをおこなっている企業です。
エフアンドエムが今回提供する「OFFICE STATION」はクラウド型のバックオフィスシステムで、マイナンバーの運用・管理を自動化する「マイナンバーステーション」、行政のe-Govの外部連携APIに対応している労務手続きシステム「労務ステーション」、2社以上の給与収入、住宅ローン控除に対応するオンライン年末調整システム「年末調整ステーション」の3つサービスです。
エフアンドエムはこれまで29年間に渡り、中堅企業のバックオフィスをコンサルティングをおこなってきた実績や、地域で活躍している税理士や社会労務士とも協業や事務所コンサルティングをしている実績から、バックオフィス業務に関する多くのデータを蓄積しています。世の中に存在する経営サービスは大企業向けのものが多く、経営に困っている中堅企業がサービスを導入するにはコストが高く、なかなか導入できないのが現実だといいます。
そこで、エフアンドエムは価値のあるサービスを低コストで提供することで、社会をさらに活性化させていこうと考えています。
エフアンドエムがこれまでに関わってきた企業のバックオフィス業務に共通している課題というのが、「なかなか投資してもらえない」「属人化しているのでマニュアル化できない」ということでした。
2015年にe-Govの外部連携APIが公開されたことをきっかけに、これまでマニュアル化することが難しかった労務関連のサービスを開発し、中堅企業にサービスの提供を進めています。
有償版のサービスでは約2,500社が導入しており、そのうち約800社は社労士事務所ということで国家資格を持つプロが活用サービスです。
そこまでして選ばれる理由のひとつとして、97の帳票に対応しているほか、電子申請には59の帳票に対応していることが挙げられます。
今後、女性活躍推進や高齢者の就業が社会的に求められるようになる中で、年末調整の際に扶養控除の103万円の壁を突破するケースや、定年の延長などが増えてくるようになります。その際に、増え続けて複雑化する手続きや申請業務が、この「OFFICE STATION」で簡易化します。
エフアンドエムの渡辺氏は「資本金1億円以上の企業は2020年に電子申請が義務化されるようになるので、アナログな企業がが電子申請に対応できるように普及を進めるとともに、企業に価値を提供していきたい」と2020年に向けての豊富を語りました。
さいごに
国が定める「働き方改革」に向けて、国内の企業はその規模にかかわらず取り組む必要が急務になってきています。
今回のデルの協業の経緯にもみられるように、これまで企業が時間をかけてアナログで管理していたバックオフィス業務を、システムやITを導入して簡易化していくことで、長時間労働を是正するだけでなく、従業員の生産性の向上、コスト削減につなげていくことが可能になります。
中堅企業やスタートアップの企業においては、バックオフィス業務を全て兼任しているケースや、担当者がいないケースも多く、デルが協業しているようなクラウドサービスを導入していくことで、限られたリソースで必要なバックオフィス業務への対応が可能になっていくのではないでしょうか?