株式会社ZENKIGEN主催の「テクノロジーを駆使した採用」をテーマに次世代のHRについて話し合うイベント「NEXT HRカンファレンス」。
ソフトバンク株式会社・株式会社 USEN-NEXT HOLDINGS・株式会社サイバーエージェントの3社の人事が登壇し、自社の採用の取り組みについてお話されていました。その中で今回は、ソフトバンク源田泰之氏が登壇した内容をご紹介。
ソフトバンクでは、2年ほど前から新卒の採用方針を「マス向けのアプローチ」から、「狙いを定めたアプローチ」に変更。
一方で、そのような“攻めの採用”をおこなうと、その分の業務工数が増えてしまうのですが、エントリーシートの選考にAIを活用するなど、テクノロジーを活用し業務効率化を図っているとのこと。
それでは、実際にソフトバンクはどのような採用手法を展開しているのでしょうか。その詳細を記事にまとめました。
【人物紹介】源田 泰之 | ソフトバンク株式会社 採用・人材開発統括部長
1. ソフトバンクの採用事情
源田氏:まず、ソフトバンクの採用事情に関してご紹介します。新卒採用でいくと、16新卒が約500名、17新卒が約400名、18新卒が約380名、19新卒も380名前後の採用を予定しています。
一見すると、採用人数が減ってきているように感じるかもしれませんが、一方で中途採用に目を向けると、採用数が増加してきています。
新卒採用人数
16新卒 | 17新卒 | 18新卒 | 19新卒 |
500名 | 400名 | 380名 | 380名 |
中途採用人数
16中途 | 17中途 | 18中途 | 19中途 |
100名弱 | 200名弱 | 300名弱 | 未定 |
中途採用に力を入れている背景には、弊社の事業状況が関係しています。弊社は携帯電話サービスを中心とした、さまざまなサービスを提供しています。
しかし、携帯電話事業は「これから大きく市場が伸びることがない」といわれています。そのため、今の顧客基盤や通信ネットワークを活用して、フィンテック事業やクラウド事業など、新たな事業をどんどんつくっていかないといけません。
しかし、既存社員の異動や新入社員の配属だけだと、なかなか新しい事業をつくっていくのに十分な人材確保が難しいのです。
たとえば、フィンテック事業だと、外部の金融機関でのご経験のある方や、ブロックチェーンなどの最新の技術に精通した技術者に来ていただく必要があります。そのため、中途採用に注力しています。
2. ソフトバンクの新卒採用について
源田氏:新卒採用に関しましては、現在大きく方向転換を図っています。
これまではマス向けのアプローチが中心で、いかに多くの学生にソフトバンクに応募してもらうかに注力していました。
そして、応募していただいた方々を選考しながら、ソフトバンクにマッチする方を絞り込んでいくという採用方針でした。
しかし、ここ2年ぐらいで、マス向けのアプローチをやめて、世の中に45万人いるといわれている就活生に対して、こちらから狙いを定めてアプローチをしていくという採用方針に変えました。
2年前 | 現在 |
マス向けのアプローチ | 狙いを定めてアプローチ |
つまり、母集団全体にかける工数を減らして、ソフトバンクに来てほしい学生への直接アプローチに切り替えたんです。
では、直接アプローチとして何をしているのか。その採用活動の一部をご紹介します。
01. No.1採用
源田氏:No.1採用というのは、「なんでもいいからNo.1の実績を持つ人に応募してもらう」というアプローチで、8年間実施しています。努力を続けてNo. 1を成し遂げた実績がある方には、入社後、業務においてもそれを再現する力があると考えています。
02. 地方創生インターン
源田氏:「TURE-TECH」という名称で、地方創生インターンも実施しています。
ICT(Information and Communication Technology)を用いた地方の課題解決の提案を直接自治体におこなっていただきます。
ソフトバンクに興味のない学生に対して、ソフトバンクの働き方を知ってもらうために何かアプローチできないかと考えて始めたものです。
03. グローバル採用
源田氏:海外でもかなり積極的に採用活動をおこなっています。直接海外の大学に出向き、オープンキャンパスのような形でリクルーティングしています。
こちらから会いに行って、「ソフトバンクってこんな会社ですよ」「働き方はこうですよ」としっかり伝えて、興味・関心を抱いていただいています。
04. 就活インターン
源田氏:これは実際に2週間、または1ヶ月間ソフトバンクで社員と同じように働いてもらうというインターンです。
そして、このインターンに参加した学生に対しては、インターンでの評価も踏まえた採用選考をおこないます。まさに採用直結型のインターンを就活インターンとしてやっています。
去年は300人くらいのインターン生を受け入れました。このインターンを通して入社につながるのが全体の採用数の3割ぐらいです。今年はインターン生を400人程度受け入れる予定です。
弊社はAIやIoTなど新しい技術をもったエンジニアを求めています。ただ、学生からすると「ソフトバンクがそういったエンジニアを求めている」というイメージがなかったりします。
ですので、インターンでリアルなソフトバンクを知ってもらおうと考えています。ビッグデータをどのように収集して分析し、どういった流れで新しいサービスにつなげているのか。
実際にインターンを通して学んでいただいて、ソフトバンクを理解してもらった上で入社していただくという流れをつくっています。
3. AIを活用している採用事例
3-1. ソフトバンクの採用フロー
源田氏:AIを活用した新卒採用の事例もご紹介させていただきます。エントリーシートの評価判定にAIを活用している事例です。
ソフトバンクの採用選考プロセス自体は、何も特別なことはしておらず、基本的にはエントリーシート、SPI、複数回の面接という流れです。
「技術力がすごそうだ。でも面接官が人事のため、詳細まで見極められない」といった場合は、最後の見極めのために面接回数を増やすといった対応をしています。
3-2. AIでエントリーシートを公平に判断
原田氏:採用活動が本格化する1月~3月の時期になると、大量のエントリーシートが送られてきます。
私たちが掲げた攻めの採用だと、従来の採用選考をおこないつつ、+αでどんどん新しいアプローチをしていかなければなりません。その結果、採用担当が忙しくなり、時間が足りなくなるんです。
そうすると、既存の業務の中で何かを効率化していく必要があります。そうして踏み込んだのが、エントリーシートです。エントリーシートの選考にAIを活用しています。
エントリーシートで、指定したテーマに沿った作文を学生に書いてもらうことは、よくあるパターンだと思います。
弊社の場合は、たとえば、ソフトバンク社員が大事にしている行動指針に沿って、「ソフトバンクバリューに合致するあなたの強みはなんですか。また、その強みを発揮して成し遂げたエピソードを教えてください」といった作文を書いてもらっています。
こういった作文の評価には、とにかく時間がかかります。また、エントリーシートの提出が殺到する時期が採用繁忙期と重なるという課題もありました。さらに、評価をおこなうにあたり事前にトレーニングを受けてはいるものの、評価の目線に多少のブレがある可能性もありました。
たとえば、同じ私が評価したときでも、とても体調が良いときと、風邪を引いていてすごく体調が悪いときでは、もしかしたら多少判断が異なるかもしれません。ですが、AIを使えばより公平公正なジャッジになるのではないかと思っています。
また、AIが”不合格”と判断したエントリーシートは、採用担当がもう1回チェックをしています。
なぜかというと、学生から見てソフトバンクは「せっかく僕らがちゃんと書いたものを読みもせずに落とすのか」という反応があるのではないかと思ったからです。
そういったことを想定して、このようなプロセスを入れたのですが、結果として学生からそのような意見はほぼなかったです。
また、AIの活用にあたり、私たちのケースでは大きく2つの点を工夫することによりAIの判定精度が上がりました。
1つ目は、AIに学習させるデータにはあまり古いデータを使わないこと。5年前と2年前では使われていた言葉もぜんぜん違うので、AIのジャッジに影響がでるケースがあります。
2つ目は、AIにエントリーシートを読み込ませていく過程で、”ベテラン人事”と”新人人事”とでジャッジに多少のズレがあるのではないかと仮定したことです。
このような取り組みをした結果、AIによる判定が人事による判定を再現しているといえるレベルの精度を保ちながら、75%ぐらいの時間を削減できました。
エントリーシートの評価の課題は多くの企業がもっていると思いますが、私たちの場合はAIを使って良い状況に持ってこれたと思います。
3-3. その他の採用に関する取り組み
源田氏:あと2点だけお伝えしたいことがあります。
まず1つはチャットボットについてです。学生からは同じ時期に同じような質問が大量に来ますよね。電話での質問も多くて、かなり時間を取られています。これをチャットボットで解決しようということをおこないました。
年間4,000件くらいの新卒採用の問い合わせに、IBMのワトソンとLINEを使って、チャットボットで回答する仕組みです。これによりチャットボットで80%ぐらいの一時対応に成功しました。
2つめは、動画面接です。こちらはインターン選考での活用になります。インターンには、年間4,500名のエントリーがあるんです。
その数を選考するのには、ものすごく工数がかかってきます。そこで動画面接を使って、初期選考をより効率化しようという目的で取り入れました。
直接的な対面でのやり取りではないので、そこまで深掘りはできていませんが、コミュニケーション力はしっかりと見極められるので、初期の選考では非常に力になっています。
4. まとめ
いかがでしたでしょうか。
ソフトバンクがマスに向けた採用方手法から、より個別化された採用手法に切り替えていることがよくわかりました。いろいろな学生に興味・関心をもってもらえるように、インターンなど入口をたくさん用意しておくことが大切だと感じました。
しかし、攻めの採用で入口を増やすと、その分選考の時間が増えます。ソフトバンクは、AIができることはAIにまかせることで解決しています。人事は、人事にしかできないことに注力していくことが、採用の成功につながるのではないでしょうか。
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