
企業の成長に欠かせないのは「人材」であることは言うまでもありません。
なかでも大切なのは、入社した人材が定着して活躍し、会社に貢献する「定着・活躍人材」を増やすことです。短期間の成果を上げる人材だけでは企業の成長には繋がらず、長期的に組織を動かし続ける存在こそが会社の未来を支える人材です。
今回は、定着・活躍人材を育てる上で不可欠な「理念共感」の重要性について解説し、具体的な採用・育成の在り方を考えていきます。

執筆者矢野 雅氏株式会社プレシャスパートナーズ 取締役
1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000名以上の転職・就職を支援し、現在はセミナーでの講演・新規事業の立ち上げを行っている。
目次
活躍人材に必要なのは「会社への共感」
1回目の連載で「有能な人材」と「優秀な人材」について触れましたが、ここで改めて整理してみましょう。

「有能な人材」は目の前の成果を出すうえで欠かせない存在です。しかし、会社や仲間へのロイヤリティが低ければ、環境の変化をきっかけに組織を離れてしまうリスクを抱えています。
実際に「営業でトップの数字を出していたが、会社への共感が薄く、部署異動をきっかけに退職した」というケースは珍しくありません。
一方で「優秀な人材」は、成果を出しつつ理念への共感を軸に行動するため、変化があっても簡単には揺らぎません。周囲を巻き込んでカルチャーを育みながら、組織の成長を牽引してくれます。
理念共感型採用が「ブレない人材」をつくる
では、「変化があってもブレない優秀な人材」はどう育成していけばいいのでしょうか。そのカギは、採用段階にあります。
従来の給与や福利厚生など条件を前面に出した「条件採用」では、待遇を理由に入社した人材は「少しでも不満があれば転職を考える」という傾向が少なくありません。
しかし、「会社の理念に共感して入社した人材」は、働く環境や事業が変わっても簡単には揺らぎません。企業理念が「この会社で働く意味」になっているからです。
例えば、経済動向などで業績の悪化があったとしても「会社のビジョンの実現のためにこの壁を乗り越えたい」と考え、成長の機会と捉えることができます。理念共感型採用は、条件や環境に左右されない「ブレない人材」を育成するための土台となるのです。
こうした違いは「条件採用」と「理念共感型採用」を比べると一層明確になり、条件採用は短期的な成果は出やすいものの、環境の変化に弱く離職リスクが高くなります。
理念共感型の採用は立ち上がりに時間がかかる場合があっても、長期的に組織へ貢献し続け、文化を強化しながら会社の未来を牽引する力となるのです。

社長・経営者は「想いを体現する唯一の存在」
「企業理念への共感」と聞くと、抽象的に感じ、実践が難しいと思う方もいらっしゃるかもしれません。企業理念とは、その企業がなぜ存在するのか、どんな目的で事業を行っているのか、重視している価値観を言葉にしたものであり、経営の基本方針です。
だからこそ、その想いを体現し、社員や求職者に直接伝えられるのは社長・経営者です。
社長や経営者が採用に関与せず人事任せになってしまうと、求職者には「条件」や「制度」といった情報にとどまってしまい、理念に共感をせず、条件で判断する人材が集まりやすくなります。その結果、早期離職やミスマッチを招いてしまいます。
反対に、社長・経営者が自ら採用や説明会に参加し、「なぜこの会社が存在するのか」「どんな未来をつくりたいのか」を自ら伝えることで、求職者の共感度は大きく高まります。「この社長と働きたい」と感じて入社した人材は、環境が変わっても揺らがず、自ら貢献しようとする傾向が強いのです。
実際に、弊社でご支援させていただいた企業の新卒採用では、別の採用手法で入社した2名は早期に離職してしまいましたが、社長が選考前から学生と直接向き合い、理念や会社の想いを伝えた2名は、入社から3年経った今も活躍しています。このように、理念共感型採用は離職率や定着率にも良い影響を与えます。
理念共感型採用を実現するための採用設計
理念共感型採用を実現するには、社長自ら伝えるだけでは成功せず、「浸透させる仕組み」を設計することが欠かせません。“理念共感型採用”を実現するための4つのステップを紹介します。
STEP1:理念を言語化する
最初のステップは、社長・経営者が企業理念を言語化し、発信していくことです。
プレシャスパートナーズでは、「関わる全ての人たちにとってかけがえのないパートナーであり続ける」という企業理念に加え、下記のMission・Vision・Valueを策定しています。
Vision:「人と企業が互いに誇れる社会をつくる」
Value:「WorkTogether,LifeTogether~共に働く・共に生きる~」
企業理念に加え、Mission・Vision・Valueを策定して発信することで求職者へカルチャーの理解をしてもらえる場となります。そのため、第1ステップは企業理念やカルチャーを明確に言語化することが重要です。
プレシャスパートナーズでも、従業員の「会社」を主語にした発言が増え、意識の変化が見られるようになっています。
STEP2:理念を“体現”して伝える
企業理念はホームページや求人広告に掲載するだけでなく、社長・経営者が率先して発信し、行動で示すことが重要です。
職場環境を改善したり、従業員の声に耳を傾けたりすることで、従業員も理念を自分ごととして捉えるようになります。やがて「理念体現人材」へと成長した従業員が、お客様や求職者、社会へ会社のカルチャーを広めていくようになります。
STEP3:採用の場で“ありのまま”を示すRJP採用を取り入れる
企業理念に共感して入社した人材を定着させるには、採用の場で会社の「リアル」を示すことが大切です。良い部分だけを伝えるのではなく、現在抱えている課題も率直に話すことが重要で、RJP理論(「RealisticJobPreview」の略)とも言われています。
会社の良い点だけでなく、自社の課題や仕事の厳しさといったネガティブな情報の開示を入社前に行なうことで「入社後のミスマッチを減らす」取り組みとなります。どのように取り組んでいるか、どんな改善案があるかも合わせて示しましょう。
STEP4:経営層と人事の思想の一致
いくら経営者が理念を熱く伝えても、人事や現場が別の基準で動いてしまっていると、候補者や社員に伝わるメッセージはバラバラになってしまいます。経営層と人事が同じ思想で採用や育成に取り組むことで、理念が組織全体に浸透し、“定着活躍人材”が育つための基盤となるのです。
理念共感型採用は、入口の採用だけでなく、定着や活躍に直結します。だからこそ、採用から育成まで一貫して理念を基盤にすることが重要となります。

まとめ
理念に共感した人材を採用することが“定着・活躍人材”の採用につながります。
定着・活躍人材は、組織に一体感をもたらし、周囲を巻き込みながら成長を牽引していきます。だからこそ、社長・経営者は理念を体現し、人事や現場と思想を一致させて採用に臨む必要があるのです。
採用は単なる人員補充ではなく、未来を築く経営戦略。理念を基盤にした採用こそが、辞めない・育つ・活躍する人材を育み、企業を次のステージへと押し上げる原動力となるのです。
