スタートアップやベンチャーなどの企業において、福利厚生制度の導入は、より生産性高く充実して働ける環境をつくるための重要な施策となってきています。
今回は、ユニークな福利厚生施策を導入している、スタークス株式会社 代表取締役 上ノ山 慎哉さんにインタビューをさせていただきました。
スタークスでは「業務が属人化してしまい、メンバーに引き継ぎができない」「エンジニアやバックオフィスのメンバーの評価をどうすればいいかわからない」という課題があり、それを解決するために福利厚生施策の一貫として「10連休制度」と「ピアボーナス制度」を導入しています。
この2つの制度の概要や導入にいたった背景、導入後組織がどのように変化していったのかをご紹介いたします。
上ノ山 慎哉| スタークス株式会社 代表取締役
大学卒業後、ダイレクトマーケティング支援事業のファインドスターに入社。高校生時代からソフトバンク代表の孫正義氏をロールモデルとして、30歳までに起業をすると志す。2011年東北大震災をきっかけに28歳でスタークス株式会社を創業。インターネットを活用したサービスの開発、販売を行う。その後、孫正義氏の後継者プログラム「ソフトバンクアカデミア」に最終合格。
スタークス株式会社とは?
上ノ山氏:
スタークスは、テクノロジーを駆使して社会課題を解決すべく、現在はEコマース市場や物流業界の課題を解決するサービスを開発・提供しています。
今、Eコマースのマーケットは約15兆円あるといわれていて、2年で20兆円、その後30兆円、40兆円にまで伸びていくのではないかと予測されています。
しかし、Eコマースのマーケットが急成長する中で、2017年からいわゆる「物流危機」が深刻化してきました。配送会社の人手不足によって、荷物が今までのように配達することが難しくなってきたのです。
たとえば、運送業の人材不足はニュースでもよく報じられていますが、10年後には約24万人もの配送会社の労働人口が足りなくなってくるといわれています。
この問題は、自動運転やドローンによる配達や、駅前ロッカーやコンビニ受け渡しなど、さまざまなソリューションがでてきていますが、全てを取り組んだとしても、解決は難しいだろうと考えています。
そんな中、スタークスでは「クラウドロジ」というクラウド型の物流プラットフォームを提供しています。全国にある倉庫会社と配送会社をネットでつないで、最適なEC物流を作るサービスです。
このように現在は物流業界に対してサービスを提供していますが、他にもさまざまな社会課題をマーケットイノベーションによって解決する事業を立ち上げていきたいと考えています。
スタークスが取り組む『10連休制度』とは?
-スタークスで取り組んでいる『10連休制度』に関して教えてください!
上ノ山氏:
まず、制度の内容としては、土日祝日も含めた10連休を、必ず年に一度取得するという制度です。最大で平日6日間休むことができる制度です。
-「必ず10連休を取得」ってかなり斬新ですね。なぜ、この制度を導入しようと思ったんですか?
上ノ山氏:
2つ理由はあるんですが、きっかけは業務の属人化をなくしたいと思った点です。
スタークスは現在業務を急拡大中で「あの業務は、その人じゃないとできない」といった、業務の属人化は会社が成長する上で避けなければなりません。
この状況は、一見やりがいがあるように見えますが、裏を返してみると、とてもリスキーです。
また、業務が属人化してしまうと、病気など何かあって出勤できない時に、安心して休むことができませんし、経営的にも不安定になってしまいます。そこで、自分の業務を仕組み化して誰でもすぐに引き継げる状態をつくっていく必要があると思いました。
なので、強制的に社員に休暇を与えて、その人がいなくても業務がまわるような仕組みをつくり、常に業務を属人化しないようにしたいということが、導入の背景にありました。
-もう一つの目的は何だったんですか?
上ノ山氏:
自社バリューの追求です。
このバリューは、「大きく、魅力的な未来を描き、実現する」という意味です。「10倍の未来」を実現するために、10連休を活用して社員に視野を広げてもらいたいと考えました。
実際、社員一人ひとりにレベルアップしてもらおうと思っても、会社で仕事をしてもらうだけでは難しいなと思ったんです。大きな目標を持つためには「好奇心を磨く」環境が必要だなと。
なので、海外に行って知見を広げることだったり、まとめて休むことでできる勉強だったり、普段は会えない人に会うことだったり、社員にこのような機会をつくってもらうために充分な期間として10連休という期間を設けました。
この10連休中は、普通の休日とは違う使い方をして、自分の好奇心を磨いてほしい。やっぱり、自分の付き合う人や環境で好奇心は変わると思っているので、そういう経験を社員にしてほしいです。
また、この10連休とは別に有給休暇制度もあるので、単純に休みが多いというのは、社員のQOL(quality of life)の向上にもつながると思っています。
今どき、有給を消化できる企業って外資系を含めても、そんなに多くはないと思います。
-10連休制度を進めていく中で、意識していることはありますか?
上ノ山氏:
「全メンバーが1年に1回10連休を必ず取得すつ」「マネジメントをしている役職から順番に休みを取る」、この2点にコミットしたいと思っています。
いくらフラットな組織といえども、やはり1番忙しそうにしている上司が休みをとらないと、メンバーからは「上司が休みをとらないと、とれるわけがない」という雰囲気になると思うんです。なので、現場の統括、1番仕事が多い人間に最初に休みをとってもらうようにしたいですね。
また、マネジメント層が休みを取ることで、メンバーは普段より当事者意識を持って仕事に取り組むことになります。これは結果として、メンバー一人ひとりのスキルアップだけに留まらず、組織全体の成長がより促進されると考えています。
ピアボーナス制度|社員同士の「ありがとう」をインセンティブに変える
-もう1つの取り組みとして「ピアボーナス」という制度があると聞いたんですが、詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか?
上ノ山氏:
ピアボーナス制度は、HR NOTEでも以前記事になっていた、Fringe81さんのUniposを活用しています。
▶ピアボーナス「Unipos」が組織にもたらす4つの効果とその方法とは?
経済的報酬を同僚に送る権限を従業員に一部委譲し、日頃の仕事の成果や良い行動を評価し、従業員同士で報酬を送り合うことができる仕組み。ピアとは、「仲間・同僚」を意味する。
-ピアボーナス制度の導入に至ったきっかけは、何だったんでしょうか?
上ノ山氏:
私の前職の経験が影響しています。営業主体の会社で働いていたのですが、月末の締め会や総会で表彰されたり、スポットが当たるのはいつも営業のメンバーだったんです。
もちろん、売上を獲得してくる営業メンバーが評価されるのは当たり前のことだと思います。しかし、会社にはエンジニアやデザイナー、バックオフィスのメンバーも大勢います。そういった職種の人達は、営業メンバーが表彰される度に「自分たちは評価されないんだ」と、徐々にモチベーションが下がってしまいがちです。
たとえば、保守運営を担当しているエンジニアの方だとアウトプットするサービスで「バグが出ない」ことがミッションの一つだと思うんですが、バグを出さないことが当たり前になっていて、その部分で評価されたり、感謝されることは、難しいのではないでしょうか。
総務部の方であれば、「プリンターがちゃんと動かない。今から、営業に行くのに提案資料が出せない。このままだと間に合わない」などの理由でプリンターを確認することが多く発生すると思います。総務部の方にとってそれは仕事なので、やって当然かもしれませんが、感謝をされることって少ないんですよね。前職の職場で、「プリンターを修理しても1度も、ありがとうって言われたことが無かった」とおっしゃられて退職された総務部の方がいたんです。
この言葉がとても印象的でした。
やって当たり前のことでも「ありがとう」という周囲からの感謝を感じられないと、給与面や福利厚生が充実していても、退職に繋がる大きな原因になるのだと気づくことができました。
だからこそスタークスでは、エンジニアやバックオフィスなどの、一般的にはスポットライトが当たりにくい職種の社員が、周囲からの感謝を受け取ることができ、やりがいに繋がる環境が絶対に必要だと思っていました。そんな時に、Uniposという、社員同士が感謝を伝えることができるサービスに出会ったんです。
-Uniposを活用したピアボーナス制度を導入したことで、社内のメンバーのモチベーションなどに何か変化が起きましたか?
上ノ山氏:
メンバー全員がUniposの管理画面を見ることができるので、感謝された人の理由を社員全員が確認することができます。このように確認できることで、自発的に誰かのために行動しようと思えるようになりますし、自然と人の良い行動を見つけようとするんですよね。
※実際のUniposの管理画面
上ノ山氏:
Unipos上でメンバーに「ありがとう」を伝えるときには、ポイントをセットで渡すことになっていて、そのポイントがインセンティブとして給与に反映されるのも特徴です。
さらに、給料明細に「Unipos給」という欄をつくっています。これは、ビアボーナスで貰える金額とメンバーからもらったコメントを全て一覧化して給与明細に載せています。
ただ単に、給与明細にインセンティブ「1万円」という記載がされているよりも、給与明細上でメンバーからもらった感謝の言葉と、その対価を確認できることで、メンバーが受け取るインセンティブの価値が大きく変わってくると思っています。
-導入後、社内でおこった大きな変化はありましたか?
上ノ山氏:
メンバーからは、単純に嬉しいだけでなく、感謝されたり褒められるとモチベーションがあがると聞いています。
スタークスでは、インターンやフリーランス、アルバイトのエンジニアにもピアボーナスを導入しています。スタークスの全メンバーが投稿ができるので、お互いに感謝を送り合っているのを見ていると、これまで以上に組織としての一体感が生まれているように思います。
あとは、マネジメントに向いてるメンバーを、Uniposの活用を通して分かるようになりました。
-それはどのように、「この人はマネジメントに向いている」とわかるのでしょうか?
上ノ山氏:
言い方が上手な人、褒め上手な人っていうのは、他人のいいところを見る能力が長けていると思うんです。
マネジメントが上手な人は他人の本質が見抜ける人だなって思っています。
そんな人を見ていると「本当に、すごく人のこと見ているな」とか。「彼の言葉、彼女の言葉って人をすごくモチベートさせる力があるな」とか。
この視点で投稿されるコメントを確認することで、次のマネージャー候補、リーダー候補などが分かるようになってきています。副次的な効果ではありますが、導入のメリットだと思っています。
さいごに
スタートアップにおける「業務の属人化」。エンジニアや企画職、バックオフィス業務をしているメンバーの「モチベーション管理」。
この2つの課題は企業を成長させていく上で、経営者や人事担当者が避けては通れない壁なのかもしれません。
今回ご紹介したスタークス株式会社では、「10連休制度」というオリジナルの施策と、「ピアボーナス制度」というUniposというサービスを活用した施策で、課題解決に取り組んでいます。
お話を聞きながら、これらのユニークな施策は、企業のビジョンやバリューにそって、いかにメンバーを成長させるかを考えられるかが非常に重要だと感じました。
ユニークで本質を捉えているような施策は、採用やメンバーの定着率にも大きく貢献していくのではないでしょうか。
今後、人事施策として福利厚生や評価制度の見直し・導入を考えられている担当者様の参考になりましたら幸いです。
▶ピアボーナス「Unipos」が組織にもたらす4つの効果とその方法とは?